キャラの魅力とアクションの二律背反(アンビバレンツ)に、東方二次創作だからこそ挑戦できる。 単行本刊行記念!『妖世刃弔華』筆者・編集・プロデューサー鼎談
単行本刊行記念「妖世刃弔華」著者・編集者・プロデューサー鼎談
東方我楽多叢誌創刊と同時に連載を開始、先週いよいよ【第50回】に突入し、この度「KADOKAWAレーベルでの東方二次創作小説の単行本化」という、初めてのケースになった、東方二次創作小説『妖世刃弔華』。
幻想郷に突如現れた、近代兵器を構えた亡霊の軍隊。迫る幻想郷の危機を、主人公の魂魄妖夢がばっさばさと斬る、“東方+アクション+ミリタリー”剣戟小説です。
迫り来るは近代兵器。立ち向かう剣士の冒険活劇! 今からでも楽しめる! 東方二次創作小説『妖世刃弔華』あらすじ&キャラ紹介!
そんな『妖世刃弔華』の単行本化を記念して、『妖世刃弔華』著者の草薙刃氏、担当編集の髙松良次氏、この企画を立ち上げた「東方我楽多叢誌」主宰の斉藤大地氏の三名にお集まりいただき、「妖夢が主人公のミリタリー剣戟小説」という企画が持ち上がった発端、東方で、アクション小説を書くことについて、そして『妖世刃弔華』の今後の展開などについて話してもらった。
文/髙松良次
編集/西河紅葉
「みょ~ん」から始まった、「東方+チャンバラ+ミリタリー」小説の企画
髙松:
『妖世刃弔華』の編集及び設定考証を担当してます、高松良次です。
今回は、書籍化を記念して、本作の著者である草薙さん、この企画を発案した斉藤さん、そして私を交えて、『妖世刃弔華』について色々話せればと。よろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。
斉藤:
「東方我楽多叢誌」主宰の斉藤大地です。
草薙:
中二病ネーム溢れるhurtful物書きの草薙刃です。
斉藤&髙松:
(ふたりともスルー)
高松:
まずは本作の成り立ちからお伺いしていきます。単行本のあとがきにもあったのですが、最初は草薙さんと斉藤さんが出会って企画が始まったんですよね?
草薙:
2年前の年末ごろ、池袋の地下のバーで会ったのが最初です。
斉藤:
そうですね。東方関連で物事が始まるのは、大体お酒を飲んでいるときですけれども。
草薙:
ぱっと見は怪しげなんですけど、入ると内装はちゃんとしてて飲み物も食べ物もしっかりしててとてもおいしかったです。
斉藤:
サントリー直営でおいしいウイスキーがやたら安いバーでね……
さておき、真面目に経緯を説明すると、僕と草薙さんの共通のお知り合いで徳岡正肇さんという編集ライターの方がいらっしゃいまして、「紹介したい人がいる」ということで会ってみることになったんです。草薙さんの第一印象は……すごく怖い見た目だったので怯んでしまいました(笑)。
一同:
(笑)
草薙:
あのときは仕事のついででしたから、変な恰好はしてなかったですよ!?
