東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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音楽評
2023/12/29

「ちょっと大人な三月精の甘美なサウンド」東方アレンジ楽曲レビュー『Dolce Rose Collection』/Attrielectrock

東方アレンジ楽曲レビュー『Dolce Rose Collection』

Dolce Rose Collectionの魅力

『Dolce Rose Collection』は2010年にサークル「Attrielectrock」から発表された、三月精とお菓子をモチーフにした東方アレンジアルバムだ。何やらタイトルが香水やファッションの高級ブランドみたいな感じだが、まさに本作はそういう雰囲気ドンピシャなお洒落なインストアルバムである。三月精といえば光の三妖精ことサニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドの3人のことで、東方キャラの中でもチルノと並んで特に幼くておバカな所が前面に出るキャラではあるが、このアルバムでは洗練されたちょっと大人な三月精を聴くことができる。

Dolce Rose Collection

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 音楽ジャンルとしてはピアノ系のハウスミュージックで、全体的にキラキラ・フワフワした音が多用されている。中でも特にピアノというかキーボードの音が抜群に良く、聴いているうちに、とろけるような夢心地にさせてくれるアルバムだ。アルバムの前半はキラキラした明るい雰囲気の曲が多く、後半はより大人びた曲や変わり種が入ってくるという構成になっている。

 例えば前半5曲目「First Makeup」はふんわりした優しい曲で初音ミクのスキャットやコーラスも上手くハマっていて美しい。曲名も三月精がちょっと背伸びしてみたという感じがして曲とよく合っている。

 筆者が前半で最も好きなのは7曲目「Chocolate Circle」だ。原曲は「可愛い大戦争のリフレーン」である。原曲名からして可愛いと付いてしまっているが、ウルヱ氏のアレンジもお洒落な可愛らしさ全開といった感じの曲だ。まさしくアルバム前半の華にふさわしい。三月精がチョコレート作りをしている様子が目に浮かぶようだ。

 後半の変わり種の一つは9曲目「Night Lady」で、ゆったりとしたR&B的な曲だ。外国人女性の声がサンプリングされており、曲名からも分かるようにセクシーで優雅な曲になっている。

 10曲目「BlueBerry Service」はヒップホップで乾いたドラムの音が強調されており、本作の中では一番ワルめな曲になっている。それでも原曲のメロディーを奏でる透き通った音と合わさって上品さが失われていないのは絶妙なバランス感覚だろう。

 そして筆者が本作で最も好きなのが11曲目「Lolita Lolita」だ。キラキラした音はやや抑えめになり、代わりにグルーヴィーなベースがよく響く。お洒落でノリノリでカッコいい。

 実は本作はミニアルバム3作品のシリーズである『Dolce Rose #1 Strawberry ShortcakeS』『Dolce Rose #2 Golden Chocolate』『Dolce Rose #3 BlueBerry Tarte』を一つにまとめたもので、それぞれの作品の副題にはスイーツの名前が冠されている。ドルチェ(Dolce)もイタリア語でスイーツの意味だ。ニコニコ動画にも各作品から一曲ずつ上がっている。

 豆兎氏(現:まめうさぎ氏)による海外の絵本のようなタッチで描かれたジャケット絵は素晴らしい。ショートケーキの上に座ったサニーミルク、コーヒーのカップに腰かけたルナチャイルド(曲名を考慮するとホットチョコレートかもしれない)、ブルーベリーを食べるスターサファイア。どれもあどけない感じはあるが、その可愛らしさや美的感覚は原作漫画のそれとは別の文脈を生み出している。

 3作品を一つにまとめた本作『Dolce Rose Collection』では、ジャケット絵の担当はも氏に変わっているのだが、こちらも素晴らしい。三月精はどれも一見して感情の読めない顔をしている。そして極めつきはジャケットを開いた所に描かれている、天蓋付きの巨大なベッドに寝転ぶ裸の三月精だろう。普通に乳首も描かれている。このイラストはCDケースの外側からは分からないので開けてびっくりという感じだ。とはいえこれも単にエロというよりはエロスというか、西洋画における裸婦などに近い文脈だろう。

