「これで御札の貼り換えは完了です。当分の間は付喪神どもも悪さはできないでしょう」
「ありがとうございます巫女様。やはり御札は、定期的に交換すべきですかね?」
「うーん、明確な使用期限はないですけど、さすがに何十年も同じままじゃ破損したり掠れたりで効果が弱まることもあります」
「やっぱりそうですか。甥が生まれた頃に貼ったやつだから、かれこれ三〇年間は換えてなかったんですが、今後は十年おきくらいに交換お願いしますね」
「効果が弱まってきたと思ったらでいいですよ。それじゃあ」
巫女は振り向いて小さく微笑むと、ふわりと宙に浮いて飛び去った。
近頃、男の店では夜になると物音がひどく、頻繁に店の皿を割られていた。ただ事ではないと感じた男は博麗の巫女に相談し、原因はよその付喪神が店を通り道にしていたこと、その対策として今日御札を新しくしてもらった。
店の備品を壊されていたのだから、それの対策が叶ったのはうれしい。だが男には喜んでいる暇などない、もう間もなく開店の時刻なのだ。
それに、今日は開店準備から甥が手伝いに来てくれるはずになっているのだが、その姿も見えない。
待っていてもしょうがないので、男が店の奥へ暖簾を取りに行っていると、間口の扉ががらぐらと開いた。
「あれ、今日は空いてるんだ。誰か来てたの、おじさん?」
「遅かったじゃないか。さっきまで巫女様に来てもらってたのさ、そこの御札を交換してもらいにね」
「博麗の巫女様に? 通りで、扉叩こうと思ったら開いてたから」
男が、呟きながら暖簾をかける。
両者ともに、慣れた手つきで開店準備を進めた。
「しかしまあ、巫女様はいつ見ても美しいな」
「おじさんその歳でそれ言う?」
「いくつになっても美しいものは美しいと言うのが男だろう。けど、巫女様って三〇年前からこれっぽっちもお姿が変わってないんだ。お前が生まれたころ、阿礼乙女が生まれた何年後かにはあのお姿だったな」
「『博麗の巫女』だからでしょ、きっとそういうものなんだよ」
「狐火とか牛の首とか、あの紅い霧の時だって、巫女様はずっとあのお姿だ。阿礼乙女も、寺の尼さんだって。言われてみれば変わってないだろう?」
「だから、そういうものなんだよ、きっと。それに、おじさんだってそのしわがれた髭面、ずっと変わってないじゃん」
「この歳にもなれば、十や廿でそう変わるものでもないさ。精々髪が白くなるくらいだ」
「だが、おまえさんは……」
鍋を混ぜる手を止めて、男は尋ねた。
「齢三〇を数えているというのに、なぜ未だ寺子屋に通うんだ?」
少年は、男を見上げてにっこりと笑いながら言った。
「なぜって、僕はまだ童だよ?」