斉藤:
スーツを着てるだけで圧が強いから(笑)。
元々、僕と同世代、30代前半なのは聞いていたんですが、実際にお会いする前に著作を読ませていただいたところ、同世代の小説家の筆致とは思えなかったんですよね。一回り上の世代の、剣豪小説やアクション小説みたいなノリだ、と思ったんです。
僕はそういう、ちょっと時代からズレた作家さんが大好きだし、この作風で書いた“東方”を読んでみたくなりまして。
せっかく企画を立ててやるのであれば誰にも好んで手を付けられていないもの、「東方+アクション+ミリタリー」という組み合わせをメディアとしてはやるべきだろうと考えました。
高松:
メディアとして最初に二次創作作品を出すのなら、折角なら尖ったラインで攻めるべきだと考えたんですね。
斉藤:
それで、草薙さんにお酒の席で東方の話を振ったら、「みょ~ん」と低く鳴いたので(笑)。一緒にお仕事したらとても楽しいだろうなと思って依頼を決めました。
草薙:
妖夢を主役にって話を聞いたら、つい「みょ~ん」って言っちゃった(笑)。
それから内容を聞いてみたら「えらい無茶言ってんなこの人」と思いつつ……「東方+ミリタリー・近代兵器」みたいなのは、たとえば個人の趣味でネットに投稿するならよくある範疇だと思うんですよ。それを大真面目に、しかもメディアとして立ち上げるところに置こうだなんて、クレイジーな企画だなあと。
斉藤:
話をする中で、草薙さんが東方の知識をちゃんとお持ちだということは分かりましたので。そのままやりましょう、と条件をまとめて、改めて速攻でご依頼を出しました。「妖夢主人公でチャンバラ、できるだけミリタリー入れてください。世界観はいったんお任せします」みたいな感じの企画書を持っていって。
草薙:
「まず設定資料書いてきて」って言われたんですけど、始まりが漠然としすぎていたので(笑)。どういう話が面白いかなと頭を悩ませました。それをまとめたものが、去年の春先ぐらいに髙松さんに見ていただいたものです。
髙松:
私は当時、完全に外部の人間だったので、ここまでの流れをきちんと聞いたのはこれが初めてでした。あの設定資料の時点でツァーリ・ボンバの存在が書かれてましたけど、斉藤さんとしては読んでみていかがでした?
斉藤:
確か最初のお酒の席のときから「妖夢にすごく巨大なものを斬らせてください」とか要望を出していまして。
「おお、いいじゃん! ツァーリ・ボンバ【※】!」って。これでいきましょ!と即オッケー出しました。
【※】ツァーリ・ボンバ:旧ソビエト連邦が開発した人類史上最大の水素爆弾。いわゆる核爆弾のひとつ。
草薙:
あれは正気じゃなかったですね。「巨大か~……」って。
コラム:ネットのどこにいっても「東方」にぶつかった、あのころ
東方の二次創作小説を書くことの「緊張」
髙松:
実際に東方の二次創作作品として連載を開始することになるわけですが、執筆してみての印象や意識した部分を教えていただけますか。
草薙:
今回の仕事を引き受けておきながら、それまでそもそも二次創作の経験がなかった、というところがなかなか恐縮なんですが……。
自分が20年近く存在を知っていた一大ジャンルにいざ手を付けるわけですから、やっぱり緊張しました。これだけ歴史あるものを「俺が書いていいの?」とか今も普通に思います。
髙松:
今も感じてらっしゃるんですか。難しいなと思う部分とかあったりします?
草薙:
あくまでも主観ですけど、一次創作の場合は「こういう話を書きたい」「こういうシーンを作りたい」「こういう展開にしたい」なんですよ。でも二次創作だとまず原作キャラありきで、そこに作家独自の解釈を多少入れることができるだけっていう。
作家が二次創作として“いじれる”範囲というのはそれぞれの原作にもよりますが、僕が書くとなると「本家を尊重したい」気持ちが強くて、大きく変えることに躊躇いを感じます。だからこそ面白いという側面もなくはないですが、さっきも言ったように一大ジャンルのものということでプレッシャーのほうが大きいですね。もう毎回、キーボードに手を置いた瞬間から「う~ん……」って考えながら。いつも頭から煙出しながら書いてて、おかげさまで酒の量が増えちゃう。
髙松:
普段でも大変な酒豪なのに(笑)。連載当初は特に制約を設けないほうがいいかなとあまり口を出さないようにしていたんですが、今ではもう毎回相談して「こういう展開にしましょう」って話をするようになりましたね。
斉藤:
編集する上で、重要な部分や外さないようにと思った部分とかは、なかったんですか?
