東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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【SS小説】三題話 ~ロスト・イン・レヴァリエ~

満足ひろpon

お題

「花畑」「あわれ」「蝶」

イラスト

あとき

【三題話】「相続」

『三題話 ~ロスト・イン・レヴァリエ~』とは?

 イラスト、音楽、ゲーム――多種多様なジャンルが存在する東方二次創作。なかでも最も自由度が高いのは……活字。小説かもしれません。

 文字によって繰り広げられる無限の創造性と可能性は、私たちが知っている――あるいは、知らない幻想郷の世界へと誘ってくれます。

『三題話 ~ロスト・イン・レヴァリエ~』は、さまざまな東方二次創作小説作家がお送りする、東方Projectの二次創作SS(ショートストーリー)。毎回ランダムに選ばれた3つのお題テーマをもとに、各作家が東方の世界を描き出します。

 今回のテーマは「花畑」「あわれ」「蝶」。作者は満足ひろponさんです。

 

 

相続

 弾幕ごっこに使う「弾」は、それがなんであってもかまわない。

 ナイフや矢といった武器はもちろん、魚や鳥のような生き物まで、いってしまえば自由というわけだ。オーソドックスな球体が弾幕を作るのに使いやすいことに違いないが、様々な形の「弾」そのもので力のある妖(あるいは人間)はアイデンティティを表現するのだ。

 弾幕をつくれるほどの力をもたない妖怪や妖精にとって、そんな「弾」はちょっとした憧れであった。

 「はいはいお客さん、そんなにビビらないでも大丈夫だよ。それにきょろきょろしてる方が目立つから」

 縦穴から案内してきた客を引き連れて、黒谷ヤマメは苦笑した。地上からやってきたから仕方がないとは言え、いくら地獄といっても、道すがらに取って食おうなんて奴は最近ではいないだろう。ヤマメが案内しているならなおさらだ。

 こくこくとうなずいたその客は、道すがらの住人となるべく視線をあわせないように街並みを見渡した。

 行き交うのが人でないことを除けば、地上の里と変わりないように思える。各々の暮らしのせわしなさに、余所者にそこまで構っている暇はなさそうだった。

 人工太陽に照らされて、屋根の影が揺らめいている。じんわりとした暑さが額に汗をにじませた。地底に風は吹かない。

 町を抜け川縁を歩いて行くと、目的地への入り口につながるほら穴にたどり着いた。

「どうぞ。ああ、暗すぎるかな。ごめんね、私には視えるから、明かりとか設置していなくてね。まあすぐにつくから」

 ヤマメは袖をつかませるとずんずんと奥に歩いていった。蹴り飛ばした小石が壁にあたる音からすると、それほどまでに広いわけではなさそうだ。

 暗さに目が慣れないうちに、短いトンネルを抜けた先から光が舞い込んできた。

 わあ、思わず声をあげた。

 洞窟の天井にぽっかりとあいた穴からスポットライトように陽光が射している。

 光の下には白い曼珠沙華の花畑が広がっていた。

「ようこそ、ここが製造農場さ。ああ、どこにって、顔をしてるね。よく眼をこらしてみて。」

 光の柱の中に、キラキラと反射するものがある。

「よっと」

 ヤマメが曼珠沙華の花畑に一発の弾丸を撃ち込むと、光が乱反射しながら宙へと散って飛んでいった。

 硝子の蝶が天に昇っていく。

 蝶々型の弾のその素材だ。

「ちょっと待っててね」

 ヤマメは逆立ちに、天井に降りたっていくと天に空いた穴の上を歩いていく。

 張り巡らされていた蜘蛛の糸に絡め捕られた蝶々を回収して、逆さづりのまま客の妖精の前まで降りてきた。

「はいどうぞ。…ああ、お代は初回無料なんだ。趣味みたいなものだしね」

 手渡された硝子の蝶に力を込めると、次第に緑色に染まっていき、妖力を纏ってパタパタとはばたいた。その蝶は妖精の意のままに、ひらりと宙返りすると手の内に戻ってくる。

 客だった妖精はお礼をして、はやく試したいの、とここまでに来た道を小走りで駆けていった。

「またね。ご贔屓に」

 ひらひらと手を振って、ヤマメはその後ろ姿を見送った。彼女がまたこの花園にやってくるのが楽しみだ。

「さてさて、一仕事した後はっと」

 花園に埋もれて横たわる「一回休み」にやってきた別の妖精を糸で引き寄せる。

 まだ人の形を保っているそれに牙をつきたてて、その中身を啜っていく。

 だらりと垂れる指の先がはらはらとほどけてゆき、垂れた銀糸が曼珠沙華の葉のうえで繭をかたどっていた。

 自分が手にした、透明の蝶が元々、いったいなんだったのか。妖精だったこれも、あの妖精もあわれにも知ることはない。