東方アレンジの面白さを再発見、再発掘してほしい――「幻想Storage」主宰・餅屋氏、副管理人・徒桜氏インタビュー(後編)
「幻想Storage」主宰・餅屋氏、運営・徒桜氏インタビュー
幻想Storage-Touhou Arrangement Channel-
https://www.youtube.com/@GENSOStorage
「幻想Storage」は数多くの“東方アレンジャー”が萃まって作られた、東方アレンジ曲を配信していくためのチャンネル。各アレンジャーたちが制作した楽曲を、新旧問わず、ジャンルも問わずに配信する、東方アレンジの“楽園”のひとつです。2023年11月には、アップロードされた楽曲数が700曲を越えました。
後編では、チャンネル内で生まれた新しいクリエイティブや取り組みについて、そして2023年以降の東方アレンジの行く末についてを中心に、幻想Storage主宰の餅屋氏、副管理人の徒桜氏にお話を伺っています。
文・インタビュー:西河紅葉
餅屋
2008年からサブカル系DJを趣味として細々と始める。
2009年に同人小説サークル「脱兎屋」を立ち上げるが、音楽性の違いから当時のメンバーと分離。
2012年から同人音楽サークル「dat file records」を立ち上げ東方Project/ゲーム音楽アレンジCD、オリジナルCDの製作を始める。
2016年から大阪にて東方アレンジクラブイベント「IzanagiDistribution」を主催。
2020年からYoutubeにて東方アレンジ楽曲配信チャンネル「幻想Storage」を発起・主催・企画・運営を開始。
2021年からVRChatからVRDJとして活動開始。同年からVRクラブイベント運営グループ「SQUARE」を発起・運営を開始。
2023年から大阪にて東方アレンジフェスイベント「BREAK EMOTION -Touhou Music Fes.-」の企画・運営・デザインを担当。
趣味の延長でDJから楽曲製作・デザイン・イベントの企画運営までこなしている凡才である。
東方アレンジを主して、これに関わるイベントの企画立案など様々な方面に携わったり携わらなかったりしている。
最近はVRなどの仮想空間プラットフォームまで手を伸ばし、細々とながら活動している。リンク:https://linktr.ee/mochiya00
徒桜
幻想Storage副管理の寿司。2012年より個人音楽サークルReset All Controllersでゆるく活動中。
スカーレットはレミリア派、依神は女苑派。Twitter/X:https://twitter.com/adazakura_midi
YouTube:https://www.youtube.com/@reset-all-controllers
一年中ずっと東方アレンジ曲が流れるチャンネルがあったら、面白くない?――「幻想Storage」主宰・餅屋氏、副管理人・徒桜氏インタビュー(前編)
「幻想Storage」主宰・餅屋氏、運営・徒桜氏インタビュー
プラットホームの変化――YouTubeでは拾えない「専門性」
餅屋:
設立したときに考えたビジョンの通り、リスナーのみなさんに見つけてもらいやすくなったことを感じています。考えていたことは間違ってなかったのかなと。
――実際リスナーも、新しい曲は知りたいと思うものの、その検索能力はどうしてもプラットフォームそのものの検索性にかなり依存してしまいます。そんななか、幻想Storageが「まずここに行けば新しい東方アレンジが聴ける」という場所として認識されていることが、本当に大きいことなんじゃないかと思います。
餅屋:
ニコニコ動画はYouTubeに比べて「専門性」に特化したプラットフォームだとおもいます。タグ機能のお陰で「音楽」から「東方アレンジ」だけに絞って探すことができて、なんならジャンルに細分化したランキングもあって……僕らにとって非常にやりやすいツールであったことは間違いないです。(専門的なジャンルでも)見つけてもらえる機会があった。単独ではなかなか伸び悩むインスト曲に、シュールな映像がついて盛り上がったりとか、そういうことがあったじゃないですか。