髙松:
東方って、何でも受け入れてくれるくらい懐が深いですから。一昔前だったらいざ知らず、今なら多少の解釈違いで思い切り突っ込んでくるようなうるさい人もいませんし。それに、草薙さんがやりたいように書かないと絶対に面白くならないので、「面白いようにやってください」ということだけお伝えしていました。何か悩んだら相談してください、と。
草薙:
そしたらしょっちゅう相談するようになりました(笑)。
髙松:
週にわりと何度も通話して(笑)。
草薙:
でももう、やりたいことと、こういう感じで終わるという流れは大体決まっていて、あとはどのように説明やアクションをうまく散りばめていくか、というところまで来てから相談する感じです。悩むところといったら、それを実際に読む立場になって、どこでうまく区切るか、読みやすくするかを考えることですね。
東方をいくら好きでも、アクションを文章では読み慣れてない方って多いと思うんです。漫画だったら動きを視覚化できるんですけど、動きを文章で書くだけではダラダラするし、目が滑りますから。かといって簡略化しすぎると全然迫力が出ない。そういう部分で、結構難易度が高いところだと感じてます。
髙松:
そういう点では、連載初期はかなり丁寧な状況説明と登場人物紹介を挟んでましたよね。
草薙:
東方に新規で入ってくる人に向けたメディアでの連載、ということも踏まえて「(前提知識として)知っているだろう」とはせず、説明を丁寧に、改めて東方というものを勉強し直す心づもりで進めました。そういう意味では最初はブレーキを踏み過ぎたかな、と思います。
斉藤:
早く駆け抜けてほしいなぁ……とは思ったけど、気持ちは分かる。最初は気を遣ってるのはすごく伝わってきた(笑)。
髙松:
執筆中にあたって最初と今で変化したこととかありますか?
草薙:
あんまり肩ひじ張ると、伝わるものも伝わらないなって意識に変化してきました。あくまでエンターテインメントであることを忘れてはいけないですから。自分の中で、東方を書くのに慣れてきたというのもありそうですね。
東方キャラの活躍を心置きなく書くために必要だった―オリジナルキャラクター・オウスティナについて
髙松:
本作にはオリジナルキャラとして、ジェーン・カーネル・オウスティナという敵が登場します。企画開始時点では仮の名前として「大佐」と設定されていましたけれども、出そうと思ったきっかけなどを教えていただけますか。
草薙:
東方シリーズって、作品の流れがあるじゃないですか。何か異変が起きて元凶がいる、更に裏ボスもいて。その流れは踏襲したいなと思ってはいたんですが、近代兵器という機械類・科学技術の粋を集めたものを扱わせるなら、普通に考えると黒幕はにとりになってしまうんですよね。安直とも言うけど(笑)。
髙松:
にとりならまだしも、幻想郷のキャラは武器や兵器の使い方なんて多分分からないでしょうからね。それに近代兵器を扱うとなると、もう弾幕ごっこじゃ済まない。ただの殺し合いになっちゃう。
草薙:
そう。それはキャラに対しても酷だし、読み手も選んでしまう。だからキャラをうまく回して活躍させていくなら、既存のキャラではできないなと。そこまで考えて、「仮にオリキャラを出すとするなら……」で「大佐」をその役目で持ってきたんです。
髙松:
オリジナルキャラクターを出したいということになって、斉藤さんはどう受け止められました?
斉藤:
このストーリーラインで「東方の既存キャラが黒幕」は難しいですし、それ以上に、幻想郷の設定を使った非常に面白いストーリーなので、既存キャラを敵に据えるよりはちゃんと設定したほうが、我々の愛する東方キャラの活躍を心置きなく見れるだろうという気持ちにはなりました。
髙松:
原作では、キャラクターが幻想郷にやってきて、自分の力を誇示したり我欲で周りに迷惑をかけたりして、それを霊夢たちが叩きのめして仲良くなるというパターンが多いですからね。そういう意味では、オウスティナは分かりやすくしてあります。
斉藤:
もうオウスティナの細かい設定は煮詰めてあるんですよね?
