東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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トラックメイカー・チバニャン×ビートまりお×IOSYSまろん鼎談――沼は「仲間の存在」と「音楽の凄まじさ」

トラックメイカー・チバニャン×ビートまりお×IOSYSまろん鼎談【前編】

 1996年に初作が発表され、四半世紀に及ぶ歴史を重ねている東方Project。となると当然、東方に心を奪われた少年少女――つまり東方チルドレンたちが成長し、世の中で頭角を現してきている。東方育ちであることを公言する、東方以外のシーンで活躍するクリエイターや著名人が増えている事実は、まさに東方の絶えない繁栄を意味すると言っていいだろう。

 チャンネル登録者数234万人、メンバーTwitterの総フォロワー数425万人を超える大人気アーティスト集団「レペゼン地球」のトラックメーカーとして知られるチバニャン氏も、東方育ちのうちのひとり。思春期に東方Projectに出会い、それをきっかけに音楽の道へとのめり込んで今がある。2016年に音楽サークル「IOSYS」へ加入したまろん氏も、2006年に初めてIOSYSのCDを購入したという過去を持つ。

 そんな若手クリエイター2人と、東方アレンジ界のレジェンド的存在であるCOOL&CREATE・ビートまりお氏の2世代鼎談がリモートで実現。なんと鼎談は3時間にも及び、何度も締めに入ろうとするも話が終わらず、“東方我楽多叢誌”主宰・斉藤大地が「このままだと永遠に終わらない」と強制終了させるほどの盛り上がりとなった。

 「今度は実際に会って鼎談第2弾やりましょうよ」や「チバスタジオに遊びに行こう」など、東方はもちろん、東方を通じてそれ以外の世界やこの先へと広がる鼎談。3人と一緒に卓を囲んで、すぐ横で話を聞いているようなテンションでお楽しみください。

「東方が好き」という仲間意識から一瞬で信頼感が生まれた(まろん)

――リモート鼎談ということで、よろしくお願いいたします。

一同:
 よろしくお願いします! 

――まりおさんとチバニャンさんが飲んだ時の写真をTwitterにアップしておられました。もともとのご縁は、まろんさんがビートまりおさんに「レペゼン地球」を教えたことがきっかけだそうですね。

まろん:
 そうです。去年の3月、まりおさんと一緒に東方アレンジのCDを作っている時に「『東方風神録』の楽曲のアレンジ、どういうふうにしよう?」という話になって。まりおさんから「まろんくん最近ハマってるアーティストいないの?」と訊かれて、そこで「『レペゼン地球』ってアーティストさんがすごくいいんですよ!」って「TRIGGER」をおすすめしたんです。

チバニャン:
 へえ~! 

まろん:
 そしたら、曲を聴いたまりおさんが「いいじゃん!」って。 

ビートまりお:
 レペゼン地球の名前だけは知ってたんですけど、曲はちゃんと聴いたことなくて。それまでのイメージは、「どっかの学園祭に出て、途中で演奏を切られて炎上したグループ」っていう(笑)。

チバニャン:
 あははははは!

ビートまりお:
 だから聴かず嫌いしてたなって。それでまろんくんと「レペゼンのパロディみたいな曲を作ろうぜ」って(笑)。それがちょうど2019年の例大祭でしたね。そのあとに、ネットを通じてあれよあれよとチバニャンさんご本人とつながって。インターネットのいいところですね。

ビートまりお氏
ビートまりお氏

――お三方の馴れ初めを伺ったところで、まろんさんとチバニャンさんの「東方との馴れ初め」についても教えていただけますか?

まろん:
 僕は原作からですね。中1の時、ネトゲで知り合った人たちと初めてコミケに行って。そこで友人から「これ面白いからやってみなよ」と渡されたのが『(東方)紅魔郷』だったんです。そしたらすごく面白くて。そのあとに「じゃあこれ聴いてみ?」と渡されたのが、まりおさんの「Help me, ERINNNNNN!!」でしたね。初期版の。

ビートまりお:
 へえ~! ボーカルが入ってないやつだ。(※2004年の『東方ストライク』に収録) 

まろん:
 そうです、そうです。そこで東方アレンジ文化を知って、次のコミケから買いあさるようになりました。当時ニコニコ動画が爆発的に流行っていたので、沼にハマるのはすごく早かったです。知らないことは調べればすぐ全部わかるし……自分と同じ「東方が好き」な人が、ネットの画面上にいっぱいいるんですよね。ネットだけでなく、コミケの東方の島に行けば、周りはみんな東方好きじゃないですか。周りの人みんなと話が合うんですよね。 

チバニャン:
 へえ~。 

まろん:
 『風神録』が発売された時(2007年)、コミケの入場列で炎天下のなかをぐるーっと回っている最中にお腹痛くなってたんですけど(笑)、前の人と後ろの人に「すみません、空けといてもらっていいですか……!?」と頼んだら、「いいですよ! 東方風神録、楽しみましょうね」と気持ち良く応対してくださって。「東方が好き」という仲間意識から一瞬で信頼感が生まれましたね。 