――ありましたね。そんな動画と『Help me,ERINNNNNN!!』がランキング上で並んだりするのが、ニコニコ東方ランキングの面白いところでした。
餅屋:
そういうところから東方アレンジっていう文化を知った方も結構いたと思うんですよ。対してYouTubeは……これは批判ではないですが、そういう「専門性」が生きる場所ではないのかもしれないなと思います。完全な個人が、その作家性を前面に出すには、なかなかつらいプラットフォームだなと。個人で作った楽曲と、Billboardやオリコンで1位を取るようなメジャーな楽曲が並んでしまう場所なので、実際問題どうしたって霞むんですよ。
幻想Storageを始めたとき、いろんな知り合いの音屋さんにアプローチしましたが、個人でチャンネルをすでに持っている人からは「正直、入るメリットを感じないかも」と言われてしまうこともありました。その方たちはYouTubeでの活動にフィットできた人たちなんですよね。3日に1本動画を上げたり、定期的に配信を行えたり、YouTubeでサジェストされやすい活動を個人で行える人たちでした。彼らは本当にすごいと思いますが、同じ活動を全員ができるわけではないのも事実です。
渾身の曲ができても、活動が頻繁じゃない登録者数の少ないYouTubeチャンネルでは、いっても100再生、なんなら週に2桁程度の再生数にもならないんです。それなら、そういった作家が集まることで、アップロード頻度や本数を増やすことでチャンネルの強度を上げたら、単純に見てもらいやすくなるよね、という目論見でした。
――プラットフォームに合わせた活動ができる人と、そうでない人がいるということですね。ニコニコはコンテンツを中心としたプラットフォームですが、YouTubeはそれぞれのチャンネルを中心にして大きくすることを要求している場所です。場所に応じた活動をしなければならない、というのはいまのインターネットの功罪ではありますね。
餅屋:
幻想Storageチャンネルの登録者数は4500人になりました。いま、投稿された楽曲の平均視聴者の4割が登録者、6割が未登録者です。チャンネル登録者数が増えれば増えるほど再生数は伸びるわけですが、その一方で「登録をしてなくても、東方アレンジだったら聴く」という人がこんなにいるということが、数字としてわかるようになったんです。幻想Storageってなんだろう? 東方アレンジを配信してるチャンネルだって、ちょっと聴いてみるか……という形で、聴きに来られている方がいるんですね。
こういう数字が、チャンネルのアナリティクスで見えるようになりました。登録者には海外の方々もいます。登録者5000人とか、10000人とかのチャンネルを持っている人が「ここに東方の音楽があるから聴きに来てくれ」みたいなことを言ってくれて、それでまた伸びたりするんですよね。
――それは面白い現象ですね。
餅屋:
Reddit(英語圏の大手ネット掲示板)で「ブラザー、これちょっと聴いてみてくれよ」って、貼られてたりとかするんですよ。Reddit以外でも、たとえば海外の「Gensoukyo Radio」というDiscordにある海外コミュニティで、幻想Storageの動画がシェアされていたり。見てくれているんだという実感がありますね。
――視聴者の、国内と海外の比率はどのような感じですか?
餅屋:
だいたい半々ですね。海外ユーザーの割合も、アジア圏・欧州圏、さまざまです。実は東南アジア、タイからのアクセスが結構多かったりするんですよね。タイには二次元文化圏が確立しているようで、東方アレンジも聴いているよって方もいるみたいです。そういう方が聴きに来てくれているみたいですね。
――数ある東方二次創作作品のなかで、最も言語の壁を越えやすいのが音楽なんだなということを感じています。参加しているアレンジャーさんのなかには、海外の方もいらっしゃるんですか?