高松:
私は必ず物語の結末を決めてからでないと始められないたちなので、連載始まってしばらくしてから「大佐の設定をしっかり決めましょう」と、草薙さんと話し合いました。
2、3話進んだぐらいのころ、もう一回ちゃんと東方のキャラクターと向き合ってみようって思って勉強し直したら、東方のキャラクター一人ひとりのコンセプトがすごくしっかり決められてるのに改めて気付いたんです。「二次創作で本気出すんだったら、もっとしっかり決めなきゃ駄目じゃない?」と。
草薙:
既存のキャラクターがしっかりしている分、適当だと並べたときに浮いちゃうんですよね。
高松:
そう。たとえば八雲紫の「紫」に関しても、スペクトルがどうとか、藍と橙という色はその中に含まれてて……とか、そういうのを調べると「もっと深みを持たせないと駄目だな」と思って。それで、急ごしらえではあったんですけど、草薙さんに「こんな感じのキャラクター像でどうですか」って色々アイディアを提案しました。それから今までにも結構頑張って作り込んで、後々出てくると思うので楽しみにしておいていただければ。
草薙:
そもそもやろうとしてることが妖夢のアクション+ミリタリーなので、既存のキャラとの戦いになると結局弾幕ごっこでいいって結論になっちゃう。コンセプトと波長が違いすぎるというか、どうあがいてもラスボスは既存キャラじゃ無理という結論になったのが、やっぱり最大のポイントです。
高松:
そうですね。近代兵器を出す時点で、これまでに出てきたキャラクターと合わせるのはどう考えても無理なんですよ。
草薙:
無理。でも、そうやって開き直ったのが、かえって良かったのかもしれないです。強引にやろうとすると物語の幅が狭まっちゃうから、外の兵器を持ってきた意味がなくなるんですよ。
斉藤:
そうなると創作として面白くなくなってしまうから、原作と同じくらいの濃度のオリジナルを投入して、ちゃんと面白いものを作ろうっていうのは正解ですよね。
髙松:
そんなオリジナルキャラクターがこぞうさんの手によってデザインされましたけどどういった気持ちでしたか。
草薙:
もう「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」って感じでしたね(笑)。
こぞうさんが東方イラストを沢山描かれる方だというのは存じ上げていたので。たくさん東方に触れているがゆえに、もしかしたら逆に、新たなキャラを生み出すにあたって既存のキャラクターの概念に囚われてしまうのではないかという懸念があったんですけど……。
髙松:
杞憂でした。そのころ僕は編集部と直接やりとりしていなかったので知らなかったんですが、部内でも大変好評だったとか。
斉藤:
すごく良かったですよ。イメージ通りだし、東方キャラクターと並べたときにも強く浮いたりしない、しっくりくるデザインでしたね。
草薙:
適当に並べても「そういえばこんな奴いたかも」みたいな(笑)、親和性が非常に高かった。それにイメージがあるとやっぱり、それを基に頭の中で動かせるタイプなので。しかも、みんな衣装や表情をアクティブにしてくれたので動かしやすいんですよ。「こんな顔させていいのか」みたいな顔もさせられる (笑)。
高松:
悪い顔(笑)。
草薙:
悪い顔(笑)。でもそれでいてかわいいみたいな、我々の要望を見事に落としこんでくださってました。初期案の時点でも「ちゃんと軍人系のキャラじゃん!」と分かりやすくて、大きな手直しの必要がなかったです。
髙松:
オウスティナと同時に、同じくらい重要な亡霊兵のデザインも送られてきましたが、こちらはどうでしたか。
草薙:
「ちゃんと少女キャラなんだ!」って(笑)。ハロウィンの仮装っぽさがあるけど、1発目でこれを出してくるのはすごい。
髙松:
もっと骸骨むき出しのおどろおどろしいのが来るのかと予想してたんですが、これはこぞうさんのファインプレーでした。
草薙:
とりあえずでAK47を抱えさせていたのは笑いましたね。
髙松:
これはもう分かっている人ですね。デザインが上がってきて、設定の作り込みにも結構影響したんですよね。作品の方向性も定まったところもあって。
草薙:
でも、一番イメージが固まったのは最初のキービジュアルですよね。妖夢の背面の。あのイラストを見て締まったというか、いい意味で読者に構えさせるというか。ちょっと違う話が始まるぜ、みたいな。そんな予感をさせるような絵が上がってきて、本当に動き出したという実感がありました。
斉藤:
あのキービジュアルは本当に「いいじゃん」「かわいい~」って思った(笑)。
編集会議でこぞうさんのラフが上がってきて共有すると、毎回みんな「いいね」「かわいい!」みたいな。かわいいけど、ちゃんとかっこよく描いてくれるので、「これでいいっす!」「十分っす!」と一発OK。妖夢の衣装もいいですよね、キャラデザでノースリーブが来て、「これ! 最高!」って小躍りしちゃった。
高松:
ノースリーブはすごく評価高かったですね。私も反応聞いてびっくりしました。
斉藤:
ノースリーブ妖夢かわいい。
高松:
剣戟作品としても、動きやすいっていうのは確かに重要ですよね。
草薙:
そりゃもう剣振り回しまくりですからね(笑)。
「えっ、マジで単行本化するの?嬉しいけど、いいの!?」
髙松:
書籍化が決まった経緯はどういう感じで進んだんでしょうか? 斉藤さんと東方外來韋編の編集さんとで最初から話があったとかですか?
