東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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音楽評
2022/10/14

「原曲への偏執的なまでの愛」東方アレンジ楽曲レビュー『Bloody†Nightmare』/ちょこふぁん

東方アレンジ楽曲レビュー『Bloody†Nightmare』

 みなさんは「ちょこふぁん」のことを、ご存知ですか?

早さだけじゃないんだよ!!

 2021年3月21日、第十八回博麗神社例大祭で、東方虹龍洞体験版が頒布された当日。事件が起きました。

 私は例大祭には参加できなかったのですが、その日の晩は「現地に行った人今ごろ、東方Projectの新しい仲間たちや楽曲たちを楽しんでるんだろうな〜」なんて考えながら、部屋でTwitterを眺めていたことを覚えています。

 ――そんな時、眺めていたタイムラインに思わず目を疑うようなツイートが浮上してきたのです。

「東方虹龍洞ボーカルアレンジ」

 頒布当日リリースの東方ボーカルアレンジ。

 東方アレンジは数あれど、この日にこのアレンジを投稿するのは、他とはワケが違います。皆さんも、それをよく分かっているはずです。その上、歌まで入っています。一体全体、何という技量なのでしょう。この『LUCKY CAT』で「ちょこふぁん」というサークルを知った方は、本当に多いと思います。

 その後、ビートまりお氏主催の音楽リレー企画に参加したり、SOUND VOLTEXを始めとする音楽ゲームにも楽曲が実装されるなど、音楽活動を始めてまだ3年のサークルと思えないほどの大躍進をとげています。なお私はその活躍を眺めつつ腕組み彼氏面をしていました。

 そんな近年大注目のちょこふぁんですが……ワテクシ、ワテクシですね、非常に腑に落ちないことがございまして。ええ。

 各所で取り上げられるのは、その「仕事の早さ」という話ばっかり! 違うんですよ、ちょこふぁんの魅力が早さだけで収まるワケがないだろ! いい加減にして!

 そんなワケで今回はこの令和時代に颯爽と爆誕した新進気鋭の最強サークル「ちょこふぁん」の有り余る魅力について、そしてアルバム「Bloody†Nightmare」について滔々とうとうと語り尽くしていこうと思います。

最強のふたり

 代表兼ボーカル兼アートワークのすばる氏、アレンジャーのHASEKO氏からなるちょこふぁんの音楽の基本。それは軽快なユーロビートですが、それを下敷きにデジタルポップや、アニソンからの影響を強く感じさせるゴシック調のものと多岐に渡って幅広く展開しています。

 しかし、このサークルの東方アレンジの最大の強みは、また別にあります。

 ――それは、原作に対する偏執的といえる程の拘り。

 ちょこふぁんが東方アレンジ楽曲のコンセプトとして掲げているのは「原作の追体験」。すべての楽曲に、原作を極限までリスペクトした要素が詰め込まれています。

 ではその要素とは? ……まぁそう急かさず焦らずに。「Bloody†Nightmare」は、数あるちょこふぁんのCDの中でもそんな”ちょこふぁんらしさ”が一際強い作品となっています。その中身に注目しつつ、その個性、強みがどのように発揮されているか掘り下げていきます。

 ここからぜひ、XFDと共に、ちょこふぁんの紡ぐ幻想世界に潜っていきましょう。

 

Tr.01『SMOKING ADDICTION』 原曲:スモーキングドラゴン

 アルバムにおける1曲目というのは、リスナーに対して第一印象、インパクトを刻み込む大切なもの。

 そんな1曲目は、東方鬼形獣の「スモーキングドラゴン」のアレンジ。リズミカルで疾走感に満ちた、爽快なアッパーチューンです。イントロから徐々にテンションを溜めて溜めて、それを一気に開放して疾走するカタルシス。そして楽曲全体を牽引する、グルーヴ感溢れる軽快なキックは、ユーロビート含めたダンスミュージックの醍醐味でしょう。

 この曲は、そんな「ダンスミュージックの基本」、すなわち「ちょこふぁんの基本」を感じさせてくれる一曲です。言うなれば、

「オラッ!これがちょこふぁんだ!食え!!」

 というような。第一印象を刻み込む1曲目としては、まさしくこれしかないですよね。

 この曲のダンスミュージックとしての気持ちよさは、それだけに留まりません。すばる氏の紡ぐ、キャラに寄り添った歌詞によって、東方アレンジとしての面白みが見えてきます。

 丁か半か 押すか引くか

 出たとこ勝負 DragonLady

 上か下か 行くか退くか

 ここが勝負 DragonLady

 駒草山如は、博打の胴元です。管理者としての威厳と、ひとりのギャンブラーとしてのダーティさという、ふたつの異なる魅力を併せ持っています。

 Aメロでの歌詞とフレーズのリズミカルな反復から想起するのは、次の一手を慎重に、そして大胆に模索する駒草太夫の姿です。彼女の楽しむ極限状態でのスリルや、白熱した勝負の気迫――気付けばあなたの周囲は賭場そのものです。

 この楽曲のように、ちょこふぁんの、つまりすばる氏の紡ぐ歌詞は、原作、本編内でのキャラクターを徹底的に意識したものになっています。

 原作をプレイしたことがなくとも、曲を聴けばその曲の主役がどんな人物か、どんな魅力があるか見えてくるほどです。王道のユーロサウンドと、王道のアツい歌詞世界。

 ”王道のちょこふぁん”をとくと召し上がれ。

 

Tr.02『BloodyNightmare』 原曲:亡き王女の為のセプテット/U.N.オーエンは彼女なのか?

