「僕は上白沢慧音に育ててもらった」慧音先生は甘えさせてくれる、一緒に悩んでくれる。東方キャラクター座談会:上白沢慧音について③
東方キャラクター座談会:上白沢慧音について―第三回
今こそ、今一度、東方のキャラクターについて熱く語りたい!! そんな想いから始まった今回の企画「東方キャラクター座談会」。
「上白沢慧音」が推しキャラの三人、石鹸屋のドラマーhellnian氏・IOSYSのトラックメイカーD.watt氏・バーチャルYoutuber魔王マグロナ氏にお集まりいただき、上白沢慧音に対するアツい感情を語っていただいています。
第一回は「東方」と「慧音」との出会い、第二回は慧音というキャラクターに抱く気持ちについて、熱いトークが繰り広げられました。
夜も更けて、お酒も回った第三回では、それぞれの創った「上白沢慧音の二次創作」について、制作当時の話を交えて語っていただきました。記事の締めには、三者それぞれの「上白沢慧音に出会ってよかったこと」をお聞きしています。最後までお楽しみください。
「慧音先生には『ままならなく』あってほしい」
――後半は、皆さんの創作についてもう少し教えてほしいなと。hellnianさんは音楽がメインですけど、一度小説も出していますよね。あの作品はどういった経緯で出そうということになったのでしょうか。
hellnian:
もともとはCoolierに投稿していたものなんです。こないだちゃんとした本を出したんですけど、慧音がお店でメイド服を着るというだけの内容で、喫茶店のお話を作ったんですね。誤字とか表現の書き直しはあったと思うんですけど、もうCoolierには残っていないんじゃないかな。
――でも、創想話に残っているなら探せばあるんじゃないですかね。探して見つかった場合は、リンクを貼ってもいいですか?
hellnian:
いいですよ(笑)
――……あ、ありました。
東方創想話 ― 慧音細腕繁盛期
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/39/1177510084
マグロナ:
え、これ覚えてる!!
一同:
(笑)
マグロナ:
そうだったんだ……すごい……これめっちゃ好きだったからめっちゃ覚えてる。いや、界隈狭いなー。
hellnian:
SSっていうジャンルは同人の中でも局所的なんですよ。逆に言うと、その文化や関わった人をめっちゃめちゃ大事にしてくれてるんですよね。俺、大した作品数書いてないですけど、書いたおかげでSS界隈の人たちが大事にしてくれたのめちゃめちゃ覚えてて。嬉しいなぁって。そのころ読んでくれてたって、めちゃくちゃ恥ずかしい話ですね。
マグロナ:
でも、読む側からしたら良質SS書きって貴重な存在なので、長く生きてたくさん書いてほしいっていう気持ちしかないから。
hellnian:
その気持ちはめちゃめちゃ分かります(笑)
――マグロナさんも慧音の同人誌やイラストを数多く描かれていますが、慧音を描くときに一番気にしていたことってありますか?
マグロナ:
慧音は、一番真面目だから、一番させられなさそうなことというか、慧音が一番しなさそうなことをさせたいというか。作品全体を通していじめたいところはあって(笑)
倫理観ブレイクをさせたい東方キャラナンバーワンではありますよね。職業も先生で寺子屋で教えていたり、母性とかもあるし、露骨にちょっと……エッチじゃないですか(小声)
ほかのキャラだとそういうところもぶっ飛んでるから気にしてないんでしょうけど、一番「キャー」となってくれそうな要素を持っている。いや、ならなそうでもあるんですけど、なってくれたら嬉しいなっていう……なので、ギャグなりガチなり倒錯させたい。「ままならなく」あってほしいって思って描いていますね。
――「ままならない」って、いいですね。
マグロナ:
一番葛藤してくれそうなのが慧音っていうのがあって。やっぱり、真面目だけど妖怪的な面もあるような、そういう内心の葛藤があると嬉しくなっちゃうので、そこを掘り下げることが多かったですね。
――慧音を描いていて、楽しい!となるところはどこでしょうか?
マグロナ:
ビジュアル楽しいですね! シルエットがすごく綺麗だし、装飾も動きをつけたときにいい動きをするんですよね。求聞史紀とかの衣装で穴あきスカートの下にフリルとか。ロングスカートがフワッとさせたときに、いい動きになるんですよ。このスカートが動くっていう構図がいい絵になるので、キャラデザが秀逸なキャラクターだなと思いますね。
マグロナ:
東方ってキャラデザが優秀で、シューティングの中でキャラが明確に分かるアイコン付けがされているんですけど、慧音のこれはいいですね。
――スカートを斜めにするだけで広がりが出たり。
マグロナ:
そうなんですよ。デザインがすごく綺麗で。あとは角にリボンっていうのがめっちゃ可愛いんですよね。萃香とかもそうですけど、角っていうゴツいアイコンに女の子らしさを持ってくるのがずるい!