斉藤:
まったくなかったです。飲みの席で「我楽多で小説を連載したら書籍化してくださいよー」と言ったら、「読者に愛されたらねー、ははは」みたいな。「『うまくいったら』あるかもしんないですねー」くらいとりとめのない感じでした。
髙松:
確実ではなかったんですね。具体的な話が来たのは確か36回ぐらい連載を重ねたころでしたが、そのときはどんなお話を?
斉藤:
「そろそろ出版の話、します?」という感じでぬるっと連絡が入りまして。こちらからはもう「ああ、するんですね! OKです!」みたいな感じ(笑)。
とはいえこちらも「なるかな~……?」とは思ってましたから、「なったな!」とホッとしました。
髙松:
本当に決まってホッとしましたよね。草薙さん的には、決まったときのお気持ちはいかがでした?
草薙:
「えっ、マジで単行本化するの?嬉しいけど、いいの!?」と。この作品、変化球狙いすぎてデッドボールでバッター潰す勢いの球筋で、メインストリームから外れてると思ってますし。
斉藤:
そんなことないよ、今連載してるところなんて結構王道じゃない。萃香やパチュリーが仲間を守ったりしていて。俺は「少年ジャンプの漫画かな?」と思ってます。光の強い作品じゃないですか。
草薙:
そういうアイディアは僕じゃなく髙松さんが出してくれるんです。僕の汚れ切った心ではね(笑)。
でも、確かにネット小説出身ですけど、もともと過剰な「ざまぁ【※】」は好きじゃないですね。
【※】ざまぁ:因果応報によってもたらされる快感を強調する作品展開。
斉藤:
草薙さんはネット小説出身感があんまりないね。時代小説書いてました、みたいなこと言われても納得できる。
髙松:
かなり硬派ですからね。
単行本は21回までを収録していますが、斉藤さんは振り返ってみてどんな印象ですか?
斉藤:
ツァーリ・ボンバが出てきた第7回あたりから調子出てきたので、よしよしって感じになりました。
草薙:
あの辺までは我慢しました。暴走したいのを。
髙松:
ツァーリ・ボンバが出てくるのが最大の暴走だと思います(笑)。
斉藤:
僕はバリバリ外連味があるほうが好きだし、それくらいやってもらいたかったので、よく出してきたなぁと感動しました(笑)。あと気に入ってるのは、にとりが装甲車に入って操縦し始めたあたり!
草薙:
そうそう、装甲車を操縦するにとりね。それで思い出したけど、やっぱり妖夢……刀だけでは最後まで展開させるのは無理がありました。あの辺からしんどいなって思い始めて。
髙松:
「別に武器鹵獲させちゃってもいいんじゃないすか?」みたいな話しましたっけ。ちょうどSd.Kfz.223【※】が登場するあたりで。
【※】Sd.Kfz.223 :第二次世界大戦時にドイツが開発した装輪装甲車。
草薙:
うん。最初は「妖夢が近代兵器とチャンバラする話」だったんだけど、サポートで味方が近代兵器を使っちゃいけない道理はないよねと。これは無双シリーズのゲームじゃないので、それぞれの役割分担とか割り振りしていったのなら、いいや、幻想郷側のキャラにも兵器使わせちゃおうって。
髙松:
にとりは本作の兵器解説役のつもりだったんですけど、解説ができるなら使い方を教えることだってできるはずですから。
斉藤:
それは冴えてましたね、本作のファインプレーというか。カギはにとりなんだなと思いました。
髙松:
そうですね、主役の妖夢を引き立たせる役として最適でした。
草薙:
アカデミー助演賞。
【コラム】単行本で修正・加筆した部分
今後の連載について―読者、買ってくれた人へのメッセージ
髙松:
続巻のことは決まっていませんが、今後どんな展開をするのか、意気込みとかも含めて教えてください。
草薙:
「妖世刃弔華」を単行本を買って読み始めた、というかたは、そのままぜひWEBの【第22回 戦空】から読み続けてもらえるとありがたいです。劇場三部作くらいのボリュームがあって読み応えあると思います。ちゃんと段階を踏んで、舞台が変わって、と展開させています。
今後の話数も固めてあって、場面場面で違うことをしつつ、それぞれの山場があってクライマックスからのラストにつながるように、ちゃんと考えています。最初にツァーリ・ボンバなんていうある種のキーアイテムを出してますので、それを相手に妖夢たちがどう戦うのか、期待して待っていただけると幸いです。
髙松:
囚われているお空の身柄とか、そのご主人様とか、ほかのキャラの動向も気になるところはたくさんありますしね。斉藤さんとしてはどういう感じの展開を期待しますか?