――「同じものが好き」というコミュニティの強さが、より沼にはまらせていったと。まろんさんは現地へ積極的に足を運ぶ方だったんですね。 

まろん:
 そうですね。コミケだけでなく、僕がハマったのはちょうどCOOL&CREATEさんや石鹸屋さんがライブを始めた頃だったんですよ。『ぎりぎり☆ばれんたいん』が発売した時だったと思うんですけど、そこでまりおさんとあまねさんが観客全員と握手をしてくださって。僕はそこで「いつか一緒にお仕事したいです」と伝えたんです。そしたら「じゃあまず『ぎりぎり☆ばれんたいん』をとらのあなへ買いに行け!」と言われて、「わかりました!」って買いに行きましたね(笑)。

ビートまりお:
 あはははは! 当時はまだオタクライブに貸してくれるハコがなかなかなくてさ。フリースペースみたいなところを自分で探して手配してましたね。懐かしい! 

まろん:
 それからほとんどのライブに行ってました。

チバニャン:
 ……まろんくんって出身どこなんですか? 

まろん:
 東京です。

チバニャン:
 あ~、めちゃくちゃいいなあ。やっぱり。

コラムこぼれ話その1「レペゼン地球と知り合ったきっかけ」

「すごい曲の作り方するなあ! どうやって作るんだろう!?」という興味が僕の音楽の原点(チバニャン)

――チバニャンさんは札幌でしたよね。

チバニャン:
 そうです。ずっと札幌で。それこそ上京してきたのも2年前なんですよ。

ビートまりお:
 あ、そうだったんだ。

チバニャン:
 東京に来る前にチラッと音楽作ってて、それを聴いた社長(※レペゼン地球の首謀者、DJ社長)から「東京来て一緒にやろうぜ!」って感じのバイブスの会話になって。当時は新入社員になったばっかだったんですけど――。 

ビートまりお:
 あ、ちゃんと働いてたんだ! ほんとに「偉い」!(笑) 

チバニャン:
 ちゃんと働いてましたよ! 車売ってました(笑)。当時まだレペゼンも成功するかわかんない状態だったんですけど、まあ仕事辞めてもそんなにリスクないかなと思って。

ビートまりお:
 札幌に住んでて東方が好きで音楽をやってたなら、IOSYSに入ろうとは考えなかったの? 

チバニャン:
 えーっとそれが……そもそも俺が東方にハマったのが中1か中2なんですよ。今年26なんで、中1の時が2007年で。ニコニコがめっちゃブワッ!と来るタイミングなんですよね。 

――まろんさんは1993年、チバニャンさんは1994年生まれですからね。

チバニャン:
 まろんくんとほぼ同じっすね。仲のいい友達ん家に遊びに行ったら、そいつがずっとゲームしてて、それが『東方永夜抄』で。「何これ! ちょー面白そう!」ってところに友達がおすすめしてきたのがきっかけなんです。おまけに、そいつがアニメイト行くのめっちゃ好きだったんですよ(笑)。当時の俺にとっては、アニメイトに行くこと=アダルトコーナーに行くくらいのことで。 

ビートまりお:
 あ~わかる! 中学1年生でオタクショップはどきどきするよねえ。ちょっとエッチだし(笑)。 

チバニャン:
 めっちゃどきどきしました! お店の中に大人しかいないし(笑)。自動ドアを開けるのも恥ずかしくて、裏の非常口から入りました(笑)。

ビートまりお:
 かわいい~!(笑) いいなあ~。

チバニャン:
 まろんくんと同じで、初めて買ったゲームは『紅魔郷』なんですけど、そのあとゲーム以上に音楽にハマっちゃったんですよ。それでさらに東方Projectに興味を持ち始めたんですよね。で、ニコニコに「東方」ってカテゴリがあったじゃないですか。そこで「Bad Apple!!」のMVを観たり、いろんなアレンジを聴いたりしてて――だからこうやって、ビートまりおさんとお話させていただけるなんて、ほんとすごいことなんですよね。

 札幌の中学生だから、東京にはなかなか行けなくて。札幌って五大都市のひとつのわりに、意外とアニメやゲーム系のカルチャーが発展してないんですよ。同人イベントもほとんどないし。だから、仕方なく動画で我慢してました。 

――どうやらチバニャンさんの「『風神録』からの『機動装甲ダイオン』」の話が面白い、とうかがったのですが。 

チバニャン:
 えー! なんでその話知ってるんですか!?

――編集部の方が、インスタライブで話してらっしゃるのを聞いていたとのことで、「東方ユーザーにウケがいい話」だと。

チバニャン:
 『風神録』の1面で流れる「人恋し神様」ってあるじゃないですか。あの曲、スーファミのシューティングゲームらしい“THE”な始まり方を感じて。それが1992年にビック東海から出た『機動装甲ダイオン』【※】っていうシューティングゲームの音楽と近いものがあるんですよ。16分音符のタカタカタカタカ……って感じから始まって。アルペジオがすごく似てる!