餅屋:
いますが、多くはないです。僕らもそういう意味では、海外の方に向けた門戸は広く開けていないかもしれないですね。参加ルールをグローバルに向けた整備がまだ整っていないのもありますし、そういうルールを読んでいただいても理解していただけない、というところもありますね。言語の壁もまだまだ高く、この点についてはまだまだ課題となっています。
動画・楽曲情報の翻訳は「考えるな、見よ!」という翻訳グループの方が手伝ってくれていて、大変ありがたいです。Youtubeを英語版にして幻想Storageの動画を見てもらえれば分かるとおもいますが、現在上がっている楽曲のほぼ全てに英訳がついています。感謝で頭が上がらないですね。
結果生まれた技術研鑽――GENSO Storage Archives
――「GENSO Storage Archives」というフリーダウンロードのアルバムを公開していますよね。こちらはどのような目的ではじめられたのでしょうか。
餅屋:
スタートは、幻想Storageを始めて最初のクリスマスのころでしたね。「せっかくこれだけアレンジャーが集まってんだから、フリーコンピアルバム作った方が良くない?」っていうのが始まり。
徒桜:
稼働して3か月目でしたね。冬コミ間際にいきなり「お歳暮出そうぜ」みたいなノリで始めたやつでした。
餅屋:
お歳暮という言い回しは東方の界隈ならではなのかもしれないですね(笑) ただ、色んなカテゴリーに所属する人間が集まってるんで、取りまとめが結構大変で。マスタリングひとつとっても、楽曲のジャンルが多岐にわたるので大変なんです。管理人3人でそれぞれジャンルを分けてマスタリングしましたね。加えてジャケットのデザインやクロスフェードの制作などビジュアル方面は全部僕の方でやっています。
――このようなアルバムパッケージだと、チャンネル登録者とはまた別の視聴者層に届きやすい、といったこともあるんでしょうか。
徒桜:
ありますね。毎回毎回コンスタントに、かなりの数がダウンロードされているので。
餅屋:
アルバムのなかに楽曲のジャンルがたくさんあるので、いつも聴いていないジャンルに触れる機会になっているかもしれません。EDMは趣味じゃないと思ったけど、意外とハマりそう、とか。ジャンル間の相互移動が起きている感じがします。まさに再発掘的な感じですね。案外、みんな食わず嫌いしてるところがどこかしらあって、試してみたら「意外とイケるやん」的な。
徒桜:
内部的にはメンバーの実力育成という目標の方が大きいかもしれませんね。「みんなでがんばって良いもの作れるようになろうぜ」という目的にもなっている感じです。毎回、提出されてきた楽曲に対して、講評を書いたりもしています。
餅屋:
「どうしたらもっといい感じにできるか」の指標と言うか、簡単なアドバイス程度のことをやらせていただいてます。最初からコンピに参加してる方は、めちゃくちゃ音がきれいになってます、ほんとに。
徒桜:
最近はレベルが上がってテクニカルな部分が安定してきたので講評も大々的にはやらなくなりました。成長が著しくてすごいですよね。コンピを作ったことって、実は対外的な効果よりも内部的な効果の方が大きかった気がします。
――もともとはタッチポイントを増やすことが目的のチャンネルが、単純に技術研鑽の場にもなっているわけですね。
徒桜:
クリエイター視点でのフィードバックが自分の作品に返ってくることって、まずないですからね。改善案ってクリエイターの禁忌のひとつみたいな風潮があって、求められていないのにやると余計な火種になりかねない。なので講評をほしいと要求してきた人にのみ返しています。
餅屋:
僕らが始めたころはそれが当たり前でしたが、これから入ってくる人たちにはできる範囲である程度、こうしたら良いんじゃないかっていうのを伝えられるなと思っています。運営する僕らにとっても、アレンジしてくれる側にとっても、結構な財産になるんじゃないのかなと思ってます。
――冒頭のnoteには「アレンジャーの互助組織ではない」と書かれていますが、突発的に生まれた企画がお互いの技術研鑽につながっている部分もある、という感じでしょうか。