「好きなキャラに対して作品を作るっていうことを、全うできればいい」
――D.wattさんにお聞きします。以前、今まで慧音についてやってこられたことの集大成として「KEINE KAMISHIRASAWA」っていうド直球タイトルのCDを制作されましたよね。あのCDを作ろうと思ったきっかけと、どんなことを考えていたのかをお聞きできればと。
D.watt:
あの作品を作ったのは2012年くらいなんですけど、その前の年に地震があって。即売会が飛んじゃって2ヶ月後になっちゃったり、日本全体が落ち込んでた時期で。で、即売会をはじめとした東方界隈も、今まで買っていた即売会の習慣も止まり、部数も出なくてお通夜ムードになっていたころ。このままでいいのかなっていう雰囲気が出ていたときで。
僕もこれから音楽家としてどうやっていくかをナーバスに考えていて、作家としてほかの仕事ができるようにしようと考えていたころでした。東方界隈で愉快に遊ばせてもらって楽しかったけど、もうちょっとがんばって仕事しないといけないなと。
自分の東方界隈での制作はおやすみして、違うことやるときに、一番最後になるCDを作ろうっていう、そういうメンタルだったんですよね。自分で〆られるCDを作りたいなと思っていたんですけど。とにかく最後は上白沢慧音の話だけして終わろうと。
――本当に集大成。
D.watt:
完全にそうですね……自分の好きなイラストレーターにジャケットを作ってもらって。
――このアルバムには慧音曲(懐かしき東方の血 ~ Old World、プレインエイジア)以外のアレンジも入っていますが、内容に関しては慧音のことしか話していないですよね。
D.watt:
これは少しややこしい立て付けがあって。この作品を作るまでって、慧音にまつわるミームとか、こういうふうに慧音を動かしたら面白いんじゃないかっていう電波ソング的、エンタメ的なメソッドで曲を書いたりして遊んでいたんです。
でもそうじゃなくて、自分が思っている上白沢慧音の二次創作SSを作ったらどうなるかと。上白沢慧音にまつわる異変をまず二次創作SSとして作って、そのサントラを作ろうと思って曲を書いたんです。当時の資料、残っているかな……。
「KEINE KAMISHIRASAWA」製作のためにまとめた“設定資料”をD.watt氏に特別にご用意いただいた。この内容が公開されるのは今回が初めて。
D.watt:
そのSSでは、上白沢慧音にハクタクの半身を与えたハクタクがいて。そのハクタクが上白沢慧音に与えた半身を返せって言ってきて、そうすると今の上白沢慧音は半分なくなってしまう。そこで、そうはさせじと妹紅が立ち向かうっていう。そういう筋書きで、妹紅が慧音の精神世界を旅しながら、慧音がいなくなることを受け入れるっていう。
そういう筋書きのラノベを……まあ、実際には書かなかったんですけど(笑)
マグロナ:
書きましょう!?
D.watt:
他人に分かってもらおうとか、エンタメ性とか、そういうのはあんまりなかったんですよね。この作品の内容は自分が分かってればいいやと。音楽としてのアウトプットが出ればいいやと思っていて。
それを自分の東方界隈への誠意として作って、それで東方の制作をおやすみしようと、当時は決めていたんです。分かる人には分かればいいと思って出したんですが、今でも作品には満足していて。好きなキャラに対して作品を作るっていうことを、全うできればいいなと。
――真の意味での同人作品だなと感じました。創作を行うという行為には概ね自分自身との向き合いが必要になると思いますし、それが二次創作である場合、その向き合いがさらに発生すると感じています。
特定のキャラクターに対して、公式では描かれていない物語を描こうとすると、他でもない自分自身がそのキャラクターをどう捉えているのかっていうのを、一から十まで考えないといけない。でも結局それがたどり着く先って、万人が納得のいく作品になるのかというと、そうとは限らない。巡り巡って自分に向けたものになる。
D.watt:
僕が東方関連の二次創作全体でやってきたことがそうだったんですけど、流れとしてミーム遊びを遊んでいて、次に自分でミームを作りたくなって。でもその流れの終盤は結構こじらせちゃっていたというか。
東方界隈に長くいると、昔の界隈はこういう感じでよかったよねーとか、界隈に対して思うことが発生してくるじゃないですか。最終的には東方がどういう場所になっていくのかをテーマに書いたアルバムもありました。ただこれは、あまりに拗らせすぎていて、誰もあまり聞いてくれなくて。
おなじ同人でも、わかりやすいものとそうでないものとがありますよね。そういう様々な思い入れがある中で、最たる物が「KEINE KAMISHIRASAWA」ですね。
