東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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【静岡例大祭開催記念・再掲載】例大祭の帰りに寄るのがオススメ!日帰りで行ける、静岡の「東方の名所」観光案内

観光系ライター、えむてー氏による「日帰りで行ける、静岡県の東方に関連するスポット」の紹介

昨年の開催中止を経て、来る2021年3月21日(日)第十八回博麗神社例大祭」が一年越しでツインメッセ静岡にて開催されます!

思い返せば、「博麗神社例大祭」が、東京都以外の場所で開かれるのは初めてのこと。そんな静岡での例大祭開催を記念して、昨年掲載した「静岡の『東方の名所』観光案内」記事を、改めて再掲載いたします。

執筆されているのは、「東方静岡郷」という“静岡県のみにスポットを当てた東方聖地巡礼案内本”を出されたことも有る、えむてーさん(@FairymaidA)。前編では、「例大祭に行ったついでに立ち寄れる、ツインメッセ静岡から近い東方スポット」がメインに紹介されています!

※記事の内容は昨年2020年度に取材、まとめられた内容です。2021年時点と情報が異なっている場所も御座います。あらかじめご了承下さい。

 

静岡県の名所は炭焼きレストランさわやかだけじゃない!

 皆さんはじめまして。東海地方を中心に観光系のフリーライターとして活動している「えむてー」と申します。

 さて、もうすぐ開催される静岡例大祭。皆さんの中には、既に静岡遠征の計画を立てている方もいらっしゃるのではないでしょうか?筆者は静岡県在住ということもあり、今からもうテンションが上がりっぱなしで止まらない状態です。

 

 今回の静岡例大祭で初めて静岡県に来る、という方も多いことでしょう。

 そんな人達に、静岡県の魅力をこの静岡例大祭を機会になんとしても伝えたい!

 静岡県は新幹線を使わないと通過するのに地獄なだけの地域じゃない!

 静岡県の名所は炭焼きレストランさわやかだけじゃない!

 

 ……ということで。静岡県在住の聖地巡礼マニアとして、静岡例大祭のついでに行ける、東方に関連する名所の一部をご紹介したいと思います。その中でも、今回は静岡例大祭会場からそこまで遠くない、静岡市から日帰り程度で行ける県内の東方スポットを、皆さんにご紹介いたしましょう。

 

 白狼天狗のふるさと「大井川」

 大井川は、静岡県島田市などを流れる川です。浜松市を中心とした西部地方と、静岡市を中心とした中部地方を隔てる川でもあります。江戸時代は、江戸防衛のために橋が架けられず「箱根八里は馬でも越すが越すに越されぬ大井川」と歌われたほどの、東海道の難所だった歴史も残っている場所です。

 

 そんな歴史もあるこの大井川ですが、実は「犬走椛」と深い関係がある場所です。大井川には古くから「木の葉天狗」という天狗が住んでいると伝えられています。その木の葉天狗は、年老いた狼が天狗になった存在で、天狗界では「白狼」とも呼ばれ、山で作った薪を売ったり、登山者の荷物を背負ったりして、他の天狗のために資金を稼ぐ役割を担っていました。また、その地位は他の天狗に比べ低いものだったと言われています。

 この伝承が示すように、大井川には「白狼」と呼ばれる地位の低い天狗が住んでいました。東方Projectにおいても犬走椛が「下っ端哨戒天狗」と呼ばれているように、白狼天狗は身分が低いものと思われています。このことから大井川は白狼天狗の元となった場所と言われていて、犬走椛に深く関係のあるスポットというわけです。

 

 また、大井川には、白狼天狗の伝承の他にも有名なものがあります。それが「蓬莱橋」という木造の橋です。その長さは897.4メートル、世界一の長さの木造歩道橋として、ギネスにも記録が載っています。時代を感じる木造橋ということもあって、よく時代劇やCMの撮影にも使われており、もしかしたらどこかで見たことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 蓬莱橋は明治時代に作られ、その際に当時開墾が進んでいた牧之原台地を中国の伝説の山「蓬莱山」に例えて名付けられたと言われています。「蓬莱」は「蓬莱の薬」「蓬莱人」「蓬莱山輝夜」「蓬莱人形」など、東方Projectの中でもよく使われている言葉でもあります。蓬莱橋を渡った先には「蓬莱の意味」「蓬莱思想について」などを解説した上の写真のような看板がいくつかあり、こうした方向からも東方Projectの元ネタについての理解や知識を深めることも可能です。

 蓬莱橋は100円で渡ることができ、木造の橋は写真撮影スポットとしても人気が高いため単純に「観光地」として考えても魅力的な場所でもあります。ちなみに、橋から10分弱ほど歩いた所には「蓬莱の湯」という入浴施設もあったり。入ると蓬莱人のように不老不死になれるかも? 