餅屋:
本当に、我々は互助組織ではないんですよ。結果的にそうなってるというか、副次効果が得られているだけで。互助組織ではないけど同盟ではある、アライアンスであるのは確かなので、そういう意味での恩恵は出ています。
――クリエイター同士が歯に衣着せず作品への意見を述べる場所を、表通りでやるのは難しいと思います。それが結果的に幻想Storageというチャンネル内で自然発生しているのは、レーベルとして健全だと感じました。
たったの数百曲が埋もれる場にしたくない――幻想Stream
――同チャンネル内では「幻想Stream」という配信もやられていますよね。幻想Storageはあくまで「ストレージ」としての運用に特化する場所だと思っていたので、定期配信を始められたときは少し驚きました。これにはどんな理由があったんでしょうか。
餅屋:
配信をするきっかけとなったのは、幻想Storage内の楽曲本数が増えてきたことです。幻想Storage内においても曲数が多すぎて、チャンネル内でもリスナーが良い曲に出会える機会、ディグることが難しくなってきたんです。ただでさえ、東方アレンジ全体だけでも11万曲以上あるなかで、幻想Storageだけでも数百曲もあったら、過去に投稿された曲が目立ちづらくなってしまいます。これは我々がそもそも掲げていた目的から逸脱してしまう可能性がありましたし、何より本懐ではありません。
そこで「東方アレンジに特化した配信」をやって、過去投稿された楽曲を含めて再発掘するような内容を発信すべきなんじゃないかという提案が出ました。それが「幻想Stream」のきっかけですね。「こんな曲があるから聴いてみてよ」という再発掘の流れを、リスナーのなかに作り出したかったんです。そこから「東方アレンジャーに質問してみよう!」とか「制作中の様子をみんなで見よう!」とか、いまの配信内容は様変わりしていますが「東方アレンジに特化した配信」という番組形態は変えていません。
徒桜:
いろいろ様変わりしたのは「まずこの配信を見てもらうにはどうしたらいいか」ということを考えた結果です。そもそも視聴者が増えないと、本懐が達成できない問題があったので。こりゃ面白い企画をやらないといかんなと。
餅屋:
再発掘だけだと、どうがんばっても身内の話にしかならないんですよ、やっぱり。見てもらうには身内ノリをなるべく薄くしないといけない……配信を面白く思ってもらえるようなことをやらないといけないなって。それで今の形になりました。
ついでにメンバーが関わっているライブやクラブイベント、オーケストラをやっている子の定期演奏会とか、そういうイベントの宣伝場所にもなっています。運用上ちょっとクローズドなDiscordサーバーではあるので、定期配信が別の団体やイベントと交流するちょっとしたハブになっていますね。
――いま、幻想Storageのなかで、ここは聴いてほしいっていう曲とか、ジャンルとかはありますか。
餅屋:
これは運営の意見としてではなく、あくまで僕個人の意見として聞いてもらえるとうれしいです。幻想Storageには、ジャンルごとに別れた再生リストがあります。そのなかで僕個人が特に面白いなと思うのが「orchestra」ってカテゴリーですね。このカテゴリーでは、いまプロで活躍してるような方がオーケストラで東方アレンジをやっていたりするんです。
それ以外のジャンルも、ぜひ一度再生リストを再生してみてほしいです。意外な発見があると思います。全曲再生(オールミュージック)を再生しっぱなしでもいいです、「Rock」のリストを再生しっぱなしでもいいです、「花映塚」を再生しっぱなしでもいいです。
色んな再生リストがあるんですよ。聞いてみて、面白いなと思ったらぜひいいねボタンを押してあげてください。なんだったらチャンネル登録もぜひ。
――曲数が多い中でどこから聴き始めればいいのかわからない人もいると思います。その場合は、ジャンル別とか、原曲作品別とか、なにかしら引っかかった再生リストから入ってもらいたいですね。
コラム:ジャンル分け問題
これからの東方アレンジ――世に出ていくのか、それとも
