東方アレンジCDレビュー「MOD」/岸田教団&THE明星ロケッツ
東方アレンジCDレビュー
ーー岸田教団は僕の青春なんだーー
高校受験を控えた中3の時だ。東方アレンジというものを初めて知った頃、僕はあるサークルに出会った。
そのサークルはとてつもなくクールなロックンロールを奏でていて、僕は一瞬で好きになった。人生で初めて行ったライブには彼らが居た。
サークル名は「岸田教団&THE明星ロケッツ」。始めて生で聴いた明星ロケット。興奮し過ぎて、いつの間にか隣のやつと肩を組んで踊ってたことは今でも覚えてる。なんて楽しい場なんだ!そう思ってそこからたくさんのライブに行った。そうやって遊んでるうちに時間は何年も過ぎていったけど、本当に楽しい時間だった。このCDの名を冠しているライブツアー”MOD”だって、もちろん行った。
そう、岸田教団は僕の青春なんだ。だからこのCDのレビューを書く時にはなんだかいろんな感情が溢れ出していた。
このアルバムは2019年夏、コミックマーケット C96にて頒布された岸田教団&THE明星ロケッツとしては12枚目のアルバムだ。
MODとは?あまり音楽には馴染みない言葉だが、主にパソコン用のゲームでグラフィックなどを改造した(≒Modify)データのことを言う。海外のゲームを遊ぶ人には、耳馴染みの深い言葉かもしれない。
文字通りこのアルバムは今までの曲をMOD、Modifyすることを意識して作られたアルバムだ。だったら「リアレンジ」や「リメイク」でいいんじゃないか?なんでMODなんだろう?そう、手に入れてすぐの自分は思っていた。しかし、一度曲を聞けば、そんな疑問は払拭されることになる。今回は3曲のModifyされた曲を紹介しようと思う。
1曲目 幽雅に咲かせ墨染の桜
原曲:幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life
この曲の大きなModifyにアレンジャーとして、草野華余子(カヨコ)が参加していることが挙げられるだろう。REBOOTの頃から岸田教団の制作に参加しており、お互いのプロジェクトを手伝い合う、彼らにとって、いわば戦友のようなミュージシャンだ。
岸田教団は恐るべき速度で進化するサークルだ。11年前とは機材も、エンジニアリングも、個々のスキルも、ソングライティングも、そしてバンドとしての結束も格段に進化している。この曲は、そんな進化をありったけ感じることができる。
このレビューを書くにあたって、僕はこのCDを何百回と聴いたり、原曲も何十回と聴いたり、実際の弾幕も何回も見るハメになった。
そうすることで見えてきたものがある。11年前の幽々子様は弾幕を出していない。
11年前のアルバム「Electric blue」に収録されている「完全なる墨染の桜」は、原曲のメロディラインをそのままなぞるような、シンプルなアレンジだった。BPMもすこし遅めで、戦っているというよりも白玉楼の縁側で歌っている印象だ。その視界には、幻想郷の外の人間である僕なんてちっとも映ってはいない。
だがMODでは、ギターも、ベースも、ドラムも、ボーカルも、すべてが自分を殺しに来ている。
やっと僕を見てくれたのだ。
でも、その殺意の嵐の中、ピアノだけが西行寺幽々子という少女の儚さを表している。無慈悲な弾幕の中の少女性、それこそが東方の重要な要素で、僕はそれを好きだったことを思い出した。
妖の空 埋め尽くす花びら
芸術的な光景と絶望
ああ、まるで幽々子様の弾幕を目前にしているようだ。
2曲目 Gusty girl
原曲:風神少女
Gusty girlという曲は、岸田教団のボーカルichigoによる東方アレンジ企画「ONSEN PROJECT」にて制作された、「ORIENTAL-GIRLFRIEND」というCDに収録されたものが初出だ。
元々は草野華余子によるアレンジ曲であるが、それを元に、岸田が新たにアレンジャーとして加わっている。先程の「幽雅に咲かせ墨染の桜」が岸田+草野華余子ならば、「Gusty girl」は草野華余子+岸田といったところだろうか。
アルバム「ORIENTAL-GIRLFRIEND」のコンセプトテキストには、「今作は完全彼氏目線をコンセプトにオトナな世界観で統一。種族や寿命、生きる世界の違いを超えて愛し合ったり離れてしまったりする恋人達の心模様を、5人のガールフレンド達へのラブソングにしてお届けします。」とある。
この曲を歌うのが彼氏なのであれば、きっと射命丸文とは破局してしまったのだろう。しかも、その失恋をうじうじと引きずっていて、未練もたくさん残っていそうだ。
MODでは、やはり失恋してしまうものの、次に向かう明るさが足されているように思えた.未練も少なくて、どことなく、すっきりしている。
何がそういう違いを感じさせているのだろうか?