アクセス情報

・大井川(蓬莱橋)

・静岡県島田市南2丁目22-14

・JR東海道線「島田駅」徒歩20分

 

エタニティラルバ信仰の地「富士川」

 

 大井川の次に紹介したいのは「富士川」。静岡県中部地方と東部地方の境に位置する川です。ここは「富士川の戦い」が特に有名な川で、平家軍が水鳥のはばたく音に驚いて戦わずに逃げた、という話は多くの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか? 現在も川の近くには、源氏軍と平家軍が対峙した古戦場跡と言われる「平家越え」などの史跡が残っています。

 そんな富士川ですが、実はエタニティラルバと関係が深い場所でもあります。7世紀中期頃、富士川近くに住んでいた大生部多(おおうべのおお)という人物が「常世神」を信仰する新興宗教を作りました。この常世神はカイコに似たアゲハチョウ等の幼虫で、これを神として祀れば誰でも幸せになれるとの教えは民衆の支持をどんどん集めていきます。

 しかしこの教えが地方にも都にも広まったことで、多くの人々が私財を投じて貧しくなるなど、大きな社会問題になっていきました。そのため、山城国の豪族・秦河勝が大生部多を討伐し、騒ぎは収まったと言われています。

 エタニティラルバに関して「常世神なのかもしれない」という摩多羅隠岐奈の台詞が原作の中である他、「エタニティ」が永遠を意味し「常世」に通じる点、常世神がアゲハチョウの幼虫である説がある点等から、富士川を中心に神として崇められていた常世神がエタニティラルバの元ネタである、と考えられています。

 また、この川に関連するのはエタニティラルバだけではありません。大生部多を討伐した秦河勝と摩多羅神(摩多羅隠岐奈の元ネタとされる神様)は同一視されることもあるため、摩多羅隠岐奈とも関係している場所でもあります。それに、秦河勝のお面が付喪神になったのが秦こころなために、こころちゃんとも関係した場所でもあります。そう、富士川は3人の東方キャラに関係している場所なのです。

 

 しかし、「いくら東方キャラに関連があってもただの川なんて見ても面白くない」という方もいるでしょう。確かに富士川自体は観光地でもなんでもないただの川、それだけ見ても面白くはないと思います。そういう方にオススメなのが、富士川のすぐ近くにある「道の駅・富士川楽座」です。

 

 富士川楽座は、高速道路と一般道両方からアクセス可能な、道の駅兼サービスエリアのような施設で、年間300万人以上が訪れる人気の観光地でもあります。どれだけ人気かと言いますと、道の駅で全国トップの集客数を記録したこともあるほどです。

 

 その理由としては、富士山がきれいに見える大観覧車や展望台があったり、プラネタリウムまであったりする、その施設の充実ぶりでしょう。上の写真は、富士川楽座の展望スペースから撮影したものですが、天気の良い日はこのように、富士山と富士川が綺麗に見えます。

 その他にも、生桜えびや生しらす、黒はんぺんなど、静岡県の名物を食べられるフードコート、充実したお土産コーナーなども完備。静岡例大祭のついでに、観光目的のためだけに立ち寄るというのも強くおすすめできるスポットです。車で静岡例大祭に参加される方などは、ここで静岡土産を買っていくのも良いでしょう。

 富士川楽座で、美味しい静岡名物でも食べながら「そういえば、あそこの川って東方と関係あるんだなー」とかなんとか思いながら、のんびりと富士川を眺めてみてはいかがでしょうか。

 アクセス情報

 ・道の駅富士川楽座

 ・静岡県富士市岩淵1488-1

 ・JR東海道線「富士川駅」徒歩30分。車の場合は富士川サービスエリア上り線または県道富士川身延線からアクセス可能。

 

富士山のかぐや姫伝説「竹採公園」

 静岡県富士市は有名な「かぐや姫」の舞台になった場所だという伝説が残っています。中でも富士市東部の比奈地域には数多くの関連スポットがあり、この竹採公園もその一部です。 

 竹採公園は、竹取の翁ら老夫婦とかぐや姫が住んでいたと言われる屋敷跡に作られたと言われ、公園内にある「竹採塚」は、かぐや姫が生まれた場所であると伝えられています。その他にも、公園周辺にはかぐや姫が富士山に帰る際に振り返った「見返し坂」、かぐや姫の育ての親の竹取の翁を祀った神社な、どかぐや姫伝説にまつわるスポットが数多く存在しています。

 

 かぐや姫の舞台となったと言われる地域は日本中にいくつか存在しますが、富士市のかぐや姫伝説は少しだけ違います。それを少しお話しいたしましょう。

 昔々、富士山の麓の乗馬という里におじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日、おじいさんは竹林で小さな小さな女の子を見つけます。女の子は体が夜でも明るく輝いていたので「赫夜(かぐや)姫」と名付けられ、老夫婦はかぐや姫を実の子供のように大事に育てました。かぐや姫はたいそう美しく育ち、その美しさはやがて都にいる帝の耳まで届くようになります。