ーーここから東方アレンジ全体の話もお伺いできればと思います。コロナ禍によって即売会が一時的に失われてしまったこともあり、東方二次創作全体の活動の場が、即売会からネット上に移行しつつあると感じています。
幻想Storageを運営されているおふたりから見て、今後の東方アレンジはどうなっていくと思いますか? よりネット上に移行していくのか、即売会にまた戻っていくのか、おふたりの目線からお伺いしたいです。
餅屋:
難しい話題かなと思います。これはぼく個人の意見として喋らせてください。
いま、YouTubeだったり、音楽ゲームだったり、さまざまなところで東方アレンジが注目されているのを感じます。ただ、あまり楽観的ではない見方をしてしまうと、それは一過性に過ぎないものかなと思います。世界的に見て、トップチャート、BillboardなりYouTubeトレンドなりに東方アレンジ楽曲が躍り出ることはまずありません。そういう意味ではまだ、ゲーム音楽のアレンジという域を出ないのかなと思います。
……この話を聞いて「東方アレンジをそういうメジャーなところに持っていくとは何たることだ!」って意見を持っている方も、まだまだいらっしゃるとは思うんですね。そういう意味で、完全に即売会という場所から羽ばたいているかというとまだ疑わしいなというか、インターネットの片隅にある音楽でしかない、とは思っているんです。
もしネットミュージックのひとつであるとするなら、もっとストリーミング配信が活発になってもおかしくないんですよ。東方を知らない人でも「ああ、その曲知ってるよ!」という曲が、毎年コンスタントに出てきているかと言うと、そうではないように感じます。なので……難しいですね、この話題。迂闊なことが言えない(笑)
――仰っている内容はその通りで、『アイドル』がBillboardで1位を取ったり、Spotifyで「Gacha Pop」というリストが広く受け入れられるなかで、そこに東方アレンジが介入しているかどうかでいえば、していません。その上で、これからそういったメジャーな場所を東方アレンジは目指していくのか、それとも今の立ち位置で続けていくのが東方の在り方なのか。さまざまな人が考えている内容だとは思います。そのなかでいま「幻想Storage」というチャンネルは、ある種の境界にあるのかなと感じていまして、どう考えているのかお聞きしたかった次第です。
餅屋:
ぼく自身が思うだけで言えば、目指していってほしいところはあります。実際、海外の方からぼく個人のサークルの問い合わせで「CDが欲しいんだけども、Bandcampでリリースしないのかい?」と問い合わせを受けたりもします。末端の自分でもこういう話があるのですから、そういったチャンスはいくらかあるはずです。
でも、各アレンジャーがそこまでいけるか、いきたいかどうかで言ったら、まだまだ未知数だと感じます。それは大手サークルさんですら分からない、これからというレベルの話だと思うんですよ。国内でウケていたものが同じアプローチをして海外でもウケるか、難しいじゃないですか。即売会に出すものと、グローバルに向けたものとが両立する世界がくるのは、まだまだ時間がかかるんじゃないかなという印象です。
――徒桜さんからも、お話を伺ってもいいですか。
徒桜:
自分の印象だとむしろ逆かもしれません。我々のような中堅どころの東方サークルは即売会から離れられていませんが、大手サークルさんは即売会の頒布枚数よりYouTubeの動画再生数のほうがはるかに回っている状況ですよね。そういう観点で、ターゲットとしているファン層、知名度層ごとにすでに活動場所は分かれている状況なのかなと思います。幽閉サテライトさんの『色は匂えど散りぬるを』は1900万再生されています。『Bad Apple!! feat.nomico』は、ニコニコやYouTubeなど合算すると、1億再生は優に超えています。
――昨年は『インターネットサバイバー』がヒットしましたが、この曲の初出し自体は5月の例大祭でのCDリリースで、実際にネット上でバズったのは8月のMVリリース後なわけですよね。