慧音に出会ってよかった
――夜も更け、時間も良い感じになってきました。最後に、慧音に出会ってよかったこととか、こういう記憶が大きいなっていうのがあれば、皆さん教えていただけますか。
「慧音先生は甘えさせてくれる。一緒に悩んでくれる」
マグロナ:
慧音先生は、創作をするものとして、甘えられるキャラですね。
何をしても慧音先生は応えてくれるっていうか、変な意味で甘えさせてくれるんですよね。ほかのキャラは、一般的な解釈で「このキャラはそんなこと思わない!」とか、「このキャラはこんなことで悩まない!」とか、あるじゃないですか。他キャラの百合を書いているとき、このキャラはこんなことで迷ったりしないんじゃないかとか、自分の中で戦っていることがあったんですけど。
慧音先生は、こちらが何かで悩んでほしいと思ったら、一緒に悩んでくれるから。だから、いろんなことを作中で考えさせても違和感がない。創作の設定考えているときに、慧音先生が甘やかしてくれるようになって……今でいうバブみじゃないですけど、おかあさーん!っていうか、慧音先生を見ると安心するようになったり。当時、絵描くの辛いなーってときに、慧音先生を描いて癒されたりとか、そういうキャラクターでした。
――甘えさせてくれるっていい表現ですね。創作をするうえで同じような気持ちになるのが分かる人、たくさんいると思います。
マグロナ:
そう、代弁させやすいっていうか。都合よく使いやすいっていう意味でもあるんですけどね(笑) そういうのもあって、おかあさーんって気持ちになるんですよね! えへへ、ありがとうございました。
「慧音は一番お世話になったキャラクター」
hellnian:
慧音の記憶が御影獏との出会いしか出てこねぇ……(笑) あとで内容伏せてくれるって思っているからまんま言いますけど、御影獏と飲んだときに、あいつが揚げたミニトマトに肉巻いたやつを持って「これは慧音の◯◯に◯◯◯ていた◯◯◯◯◯◯だぜ」って言って、それを僕が食らい尽くしたところから、彼と仲良くなったという話があり……。
さっきの作品に対するアプローチの流れで、俺がこんな話をするのが、なんて申し訳ない気持ちで言えばいいんだろうって。
―― 東方はいろんな楽しみ方があるので、そういうのも含めて今回の企画ですから!
hellnian:
そうだなぁ〜。慧音、一番……お世話になったキャラクターかな……。
――hellnianさんが最後までhellnianさんで最高です。
hellnian:
おれは今更何も取り繕わないです(笑)
「僕は上白沢慧音に育ててもらった」
D.watt:
僕にとっては、東方=慧音みたいなところがあって。
自分が東方に入ってきたきっかけが慧音だったし、慧音のファン活動をしているうちに東方の人みたいになったのがあったなぁって。今でもプレインエイジアのアレンジをかけますし、僕ら、IOSYSのキャリアって東方に作ってもらったっていう部分もあって、いまだに東方の人たちといえばみたいな感じでIOSYSを覚えててもらえることも多いですし。
そこで、僕は上白沢慧音に育ててもらったので。本当の意味で“慧音先生”になっちゃいましたよね。だからやっぱり、性癖というような部分よりは、もう一段階超越してるようなキャラクターとして。ホント、ずっと推してきてよかったなって。
hellnian:
いやぁ……本当にいい話だ……その手前に出てくる俺、ただの慧音で◯◯た人じゃないですか(笑) ほんとうに俺、今日ここにいていいのかな(笑)
一同:
(笑)
――あえて冷静になれば、もう16年前にもなってしまう、とあるシューティングゲームの三面のボスキャラクター……なんですよね。
マグロナ:
東方のいいところは、2020年の今、この話をしても全然楽しめるっていう話ですよね。懐古みたいになっちゃいましたけど、これでコンテンツとして出しても全然読んでくれる人いるだろうし。新しく入ってきた人たちも、時間軸違うし周回だって違うけど、キャラ語りにはついてこれるって本当すごいですよね。
――東方って、本当にいつ触れても面白いんだなって。だからこういった企画、今後もやっていきたいですね。
hellnian:
こんなにまとめて慧音のこと話す機会ないですからね。
マグロナ:
本当に楽しかったです。
――ぼくも上白沢慧音が大好きな人間のうちのひとりだったので、皆さんのお話を聞いていて同じ気持ちになる瞬間がたくさんありました。
今後この会では、いろんな東方キャラクターに焦点を当てていろんな人をお呼びしたいと思っています。今日は皆さん本当に、ありがとうございました。
全員:
ありがとうございました〜!
「僕は上白沢慧音に育ててもらった」慧音先生は甘えさせてくれる、一緒に悩んでくれる。東方キャラクター座談会:上白沢慧音について③ おわり