東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「東方を取り巻く世界が、すっごく楽しそうに見えた」東方アレンジボーカルを始めた理由

東方女子オタク会議 ~ランコ(豚乙女)、紫咲ほたる(EastNewSound)、咲子(ワタシキサマ、少女理論観測所)~【前編】

 ライブやコミケなど、関連イベントの現場では、徐々に女性ファンも増えてきている東方界隈。中には「東方好きの女子小学生とその親」という、少し前では考えられない属性の来場者も目撃されています。

 一体東方の何が女性ファンを惹きつけているのか。今回は東方アレンジサークルのボーカルとして活躍する、「豚乙女」のランコさん、「EastNewSound」の紫咲ほたるさん、「少女理論観測所」「ワタシキサマ」の咲子さんが登場。日頃から親交のある彼女らのトークは爆笑が絶えず、黒歴史の暴露も挟みながら、オタクの目覚めやカップリング観、東方愛やボーカル活動の楽しさにいたるまで、余すことなく語っていただきました。

 

「大学のたまり場で、東方をプロジェクターに映してプレイしていた」

――まずは自己紹介をお願いします。また、ぜひ東方との出会いについても教えてください。

ほたる:
 EastNewSoundの紫咲ほたるです。私の兄がコミケに行くタイプのオタクで、その影響で私もコミケデビューしました。あるとき兄が風神録を買ってきて、一緒にやり始めたのが東方との出会いです。同じ頃からニコニコ動画も見ていたので、二次創作も含めてどっぷり東方の世界に浸かっていきました。

――ボーカル活動を始めたのはどんな経緯だったんでしょうか?

ほたる:
 学生の頃ライブバーでバイトをしていたのですが、そこでたまたまEastNewSound特命係長のくまりすさんに出会って、誘ってもらって。それまでも趣味で歌ってみたとかはしていましたが、今に至るきっかけはそのくまりすさんとの出会いでしたね。
 最初は『Split Theory』というアルバムにゲスト的に参加させていただいて、その次のアルバムからメンバーとして活動しています。

ランコ:
 豚乙女のボーカルのランコです。父も母もオタクで、漫画がたくさんある家で育ちました。特に母親が腐女子だったので、同人誌なんかも身近な存在で。今、姉も一緒にサークル活動しているんですけど、姉がゲームをするのを小さいころから横で見ていたのを覚えています。
 東方に出会ったきっかけはニコニコ動画ですね。ちょうどニコ動が全盛期だった頃に見ていて、当時東方関係の動画は常にランキングにあったので、そこからです。あとは大学でバンドサークルに入ってたんですけど、先輩たちがわりと東方好きで、たまり場の大きい壁にプロジェクターで映してプレイしたり。

――それはなかなか貴重な環境ですね…!音楽系のサークルで、東方を知っている所はあまりないと思います。

ランコ:
 もちろん陽キャもいたと思うんですど、確かにオタクが多いサークルではあったんですよね。それで先輩が岸田教団&THE明星ロケッツのコピバンとかをやっていて、ニコ動で聞いていて好きだったのもあって。最初はそうやって音楽から入っていきました。

――ボーカル活動はどのような経緯で?

ランコ:
 もともと、東方にハマる前から歌ってみたを少しやってたんですよ。それを(同じサークルメンバーの)コンプさんに手伝ってもらったりしていて。ある時コンプさんに「東方アレンジやりたい!」と言ったら「じゃあやってみよう」となって。

――ランコさんの発案だったと?

ランコ:
 というか、そういうタイミングだったんですよね。コンプさんが「みんなで何か面白いことやりたい」と思っていて、私は東方アレンジをやりたいなと思っていた。そこで、東方面白いよ、こういうものだよというところからみんなに話して、姉と私、コンプさん、パプリカさんの4人でやろっか、とまとまっていって。

――ありがとうございます。最後に、咲子さんお願いします。

咲子:
 少女理論観測所サポート、ワタシキサマボーカルの咲子です。もともと子供の頃からアニメとか漫画はすごく好きだったんですけど、最初からオタクとして楽しんでいたわけではなく…。ガッツリこっち(オタク)の方に踏み入れたのはたぶん、小学校の頃に友達が持ってきたアニメージュですね(笑)。

一同:
 ああ~~~~~~~!

ランコ:
 アニメージュはダメだろ!!