斉藤:
東方キャラがチャンバラしたり銃を撃ちあったりして、とにかくスカッとする展開を期待しています。
最近はパチュリーが魔法を使っていたり、バリバリのアクションでよく動いて面白いです。東方キャラが本気で戦っているところは滅多にないので貴重です。ある意味、弾幕とか格闘というのは漫画や絵で表現するのが難しい、コストがかかりますからね。そして小説はアクションを文字にするのに一番コストがかかるのですが、それを草薙先生はきっちりこなしてくださってます。
草薙:
アクション書くの、頭使うんだ……。
斉藤:
それができると思っているから依頼したんですよ(笑)。なので楽しみにしていますよ。
草薙:
もちろん期待に応えようとは思ってます。
斉藤:
アクション小説を書く人、少なくなってきていますので本当に楽しみです。
髙松:
今は会話劇というか、そういった形が主流ですよね。
草薙:
2000年くらいの時点で「キャラクター小説」という言葉があって、キャラクターの魅力で勝負するってのは一種の記号化になるんですが、アクションは逆に、簡略化の上では邪魔になるんです。
だからWEBには連載してるけど、投稿サイトとは違う感じで、東方というジャンルにそういう形でアクションを起こしたのは面白い試みじゃないかなと思っています。逆にオリジナルのWEB小説は、スマホの小さい画面で表示される世界なので、説明を長くできない。ある程度簡潔じゃないと飽きますよね、長いとスクロールが面倒だし。その差を考えると、ある程度世界観が成り立っていてしっかりしているものでやらないと、アンマッチになってしまう。
髙松:
そういう意味だと、東方はすでに世界がしっかりできあがってますからね。
草薙:
ここまで世界が広がったなら、新たな挑戦をファンの側からも起こしていいんじゃないかなと思うんですよね。意識的なアップデートというか、これまでの価値観に囚われない作品をどんどん生み出してほしいです。
斉藤:
作る側も、受け取る読者側も、お互いにいい感じの熱量で。今だからこそみんなで東方をもっと盛り上げていきたいですよね。
この作品を始めるにあたり、やるのならとにかく尖ったもの、人が見たことないものを、とずっと言っていて。東方が東方たる所以として、新たな表現が出てくると創作の幅がむしろ広がるみたいなことがあって。東方はそういうジャンルである側面があるので、広がる瞬間をぜひ見たいと思ってたんですよね、僕が。
それを「すごく期待してますよ」って、草薙さんには言い切ってました。なので「存分にドンパチやっちゃってください」という話はしていました。
草薙:
僕も、二次創作こそ自分で始めなかったけど、自分で物語を作ろうと思ったきっかけは、ありきたりな「俺だったらこうする」だったんですよ。
すごい好きな作品をずっと追いかけていたのに、最後の最後で「俺の好きなエンドじゃねぇ!」みたいなのって、誰しも絶対あると思うんですよ。創作を始める動機なんて、そんなんでいいんです。「自分だったらこういう話を書くわ」っていうところに、いかに自分の個性をぶち込めるかが、創作だと思うし。
昔のパンクロッカーが「ギターをアンプにつないでジャーンッて鳴ったら、それは音楽だ」とか言ってましたけど、本当にそんなレベル。好きなことをやっていったらいいし、文章力や展開、構成なんてあとから身に付ければいいんです。とにかく自分の頭の中にあるシーンを、絵でも字でも、真っ白なところに殴り付けてほしい。誰かがやるからいいやなんて諦めたら、誰もあなたの書く作品を読めない。
僕の場合は、こんな頭悪い文章をというか、よくこんなネタ思い付いたな、みたいなのを言われるのは褒め言葉なので、そのために書いてると言ってもいいんですけど。だから、自分こそがこれを書いたんだっていうのを、どんどん突き詰めていってほしいですよね。そうしたら、あとから勝手に結果は付いてくる。
髙松:
東方を盛り上げるという意味でもね。この作品がその一環になればということですね。
草薙:
あとはここからの展開に触れないと。
髙松:
ここから?