 本作を「ちょっと大人な」と表現したのはここにも理由がある。つまり三月精に気品がありつつも、性的に描かれているのだ。11曲目のタイトルが「Lolita Lolita」なのも頷けるというか、ちょっと笑ってしまうくらいなのだが、しかしまさにアルバムを代表する曲名といってもいいだろう。絶妙なコンセプトがばっちり決まっている。

 また本作は「Dolce Rose」シリーズの#1~#3の曲をそのままの順で収録している構成で、後半になるにつれてより大人びた曲や変わり種が入ってくるのは、サニーミルク→ルナチャイルド→スターサファイアという、より複雑性のあるキャラへ移っていくグラデーションともいえるかもしれない。

 盤面も洗練されたデザインになっていて、赤地に金色(銀抜き)で優美なロゴが描かれており、高級ブランド感がある。クレジットによればこれはcarmine氏(現:clocknote.氏)によるデザインだろう。carmine氏は現在デザイン事務所BALCOLONY.でも活躍しており、2010年当時からして素晴らしい仕事ぶりだ。

 

Attrielectrockとは

 Attrielectrockは此糸ウルヱ氏と佐藤せっか氏による東方アレンジサークルである。

 ウルヱ氏が楽曲制作、せっか氏がデザインやウェブページ制作などを担当していた。サークルとしては2008年頃から2014年まで活動し、そこで東方アレンジサークルとしての制作は終了している。その後はサークル名をnienteに変えてオリジナル作品を制作しながら両名で活動している。

 2018年以降はデザイナーで東方キャラをテーマにしたフォント制作などを手掛けていたLON氏も加わり、3名でmienteというサークル名でも活動している。mienteでは音楽だけでなくグッズ制作にも注力しているようだ。

 ちなみにウルヱ氏はAttrielectrockとは別に、techi.k氏と一緒にKARMARTという東方アレンジサークルも過去に運営しており、こちらの活動時期は2007~2012年頃である。ウルヱ氏の初期の名義には「REi Aer」「ゆかりのそらと(紫の空と)」があり、もしかしたらこちらで知っている人もいるかもしれない。niente以降の名義は「Nasuno」になっている。

 ウルヱ氏は現在「奈須野新平」名義でプロとしても活動しており、アイドルやVTuberなどの楽曲を制作している。特に氏が作曲したShuta Sueyoshiの「Hack」は2020年にTikTokでバズったので知っている人も多いだろう。エレクトリックで可愛らしい曲だ。

 東方アレンジのようなオタクっぽい文脈でいえば、電音部の「pop enemy」の作詞・作曲も氏によるものである。

 Attrielectrockの活動期間は6年ほどであるが驚くべき量のアルバムを制作している。中国の東方WikiことTHBWikiに記載されているデータでは「PAER-0056」のナンバリング表記が最後の作品だが、オリジナルや他作品の二次創作を含めるとその数は61作にも上る。KARMARTでは少なくとも15作品作っているので、計76作品はあることになり、単純に活動期間で割ると一年に12枚以上は制作していたことになる。もちろん本作のようにEPをまとめてアルバムにしたり既存曲のリミックスを収録したりということはあるのだが、それを考慮してもこの時期の精力的な活動には驚かされる(ちなみにTHBWikiにはウルヱ氏の生年月日まで記載されており、ちょっと苦笑してしまう。個人情報とは……)。

 これだけの物量の作品を告知サイト制作やデザイン面で支えていたのはせっか氏だ。サイトは凝っていてお洒落なものが多く、氏の力量を感じさせる。残念ながら過去の東方アレンジの告知サイトは現在見る事はできず、CDの現物も中古でしか手に入らない状況だ。彼らの現行サークルであるmienteの告知サイトは今でも見ることができて、下記は2018年のものだ。おそらくせっか氏の手によるもので、なかなかにクールだ。

