東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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コラム
2023/06/28

高村蓮生の「幻視探求帳 ~ Visionary eyes.」第一回:紅魔館に降る雨

幻想考察コラム:取り扱う内容は筆者の個人的な妄想を含む東方二次創作であり、公式の見解とは無関係です。

 初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりでしょうか。高村蓮生たかむられんじょうと申します。この度、東方我楽多叢誌さまの片隅で、コラムめいたものを連載させていただく運びとなりました。以後宜しくお願いいたします。

 普段の活動は、あおこめさま主催の「東方発表会」というイベントで東方projectに関係有りそうな無さそうな内容のスライド発表をしています。主に、幻想郷に関わるさまざまな設定について胡乱な解釈を講釈する感じですね。イベントでは豊富な種類の発表がなされており、とても楽しいので興味を持たれた方はぜひ参加してみてください。

東方我楽多叢誌で公開した東方発表会に関する記事はコチラ

ヰ/高村蓮生氏のスライドはコチラ

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第12回東方発表会より、発表で使用されたスライドを掲載

 その他の活動としては、という名前でSS(小説)を書いています。現在は殆ど書けていませんが、そのうち時間ができたらいいなと思っています。毎日が日曜日ならいいのに。

 好きなキャラクターはパチュリーさんです。巨大な本を振り回す病弱美少女、いいですよね。ということで、初めてのコラムは彼女について考えていこうと思います。

 このコラムで取り扱う内容は個人的な妄想を含む二次創作であり、公式の見解とは無関係です。数ある解釈のひとつとしてお楽しみいただければ幸いです。

 

紅魔館に降る雨

 今回は、好きなキャラクターであるパチュリーさんを取り上げましょう。まずは、基本的なところからおさらいしたいと思います。

 パチュリー・ノーレッジは、東方紅魔郷において4ボスとして、またEX中ボスとして登場するキャラクターです。知識と日陰の少女であり、能力は「火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力」、紅魔館のおまけ.txtでは一週間少女と呼ばれています。多彩な弾幕が特徴のキャラクターですね。知識の集積所ですので、本を持っていかれたりします。弾幕をパクられたりもしています。魔理沙に。持ってかないでー。

 

五行と対応するもの

 パチュリーさんは、4ボスとして登場した時点では、木火土金水の五行とその相生しか使いません。相生とは、五行の相性のひとつであり、燃焼のように木から火が生まれる「木生火」、土が固まって金属になる「土生金」などの関係があります。木&火符「フォレストブレイズ」とか土&金符「エメラルドメガリス」とかですね。

▲五行図。Wikipedia-五行思想より引用

 五行同士の関係は、相生、相克、比和、相侮、相乗があり、これらの関係性を思い浮かべるとき、基本的に正五角形、もしくは五芒星をイメージするのではないでしょうか。ここで五行を方位に当てはめると、木が東、火が南、金が西、水が北、土が中央になります。季節なら春夏秋冬土用で天空璋ですね。四聖獣だと東に青龍、西に白虎、南が朱雀で北に玄武、中央に黄龍という具合です。

 この辺のあれこれは、ゲームに出てくる属性相性でよく見るかもしれません。五行だとちょっと複雑なので、要素をひとつ減らして地水火風の四大にしたり、さらに減らして三つ巴にしたり。相手の属性を分析して適切な属性で対処するのがRPGだと大切だったりしますね。アンデッドに回復とか。バニシュデスとか。後者は相性ではないですが。

 陰陽五行は、対象の属性を分析してゲームの盤上に乗せられるなら、非常に効果を発揮する考え方です。しかし、アナライズに失敗すると、そもそも相手の属性がわからないのでゲームになりません。寧ろゲームにおいては、本当にその属性かどうかというより、その属性と見なせるかどうか、それっぽく処理できるかどうかが問題と言えるでしょう。その点で、陰陽五行思想は世の中をだいたい分析できるのでゲームを成立させやすいですね。使う側が取り扱いを間違えなければ、世の中は陰陽五行に整理されるので、データが揃ったらあとはエミュレーター上で動かせばいいだけです。

 つまり、五行だけ扱っているうちは、パチュリーさんは普通にゲームをしていると解釈できるわけです。五は人間を表す数です。五体満足とか言いますね。五感で世界に触れるのが人間です。人間相手なら五行でじゅうぶん、ということなのかもしれません。

 ところで、五つの要素を使いこなすだけでも大変なのに、さらに二つも増やせるものなのでしょうか。

 

多角形と星型

 簡単な図形から始めましょう。とりあえずぐるぐると円を描いて、その上に点を配置します。点がふたつあれば、円をふたつに分けられます。3つあれば三角形に、4つあれば四角形と対角線。

 五芒星の魔法陣はわりと馴染みがあるかと思います。晴明桔梗と呼ばれるものであり、歪んでないエルダーサインですね。正五角形の頂点を一つ飛ばしに結ぶと描けます。一般に正多角形は円に内接しますので、n芒星を描こうと思ったら正n角形を描くと良いわけですね。

 六芒星は、所謂ダビデの星ですね。火(△)と水(▽)を重ね合わせた形をしています。日本にも籠目紋というデザインで六芒星が連なった図案があります。かごめかごめ。七曜魔女のパチュリーさんですが、背負ってる魔法陣は六芒星のようです。七芒星の魔法陣とか、メーデイアさんくらいしか見たことないですね。

