東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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【連載】妖世刃弔華

著者

草薙刃

挿絵

こぞう

妖世刃弔華【第59回 共闘】

 新手の登場かと三人が身構えたところで、貨物車の端に飛び乗ってくる影がこれまたみっつ。

 にとりが肩からげたものに手を伸ばそうとしたところで、それら闖入者は見知った――できることなら二度と会いたくない顔であることに気付いた。

「なんだ、亡霊の見張りがいるかと思ったら“ご同輩”がいたのか」

 あてが外れたと小さく鼻を鳴らしながら人影がつぶやいた。

 その一方で――

「ひいいいいっ!! なんでこんなところに鬼がぁ――――もがっ!?」

「ちょっと! さっき自分で言ったことも忘れたんですか!? 敵がうじゃうじゃいるすぐ傍なんですよ!?」

 騒ぐなと言ったことすら忘れてしまったか、にとりが悲鳴を上げかけ、慌てて妖夢が抑え込むようにして掌で口と鼻を塞ぐ。

 呼吸器全部を塞ぐと窒息してしまうのだが、いくらなんでも今は細かな気遣いができる状況ではなかった。

「おや、その声はいつぞやの河童じゃないか」

 じたばたと暴れるにとりを見咎めた人物から声がかけられた。意外な相手だったのか風貌に似合わずきょとんとした表情を浮かべている。

 貨物車の中の薄暗い照明を反射して輝く赤い瞳が妖夢たちに向けられている。その持ち主は長い金色の髪の毛を持ち、額からは黄色い星の模様のある赤い角が一本突き出るように生えていた。

 動きやすそうな服を着た上半身はともかく、両手両足にはめられたかせに、片方の手が持つ盃はどこかで見たような既視感を覚えずにはいられない。ひと目見てわかる鬼っぷりであった。

「もしかして知り合いですか、にとり?」

 塞いでいた手を放して妖夢はにとりに問いかけた。

 誰も知らないが実は絶妙なタイミングだった。もうすこし放っておいたら亡霊の仲間入りを果たす――前に小町の世話が必要になっていたかもしれない。

「ひっ人違いじゃないですかぁー……?」

 酸素不足に陥りかけていたとはいえ、誤魔化そうとするにはあまりにも無理があった。

 にとりの声は誰が聞いてもわかるくらい上擦っていたし、視線も焦点が定まらないところか泳ぎまくっていた。彼女は河童であって蛙ではなかったはずなのだが、妖怪から両生類に退化しかけていた。

「あん? 鬼の身体能力ナメんじゃないよ。あの白黒の人間はどうしたんだ、今日は一緒じゃないのか?」

「白黒? 魔理沙のことですかね。やっぱり知り合いなんじゃないですか」

「うぐ……人が必死で誤魔化しているのに、なんで助けてくれないんだよぅ!」

 まったく空気を呼んでくれそうな気配のない妖夢。対するにとりの顔色はどんどん悪くなっていく。

 そう、にとりは彼女たちを知っていた。

 まず話しかけてきている鬼は星熊勇儀ほしくまゆうぎ。今さら説明するまでもなくにとりたち山に暮らす妖怪たちのトップに位置する鬼のひとりだ。

「土蜘蛛に妬み妖怪まで……!」

 勇儀相手ほどではないが、顔を歪ませ呻きを上げるにとり。

 残るふたりもまた地霊殿異変の際、にとりが地下世界で間接的に遭遇した妖怪――土蜘蛛の黒谷ヤマメと橋端姫の水橋パルスィだった。

「あー、たしか魔法使いをけしかけてきた子かな?」

 お団子頭に茶色いリボンが特徴のヤマメが、にとりを見てそう漏らした。

 病を操る能力を持つせいで敬遠というか下手をすれば蛇蝎のごとく嫌われるヤマメだが、凶悪と呼ぶに相応しい能力を無闇やたらに使うことはない。先入観を乗り越え、話をしてみれば案外気さくで明るく楽しい、誰とでも仲良くなれそうな性格をしているとわかるのだが――にとりは河を汚されるので彼女をすさまじく毛嫌いしていた。

「思い出した。代わりに差し向ける付き合いのある仲間がいるだけでも妬ましい妬ましい……」

 パルスィもまた粘っこい視線と呪詛じゅそのような言葉を向けてくる。

 彼女は個性派揃いの幻想郷の中でもどこか見慣れない様式の服装に身を包んでおり、服の裾やスカートのふちに橋のような模様が施されていた。こうした部分が嫉妬深さというか、その裏側にある自己主張の強さを窺わせている。

 妬ましいと言ってはいるが、自分だって仲間をふたり連れて、あるいは仲間に連れられこうしてやって来ているのだからお門違いだとにとりは思う。

「なんでまた地下の妖怪たちが揃いも揃って?」

 よく見れば三人とも金髪だな。地下世界で陽の光が届かないとこうなるのだろうか? 

