東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む
音楽評
2021/02/03

埴安神袿姫の、孤独や憂いに対する嘆きのような一作。『ICONOCLASM』 / 梶迫小道具店

東方アレンジCDレビュー『ICONOCLASM』 / 梶迫小道具店

 郷愁あふれる旋律と、ずっと聴いていたいクラブサウンドが特徴の梶迫小道具店による、昨年の8月に名華祭でリリースされた作品をご紹介します。とんでもないのが例大祭でもなくコミケでもない、名華祭の新譜で出ちゃったぞ!とそんな驚きがまず最初に来た本作品。

 そもそも、東方つよつよアレンジCDというのは、だいたい原作が出てから2年ぐらいしてから出てきがちなものです。
 (東方つよつよアレンジCDとは!原作の世界観をそのままに作品に閉じ込めて、かつサークルの持ち味に落とし込んで、深い解釈の奥行きを添えて的確に我々のみぞおちを狙ってくる危険な作品のこと)

 にもかかわらず、本作品は2020年8月に発表されたもの。2019年5月の鬼形獣発売に対して、1年ちょっとしか経っていません。心の準備ができていませんでした(お腹をさすりながら)。

地獄は、絶望的に広いですよ。

(ぜひ、再生ボタンを押してから続きを読んでほしいです)

 ひとつ話しておきたいのですけれど、東方鬼形獣という“ストーリー”は、そもそも鬱屈としていて信用ならない。

 異変解決に向かう主人公たちは道中を進んでいくステージをクリアしていく中で、動物霊たちに唆され、この道を進んでいていいのか?本当に倒すべき敵はこいつなのか?と不安な気持ちになってくる……そういう物語ですよね。この「ICONOCLASM」からは、そんな不安と独特の焦燥感を感じることができます。

 というわけでこの作品は、サウンドトラックとしてオススメしたい作品でもあります。原曲の世界観重視アレンジ大好きマンの人には特に。

 

 というか、東方鬼形獣をプレイしていてまだ本作品を聴いていない人は、なにがあっても全員聴いてほしい。

 

 音楽作品としては、美麗なジャケットのアートワークからも分かるように、6面ボス「埴安神袿姫」の、孤独や憂いに対する嘆きのような一作。道中曲の広大さ・程よく軽快な疾走感・開放感のある感じが、対となる袿姫の世界の閉塞感と仄暗さを際立たせているのです。

 

 地獄は、絶望的に広いですよ。

 

 このサークルが得意とするヒップホップ調の曲が、主軸となるハウスと、最高潮となるハードハウスを挟んでまとまりのある作品になっているのも、ファンにはたまらないのであります。

 特記したいのは、ボーカルの使い方! このサークルの楽曲の特徴でもあります。「歌唱」というより「音」としての性質が強く感じられる、技法としてはスキャットとかヴォーカリーズと呼ばれるものの一種でしょうか(とってつけた知識)。

 梶迫小道具店の作品では以前からも見られる技法ですが、今回は特にそれが「埴安神という神格」の高尚さや、不気味さを表現するのと噛み合って、怖ろしく美しい音に昇華しています。

 

 動物霊達われわれは、皆これにやられたんだ!

 

地の民に刺され、造形神を崇め奉れ。

 それぞれのトラックについても触れていきましょう。

 

 3曲目『Inauspiciousness』

 『偶像に世界を委ねて ~ Idoratrize World』と『トータスドラゴン ~ 幸運と不運』のアレンジ。やったぜやちけーきだ!(特定の思想)

 神格を表す不気味な一曲です。聴けい聴けい!
 一つ前の2曲目『Insania』が疾走感のある道中曲アレンジなので、この深い穴底を思わせるような3曲目で引きずり込まれる感覚になるのがたまらないですね。
私がフロアDJとして、即売会の会場BGMにこの曲を流したときには「これ何!?」と飛び込んできてくれた人が居て、してやったりで嬉しかったです。

 

 地の民に刺され、造形神を崇め奉れ。 

 

 一番の目玉はアルバムタイトルでもある6曲目『Iconoclasm』

 ジャンルはハードハウスとありますが、畳みかけるメロディのピアノがとにかく印象的な一曲。作って創って造るのみ、造形神の存在価値はそれのみ!というクリエイターズ・ハイを表すような、他の楽曲とは一線を画するアップテンポな一曲が、ここでアルバム全体の印象をガラリと変えます。

 例メロ(例のメロディ=東方のステージセレクト曲やスタッフロールなどでかかっているいつものメロディ)の使い方も、救いのような、境地を超えたものにしか見えない幻のような。聴けい聴けい!

 

 7曲目『Imago』はまた一転して、ダウンテンポな落ち着いた曲。

 東方鬼形獣をクリアした人なら分かると思うんですが、“鬼形獣6面をクリアするということ”には、何か罪悪感やうしろめたさのようなものがあるんですよね。あるんです。あるんだよ。

 そのプレイヤー側のドキッとさせられた不安感と、6面ボス埴安神袿姫が先刻の戦いで砕かれた偶像たちの慣れ果てたとなった粘土をかき集め、また静かな孤独の中アトリエで「Create!」を始める、強き者の余裕のようなものが混ざりあった不思議な曲。

 

 神域を冒しておいて、逃げられると思うなよ?

 

 ーーーー

 梶迫小道具店作品には、他にも鬼形獣アレンジ作品があります!下記作品情報をチェックしてみてください。
 特に、6曲目のハードハウスが好みだった人は、2020年秋のエア京都合同の新譜を絶対オススメします! 

 

作品情報

サークル:梶迫小道具店

https://cajiva.net/
https://twitter.com/cajiva
https://soundcloud.com/cajiva
http://otoyapage.jp/user/cajiva
https://www.youtube.com/channel/UCQzETGmOj_n4Ofbmzh2QBqA

 

『ICONOCLASM』
https://cjvk0058.tumblr.com/

Original:ZUN(上海アリス幻樂団)
Arrange /Remix / Design:梶迫迅八
Illustration:xero(Lunatic+)
Piano Programming(Tr.01):柊秀雪(As/Hi Soundworks / カワテ☆ブクロ)
Piano Programming(Tr.06):tanigon(ついったー東方部)
Vocal / Lyric:あとり(As/Hi Soundworks / カワテ☆ブクロ)
PRINT&PRESS:anoStudio(ANO INC.)

 

委託先:
BOOTH
メロンブックス

ダウンロード販売:
iTunes
BOOTH(ダウンロード販売)

サブスクリプション:
AppleMusic
Youtube Music

 

ーーーー

梶迫小道具店の他の鬼形獣アレンジ作品

『thugs』
https://cjvk0056.tumblr.com/

Original:ZUN(上海アリス幻樂団)
Arrange / Design / Mastering:梶迫迅八
Vocal / Vox / Lyric:あとり(As/Hi Soundworks)
PRINT&PRESS:anoStudio(ANO INC.)
Thanx:TLのカワウソ霊のみんな

委託先:
BOOTH
メロンブックス

ダウンロード販売:
iTunes
BOOTH(ダウンロード販売)

サブスクリプション:
AppleMusic
Youtube Music

 

ーーーー

梶迫小道具店:2020年秋のエア京都合同の新譜

『壱肆壱』
https://cjvk0060.tumblr.com/

Original:ZUN(上海アリス幻樂団)
Arrange / Remix / Design / Mastering:梶迫迅八
Bonus Remix:和泉幸奇(荒御霊)

委託先:
メロンブックス

ダウンロード販売:
iTunes
BOOTH(ダウンロード販売)

サブスクリプション:
AppleMusic
Youtube Music