 今作の表題曲となる本曲は、開幕から恐ろしいまでの速度で全力疾走。そのままラストまでノンストップで駆け抜ける、超絶怒涛の高速キラーチューンです。

 Tr.01で一気にボルテージを上げられたはずなのに、まだ先があるのかと圧倒されてしまいます。このアレンジの原曲は、東方Projectが誇る楽曲二大巨頭「U.N.オーエンは彼女なのか?」と「亡き王女の為のセプテット」。このアレンジがそんなメロディに乗せるのは、スカーレット姉妹の狂気、邪心、破壊衝動です。頭がクラクラするほどのストリングスと、禍々しさすら感じさせる壮大なコーラスが、ふたりの吸血鬼〈あくま〉を称えます。

 ところで、この「U.N.オーエンは彼女なのか?」と「亡き王女の為のセプテット」ですが、実はこの原曲の組合せは、ちょこふぁんを語るにおいては、避けて通れないものなのです。その理由は、ちょこふぁんが初めて制作した記念すべき楽曲『ストロベリームーン』。

 この楽曲で既に、ちょこふぁんの音楽スタイルは確立されています。処女作ながら、色褪せない完成度を誇っているのです。

 そんな『ストロベリームーン』があるにも拘らず、同じ原曲の組み合わせでアレンジを作るというのは、非常にハードルが高い行為だったことでしょう。それでもこのふたりは、このふたつの原曲にもう一度挑戦することを選んだのです。そしてその挑戦は最高の形で結実したと、私はこの『Bloody†Nightmare』を聴いて強く実感します。

 『ストロベリームーン』ではこの歌詞のように、

輝く紅い月 私の願い事叶えてよ

 果てない明日を信じて歩んでいくわ

 光る七色の羽夜空に向かって 羽ばたかせ

 貴方と二人ならできないことは無いわ

 姉妹の可憐さ、無邪気さをしっとりと感じられます。

 一方の『Bloody†Nightmare』では、

紫色を紅で塗り替える 破壊のフレーズ

 深紅の炎 私達が 貴女を試す

 scarlet world

 その正反対ともいえる冷酷さ、非情さが、圧倒的なBPMに乗せて、全身が消し飛ぶほどの威力で叩きつけられます。まぁ実際、跡形もなく消し飛んだんですけど。

 曲の大まかな展開はそれぞれ割と近いのにも関わらず、歌詞の力によって全く別の曲に感じるのは、原曲への偏執的なまでの愛に裏打ちされた、すばる氏の御業でしょう。

 さて、二曲聴いていただきましたが、それぞれどのパートも原曲の使用している部分が非常にわかりやすいと思います。特に『Bloody†Nightmare』のサビは、「このBPMでそのパートまんま歌うの!?」と衝撃を受けるでしょう。

 原作のメロディラインを極力崩さないアレンジは、東方アレンジ、特にインストではよく見られます。しかしボーカル曲は別です。原作にない「歌」を入れることを考えると、音程の起伏、テンポの速さなど「歌うには無理のある部分」というものが出てきます。その部分をボーカルに合うように調整して、東方ボーカルアレンジは生まれているのです。

しかし、ちょこふぁんは違います。稀代の変態アレンジャーHASEKO氏は、そんな「無理のある部分」を躊躇なく組み込んでいます。

 

 ……いや組み込んでいますじゃないんだよこんなの普通歌えるわけないだろ!!

 

 そんな原曲の空気感をそのまま残した、(歌わせる気ゼロとしか思えない)狂気の原液アレンジを、カッコ可愛さの中にどこかじとっとした湿っぽいアンニュイさを孕んだ、すばる氏の歌声が見事に包み込みます。そのネガティブな部分が、楽曲を「ただカッコいいもの」に留まらせず、ドラマチックな深みを与えているのです。

 特濃原曲、それでいてしっかりオリジナリティ。ちょこふぁんの真骨頂ともいえる一曲です。

光と陰

Tr.03『SURVIVAL GAME』 原曲:トータスドラゴン〜幸運と不運

Tr.04『DYSTOPIA』 原曲:ビーストメトロポリス

 アツくてカッコいいだけじゃない、エモいちょこふぁんのターンです。

 Tr.03,04はこれまでの圧倒的な盛り上がりから少し落ち着かせて、クールでメロディアスなナンバーが続きます。 ダウナーながらアグレッシブ、という相反する要素、しかしそれを両立させた”エモい”メロディには、すばる氏のアンニュイな歌声が最も映えます。

