「言葉を尽くさず物語を語るとは――」 同人ゲームレビュー『ヨイヤミドリーマー』/以絵会友・tripper_room制作
同人ゲームレビュー『ヨイヤミドリーマー』
「はじめに」の前に
今回、東方二次創作ゲーム「ヨイヤミドリーマー」のレビューを執筆させていただきます、人形使いです。
私はさまざまな東方二次創作作品の感想を、ブログ「A Day in The Life」で書いています。東方我楽多叢誌でレビューを書かせていただくのは、「魔界の人」に続き2回目。
今回の記事も楽しんでいただければ幸いです。
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同人誌レビュー『魔界の人』
はじめに
本作は以絵会友さん、tripper_roomさん制作の東方二次創作ゲームで、珍しくルーミアが主役の作品。また、ゲームシステムも画面固定型アクションゲームという、今ではあまり見ないものです。
いきなり本作における最大の魅力を言ってしまいましょう。それはずばり、”前半と後半で大きく様相を変えるストーリー展開”です。
本作は一見コミカルでポップな雰囲気の中に、重厚かつ意外な展開を迎えるストーリーがあります。明るく楽しい前半と、その明るさ楽しさの裏にあるものが明かされていく後半の落差こそが、本作最大の魅力だと言えるでしょう。
そして、そのストーリーの落差という魅力を支えているのが、
「文字を使わない会話デモ」
「キャラを魅力的に表現したドット絵」
「ストーリー進行に合わせて雰囲気が変わっていくBGM」
の3本柱なのです。
「ヨイヤミドリーマー」とはいかなるゲームか
まずは概要やストーリーを紹介していきましょう。
本作は前述の通り、ルーミアを主人公とした画面固定型ACT。物語はある春先の日に、ルーミアが眠ったままになってしまうという小さな事件から始まります。舞台はルーミアの夢の中の世界。かわいらしいドット絵と六合ダイスケ氏の柔らかいタッチのイラストで描かれる夢の世界は、明るく楽しい雰囲気となっています。
このように本作はタイトル画面やユーザーインターフェースのデザイン、フォント、キャラやアイテムのデザインなどなど、徹底して「明るく、楽しく、かわいい」イメージで統一されています。
前半にあたるワールド4までは明るく楽しい雰囲気の中、ルーミアは夢の世界を旅していきます。しかし、後半に入るワールド5からその雰囲気は徐々に変わっていきます。そして最後のワールド7では……。
この前半と後半のギャップを際立たせるためにうまく機能しているのが、本作の難易度です。
本作は難易度イージーに相当する「うたたねモード」でもかなり手応えのあるゲームで、ワールド3~4がひとつの壁となっています。コンティニュー回数も無限ではないので、ゲームに慣れるまでは、ワールド1~4を繰り返しプレイすることになるでしょう。
そのため、本作のプレイヤーにはいつの間にか「このゲームは明るく楽しいものなんだ」というイメージが刷り込まれているのです。その状態で突入する後半ステージのギャップには、さぞ驚かされることでしょう。これから本作をプレイするという方は、ぜひともこれ以上のネタバレなしでプレイしていただきたいと思います。
3本柱の1つ目『文字を一切使わない雄弁なる会話デモ』
東方原作ゲームもそうですが、ゲームにはボス戦前やステージ間に会話デモがあります。こうした会話デモはストーリーやキャラクターを深堀りし、またシンプルにキャラどうしの掛け合いを楽しめる工夫が施されています。
本作にもその会話デモはあるのですが、そこにはなんと文字がありません。
会話デモは、キャラ同士の会話をとてもかわいらしいドット絵や記号の入った吹き出しのみで表現しているのです。
あえて文字を排したこのスタイルは、短いステージをテンポよく進めていくプレイスタイルととても相性が良いです。長い会話デモによって、ゲームの流れがいったん途切れてテンポが失われることがありません。
ぴょこぴょことよく動くドット絵と吹き出しで表現される会話劇は、まるで幼児向けの絵本のような雰囲気。しかし後半では、前半とは大きく落差のあるストーリーが展開されるため、その衝撃度がより強いのです。もし本作が一般的な立ち絵+テキストウィンドウといったような形式だったら、ここまでのギャップは生じなかったでしょう。
このように文字を用いない会話デモは、「前半と後半で大きく様相を変えるストーリー展開」に大きく寄与しているのです。
また、この「文字を用いない会話デモ」と「ルーミアが主役である」という点には強い結びつきがあります。
ルーミアは数ある東方キャラの中でも幼いイメージのあるキャラクター。そんなルーミアが主役だからこそ、長々とセリフをしゃべらせるのではなく、ドットキャラのアクションと吹き出しで端的に感情や情緒を表現するスタイルは、キャラクターの幼さやかわいさがより引き出されています。
この表現技法は次に話す2つ目の柱である”ドット絵”にも繋がる話ですが、後半のストーリー展開で効果的に用いられており、キャラの心情やストーリー展開がしっかり伝わってきます。文字での会話が一切ないというのが信じられないほどです。
3本柱の2つ目『それぞれのキャラクターを魅力的に表現した緻密なドット絵』
魅力的なゲームの判定基準はひとそれぞれ。私はそのひとつに「キャラクターを動かしているだけで楽しい」があると考えています。
本作は主人公であるルーミアのドット絵によるアクションのひとつひとつが非常にかわいらしく、まさに「ルーミアを動かしているだけで楽しいゲーム」となっています。