咲子:
 アニメージュを回し読みして、「ええええ、なにこれええええ」となって。それまで作品は作品としてそのまま観てたんですよ。それこそシャーマンキングとかテニスの王子様が好きで。それがアニメージュを読んだことで、「ふむ、こういう作品の楽しみ方もあるんですね。なるほど。なるほどですね」みたいな(笑)。そこから“サーチエンジン”【※】があることを知り、インターネットへズブズブと…。

【※】サーチエンジン:Googleの様な検索エンジン、ではなく、かつてのホームページ文化に存在した、登録制の個人運営サイトリストのシステム。「創作系」「ポケモン系」などジャンルごとに細かく分かれ、当時のユーザーは同じジャンルでサイトを作る同志たちをそのシステム上で探していた。サーチエンジン自体も個人の手によって運営されることが多く、インターネット創作コミュニティを語るに置いて欠かせない存在の一つ。

――まっしぐらですね。東方との出会いはどこでだったんでしょうか。

咲子:
 元々ニコ動でIOSYSさんとかの動画を観ていて。最初にしっかりとプレイしたのは風神録でした。元々古事記とかの話が好きで、「諏訪大戦とかやるしかない!絶対買う!」って。ボーカル活動の方のきっかけはmixiでしたね。バンオフ(バンドオフ会)がありまして、「ボーカル一人足りないからやりませんか」という形でたまたま声かけてもらって。当時は岸田教団&THE明星ロケッツ(のコピーバンド)とかやってました。

ランコ:
 当時女性ボーカルでロックバンドの東方アレンジと言えば岸田だったもんね。

咲子:
 そうそう。そのバンオフに少女理論観測所のテラ君とかも参加していて、彼が「個人サークル始めるんです」というときにゲスト参加させてもらいました。というかずっとゲスト参加なんですけど。そこから永遠の派遣社員として、今にいたります。

 

 

思い入れも三者三様。好きな東方楽曲をピックアップ

――みなさんいろんな曲を歌われてきたと思うんですが、東方でお気に入りの曲を聞いていきたいと思います。まず原曲からいきましょうか。

ほたる:
 えー! 選ぶの難しいなあ……原曲だったら「好きなキャラの曲だから」とかいろんな基準があるし……。

ランコ:
 そうだなあ……毎年、東方の人気投票があるじゃないですか。アレで精査してるんですけど、私は毎年セプテット(「亡き王女の為のセプテット」)が1位ですね。

ほたる:
 すごい悩む……「神々が恋した幻想郷」と、あとは通学のときにずっと聴いていた「ヴォヤージュ1969」「ヴォヤージュ1970」「ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express」が好きです。(その3曲の原曲アレンジは)まだ歌ったことがないんですけどね。 

咲子:
 原曲だったら、やっぱり一番やりこんだのが風神録なので、「ネイティブフェイス」はテンション上がりますね。

ランコ:
 風神録は曲が良い。

咲子ほたる
 ほんとに!!!(完全一致)

ランコ:
 「芥川龍之介の河童」も好きだった。

咲子:
 あー! 好き!

ほたる:
 ……! ……!(「わかる」と言うが声になっていない)

ランコ:
 ミュートになってるよ!

一同:
 (爆笑)

――クソデカボイスを通り過ぎて、音が抜けていきましたね(笑)。

ほたる:
 わかる……わかるの……(泣きそう)

咲子:
 ゲームやりこんだ分たくさん聴いてるし、思い出補正もあるよね。

ランコ:
 みんなそうだよね、多分。難しくて何度もプレイするから、聴いてるうちに好きになってる。

――ご自身が担当された曲だといかがでしょうか?

咲子:
 単純にオタクとしてテンション上がったのは、COOL&CREATEさんのコンピに参加させていただいたとき。「ああ私これ、公式っぽく歌ってるんだな!」って(笑)。曲だと、「ナイト・オブ・ナイツ」は頑張ったなあ。

ランコ:
 私も「Bad Apple!! feat.nomico」に参加したときは、すっごくテンション上がった。「動画で観てた曲を歌ってるー!」って。

ほたる:
 私は「You’re the love of my life…」という曲を歌っているのですが、作ってもらったPV、アレンジ、原曲補正、書いてもらった歌詞補正がめちゃめちゃ入っていて。しかも歌詞が針妙丸と正邪のカプっぽい内容になっていて、自分の中だと印象深いですね。真夏のレコーディングで、熱が入りすぎて脱水気味になったのも良い思い出です。

ランコ:
 あぶな!