 Tr.02→03→04と緩やかに変化していく構成は、最高潮に昂ったテンションが一気に冷めないようにする配慮でしょうか。つくづくニクいアルバムですね。さて、この2曲ですが、どちらも吉弔八千慧テーマなのはもちろん、「このふたつで楽曲として完成する」のです。

 余談ですが、以前イベントですばる氏に八千慧の絵を描いていただきました。ダウナーカワイイで最&高でした(謎マウント)(隙自語)

『SURVIVAL GAME』は、吉弔八千慧の鬼傑組組長としてのポリシー、弱肉強食の畜生界で生き抜き、その頂点へのし上がる生き様を、これでもかと吐き出した楽曲。 

アレもコレも 道具でしかない

誰も彼も 気付かぬまま

利用され 搾り尽くされて

弱肉強食 fall in Dawn

「虐げる側」と「虐げられる側」の対比。

 Tr.03では八千慧の冷血さを徹底して描き、Tr.04ではその冷血さに苦しむ者達を描いています。唐突ですが、キャラが足掻き苦しみながら、それでも必死に希望を探す姿って、たまらなくないですか?

 

 ……………(返答待ち)

 ……ですよね〜! 最高ですよね!

 

 そんなキャラが輝くのは、その「苦しみ」が強く、大きく、非情なものであるからこそ。このニ曲は、まさしくそういう関係なのです。

 八千慧の描く『SURVIVAL GAME』が非情なものであるからこそ、そんな『DYSTOPIA』で光を探す人間達の、強い意志が光り輝くのです

 強き者の裏には必ず弱き者がいて、野望を描く者の裏にはそれで苦しむ者がいる。

 光と陰の無情で、それでもどこか美しい相互関係。表裏一体の二つの側面から描かれるリアルな畜生界に、あなたも思わず息を呑むはずです。

 

本当の言葉

Tr.05『千紫万紅berserk』 原曲:桶狭間のバトルフィールド

 アルバムのラストといいますと、メッセージ性の強い楽曲で余韻を残したり、バラード曲でしっとりと締めたりすることが多いと思います。

 しかし、ちょこふぁんはそんなことをしません。Tr.03,04でエモ寄りに振ったテンションを、最後の最後で最高の高の高まで魂をブチ上がらせてきます。今回のアルバムのフィナーレを飾るのは、猛き龍の如きギターサウンドが荒ぶる、激しくも勇ましい、情熱に満ちた超速デジタルポップス。

 

 単刀直入に言うと、ハチャメチャにカッコイイやつです。

 もっと言えば、私WIREDが大好きなやつです。

 もっともっと言えば、厨二エッセンスマシマシなやつです。

 

 開幕からギターサウンド大暴れなのに、それまでの楽曲のような禍々しさはありません。あるのはひたすらに「強さ」。それは、茨木華扇の気高く熱く燃え上がる意志を体現しているかのようです。

彼方を見渡す 人生とは茨の道

 咲き誇る華を散らし

 険しくとも頭を上げ

 邪を捨て去った華扇のように、この楽曲を支配しているのは、突き抜けたヒロイックさです。己の邪と向き合い、戦い、己の信じる道を生きる。正しいと思ったことを為す。

 まっすぐな、ひたすらまっすぐな意志を、まっすぐな言葉に乗せて届けられたら、そりゃあ、心にまっすぐ突き刺さるもんですよ。もちろん漢字マシマシの歌詞や、ギターやストリングスマシマシのメロディはそもそもカッコいいです。そこだけとってもぶっちゃけ大好きです。だって厨二病だもの。

 しかし、何より心に響き「カッコいい」と思えるのは、青臭いと思ってしまうほどの「まっすぐなメッセージ」なんです。

いつか見た地獄 覚悟を携えた先に

向かい続ける頂 一歩ずつ踏み締め進む

 ひたすらまっすぐな、前向きな生への意志。

 最後の最後でぶつけられる、あまりにも激しく、速く、直球なメッセージ。

 「とにかく前を向いて生きろ」。こういうフィナーレがあったって、良いんじゃないんでしょうか?

総括

 いかがだったでしょうか。ダンスミュージックの枠を超えた豊かな表現力と、徹底した原作重視。原作を重視しすぎたことがかえって個性になっている、というのは本当に面白いですし、そんな音楽サークルはちょこふぁん以外に知りません。

 この「Bloody†Nightmare」は、そんなちょこふぁんの原液を、そのままごくごくと飲み干せる、というか頭から浴びれるアルバムです。

 「原曲の雰囲気が好きだ!」「二次創作っぽくない、原作のままのキャラ造形が好きだ!」という方ほど、ちょこふぁんの東方アレンジは聴くべきです。惹かれるものがあった方は、是非とも購入して聴いてみてくださいね。

 

 今回はオムニバス形式のアルバムでしたが、実はもう一つありまして、それは後へn……

 ――おっと、少し喋りすぎてしまったようです。それでは改めて。

 

 ちょこふぁんはいいぞ!!

作品情報

BloodyNightmare
https://subachoco.booth.pm/items/3672057

ちょこふぁん
Twitter:https://twitter.com/subachoco
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCLKHdCa1tV46yvRMCP_bC_A