東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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同人誌評
2021/02/18

「つまりただのもこけーねの話なのですが、私には、とても深い意味が永遠にあります。一生忘れない美しさです」募集企画より全文掲載!魔法さんよりいただいた東方同人誌レビュー『少女リセット』 / シノアサ(ビビットグレー)

魔法さんよりいただいたレビュー全文公開

 昨年6月に募集しました「東方同人誌レビュー募集」企画。本当にたくさんの反響をいただきました! 編集部に届いたレビューの数は、なんと55件! ご投稿いただいた皆さま、本当にありがとうございました!

 もともと、いただいたものの中から1件を選出してご掲載させていただく予定でした。ですが「コレほどの量、1件だけ掲載するのは申し訳ない! この熱い想いに応えたい!」と、編集部内での想いが高まり、おすすめいただいた東方アレンジの情報はすべて“レビュー文で特にアツいと思った一文を添えて”掲載をさせていただきます! 

レビューまとめはこちら
東方同人誌へのアツい想いがここに!頂いた「東方同人誌レビュー」全部まとめました その①
東方同人誌へのアツい想いがここに!頂いた「東方同人誌レビュー」全部まとめました その②
東方同人誌へのアツい想いがここに!頂いた「東方同人誌レビュー」全部まとめました その③

 さらに、中でもよりすぐりのレビューについては、全文掲載させていただく形にいたしました! 

 今回は、魔法さんよりいただきました「『少女リセット』 / シノアサ(ビビットグレー)」のレビューを掲載いたします。ぜひ御覧ください!

※掲載にあたり、一部編集部にて東方我楽多叢誌のレギュレーションに則った構成・編集を行っております。

 

『少女リセット』

pixiv「例大祭新刊サンプル(少女リセット)」ページから引用

 同人誌レビュー、「大好きな同人誌に対する思いをぶつけて」と言われても、それってよく考えたらとても個人的な話をすることになってしまいます。

 正直に言えば、自分のことについてはあまり話したくないのですが、私の事情、私のバックグラウンドは皆さんと大分違う可能性が高いと思うため、仕方が無いかもしれません。

 『少女リセット』は私の一番最初に読んだ二次創作同人誌……というわけではないのですが、その本を最初に読んだ数週間前の時点で、私は

・東方Projectについてまったく知らなかった
・同人の意味もまったく分からなかった
・百合にはまったく興味がなかった
・化粧のこともまったく分からなかった
・そして、日本語もまったく話せなかった

という状態でした。

 そうです。私は日本人ではなく、越南ベトナム出身の親から生まれてずっと独逸ドイツで育ったのです。欧米では、東方Projectをほぼ誰も知りません。多少知っている人がいても、そこまで詳しくはないでしょう。

 最初は、ある東方の二次創作の曲を耳にしたことからでした。「これはTouhouだよ」と友だちに言われて、「Touhouっていったい何だろうな」という好奇心から調べたことが、東方との運命的な出会いとなりました。

 原作のことについて調べたら、「全員少女じゃん。くだらなくない?」とか「少女っぽい、ガーリッシュだな」というのが最初の印象になってしまいました。原作を実際にやってみて、より知識が増えても、なぜこのゲームに関連する二次創作の活動がそんなに多くあるのか完全に理解できなくて、結局、自身で二次創作作品を味わってみることにしました。音楽を聴いたり、ゲームをやったり、イラストを見たり、そして漫画を読んだり、二次創作作品をさまざまな姿で体験しました。

 それぞれについて話したいことが山ほどあるのですが、今回は漫画のみに集中しましょう。
 私は日本語が理解できなかったため、まず海外のファンが英訳した本を少しだけ読んでみました。が、英訳が非常に少ないし、二次創作同人誌は非常に多いし、上記の物足りなさもあったし、ずっと「足りない足りない」という考えが頭の中で響いていました。そういうわけで、漫画をそのまま日本語で読むしかないと思って、結局日本語を学んでしまいました。実は日本語の授業などを受けていなくて、まず発音は音楽で(※歌が好きです)、単語と文法は漫画で、そして漢字は独学にて、すべてゼロから学んできました。今考えると、本当に不思議な冒険だったと思います。

 冒険と言えば……

 

絵描きと女性っぽさについて

pixiv「例大祭新刊サンプル(少女リセット)」ページから引用

 私が、シノアサ先生みたいな女性っぽい絵柄を気に入っている、ということに気づいたのは、多分そのときが初めてでした。

 子供のころからずっと、特にアニメと漫画の中で「少年向け」「少女向け」という区別があると思っていて、無意識に男の子は少年らしい話と絵柄が好き、女の子は少女らしい話と絵柄が好きだという世界観になってしまいました。

 しかし、どんどん成長していって、そういう男女で区別する意味はないことが分かってきました。特に自分の性別やアイデンティティと関係がなくても、男性の魅力、女性の魅力、そして男女と関係ない魅力それぞれがあり、自分の好みによって好きなところがあります。あとから考えたら当たり前のことかもしれませんが、当時は初めてそういうことを経験した、という話です。日本の漫画とアニメには、絵柄はもちろん、年代によってさえ違う傾向があると感じていました。