 ……と、ここまでは大体同じ。ここからが少し違います。

 ある時、帝の使者がかぐや姫の元を訪れました。使者はその美しさに驚き、帝も気に入って后にするだろうと都へ帰っていきます。しかしかぐや姫は使者が帰った後、おじいさんとおばあさんに「自分は帝の后にはなりません。富士山のほら穴に入ります」と告げました。おじいさんや周囲の人々は説得しましたがかぐや姫の意思は変わらず、かぐや姫は富士山に登っていきました。かぐや姫が山頂にあるほら穴に入ると、かぐや姫はその姿を富士山の神様・浅間大菩薩へと変えていきます。

  なんと、かぐや姫が月ではなく富士山に帰ると言い出しています。また、この先も違います。

 帝はかぐや姫が富士山に登ったと聞くと、都から富士山までやってきました。そしておじいさんの案内で富士山に登り、山頂でかぐや姫と面会します。帝はかぐや姫に「一緒に山で暮らしたい」と告げ、二人は富士山のほら穴に入り幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 

 ……このように、富士市のかぐや姫伝説の特徴的なところは、かぐや姫が月に帰るのではなく富士山に帰るという点、そしてかぐや姫が富士山の神様と同一視されている点。そして普通のストーリーでは帝とかぐや姫は結ばれることはなく終わりますが、富士市に残る伝説では富士山で帝とかぐや姫が結ばれるハッピーエンドで終わる点です。また、「蓬莱の玉の枝」など有名な「五つの難題」を持ってくることを結婚の条件に出される5人の貴公子たちも出てきません。

 ここに関連する東方キャラは言うまでもなく、かぐや姫が元ネタになった蓬莱山輝夜です。とは言え東方Projectの世界の歴史では、蓬莱山輝夜は月の住人であり、月から永琳ら使者もやって来るなど、おおよそ普通のかぐや姫のストーリーをなぞっているために、静岡県富士市の昔話と東方は少し話が違います。

 しかし先程、大井川で紹介した「蓬莱」の意味が書かれた看板の写真を見れば分かるように、富士山を「蓬莱山」と呼ぶこともあります。つまり蓬莱山輝夜=富士山のかぐや姫。案外、この富士市の伝承が蓬莱山輝夜の名前の元ネタになっているのかも?

 

 余談ですが、この竹採公園の最寄り駅は岳南鉄道線の「比奈(ひな)駅」。そう、鍵山雛の名前と同じ読みだったりします。こっちも東方ファンなら覚えておいて損はないスポットです。

 

 「もっと詳しく富士市のかぐや姫伝説を知りたい!」という方は、公園のついでに同じ富士市にある「富士山かぐや姫ミュージアム」に行ってみましょう。ここには富士市に伝わるかぐや姫の伝説、山岳信仰とかぐや姫の伝説との関連性などの展示がある他、古代から現代までの富士市の歴史、世界遺産としての富士山に関する展示もあり、富士市についての知識が多方面で深められます。しかも入場無料なのが嬉しいところ。

 さらにミュージアムの隣には広見公園という公園もあり、こちらも地味にオススメしたいスポットです。ここには富士市にあった遺跡や古い家屋、建造物がいくつも公園内に移築されており、なんとそこも無料。幻想郷の人間の里にありそうな歴史ある家屋もあり、ぶらぶら歩くだけでちょっと幻想郷を歩いている気分になれるかもしれません。

 竹採公園だけなら半日あれば楽しめ、かぐや姫ミュージアムと広見公園まで回れば丸1日楽しむことができることでしょう。しかも3箇所とも無料なのでお財布にも非常にとても優しいのも◎。静岡例大祭ついでに静岡のかぐや姫伝説関連のこちらを巡ってみるのもオススメです!

アクセス情報

 ・竹採公園

 ・静岡県富士市比奈

 ・岳南鉄道「比奈駅」徒歩15分

 

静岡例大祭のついでに近場の東方スポットへ行こう!

 今回は静岡例大祭のついでに行けるような3つの場所を紹介いたしました。これらの場所は静岡例大祭会場から割と近く、半日もあれば見て帰ってくることが可能な場所です。しかもどの場所も見学料が0~100円と激安で例大祭の資金を圧迫することもありません。静岡例大祭前日や翌日のちょっとした観光にいかがでしょうか?

 今回は代表的な3スポットを紹介しましたが、実は静岡例大祭会場から遠くない範囲にはまだ細かいところも含めていくつかあります。知りたい方はTwitter等で筆者に聞いてくれれば紹介するので気軽に聞いてください。 

 そして次回は静岡県の中でも、静岡例大祭会場から少し遠目で宿泊が必要な東方スポットをご紹介いたいと思います。乞うご期待。