 その七芒星ですが、描くためには当然ですが正七角形を作図しなければいけません。正七角形の作図法は、これまでの正多角形とは次元が違います。いや、平面図ですが。

 正n角形を作図する場合、xⁿ-1=0の式に三乗根以上の解が含まれていると、定規とコンパスを用いた作図法では描くことができません。定規とコンパスで描けるというのは二次関数を解く操作に相当するということですね。そして、残念ながらx⁷-1=0の解には三重根が含まれます。まあ、折り紙でなら正七角形を折れるみたいですが。このように、正七角形とは手強いものです。魔法陣は3次元空間に展開されるので、折り紙の要領でどうにかなるかもしれませんけれど。とにかく、パチュリーさんの魔法陣が七芒星だったらいいなぁという気持ちがありました。

 ちなみに八芒星に関しては寧ろ正八角形、つまり八卦炉で皆さまおなじみかと思います。五行に加えて易の話まで始めると終わらないのでやりません。

 

七つにまつわるエトセトラ

 かなり勢いよく脱線してしまったような気がしますので、落ち着くために素数を数えましょう。2、3、5、7。というわけで7ですね。EX中ボスのパチュリーさんは五行だけでなく日月を加えた七曜少女です。そしてここでは、おそらくどうしても七曜でなければいけなかったのでしょう。一週間少女なので。

 古来より洋の東西を問わず、七は特別な数として扱われてきました。代表例は、暦法です。月(太陰)の満ち欠けが28日周期であるため、太陰暦を採用した地域では半分の14日、さらに半分の7日が基本的な単位として使われていました。6日で世界を作って1日休んで計7日だったり。世界は七を基本としてでき上がっていたわけです。

 と言っても、人類は7進数を採用したわけではありません。聖者は十字架に磔られました。フランス革命歴では一週間が10日ありますのでエイト・デイズ・ア・ウィークが可能ですね。ウィークではなくてディケイドですが。弾幕アマノジャクでも10日でした。革命暦に由来するのでしょうか。古代ローマも一週間は8日でしたし、中国の一週間に当たる単位は旬で、上旬・中旬・下旬の各10日ずつ、甲乙丙丁……と十干が割り当てられていたようです。甲は「きのえ」、乙は「きのと」で、それぞれ木(き)の兄弟(えと)であり、五行(5)×陰陽(2)=10となるわけですね。7日刻みは必然ではなく、偶然採用されていたと言えるでしょう。

 ただし、世界がもともと7で区切られていなかったとしても、7で区切られているていで扱うことは可能です。

 我々の身近なところで言えば、葬儀に見られる日数の数え方が分かりやすいでしょうか。まずは初七日、次に七×五の三十五日、そして七×七の四十九日。すべて七を基準に数えられています。厨二病をこじらせていた身としては、七つの大罪とか、七元徳とか、七鍵守護神とか、カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロスシルク……。カイ・キスクだとギルティギアですね。マイケル・ハンセンとかいるのでしょうか。なんでもないです。

 

へぇ、あんたも七っていうんだ。

 いずれにせよ。7で刻まれた世界と、特定の魔法の組み合わせは非常に相性が良いと言えます。陰陽五行で世界をだいたい分類整理してゲームを展開するように、七曜で区切るとやりやすい何かがある。

 七曜少女として現れたパチュリーさんが東方紅魔郷EXTRA STAGEでやったことと言えば弾幕ごっこですが、彼女はそれ以前に一仕事してきています。紅魔館周辺に雨を降らせて、フランドール・スカーレットが館の外に出られないようにしていますね。

 七という数はここではひとつの完結したものを表すために使われています。七は昔から一まとまりを作るために使われました。七福神はもともと七人で固定されてはいませんでしたし、虹も七色と限ったわけではありません。七人ミサキという怪談も、常に七という数を満たし続ける強制力が働いています。北斗七星もそうですね。七という数字は何かを一纏めに封印するために使われています。なぜレミリアお嬢様の曲がセプテットなのかというヒントも、もしかしたらこの辺にあるのかもしれません。しらんけど。

 というわけで、最近多方面にお出かけしている魔法少女フランドールさんですが、紅霧異変当時は七曜少女パチュリーさんによってそこそこしっかり封印されていたんですね。というか、もしかしたらフランドールを封印するためにわざわざ七という数字を使っていたという可能性もあるような気がしています。

 純粋に魔術、天文としてなら九曜まで広げられるわけですし、中国由来の暦法に合わせるなら10日刻みでいいわけです。七に拘る理由もありませんし、紅魔郷以外の作品では「魔法を使う程度の能力」となっています。まあ、パチュリーさんは面倒を嫌いそうですからね。使えるバフは使っておかないと。うんにゃ。

 

 このあたりで締めたいと思います。いささか中途半端に感じるかもしれませんが、このコラムはあくまで私の個人的な妄想を含む二次創作であり、なにかの答えを出すために行っているものではありません。その先の二次創作げんそうへは、それぞれの手で導いてくださればと思いますし、このコラムがその道標もととなるなら幸いです。

 それにほら、スライドも七枚。このくらいが実は完全だったりするんですよ。我々は十五夜完全よりも、十六夜不完全のほうが好きだったりするでしょう? 私はパチュリーさんのほうが好きですが。

 

高村蓮生の「幻視探求帳 ~ Visionary eyes.」第一回:紅魔館に降る雨 おわり