 私の場合は、ずっと男の子は「かっこいい」が好き、そして女の子は「かわいい」が好きだというイメージだったのですが、シノアサ先生の描いた「かわいい」が非常に気に入ってしまいました。

pixiv「例大祭新刊サンプル(少女リセット)」ページから引用

 男女の境界を外して、逆に男女の違いについて、よりよく考えました(「守破離【※】」みたいな感じでしょうか)。

 “もこけーね”と簡単に言ったら、普段は多分妹紅のほうがかっこいい、慧音のほうがかわいいというイメージなんですが、シノアサ先生が描く二人はどちらも非常に女性っぽい、というか、このキャラは“女性に違いない”ということです。

 たとえば、シノアサ先生の妹紅はかっこよくても、ボーイッシュでも、本当に女性っぽい姿でかわいい美人です。しかし、この「かわいい美人」は慧音の「かわいい美人」とは大分違うと思います。それで、慧音が妹紅に化粧をしてあげるのではなく、逆の話になるのは本当に面白いです。

【※】守破離:剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。 ―デジタル大辞泉より

 また、シノアサ先生の絵柄、描き方の大好きなところのひとつは、多くのキャラを描いてもキャラそれぞれの表情が違うことです。少女リセットの中でも妹紅と慧音のみならず、様々な少女キャラが出演して、それぞれの表情が見えます。

 そして、白黒の漫画の中でお化粧した顔を描くのは難しい挑戦でしょう。こんなにシンプルな漫画で、こんなに日常的な題材だといっても、自分にはたくさん勉強になりました。

 勉強になったことといったら……

 

化粧と内容について

pixiv「例大祭新刊サンプル(少女リセット)」ページから引用

 少女リセットを読む前、化粧にはあまり興味がありませんでした。

 私も、私の妹もあまり化粧はしません。なのに、不思議な魔法をかけられたみたいに、その本の話がすごく気になってしまいました。「これまで興味がなかったことなのに、私はなんでそんなに関心を向けてるの?」と自分に何回尋ねても、答えがまったく分かりませんでした。

 お化粧は日常的な題材であり、あまり興味が持てないと思っていたのですが、思った以上に楽しめたのです。妹紅のほうが慧音に化粧をしたくて、ドタバタがあって、そして落ち着いてから少しシリアスになって、もこけーねの美しさが全面に出ています。

pixiv「例大祭新刊サンプル(少女リセット)」ページから引用

 私も実際にお化粧に少し興味を持つようになりました。この本に限らず、たまにやっているコスプレのためにもお化粧は学ばなければならない、というわけです。このお話で気に入ってるのは美しさについてです、色々な意味で。こんなにシンプルな話なのに……というか、シンプルだからこそ、より美しくなる。

 美しさというと……

 

百合と将来について

 シノアサ先生の本を読む前、百合にはまったく興味がありませんでした。

 欧米でも(ほぼ女性だけの中では)BLのほうが人気で、同時になぜかエロいイメージが強いです。BLがそういうものであるなら、百合もきっと「ただのスケベな内容に過ぎない」というイメージが私にはあったのです。「男は豚よ」というあるドイツの有名な曲【※】のタイトル通り。

【※】「男は豚よ」というあるドイツの有名な曲:恐らく、パンクロックバンド「Die Ärzte」の『Männer sind Schweine』。歌詞は「(口で愛していると言っても)男は豚、信用してはいけない、信用してはいけない。彼らの目的は一つ、男はそういうものだから」といった内容。

 しかし、東方Projectを知り始めたとき、特にシノアサ先生の作品を読んでから、本当の百合の美しさが理解できるようになってきました。こうしたロマンス・恋愛の形を初めて実際に体験して、ついにハマってしまいました。女性と女性のやり取り、少女リセットの場合、もこけーねについて興味深くなりました。

 特に東方Projectのキャラについて、それぞれの魅力・美しさがどんどん分かってきたときでしたが、百合でふたりのキャラを合わせると、そのふたりの美しさをただ重ねただけではなく、ふたりの関係、ふたりの対応、ふたりの対話によって、完全に新しい美しさが表現されるようになることです。そうした美しさが花の隠喩で表現されるのは、本当に意味深ではないかと思います。

 

 今の私は東方Projectのクリエイターになりたくて、その中のひとつとして、シノアサ先生みたいに絵師になりたいです。自分自身で、特に百合の話で、また新しい美しさを皆さんに見せたいです。

 もし機会があるのなら、シノアサ先生にいつの日か直接お会いして「あなたのせいで私が百合にハマっちゃった」と伝えたいと強く想います。ただ、この文が本当に掲載されたら、もうバレてしまうかもしれませんが……。

 

 つまり、ただのもこけーねの話なのですが、私には、とても深い意味が永遠にあります。一生忘れない美しさです。

 

作品情報

作品名:少女リセット
https://www.pixiv.net/artworks/35899915

サークル名:ビビッドグレー
http://vivit-gray.jugem.jp/

作者:シノアサ
https://twitter.com/shinoasa

 

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