徒桜:
即売会から離れられていないのは東方アレンジ全体ではなく、自分たちがそうなだけ、なのかもしれません。結局ブレイクするには、ネットワークの力が必要だと最近は特に強く感じています。
――暴論ではありますが、いまの一般的なリスナーにとっては「YouTubeに無い音楽は存在しない」に等しいんですよね。AppleMusicやSpotifyにあっても、YouTubeになかったら、それは存在しないと思われても仕方ないくらいの。
徒桜:
ミュージックビデオが強いかどうかも結構大きいです。究極、そこなんですよ。視覚情報が強い方が強いって話になっちゃう。ボカロ曲も、動画がしっかり作られているものが伸びていった歴史があるわけで。今や東方アレンジもそこは同じだと思うんです。実際、動画がしっかり「動く画」になっているものは10万再生以上を達成している東方アレンジも多くあります。
――すでに起きたゲームチェンジの話でいうと、ボーカロイドも大変に凝ったPVの時代から「世界観が強いイラストに、歌詞が乗っかってる」が最強になったんですよね。
徒桜:
ピノキオピーさん、DECO*27さんあたりが分かりやすいですね。動画を作る腕は持っていても、そこからさらにもう一段シフトして、強いビジュアルが必要だという事実にアプローチしていく必要があるのかな、と思っています。まあ、我々はもともとは音楽がメインなんでそれが難しいのは当たり前なんですけども(笑)
――さらに世の中はちょっとずつシフトしていて、『強風オールバック』や『粛清!ロリ神レクイエム』のような、目を引くアニメーションや真似したくなる振り付けが流行る世界になってきています。視覚情報の必要性は、より強くなっていますね。
徒桜:
ここ最近でそのアプローチに一番成功した東方サークルは、自分が見えている中だと「ちょこふぁん」だと思っています。2019年から活動を始めて、ボーカリストが自分で絵を書き、歌い、動画も作り、積極的に活動することで成功したところですよね。短期間で伸びた要因は、リリース速度とプロモーションの上手さだったのかなと思います。ライブパフォーマンスもしっかりしている。
餅屋:
僕の話にしても徒桜の話にしても、まだ正解が見えてこないですね。数年たったあとにでも居酒屋で「あの時、これが正解やった」って話ができると良いですね。
コラム:餅屋さんが気になる東方アレンジシーン
多彩な楽曲が楽しめる貴重なシーン――東方アレンジの面白さ
――いろんな世界があることが東方の良いところだとするなら、それぞれが同居できているこの状況は東方らしいのかもしれませんね。幻想Storageはいま、ちょうど真ん中ぐらいの位置にある場所だとおもいます。
餅屋:
僕の見方は、あまり楽観的な立場ではないです。でも、だからといって海外ウケを狙うべきではないとは思いません。日本人向けに書いてるからこそ、海外にウケるということも間違いなくあります。
東方アレンジ全体が即売会から大きく外に出ることはないと思っていますが、東方アレンジ自体が注目されているのは事実なので、そこに乗っかるのは悪くない……媚びない形でいいから、自分の音楽を貫いてくれたら、ひょっとしたら想定外のことが起きるかもしれない。そういうチャンス自体は、なんだかんだ増えていくと思います。……自分でも話している内容がまとまっているかわかりませんが。何分、スケールがデカい話ですので、どっち付かずな言い回しですがご容赦ください。
――ありがとうございます。餅屋さんの視点から感じたことを言葉にしていただいて、大変うれしいです。すべての東方アレンジ曲が、グローバルやメジャーに向けて作られているわけじゃないのは事実です。東方アレンジに注目が集まるなかで「こういうチャンネルがあったって、別にいいんじゃない?」というスタンスが、幻想Storageという場所を作っているのかなと感じました。
餅屋:
こういうと変な話ですが、ぼく自身は当時本当にネガティブな感情でこのチャンネルを作ったはずなんですよ、おそらく(笑) あのころは「東方同人音楽流通」の件とコロナ禍の件が一気に来て、身の振り方次第では活動自体が危ぶまれる。それなら どうか忘れないで! の気持ちが強かったんですよ。