画面固定型アクションゲームというシンプルなゲームである反面、ルーミアのアクションは非常に豊富。ジャンプや空中ダッシュといった基本的なアクションのほか、敵弾をすり抜けるでんぐり返し、壁へのしがみつき、さらには鉄山靠といったたくさんのアクションが楽しめます。
単にアクションが豊富だというだけでなく、動きがいちいちかわいい。制作者の「ルーミアのかわいさをこれでもかと表現したい!」という情熱が画面からひしひしと感じられるドット絵は必見です。
もちろん、すごいのはルーミアのドット絵だけではありません。各ワールドの最後にボスキャラとして待ち構えるおなじみの東方キャラや、雑魚キャラのウサギや妖精にいたるまで、本作の登場キャラのドット絵はどれも魅力的。
文字が一切ないにも関わらず、キャラの個性や心情が伝わってくる点からも、本作のドット絵がいかに優れているか想像に難くないでしょう。
3本柱の3つ目『ストーリー進行に伴って雰囲気が変わっていくBGM』
本作は目だけではなく耳をも楽しませてくれる、すなわちBGM面においても非常に優れた作品です。
本作のBGMは基本的にすべて東方原曲のアレンジです。その中でも東方紅魔郷ステージ1BGM「ほおずきみたいに赤い魂」、ルーミアのテーマ「妖魔夜行」はさまざまなアレンジが収録されています。この2曲を原曲としたBGMの総数はなんと10曲以上! 2曲の原曲からこれだけ豊富なアレンジが生まれるというのは単純にすごいですし、同じ曲から取ったフレーズも曲調やアレンジが異なるだけでこんなに違って聞こえるのか!という驚きもまた味わえます。
本作のボス戦におけるBGMは、それぞれのキャラの道中曲やボス曲を複数取りまとめたアレンジがベースとなっています。例えば、1面ボスのvs霊夢戦のBGM「躍る陰陽玉/Red×White」は、旧作『東方夢時空』の「東方妖恋談」と『東方花映塚』の「春色小径 〜 Colorful Path」のアレンジ。2面ボスのvsアリス戦のBGM「人形たちの迷宮 ~ Miniature Garden」は旧作『東方怪綺談』の「プラスチックマインド」と『東方妖々夢』の「ブクレシュティの人形師」のアレンジです。
中には4曲もの東方原曲を混ぜ合わせたアレンジもありますが、それでいて破綻していないのがすごいところ。
そして本作のBGMにおけるもっとも魅力的なポイントは、「前半と後半で大きく様相を変えるストーリー展開」を強力に牽引している点です。
前半のBGMは総じて明るくポップなイメージ。文字のない会話デモやかわいらしいドット絵と相まって、「楽」「喜」のイメージを前面に強く押し出しています。
しかし後半に進むにつれて、BGMもまた少しずつ変化していきます。同じ原曲、同じフレーズを使っていながら、後半のBGMはこれまでとは真逆の「悲」「哀」のイメージ。これによって私たちプレイヤーは、より深くゲームの世界へ没入できるのです。
このように本作は、「文字のない会話デモ」「魅力的なドット絵」「変化していくBGM」の3本の柱を立てた「あえて言葉を尽くさないことで物語を語っている作品」だと言えるのです。
終わりに
『ヨイヤミドリーマー』は、画面固定型ACTというシンプルかつオールドスクールなスタイルをとった作品です。しかし、そのシンプルさの中に「文字を使わない会話デモ」「キャラを魅力的に表現したドット絵」「ストーリー進行に合わせて雰囲気が変わっていくBGM」という3つの柱に支えられた、重厚なストーリーを持った傑作であると言えるでしょう。
制作者の「ルーミアが大好きだ!」というこだわりと熱意が随所に現れた作品なので、「東方キャラの中でも特にルーミアが好き!」という人にはぜひともプレイしていただきたいと思います。
また、プレイしやすい環境にあることもアピールしておきたいところ。
そもそも同人ソフトは基本的にPC専用なのでパソコンがないとプレイできませんし、一般のゲームソフトとは異なって入手経路も限られます。東方原作ゲームも大部分はsteamには移植されているものの、やはりパソコンがないとプレイできません。
しかし本作はwin専用同人ソフトとして頒布された後にPS4やニンテンドースイッチといったコンシューマーにも移植されています。つまり、パソコンを持っていない、購入が難しい小中学生といった若い層にも手に取りやすいのです。
「東方というジャンルを知ったけれどパソコンを持っていないのでゲームをプレイしたことがない」という人に強くおすすめしたい、ゲームとしての東方に触れるためのきっかけとしてぴったりのゲームと言えるでしょう。
この作品は東方という作品やキャラクターに対する「好き!」という思いがあふれています。楽しく面白いゲームであると同時に、「好き!」がこれほどのものを作れるのだということを改めて教えてくれる作品です。
この作品に触れてみて、自分も同じように何らかの形で「好き!」を表現しようという行動のきっかけになれば幸いです。
作品情報
作品名:
ヨイヤミドリーマーサークル名:
以絵会友・tripper_room制作Twitter:
https://x.com/yoidori_rumia
URL:
https://rumia.hungry.jp/yoidori/
ヨイヤミドリーマー ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)
ヨイヤミドリーマー (playstation.com)