東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2023/12/04

東方Projectが神社とコラボ!?霊烏路空に出会える場所、五方山熊野神社『熊野祭』現地レポート(前編)

東方Projectが神社とコラボ!? 霊烏路空に出会える場所、五方山熊野神社『熊野祭』現地レポート(前編)

 初めまして、もしくはお久しぶりです。普段は聖地巡礼を主な活動にしている東葉旅人ひがしばたびとです。

 先日行われた五方山熊野神社と東方Projectのコラボレーション企画は皆さんの記憶に新しいと思われます。

 過去にも聖地巡礼記事で取り上げた五方山熊野神社【※】ですが、東方我楽多叢誌によるインタビューに同席させてもらったということもあり、あらためて関係する東方ネタをより詳しく紹介しながらコラボ企画を振り返っていきたいと思います。

【※】『地霊殿のステンドグラスのマークには元ネタがあるって知ってた?来年のイベントに合わせて、関東“東方聖地”を歩く。――東葉旅人の聖地巡礼手引き』2020年12月23日掲載

文・聞き手/東葉旅人
写真/るぅく
編集/土露団子

 

地霊殿のステンドグラスと五方山熊野神社

 東京都葛飾区で最も古い神社の一つである五方山熊野神社。そんな由緒ある神社が主体となり、東方Projectとコラボするようになったきっかけは、上の画像にも挙げている五方山熊野神社の御神紋です。

『東方地霊殿』4面の舞台である地霊殿のステンドグラスが、正五角形に囲まれた八咫烏の御神紋に似ていることで東方ファンが多く訪れるようになり、コラボ企画が始動されました。

 五方山熊野神社の宮司である千島俊司氏によると、数年前から御神紋の写真を撮っている参拝者を見かけるようになり、ある参拝者に尋ねたことで東方との関連性に気付いたとのことです。その時に原作のゲーム画面も見せてもらったことで合点がいき、今回の東方コラボにつながっていきます。

 あらゆる困難が科学で解決するこの令和の時代においても、その名を轟かせている陰陽師の安倍晴明公。そんな『東方妖々夢』で橙が使用するスペルカードのモチーフにもなっている陰陽師によって、西暦1000年頃に熊野大神が勧請され、五方山熊野神社は創祀されました。このあたりが御神紋の意匠に関わってきます。

 安倍晴明公が活躍していた平安時代は熊野信仰が盛んで、花山法皇かざんほうおう【※】も那智の滝で一千日の修行をしたと伝わっています。その際に邪魔をする天狗がいましたが、同行した安倍晴明公が封じ込め、修行は無事に終わりました。これにより法皇の信頼を得て、安倍晴明公は陰陽師として名声を極めました。那智の滝は、神武東征と八咫烏の伝承で有名な熊野那智大社から少し歩いた場所にあります。

【※】花山法皇かざんほうおう[968~1008]:第65代天皇。冷泉天皇の第一皇子。歌人としても有名で、「拾遺和歌集」「拾遺抄」「後十五番歌合」の撰者ともいわれる。

 皇室の初代である神武天皇(当時は即位前)を導いた八咫烏は、案内を終えた後に那智山で烏石からすいしに姿を変えて休んでいると伝わり、その烏石は熊野那智大社の御本殿に囲まれた位置に現存しています。また、境内にある御縣彦社みあがたひこしゃでは八咫烏が単独で祀られており、正面には三本足の姿をした八咫烏の銅像が参拝者を迎えてくれます。

 熊野那智大社を含めた熊野三山は全国の熊野神社の総本社であり、八咫烏伝承の本場とも表現できます。五方山熊野神社の勧請者は、他にもいくつかの逸話を彼の地に残しており、熊野と深い関係があります。それを反映するかのように、五方山熊野神社の拝殿内部は、八咫烏や安倍晴明公に関連したもので彩られています。

 話を御神紋に戻します。五方山熊野神社の境内地は正五角形という珍しい形状ですが、これは安倍晴明公が陰陽五行説に基づいて結界を張り巡らせ、付近一帯を悩ませてきた水害から守るために定めました。拝殿内部や境内のそこかしこに見られる御神紋は、結界を張った創建当時の理念が反映されています。

 明治12年に造営された社殿をよく見ると、違った意匠をした八咫烏の紋が確認できます。八咫烏の意匠が2種類あったことが気になり、千島宮司に確認したところ、正五角形と八咫烏を組み合わせた御神紋が成立したのは明治時代ではないと思われるようです。時期は定かではありませんが、歴史的な尺度では比較的最近のようで、言い換えれば約千年前である創建当時の理念が現代まで受け継がれている証でもあります。

 今回のコラボ企画は、五方山熊野神社と地霊殿の双方を象徴するもので結ばれていると言えるのかもしれません。

 

 

アニメガ×ソフマップの東方コラボ商品

 2023年9月16日(土)に、秋葉原のアニメガ×ソフマップで開始されたコラボグッズの販売。店舗の一角には、画像のように特設コーナーも設けられていました。十分な量が用意されていたからか、開始日に完売したグッズはありませんでしたが、補充が追い付かなくて一時的に売り場から消えていたグッズもあったようです。