 問いかけつつ妖夢ははそんなことを考えていた。

「そりゃこっちのセリフだよ。地上の妖怪の河童おまえがなんでこんなところに?」

「ひゅい!?」

「――あいや、たしか間欠泉センターで雇われてたって話があったな」

「ちょっとにとり、萎縮してちゃ話が進まないですよ。もう……わたしたちはかくかくしかじかで、このじょうききかんしゃ? に乗ってる亡霊たちを追ってきたんですよ」

 にとりがまるで役に立たなくなっているので、代わりに妖夢が話を進めるべく説明を行っていく。

「そんな説明で通じるわけないだろ」

「へぇ、あいつらと敵対してるのか。それは好都合だな。どうだい、ここは目的も似通ってそうだし手ェ組まないか?」

「何で通じんのさ」

 小町ががっくりと項垂れた。

「願ってもない話です、是非」

「ていうかあんたらはなんで亡霊どもとやり合おうなんて考えたんさ」

 気になったのか小町が問いかけた。

「ご覧の通り、妙なもん走らせて騒がしいったらありゃしない。直接危害加えてくるわけじゃないから紅白巫女や白黒魔法使いよりはマシかもしれないけどー」

 深刻さも感じない軽妙な口調のヤマメ。

「こんな連中がいたらのんびり酒盛りもできないからな。ちょっと前から上が騒がしくなってきたって聞いたからよ、わたしらも一暴れしてやろうと思ってたんだ。でもやつら、投げてもちぎっても潰しても死なないから、手を焼いててね」

 腕っぷし自慢の勇儀は掌に拳を打ちつけて不満げに漏らした。

「投げるのはともかく、ちぎっても潰してもって慣用句じゃないだろ絶対」

 スプラッターな光景を想像したのか小町は露骨に顔を顰めていた。魂を運ぶ役目なので損壊死体は守備範囲外なのかもしれない。

「病気も効かないし」

「嫉妬を操ろうにもそもそも感情が薄い……」

「まぁ亡霊ですからね」

 めずらしく妖夢のツッコミが冴え渡った。

「でも妖夢あんたがどうにかできるんなら助かる。今は旧地獄の盟主も動けないからさ」

「さ、さとりの旦那が……どうかしたんで……?」

 旦那ではないのだが、そこは通じるので誰も触れない。

「おう。あの館は亡霊どもに制圧されちまってて、さとりさんも動くに動けねえんだ。地下の妖怪みんな、連中とも親玉とも相性が悪いみたいでな……」

「なるほど……勇儀さんを除いて地下の妖怪は搦め手を得意としますもんね。統率の取れた軍相手だと、1体1体は弱くても数に負ける……おまけに性質も悪い」

 探り探りといった調子ではあるが、にとりは得られた情報から分析を口にしていく。

「なんだ、おまえ頭いいんだな。もっとシャキシャキ喋れよ」

「ひっ!」

 ふたたび勇儀から話を振られてにとりが硬直した。完全に腰が引けていた。

「そんなビビらなくてもいいんじゃないの? 萃香相手にも普通に接してたろ」

 居心地悪げにしているにとりを見かねた小町が話しかけた。

「いやぁ……そいつはちょっと見解の相違があるんじゃないかな……」

 にとりはいつになく弱々しい口調であるが抗議の声を上げた。

 本人としてはあれでもかなり気を遣っていた方なのだ。ところが、戦艦相手の非常事態だったからか小町からは完全にスルーされていたらしい。観測に忙しかったから仕方ないと言えば仕方ないのだが、どこか釈然としないものがあった。

