音楽評
2021/04/08

東方アレンジの絶滅危惧種(ラウドロック) 『どうぶつ図鑑』 / かちかち山

東方アレンジCDレビュー『どうぶつ図鑑』 / かちかち山

 今回は絶滅必至のロックアレンジャー『かちかち山』より、ベストアルバム『どうぶつ図鑑』をレビューさせていただきたいと思います。

 

ミスマッチ?『幻想少女×スクリーム』

 皆さんは『スクリーム』という歌唱方法をご存知でしょうか。いわゆるデスボイスと呼ばれるもので、がなり声のような歌い声や「ヴァアアア!!」「ィ”ア”ァ”ァ”ァ”ー!!」などの絶叫も含まれます。

 また、そのスクリームを含むラウドロックという音楽ジャンルにはどんなイメージがあるでしょうか。ヘビーメタルのようにドラムが連打される重いメロディ? ハードコア・パンクのように終始激しく用いられるシャウト? あまり馴染みのない方からすると「攻撃的な音楽」というイメージが先行して取っ付き難いジャンルかと思います。女性Vocalの多い東方アレンジ界では耳にする機会が少ない歌唱方法かもしれません。実際活動しているサークル数も減少傾向にあります。

 そんな暴力的なイメージを持つ音楽ジャンルで東方Vocalアレンジをやってしまう、それが『かちかち山』なんです。

 幻想郷に登場する住人達はみんな可愛らしい少女です。それを踏まえると東方の世界観と暴力的なギタドラやスクリーム(絶叫)パートはミスマッチにも思えます。しかし私は声を大にして言いたい。「そんなことはない!!!!!!」……とにかくこの一曲を聴いていただきたい。

01.「ひとりぼっちのうた」
原曲:U.N.オーエンは彼女なのか?

 なぜ「そんなことはない」のか? かちかち山のアレンジはクリーンパート(通常のボーカルパート)とスクリームパートのバランスが絶妙だからだと私は思います。

 クリーンVocal担当のめらみぽっぷ氏が甘い歌声で幻想少女の可愛らしさを表現し、スクリームVocal担当の天舞音 叫子氏が彼女達の内包する感情の濁流を表現する。『甘い歌声』と『激しい叫び』。対極に位置するふたつの歌声が愛らしいルックスと恐ろしい能力を秘めた人外幻想少女の“絶妙なアンバランス”を感じさせます。

 それがこのアレンジ上で『フランドール・スカーレット』のイメージを見事に形作っているのです。

『ひとりにしないで この鎖は赤い糸でしょ』
『ひとりにしないで バラバラの君を集めても』

 寂しげで透き通るような甘い歌声がフランドールの危うげな少女性を想起させます。そして同時にバックに押し寄せるスクリームから彼女に秘められた暴力性(破壊の能力)と激しい孤独の苦しみも。

 「すごい!!」聴いた瞬間にそんなシンプルな感想が浮かびました。この“絶妙なアンバランスさ”が『かちかち山』の最大の持ち味なのです。

 かわいらしくも激しい感情を内に秘めている少女! 『どうぶつ図鑑』はそんな幻想少女たちの“表には出ない一面”を新たな切り口で表現しているのです。

 さあ、そこの貴方もこの霊峰かちかち山に入山して一緒に遭難しませんか?

 

激しいだけじゃ終わらない。これがエモだ!

02.「ねこのうた」
原曲:遠野幻想物語/ティアオイエツォン(withered leaf)

 『かちかち山』は橙のアレンジ無くしては語れないほどの橙大好きサークルです。その溺愛っぷりは橙Tシャツの製作やTwitterアイコンにも滲み出るほどだったり……。

 そんな橙愛布教団体が打ち出した「ねこのうた」。

 出だしから遠野幻想物語のメロディでエレキギターが掻き鳴らされ、合間のスクリームのパンチも効いています。息もつかせぬ音楽の洪水、そしてスピーディーなメロのVocalに圧倒され続ける一曲です。めちゃくちゃカッコイイ。推しの曲とだけあって気合が入ってます。