機動装甲ダイオン(画像:Amazon.jpより)

※ 機動装甲ダイオン
1992年12月14日にビック東海から発売されたスーパーファミコン用のオリジナルロボット縦スクロールシューティングゲーム。「人恋し神様」との共通点が気になった方は、是非「機動装甲ダイオン」をYoutubeなどで検索して、一面の曲を聞いてみてほしい。

 MusicRoomを調べてみたらZUNさんも「人恋し神様」は「THEシューティングみたいな感じで作りました」と言っていて。そこで「シューティングゲームにはこういう音のテンポやメロディにルーツがあるんだな」と感動したんですよね。ゲームって偉大だなと思いました。

「人恋し神様 ~Romantic Fall」

 

ビートまりお:
 チバニャンさん、『風神録』のオープニングについて語ってる動画上げてましたよね? それ観てめちゃくちゃ好印象持ちましたもん。「ガチのオタクじゃん! しかも原作大好きな人!」って(笑)。 

チバニャン:
 「僕の好きな東方楽曲ベスト3」発表させてくださいよ!

 ビートまりお:
 お、いいね! じゃあ第3位! 

チバニャン:
 ちょっと待ってくださいね……。

ビートまりお:
 自分から「言わせてくれ」って言ったのに(笑)。

チバニャン:
 いや、しっかり選びたいなって! んー……でもやっぱ、「魔法少女達の百年祭」かな。

「魔法少女達の百年祭」

 

――『紅魔郷』のEXステージに流れるBGMですね。

チバニャン:
 第2位は……ベタなところいっちゃいますけど、やっぱ「妖々跋扈」のPhantasmのほう。第1位はやっぱり、「千年幻想郷」かな。メインの裏でかかってるアルペジオがめっちゃすげえ!って思うんすよ。タカタカタカタカタカタカタカタカ~……って! そこでアルペジオは素晴らしい!と思ったんです。

妖々跋扈 ~ Who done it!」

千年幻想郷 ~ History of the Moon」

 

ビートまりお:
 強い意志を持ったアルペジオが裏で鳴るんだよね。

チバニャン:
 アルペジオってだいたいメインパートを引き立てる役割なのに、ZUNさんの作るアレンジのアルペジオは全面的に前に出てきますよね。「ヴォヤージュ1970」とかもそうですけど、ああいう曲もすげえな!って思いますね。 

まろん:
 あ、「永夜返し」の曲だ! やったなあ~! 弾幕の思い出が蘇ります。

チバニャン:
 ……今回これだけは言っておきたいなということがあって。僕、東方好きとしてすごく致命的なことがあるんですよ。

――というと?

チバニャン:
 シューティングゲームめっちゃ下手なんです(笑)。 

まろん:
 あははは!

ビートまりお:
 そうなの!?(笑)

チバニャン:
 まじで下手なんです! でもクリアしないと新しい音楽が聴けないじゃないですか。なのにクリアできないんですよ!! FPSはすげえ得意なんですけど、シューティングゲームだけはどこ見ていいかわかんなくて集中できなくて、どうしてもだめで。いろんな方法を使ってなんとか音楽を聴いて……。

――(笑)。中学生のチバニャンさんはZUNさんの音楽のセンスに取り憑かれていったと。

チバニャン:
 そうっすね。入口は原作だったけど、どんどん音楽にのめりこんでいきました。「すごい曲の作り方するなあ! どうやって作るんだろう!?」という興味が僕の音楽の原点なんですよ。 

ビートまりお:
 もともと音楽はやってたの?

チバニャン:
 おばあちゃんの家にアップライトピアノがあって、おばあちゃんがめっちゃピアノ弾けたんですよね。ちっちゃいころの俺は楽譜がぐちゃぐちゃであればあるほど難しいと思ってたから、おばあちゃんに「このぐちゃぐちゃの楽譜弾いて~!」って頼んでテンション上がるっていう(笑)。おばあちゃんにピアノを教えてもらって、ちょろっと弾ける程度でした。

 それで東方の音楽に興味を持って――俺、最初ZUNさんはストリングスの音も全部一人ひとりプロの人を呼んで、100人くらいで演奏してもらってるんだと思ってたんですよ(笑)。

一同:
 (笑)。

チバニャン:
 そしたらZUNさんが「パソコン1台で作ってます」って言っていて! 「え!これ全部ひとりでできるの!?」ってすごく感動したんですよ。同じことをしたいと思ったんです。それが今につながってるので、まじで東方は原点なんですよね。

 

前編では3人の馴れ初め、そしてチバニャンさんと東方の出会いや音楽の原点について伺いました。次回の中編は明日更新。はたしてチバニャンさんは、東方アレンジの扉を開くのか……!? お楽しみに。

 

「25時間東方ステーション ~ 東の国の眠らないテレビ」
音楽バラエティコーナー「抹JAM」(8/23(日)午前1時〜)にチバニャンさん、まろんさん出演

トラックメイカー・チバニャン×ビートまりお×IOSYSまろん鼎談――沼は「仲間の存在」と「音楽の凄まじさ」 おわり

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