徒桜:
参加してるメンバーは悲観してなかったんですよね。厳密に言うと個人個人それぞれにモヤモヤがないわけじゃなかったんですが、この企画については「餅屋が変なこと始めたから乗っかろうぜ」くらいの感じでした。こうやって人が集まるのが餅屋さんのすごいところ。
――そういったなかで、今後の幻想Storageはどうなっていくのでしょうか。
餅屋:
ここまで続いたこと自体が、奇跡だと思ってるんですよ。
徒桜:
3年も続いている、東方の大きなコミュニティ自体がそんなにないと思うんですよ。個人運営のレベルで。
餅屋:
勘違いされるんですよ。「これ公式だよね?」って。今でもよく勘違いされる。企画スタート時とかだと、「お前公式が二次創作のアレンジまで口出ししてんじゃねぇよ!」というようなお気持ちのツイートがちらほら見受けられるレベルで。
いろいろなこともありましたが、その分出会いは多かったです。注目してもらったり気遣ってもらったり、諸先輩方にも「急になんか出てきたと思ったらお前の仕業だったのか」とか「面白いことやってるやんけ」って言われたりして。なによりこんな与太話についてきてくれる人がいるとは思ってなかったし、3年も続くと思ってなかったし、続けてみるもんだ。
徒桜:
3年間も動画投稿し続けるなんて、思ってもみませんでした。生活が変わってしまって続けられなくなってしまうことがよく起きなかったな、みたいな意味で。
――いまでは、アップロード楽曲数は700曲に到達しているわけですもんね。
徒桜:
最終的にみんながアレンジの投稿申請を出さなくなったときが、このチャンネルの役割の終わりですね。そこが、幻想Storageが幻想入りするタイミング。
餅屋:
このチャンネルについてきてくれる方がいて、その上でその方たちが信じて、我々のチャンネルに預託してくれているということを常に考えています。それがなくなったら、おそらく我々の役目が終わった瞬間ですね。
――東方アレンジを作りたい、作り続けたいという人がいる限りは、幻想Storageは続きそうです。月並みな質問ですが、餅屋さんが思う「東方アレンジの面白さ」はどこですか?
餅屋:
東方の原曲って、ZUNさんが自分のゲームに向けて、丹精込めて楽曲を作っているだけだったはずなんですよ、おそらく。それがさまざまな解釈のもとで、11万曲以上の楽曲アレンジが生まれることになるなんて、誰も想像できるわけがなかった。ひとつの曲に対してどう解釈するかで、ここまで多彩になる音楽もほかにないと思うので、それが楽しめる貴重なシーンに我々は生きているなと思います。
それらを発信するひとつが幻想Storageなので、そんな東方アレンジの面白さをいろんな方に再発見、再発掘してもらえたら、運営として本望です。
――最後に、この記事をご覧になった皆さんにメッセージをお願いします。
餅屋:
幻想Storageでは、参加してくださる東方アレンジャー、東方アレンジ楽曲のご投稿を常に募集しております。過去にリリースしてもう廃盤になってるとか、CDを出す機会が無いとか、作ってみたけど発表する場所がないとか、YouTubeに上げてるけど伸びないなとか。そういった方はぜひ、僕らのチャンネルに加わってほしいです。加入されたい方はぜひ、noteにある申請フォームよりご連絡ください。
もうひとつ、毎月末に幻想Streamという配信番組をやっております。毎回、東方アレンジに特化した話題をお届けする番組です。1ヶ月分の楽曲のプレイバックとか、そのほかにもさまざまな企画をやっていますので、ぜひ見ていただけるとうれしいです。
幻想Storageでは3日に1本、動画投稿をしています。毎回ジャンルやカテゴリーが違う、多彩な東方アレンジを用意しています。ぜひ、チャンネル登録と、できたらTwitter(X)のフォローもお願いします。よろしくお願いいたします。
――本日はありがとうございました。
東方アレンジの面白さを再発見、再発掘してほしい――「幻想Storage」主宰・餅屋氏、副管理人・徒桜氏インタビュー(後編) おわり