「懐かしく華やかなトランスの祭典へようこそ」東方アレンジ楽曲レビュー『恋トラ -KOIIRO MASTER TRANCE-』/Amateras Records
東方アレンジ楽曲レビュー『恋トラ -KOIIRO MASTER TRANCE-』/Amateras Records
「祭」のアルバム
───「祭」この言葉は皆を熱くさせる。
東方Projectをさまざまな側面から愛する我々にとって、「祭」という言葉のもつ意味は多様である。各地のイベントを一般参加者として楽しむこと、サークルとして参加し自分の作りたいものを頒布すること、イベントの生放送をリアルタイムで視聴し盛り上がること、はたまた何かしらの魅力的な企画に参加すること……「祭」はたった数日、数時間の短い出来事ではあるものの、参加した人々の記憶に鮮烈に残るものだ。
では、東方アレンジにとっての「祭」とはなんだろうか。
ライブやクラブイベントといった現地で盛り上がるものを最初に思いつくかもしれないが、私は「祭」のひとつの形として「コンピレーションアルバム」を挙げたい。
コンピレーションアルバムとは、ある特定のテーマで各々のサークルや個人が曲を寄稿し、まとめたアルバムのことである。いわば同人誌でいうところの「合同誌」と同じようなものだ。最近のものだと、大型コンピレーションアルバムとして音楽評に多くのレビューが掲載されている「東方オトハナビ」などが挙げられる。大勢の人が集まって何かひとつのものを作り盛り上がるという点においては「祭」といっても差し支えないだろう。
そして今回レビューするのは、Amateras Records主催のコンピレーションアルバム「恋トラ -KOIIRO MASTER TRANCE-」だ。
テンション↑↑な魔理沙のイラストが描かれたこの作品は、2022年夏の「コミックマーケット100」という記念すべきハレの日に頒布されたものである。「トランス」という昔から親しまれている音楽ジャンルをテーマに、各サークルやメンバーが織り成す屈指のアレンジがここに込められているのだ。
流れるようなトランスを……
さて、今回のテーマである「トランス」は、繰り返しのリズムと独特のうねりが聴いた者を引き込むような曲調が特徴だ。まさに「トランス状態」を引き起こすかのような夢見心地にさせてくれる。
企画の主催であるAmateras Recordsもトランスアレンジを数多く手掛けているサークルだ。東方のDJイベントにも主催やゲストとして多く出演されており、聴く者の心を掴むようなキャッチーなボーカルアレンジや、フロアをロックするようなクラブミュージックアレンジが勢揃いである。各同人ショップへの委託やサブスク配信も積極的に行っているのでそちらもぜひチェックして頂きたい。
では、本アルバムの何曲かをピックアップして紹介していこう。
Tr.01 PRINCESS ROMANCE / DJ Genki
「Are you Ready? Somebody Scream!!」
多数の掛け声やカウントダウンコール、そして颯爽と流れる「夜空のユーフォーロマンス」のメロディー。「これぞクラブミュージック!」と言わんばかりのとにかく盛り上がる要素がふんだんに詰め込まれている。Track1から「『恋トラ』とはこういうアルバムだ」ということをストレートに伝えているかのような一曲だ。
──序盤から飛ばし過ぎじゃないかって? 「祭」 だから最初から盛り上がらなきゃ損でしょう!
Tr.04 Hanagensou / Tomohiko Togashi vs. Tracy feat. miko
「恋トラ」に収録されているボーカルアレンジは、主に「恋」をテーマとした歌詞が込められている。その中でもこの『Hanagensou』は、「届かない恋心」を歌った儚さを感じる曲だ。
どうしてあなたのことなんて 好きになってしまったのか
悔しくて零した涙を 隠し微笑む花幻想
隠しきれない恋心を「Hanagensou(花幻想)」に委ねている様子は、たとえ思いが届かないまま終わってしまっても、バッドエンドを感じさせることはないだろう。リズミカルな曲調ながらも、淡い恋心と切なさが見事に表現されている。
Tr.08 Emotional Skyscraper / Nasca
曲名の和訳にもなっている「感情の摩天楼」のアレンジであり、このアルバムの中でも比較的原曲に沿った楽曲となっている。エレキベースをメインとするインストは、これぞ古き良きトランスミュージックを感じることが出来るだろう。原曲でのメインパートで、しっかりと盛り上がることが出来る。
終盤のトラックだが「祭」の熱は冷めることはない。流れるようにラストトラックにつながっていく。
Tr.09 Jealousy Flame / ちょこふぁん
そして、ちょこふぁんによるキャッチーなトランスアレンジが本コンピレーションアルバムの大トリを飾る。
ねえ 止め処なく溢れて 光る Jelousy eyes
「恋」を「Jealousy Flame(嫉妬の炎)」として表現されたこの曲は、原曲『緑眼のジェラシー』のアレンジとして聴く者に対して非常に鮮烈に残るメロディーを与えてくれる。
ねえ その身で受け止めて 妬む Jelousy eyes
「恋心」と「嫉妬心」という思いが強ければ強くなる程、切っても切れないものとなる心情をまざまざと見せつけられる。そういった重々しいマイナスの感情ですら、滑らかなトランスアレンジによって魅了されるものとなるのだ。(また、このサークルについてもっと知りたいと思った方は、ぜひこちらのレビューもチェックしていただきたい。)
コンピレーションアルバムは明確なひとつのコンセプトを持っている。それでも、そのコンセプトの中で作られる曲は各サークルそれぞれの特色が大きく出るものだ。しかし、このアルバムは曲と曲とのつながりに違和感を抱えることなく、メドレーのように楽しむことが出来るのだ。こういった曲と曲とのつながりといった部分にも注目していくと新たな側面が見えてくるかもしれない。
新たな価値観や考えを探求し、見つけていくということは同人誌に留まらず音楽アレンジにも通用するものだ。
盛り上がればそれでいい、なぜなら「祭」なのだから
コンピレーションアルバムの強みは、各サークルの特徴や魅力をすぐに感じることが出来るという点にある。知らなかったサークルや曲のスタイルを知ることで、アレンジの見識が広がる絶好の機会なのだ。もちろん多様なアレンジを聴くことで、原曲の奥深さというのも知ることが出来るだろう。多くの方々がこのコンピレーションというひとつの企画に携わることでさらに多くの人が集まり、大きな広がりを見せる。そこに「祭」としての醍醐味がある。
ところで、楽曲紹介の際に、テーマ性や新たな側面といった観点からこのアルバムについて述べた。しかし、そういった小難しいことを考えずとも、流れに任せて楽しむことが出来るアルバムであることを保証しよう。とにかく盛り上げることが得意で、そして盛り上げることを愛してやまないクリエイターによって手掛けられたこの「祭」を皆さんに楽しんでほしい。最初から最後まで多種多様なアプローチでボルテージを上げてくれることだろう。誰が来ても拒むことはしない、盛り上がりたい人を全て受け入れてくれる。そんなアルバムだ。
───── さあ、トランスの祭典へようこそ!
作品情報
『恋トラ -KOIIRO MASTER TRANCE-』
http://amateras-records.net/C100/
Amateras Records
公式Twitter:https://twitter.com/amaterasrec
代表Twitter:https://twitter.com/tracy_amateras
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCF4uItNuV3Lh49qrxvOXHNg
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