草薙:
ゲーム化か、漫画化!!
一同:
(爆笑)
斉藤:
本がめちゃくちゃ売れたら考えよう!
髙松:
じゃあ最後に、今後読んでくださる方へのメッセージをお願いできますか。
草薙:
……ファンレターをください!!! もっと感想とかファンレターをください!!! ほめられて伸びる子なんだからね!!!
※草薙さんへのファンレターはこちらにどうぞ
【東方我楽多叢誌 お問合せフォーム】
(要件を「その他:妖世刃弔華ファンレター」にしてお送りください)
草薙:
今後ますます盛り上げていくので、このまま最後までついてきてもらえると嬉しいです。このまま駆け抜けていくので。妖夢も、作者も! 髙松さんも、斉藤さんも負けじと追いかけてきてくれるはずなんで!! 乞うご期待!
斉藤:
妖世刃弔華も、我楽多も1年を迎えますが、今後もがんばっていきますので、どちらともよろしくお願いいたします。
草薙:
……そうだ、東方ステーション出させてよ!
斉藤:
東方ステーションと草薙さんの相性が悪い! 社会性が高いから! なるべく出さない方針でございます!
髙松:
視聴者がびっくりしてしまうので(笑)。
斉藤:
草薙さん、見た目が怖いので……女装コスプレしてくれたら考えますよ。
草薙:
そしたら不機嫌な顔で葉巻吸います。
斉藤:
そういうこと言うからあとがきで「イキってる」とか言われるんですよ!
草薙:
ささやかな抵抗です! 思い通りにはさせないという!
『東方Project二次創作シリーズ 妖世刃弔華 わか思ふ地は ありやなしやと』
#電撃の新文芸
【本日発売】新刊登場!
東方Project×少女剣士×近代兵器!
『東方Project二次創作シリーズ 妖世刃弔華 わか思ふ地は ありやなしやと』
(著:草薙 刃 原作:東方Project イラスト:こぞう)https://t.co/BM2wdbbzOe
☆ネット書店でもご購入いただけます☆https://t.co/jmf4m0qp1L pic.twitter.com/AVHOqgK7b6— 電撃文庫 (@bunko_dengeki) January 16, 2021
<タイトル>
東方Project二次創作シリーズ 妖世刃弔華 わか思ふ地は ありやなしやと<原作>
東方Project<著者名>
草薙刃<イラスト>
こぞう<あらすじ>
地獄で霊魂大量消失事件が起きた。魂魄妖夢は四季映姫より原因の調査を依頼され、小野塚小町とともに幻想郷へ赴く。その夜、奇妙な武器を携えた亡霊から襲撃を受け、魂魄家に伝わる白楼剣によって鎮圧に成功する。亡霊の武器は外の世界より流れ着いたものではないか、そう推測したふたりは、森近霖之助を訪ねることにした。
そして推測通り――それ以上の恐るべき危機が幻想郷に迫っていた。
<発行元>
株式会社KADOKAWA<レーベル>
電撃の新文芸<ISBN>
978-4-04-913643-2<設定考証>
髙松良次<企画>
東方我楽多叢誌<発売日>
現在発売中!<定価>
1,300円+税<カドカワストア>
https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322010000286/?ref=official
キャラの魅力とアクションの二律背反(アンビバレンツ)に、東方二次創作だからこそ挑戦できる。 単行本刊行記念!『妖世刃弔華』筆者・編集・プロデューサー鼎談 おわり