歌詞? いや、それは全く同じだ。この曲は先程とは違い、歌詞の修正は入っていない。
「ORIENTAL-GIRLFRIEND」ではアコースティックギター一本でのアレンジだが、MODでは、ドラムやエレキギターなど、ロックバンドの要素が加わっている。それによって、歌詞やメロディラインを変更せずとも、僕らに変化を味合わせる。
なるほど、確かにこのアルバムはMODだ。もとの曲と全然違ったり、逆に同じだったり。単にリアレンジと評するには、変化の量が多彩すぎる。
3曲目 ネクロファンタジア
原曲:ネクロファンタジア
「ネクロファンタジア」は「幻想事変」が初出の曲だ。2013年頒布の「きしだきょうだんのベスト!」にも収録されていることからも分かる通り、岸田教団の曲の中でも、極めて人気が高い。八雲紫の偉大さと少しの儚さを歌っているような気がして僕もこの曲が大好きだった.そしてファンからすれば「既に完成されている」と感じてしまう「ネクロファンタジア」を、どうやってModifyするんだろうとすごく楽しみだった。
基本的なメロディ構成は、最初に収録されたアルバム「幻想事変」での、「ネクロファンタジア」と同じだ。しかし、「MOD」では畳み掛けるように、流れるように歌われていく。それはまるで八雲紫が僕らを挑発しているようで。
故にまた生涯に意味はない
不愉快な音だけがきっと君の真実だfrom ネクロファンタジア(MOD)
「幻想事変」版では存在しなかった二人称の言葉。”君”とは僕たちのことだろうか?
そしてサビ。
夜を越え この絶望の連鎖といつまでも踊り続けてればいい
現実のようにどこまでも曖昧な夢に身を委ねてfrom ネクロファンタジア(MOD)
曲全体として全く違うわけでもなく、全く同じわけでもない。その曖昧な変化量が12年前と今の境界も曖昧にしていく。その変化を感じることができて、今までの間岸田教団信者であり続けて本当に良かったと思った。
いつまでも其処にあり続ける夢に身を委ねて
from ネクロファンタジア(幻想事変)
東方アレンジに出会って、岸田教団に出会って、あのライブに行って、その結果、普通の青春とはちょっと違う青春を送ってきたけど、それがこの曲で少し肯定された。そんな気がした。
昔、岸田教団を聴いてたけど今は…という人は絶対に聴いてほしい。これは君の青春だった音楽なんだ。
今、岸田教団を知ったという人は絶対に聴いてほしい。これは君の青春となる音楽なんだ。
【編集部より】
こちらのレビューはえふび~さんより、東方我楽多叢誌へ「ぜひ掲載して欲しい」と投稿して頂いた文章です。
つい、東方二次創作作品(本・CD問わず)についてのアツいレビュー書いちゃった…という人は、下記のプレスリリース宛にお送り頂ければ読ませていただきます!(全ての文章の掲載や、お返事を確約するものではありません)
https://touhougarakuta.com/news/press
【作品情報】
アルバム名:MOD
https://kisidakyoudan.com/2019natsu.html
サークル名:岸田教団&THE明星ロケッツ
https://kisidakyoudan.com
委託、配信先情報
ショップ委託:
【メロンブックス】
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