 そして高速の展開から急転直下。サビに入った瞬間スピードは落ち、ワンフレーズ毎に重みが出できます。

「もう一度 巻き戻せるなら」
「どうして?離れたくないのに…」

 メロで「もうこんな状態なんだ」と悲壮感のあふれる情景を描写し、重たいサビで「私はこうしたいんだ!!」と激情をぶつけてくる。聴いた瞬間、この緩急で言葉の一つひとつが胸に刺さるようにも感じられました。

 感情の爆発的発露、サビ後に鳴り響く重苦しいリフと魂の絶叫スクリーム……流行り言葉の『エモい』の元、音楽性としての『エモーショナル』がこの瞬間に詰め込まれていると思います。この曲を構成するすべてがカッコイイ。

 この一曲、もしかしたら聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。実は『魔法少女☆マジカルちぇん』のリアレンジ版だったりします。分かる人には分かる。至高の橙アレンジがパワーアップして帰ってきた!! 前アレンジからさらにスクリーム分を加え、マスタリングもより強化されています。

 

03.「こいのうた」
原曲:おてんば恋娘

 「おてんば恋娘」のアレンジといえば、それこそおてんばで元気いっぱいなチルノのイメージが浮かぶかと思います。しかし「こいのうた」はそんな能天気な妖精とはまったく違った表情を描き出してくれます。

「なぜなの 私だけを残して」
「交わしたいくつもの言葉が 凍ったままで今もさまよって」

 おそらくこれはチルノの失恋(おそらく別離)ソングなんでしょう。速すぎず、しっとりとしたバラード調のメロディは“おてんば”とはかけ離れています。

 彼女の明るい印象をまるっきりひっくり返されてしまいますが、不思議と違和感がありません。随所に散りばめられた氷精を思い起こさせるフレーズが効いているのでしょう。

 チルノだって恋に思い悩むことがあるかもしれない。おてんばな妖精も時には寂しさを感じるかもしれない。消滅しない妖精と死んでしまう存在との別れもあったかもしれない。

 ずっしり重く、哀愁漂うギターとドラムも相まってさまざまな「もしかして」に思いを馳せさせてくれる一曲です。終始一人称視点で歌われるのもあってかチルノの心情を想像しちゃうんですよね。

「凍てつく景色はモノクロのよう」
「すべて奪う氷の世界で」

 彼女の特徴でもある氷がマイナスイメージになっているのもまた憎い。死の概念がない妖精だからこそ、いつか別れが来るのだという悲哀を感じさせます。

「あなたが教えてくれた 有限の鮮やかさを」
「凍り付いた 私の心溶かして」

 楽しかった恋の思い出を嚙み締めつつ、最後は前向きな願いで締まります。きっと最後に凍った心は溶け出し、チルノの時は再び動き出したのでしょう。

 

やまのおんがくたい『かちかち山』

 かわいらしいサークル名とは裏腹に暴力的な音源。凄まじいスクリーム。幻想少女にはすべてがミスマッチな構成に思えますが、聴いてみるとそんなことはない。“激しさ”はなにも“攻撃的”という側面だけではありません。

 悲哀あふれる絶叫や高らかに謳う決意、感傷的な回顧だってこの“激しさ”に含まれているのです。

 東方ラウドアレンジを聴いたことがない人にこそ届いてほしい、彼女達の『魂の叫び』。やまのおんがくたい『かちかち山』が織りなす新たな感情を、表情を、この音楽を聴いて全身で感じ取っていただきたい。

 新規入山者をお待ちしております。

 

作品情報

『どうぶつ図鑑』
https://katikatimusic.wixsite.com/kkym-1001

作詞・編曲:かちかち山
作詞・歌唱:めらみぽっぷ(こすもぽりたん)
作詞・咆哮:天舞音 叫子(Vtuber)
調整:ロー(Register6)
絵・題字:ことイナリ(汁うどん)
絵・題字:たかなしみなと(ひよこまめ)

サークル:
かちかち山
https://katikatimusic.wixsite.com/ktktym
https://twitter.com/katikatimusic