TYPE:FACE 特設サイト | miente

 Attrielectrockの初期は落ち着いたラウンジミュージックなアレンジだったり、入眠的とさえいえる優しくて内向的なアレンジが多く『ACCR a perfect day』『紫丁香花』『つきなんてつかえない / …and cradle to flatline』などのアルバムがそれに当たる。2010年頃からはハウスなどのEDM要素が入ってきてアッパーな曲が増えてくる。本作はまさにその当時のアルバムだ。

 さらに年度が進み2012年頃になるとキラキラしたサウンドがより鋭いはっきりした音になっていく。『ADAMANT HEART』『Secret Garden』『du Cafe’ tre』などがそうした後期のアルバムだ。後期の曲も現代的な感じで好きだが、本作の頃のキラキラ感と丸みが両立した曲も好きだ。

 Attrielectrockには紅魔郷か秘封倶楽部をテーマにしたアルバムが極めて多い。上記に挙げたアルバムもほぼどちらかに該当する。本作のように三月精をテーマにしているのは稀なケースだ。秘封倶楽部をテーマにしたものでは下記のようにウルヱ氏本人が歌っているアレンジもある。ウルヱ氏は声も良いんですよね。

 他にもAttrielectrockの傑作としては2011年に頒布された全曲「Bad Apple!!」のコンピレーションアルバム『Apple Tree』がある。

 また、サークル色雑音研究室(chromatic-noise)が2016年に頒布した『東方同人CDのデザイン2』では、この『Apple Tree』に焦点を当てたインタビュー記事が載っている。

東方同人CDのデザイン2 | booth

 その記事によればウルヱ氏は「Attrielectrockは流動的な制作スタイルでその時の感性に従うのでひとつの音楽ジャンルに括りにくいサークル」であり、「『Apple Tree』制作時はハウスが個人的トレンドだった」と述べている。また、「今でこそ感情に流されるだけでなく理性的にも作れるようになりましたが、この頃の音源にあった泥臭くかつエゴイスティックな質感はもう作れないと思います。それは若さであり無知の為せる息遣いとも云えます」とも述べている。

 たしかに筆者もウルヱ氏のアレンジにはエゴイスティックな側面があると思う。本作でいえば12曲目「The Orbit」はカッコいいけど冷静に考えるとちょっと変な曲なんじゃないかという気もする。原曲「妖怪モダンコロニー」のワンフレーズをひたすら繰り返しながら、グニョグニョした音を左右に振るアレンジだ。

 ウルヱ氏のゲスト参加曲になるが、2012年の梶迫小道具店から出たアルバム『兼知未然』に収録されている「平沙万里絶人煙」というアレンジが筆者はかなり好きで、女性の声(?)が原曲のメロディーをひたすら叫び続けてる相当変なデザイアドライブのアレンジである。これもまたウルヱ氏のエゴイスティックな側面がなせる技だろう。それでも氏の音楽に惹かれてしまうのは、一曲まるまる聴かせるだけの技巧とパワーがあるからだ。こう言ってしまうと元も子もないが、とにかくセンスが良い。

『Dolce Rose Collection』は筆者が一番聴いた東方アレンジアルバムの一つで、大学時代をiPodと共に過ごしたアルバムだ。このサブスク解禁に立ち会えたことは本当に嬉しい。本作はAttrielectrockの中でもコンセプトががっちり決まった傑作である。皆さんも是非ここからAttrielectrockに、此糸ウルヱ(奈須野新平)のサウンドの世界に入ってみてほしい。

 

告知情報

この度、Attrielectrock様より、活動15周年を記念したセレクトアルバムがリリースされます。

過去作となる全61作品から、秘封倶楽部・紅魔郷の2軸をコンセプトに、サークルメンバーが選りすぐった楽曲からリマスター、リミックス、セルフリアレンジを施したアニバーサリーセレクトアルバムとなっています。

ジャケットはごとー氏による描き下ろし。

詳細は、サークルメンバーのX(旧Twitter)アカウントから後日発表予定となります。

X(旧Twitter)アカウント
此糸ウルヱ(現:奈須野新平)
佐藤せっか

 

作品情報

作品名:
Dolce Rose Collection

サークル名:
Attrielectrock

代表者名:
此糸ウルヱ

委託・配信先:
メロンブックス
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