 グッズに選ばれているキャラクターは、キービジュアルにもなっている霊烏路空と、地霊殿の主とその妹である古明地姉妹デフォルメキャラでは地霊殿に住んでいる4人と自機の2人。いずれもコラボのきっかけになったステンドグラスがある建物や、そこを舞台の一つにした異変に関わっているキャラクターであり、企画の主導者である神社側がしっかり調査していることがうかがえます。今回のコラボに関係する『東方地霊殿』だけではなく、橙のスペルカードに安倍晴明ネタがあることも千島宮司は把握していて、幅広く調べていると言えます。

 とは言え、二次創作文化が盛んなことで様々な絵柄が存在していることや、「ゆっくり〇〇」と普通のキャラクターの等身の違いなど、混乱した部分はあったようです。それでも、東方の原作について尊重してくれている姿勢が伝わるからか、ネットで発信されているコラボ企画への感想でも好評なものが多いように見受けられました。

 販売期間がある程度過ぎると、特設コーナーではなく別の売り場に移っていて、最終日の10月2日(月)には画像のようになっていました。やはり神社とのコラボグッズということで、お空の御朱印帳が一番早く完売して、9月23日(日)の14時頃には古明地姉妹を含めた3種の御朱印帳の完売情報が告知されました。最終日の13時30頃には店舗のTwitter(X)公式アカウントで、御朱印帳に加えてアクリルスタンド(空・さとり・こいし)とラバーマット(空)の完売情報も出ていました。

 

五方山熊野神社×東方Project

 五方山熊野神社での東方コラボは、2023年に初開催となる熊野祭での一つの目玉として企画されました。こちらの神社は「5」に縁起があるということで、令和5年5月5日午後5時55分55秒に特別祈祷が行われています。そんな5が多数並ぶ非常に意味深い年になるため、千島宮司は以前から令和5年を契機に、熊野祭を含めた様々な取り組みを考えていたようです。その中の一つとして、東方Projectとコラボした御守りと絵馬が頒布されることになりました

 9月22日(金)から頒布が始まった3種の御守りと絵馬は、授与所の窓口でやり取りをする際に目立つ場所に陳列されていました。23日(土)14時頃には3種の御守りも絵馬も入手可能でしたが、24日(日)には全て完売したようです。秋葉原で販売されていたグッズの一部も授与所で扱っていましたが、こちらでも24日には御朱印帳が3種類とも完売しました。千島宮司によると、コラボ御朱印帳を持った参拝者が「最初のページは熊野さんで」と、御朱印を求めに来ているとのことです。神社併設の幼稚園に通う園児の保護者たちから東方を知っているという旨の発言が出たことや、卒園児が初日に訪れたりなどの反応もあったようです。

 その後、27日には絵馬の頒布が再開されていたようですが、10月に入っても御守りは品切れとなったままです。秋葉原での販売期間最終日である10月2日(月)に神社を訪れた際には、グッズも多くが完売でデフォルメキャラのミニアクリルスタンドを残すのみでした。

  以前までは、五方山熊野神社で東方に関する内容の絵馬は見当たりませんでしたが、9月22日以降にはコラボ絵馬や東方キャラが描かれた絵馬が増えています。さすがに風神録の聖地で知られている洩矢神社ほどではないですが、神社との正式なコラボ直後という影響もあり、10月時点では現在の諏訪大社四社に掛けられている絵馬以上に東方比率が高い状態です。

【※】上記写真で紹介している絵馬に描かれた東方イラストは、イベントで同人誌などを頒布しているサークル名「ナナシノ十字星団」の七篠創太氏による作品となります。

 秋葉原でグッズが先行販売され日であり、熊野祭が始まった16日の時点では見当たりませんでしたが、22日からは巫女装束を身にまとった空と古明地姉妹ののぼりが拝殿前に設置されました。元々地霊殿のステンドグラスと似た意匠の御神紋が存在しているとは言え、絵馬も含めてキャラクターのイラストが目に入ると、東方の聖地としての側面が強まった印象を受けます。

 通常の参拝では立ち入らない場所ですが、インタビューの際にお邪魔させていただいた拝殿内にも東方コラボの幟が飾られています。確認できる限りでは幟が合計4本分あり、東方の聖地巡礼目的を兼ねて参拝することに対して歓迎してくれているように見受けられます。それに甘えて無作法な振る舞いをするべきではないというのは重々承知ではありますが、筆者のような一人の東方ファンとしては非常にうれしく感じてしまいます。

 こちらの五方山熊野神社ですが、様々なものを自分たちで作り上げています。拝殿内部で羽を広げている八咫烏も神社側のお手製で、紐を引っ張ると羽ばたく仕様です。残念ながら現在は作動しなくなったそうですが、かつては賽銭箱の上で参拝者を迎えてくれました。

 熊野祭期間の日中に境内で流れていた音楽も、作詞が千島宮司、作曲が併設の幼稚園関係者によるもの。自力で様々なものを制作し神社を盛り上げようとする姿勢は、東方原作STGに似ていると言えるかもしれません。二次創作が盛んな東方というジャンルの末席にいる筆者としては、五方山熊野神社の姿勢に親近感を覚えます。

 

 (次回後編へと続く)

 

東方Projectが神社とコラボ!?霊烏路空に出会える場所、五方山熊野神社『熊野祭』現地レポート(前編) おわり