――いろんな意味で印象深かったんですね。

ランコ:
 自分の曲で好きなのは、妹紅のアレンジの「うたかた」。歌詞をうまくかけた手ごたえもあってもともと好きではあったんですけど、ありがたいことになぜかこの曲が中国でめちゃめちゃ人気なんですよ。去年上海のライブでやったら、始まった瞬間会場中から「スウッ…」って息を吸う音が聞こえるぐらいの反応で。そんな風に反応をもらえてうれしいっていう補正もあって、すごく好きな曲になりました。

咲子:
 私はさっき言ったコンピと重なっちゃいますけど、やっぱり自分が動画でよく観ていた曲に参加させてもらったときはうれしかったですね。「ナイト・オブ・ナイツ」とか、ちるパ(「チルノのパーフェクトさんすう教室」)とか。このあたりは憧れの人たちとご一緒できて嬉しかったシリーズです。
 自分を出せた、という嬉しさで言うと、少女理論観測所の「Last Donation」ですね。歌っていて気持ち良いから好きなのと、自分が好きなように歌って、それに対してのお客さんの反応も良くて。

 

東方のアレンジ曲を歌うということ

――曲の話はやっぱり盛り上がりますね。もともと好きだった作品のアレンジ曲を歌うのって、どういう楽しさがあるんでしょうか?

ほたる:
 私は小学生のころミュージカルをやっていて、演技とか、自分以外の何かに感情移入をするとか、そういうことに馴染みがあったんですよね。趣味のひとつにコスプレがあるのですが、私にとって歌に近いところがあるんだろうな。ある種の同一性というか、「同じになりたい」みたいな気持ちがあって、その手段としても歌があるのかなあと思っています。

 もちろん作品を見て純粋に楽しむ気持ちもありますけど、同時に、この作品の感情を一回自分に入れて咀嚼したい。自分というフィルターを通して、「自分の解釈はこうです!」というのを形にしたい気持ちがあります。

ランコ:
 私は絵が描けない代わりに歌が歌えたから、東方を好きな気持ちを歌詞や歌にしようっていう動機でした。……でもとにかく、当時すっごく楽しそうに見えたんですよ、東方を取り巻く世界が。

ほたる:
 わかるわかる。歌ってみた動画見まくったり、カラオケで歌ったりした。

ランコ:
 「シアワセうさぎ」とか超歌った。

ほたる:
 歌ったー! お兄ちゃんと二人でビートまりお&あまねごっこやってた!

ランコ:
 真似するとちょっと似てくるんだよね!

咲子:
 最近やっとまりおさんと飲みの場でご一緒させてもらう機会があって、なんか「あ、ビートまりおだ」って思っちゃう(笑)。

ランコ:
 人間を超えて1つのコンテンツになってるからね。

咲子:
 キャラクターをフルネームで呼ぶのと同じ感じ。

ほたる:
 とっさに「さん」がつけられなくなって、危ないと思ってる。

咲子:
 ボーカルの話なんですけど、逆に私は二人とは全然スタンスが違うと思うんですよね。メインでやってる少女理論観測所はあくまでテラ君の個人サークルで、私はゲストで呼んでいただいているという形なんです。なので、「テラくんはこうやって噛み砕いているんだろうな」とか、「こういう作詞意図があるんだろうな」と想像しながら歌う。ボーカロイドじゃないですけど、自分の感情はあまり乗せないようにしているんですよね。変に咀嚼して自分の意思が入ることで、曲としての方向性がバラバラになっちゃったら美しくないなって。
 もちろん歌詞の意味を聞いたりはしますけど、自分の意思や思い入れは基本的にあまり乗せない。むしろ自分の色をつけない歌い方を意識しています。だから曲によって声や歌い方も変えてます。

――曲そのものが持つベクトルにうまく乗っかるイメージですね。

咲子:
 そうですね。ただ「ワタシキサマ」というサークルでも活動していて、そこに関しては歌詞にめっちゃ文句つけたりします(笑)。「この流れでこれはおかしくないですか」とか。解釈違いに厳しい(笑)。

――ランコさんやほたるさんも、渡された歌詞を見て、「解釈違いだな」と思うことってあるんでしょうか?

ランコ:
 私はもうないですね。コンプさんも私に歌わせることを想定して歌詞を書いているので、私が歌って不自然なことはそもそも書いていないんだと思います。

ほたる:
 あまり無いですが、わからない時は作詞家さんに確認しています。もし解釈違いがあっても、作詞家さんの解釈を受け取った上で、それをどう自分で咀嚼するか、という作業が面白いんですよ。同じ人間ではないので着眼点も違いますし、その違いを味わうのが私は楽しいですね。

 

前編はここまで。中編では東方を飛び出し、3人のオタクよもやま話に花が咲きます。

「東方を取り巻く世界が、すっごく楽しそうに見えた」東方アレンジボーカルを始めた理由 おわり

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