「あんたは死神か。萃香を知っているってことは仲間と見ていいのか?」

 否と言えばどうなるか……問いかけには剣呑な視線が含まれていた。

「もちろん。今は世のため人のため、俗世の荒波に揉まれて頑張っているからね。今なら平和の使者でも務まりそうな気がするよ」

 さすがに胡散臭いこと極まりなかったので大部分は無視される。

「あいつはそういう奴じゃなかったと思うが、まぁだいぶ丸くなったみたいだからあんたみたいな知り合いがいても不思議じゃないか」

「ていうか昨日も一緒に戦ったばかりだよ。敵の兵器の爆発に巻き込まれてどっか行っちゃったけどね」

「ん、そうなのか。あいつなら問題ないな」

 あの鬼にしてこの鬼だ。

「そっちのは……人間にしては妙な気配をしてるわね」

 続いてパルスィが妖夢の存在をいぶかしんだ。

 素性がわからない者まで妬みはしないようだ。もしかしたら意外と芯が通っているのかもしれない。誰の役にも立たない鬱陶しい部類の芯にはなるが。

「説明すると長くなるのですが半分人間で半分幽霊です」

「なぁんだ、妖怪の類いか……人間だったら玩具にしてやるのに。そんな頼もしそうな仲間引き連れちゃって妬ましいったらありゃしない」

 素性に言及しないと思ったらまさかの仲間に触れてくるとは思わなかった。しかも二回目である。そこはべつに大事な部分ではないと思う。

「いやおたくも普通に仲間連れじゃないですか」

 にとりが言いにくい部分を妖夢は臆することなく口にした。空気の読めなさが役立った瞬間だった。

「パルスィちゃん、今は妬んでる場合じゃないよ」

「ちっ……土蜘蛛つちぐも風情がいい子ぶりやがって妬ましい」

 剣呑な目つきを浮かべて言い返そうとしたパルスィだったが、ヤマメに宥められて毒づきながらも引いてくれた。

「にとり、仲間はひとりでも多いほうが助かるでしょう? 苦手意識はわかりましたけど、せめて今だけでも捨ててください」

 妖夢はヤマメに乗っかるような形で語りかけた。

 どうやらこのふたり、図らずも共感シンパシーを覚えてあっという間に心の距離が縮まったらしい。

「ちっ……わかったよ。こっちも数は多けりゃ多いほど助かるしね」

 なんだかんだと深いところまで考えないからか、亡霊を倒そうとしている以上の目的までは訊いてこない。それなら遠慮なく力を借りることができる。にとりの脳内でそろばんが弾かれた。

「味方が増えることに異論はないけど、敵の数はわかってるのかい?」

「整列単位から見てざっくり2個中隊だったから――400くらいかな」

 専門用語を口にした瞬間、地下妖怪たちの目が点になったのですぐに言い直しておく。

「は、またずいぶんと賑やかなこって」

 勇儀が表情を歪めて凶相を作る。見ているだけでにとりは震えてきそうだった。

「幸いにして敵はくたびれている上に武装も万全じゃない。数で押し負ける可能性がないとは言わないけど、鬼にその心配は無用でしょ?」

「酒がこぼないようにしなきゃだからねぇ」

「はー、本当に鬼ってのは面倒くさい生き物だよなぁ」

「地上にドンパチやり始めたらしいから、こっちも地下で盛り上げてやろうかと思ってたところなんだよ。まぁ、あいつら戦っても倒しきれないから困ってたんだけどね」

 これまたアテが外れたと勇儀は嘆息した。

「このまま黙って乗ってちゃダメなんですか?」

「それで拠点にはたどり着けるかもしれないけど、そいつらが向こうにいる連中と合流して敵になる」

 プラス400で押し寄せる軍勢。カール自走臼砲を守るために打って出た時の波状攻撃ですら、パチュリーの援護があってなんとか切り抜けられたのに、今の面子でそれ以上の攻勢をどうにかできるとはさすがの妖夢も思えなかった。

「その前に叩きたいのはわかりますが、これといった武器もありませんよ?」

「知ってるか? 大きな物体が高速で突っ込めばそれだけで強烈な破壊力を生み出すんだぜ?」

「なんとなく言わんとしていることはわかりましたけど、もしかしてこの列車を……」

 にやりと笑うにとりを見て、妖夢は猛烈に嫌な予感を覚えた。

「もうわかってるだろ? こういう時の合言葉は?」

「「「なければ奪う!」」」

 周りも巻き込んでノリノリの返事であった。

 いつから自分たちは蛮族にジョブチェンジしたのだろうか。妖夢の脳裏をなけなしの理性の警告がよぎっていった。

「というわけで、こいつをどうにかするためにも二手に別れよう。勇儀さんと小町と妬み妖怪は下で攪乱を、あたしと妖夢と……土蜘蛛もだな。こっちは上から先頭の機関車を直で狙いに行こう。天井が低いから飛んでくのは危ないからダメだけど……」

 どうにも引っかかる物言いだったが、触れると長くなるので妖夢は放置した。

 この走行中の列車とやらの上を歩いて向かわねばならないことへの緊張がそれを上回ったためだ。

「なるほど。それじゃあわたしは邪魔してくる敵を片っ端から殴り飛ばせばいいわけ?」

「間違ってはいないんだけど……力押し過ぎる、さすがは鬼だね……」

 そうして臨時編成の列車強奪部隊が結成された。

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