東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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同人誌評
2023/04/21

「秘密を暴くこと、それこそがレビュー」同人誌レビュー『幻想のレビュー』/四面楚歌

同人誌レビュー『幻想のレビュー』

1.幕が上がる前に

※本レビューでは作品の内容についてネタバレを含みます。ご了承ください。

 ありとあらゆるものが科学で証明された科学世紀に、幻想と不思議を追い求める奇妙なサークルが存在します。そう、皆さんご存知「秘封倶楽部」です。

 彼女らの活動に多くの者が魅了され、これまでもさまざまな二次創作作品や各種イベントが誕生してきました。もはや「秘封」は、東方における大きなコンテンツの一つとして確立されているといっても過言ではないでしょう。

 今回レビューさせていただく秘封小説『幻想のレビュー』を語るにあたって、同名のイベントについても少し触れさせていただきます。

 2022年1月、京都で開催された秘封イベント『秘封シンポジウム』にて、朗読劇『幻想のレビュー/Review Necrofantasia』が公演されました。小説としての本作は、朗読劇の舞台裏で起こっていたとされる出来事が記されたストーリーとなっています。

 両作品ともストーリーに繋がりがありますが、それぞれ独立した作品としても楽しめる内容となっています。小説の方をメインとして読んでもらっても、まったく問題ありません。

『蓮台野夜行』から始まった「秘封倶楽部」の活動は、今年で20周年を迎えました。その節目ということで、作品ジャンルの枠組を超えて楽しむことが出来る、まさに「境界を超える」この作品をレビューReviewさせていただきます。それでは、はじまりはじまり。

 

2.「繰り返し」の開幕

 この物語は、まず「宇佐見蓮子」が相方である「メリー」を殺してしまう描写から始まります。

 しかし、まるで何事も無かったかのように場面は昼のカフェテラスへ移ります。そして、他愛もない話を交わし合う蓮子と「メリー」の二人。まるで殺人など無かったかのような穏やかな雰囲気です。そして、メリーが近頃街で噂になっている、とある都市伝説についての話を持ち出します。

 その都市伝説とは、長らく失踪していた世界の謎を解き明かしたとされる「伝説のオカルトマスター」と呼ばれた人物が復活し、秘密の公演が開かれるというものでした。どうやら選ばれた特別な人間しかその公演には招待されないそうですが、なんとメリーはその招待状を持っているというのです。

 早速その都市伝説の秘密を暴くために、彼女達は活動を始めていくのですが、またしても蓮子はメリーを殺してしまいます。しかし、その後また何事も無かったかのように、カフェテラスでの二人の会話が始まっていく……といった「繰り返し」のような現象が何度も発生していくことになります。

 この「繰り返し」の現象と街に蔓延る都市伝説の秘密、そして蓮子の殺人の真相を追いかけていくというミステリーとループ型サスペンスが融合した物語が、『幻想のレビュー』の大枠のあらすじとなります。

 本作品では、二人の平穏な日常描写が描かれる「昼」パート、蓮子の殺人の描写が描かれる「夜」パートに分けて、二つのパートを交互に繰り返していくといった形で物語が進んでいきます。

 本作は、宇佐見蓮子が相方を殺人をするところから始まるという、序盤から佳境な展開を迎えるわけですが、読み進めていくと「昼」では平和的で楽しそうにメリーと話していた蓮子が、どうして「夜」には殺人に至ってしまうのかといった大きなギャップがミステリー性をより際立たせています。

 面白いのは、この物語が第三者視点ではなく殺人の当事者の蓮子の視点で描かれているところです。これによって第三者視点では捉えることの出来る様々な真相があえて語られることなく、読者である我々に秘匿されたまま物語が進んでいくことになるのです。

 

3.語りReviewであり、演劇Revueである

 さて、ここからはストーリーの根幹の部分に触れていくことにしましょう。

 この作品を一言で表すとするならば、「幻想」に直面した宇佐見蓮子が新たな「幻想」の語り部となるお話です。そこで、この物語のカギを握る「幻想」について少しお話しさせて下さい。

「幻想」になるということは、幻想郷における「幻想入り」のように現実から離れ、記憶から忘れ去られることを意味します。つまり「幻想」とは、「現葬」(現を葬ること)でもあるのです。

 では、もし自分にとってかけがえのない大切なものが「幻想」に至ろうとしている場合、自分の目の前からいなくなろうとしている場合、それを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。

 この問題に対して本作品では、レビューReviewという形で回答を示しています。

 ところで、「レビュー」と聞くと、皆さんはどういった意味を思い浮かべるでしょうか。

 特定の作品に対して、評価を行ったり、感想を述べたりといった所謂「批評」の意味として捉えている方も多いかもしれません。確かにそのような意味もありますが、本作品においては「語り」、つまり不特定多数の人々に語り継ぐという意味としての要素として用いられています。

 つまり、「レビュー」を行うことによって様々な人々の記憶に残り、忘れ去られない状態にすることで、「幻想」に至る事態を妨ぐことが出来るのです。自分にとってかけがえのないものを手放さないために、「語り部」となった宇佐見蓮子によるエゴと愛、それらの感情の表出をひしひしと感じ取ることができます。

 さらに注目すべき点は、「幻想のレビュー」は宇佐見蓮子による語りReviewでもあり、演劇Revueでもあるということです。

「舞台とは矮小化された世界であり、世界とは、肥大化した舞台なのだから」

 作中では、それを示唆するようなフレーズが多数存在しますが、特に「夜」パート、つまり蓮子が殺人をする場面での「光」の描写に注目してみてください。

「スポットライトが私を照らしている」

「スポットライトがあたるとき、その人物は主役になる。ただの主役ではない。世界の主役だ」

 蓮子が殺人を行う場面では、必ず「光」の描写が存在します。つまり、「夜」の行動こそ、彼女にとっての劇の盛り上がり部分であり、この「繰り返し」自体が彼女の一人舞台に過ぎないのです。

 このように、本文中に劇の要素が多数散りばめられていることに加えて、この作品自体が一つの大きな「演劇」としての役割を果たしているのです。

 この「語り」「演劇」がうまく組み合わさることによって、小説という文字媒体でありながらも、まるで舞台劇を見ているかのような臨場感を味わうことができるのです。

 

4.終幕

 改めて、小説版『幻想のレビュー』は、読者自身が謎と直面し、その謎を解き明かしていくまさに秘封倶楽部のように秘密を追い求めることの出来る作品です。それと同時に、紡がれた新たな「幻想」の語り部でもあり、舞台劇の主役でもある「宇佐見蓮子」という人物の二つの側面を観測できる作品でもあります。

 仕掛け要素が仕込まれた奥の深い小説としても、そして幻想という不可思議な存在に抗い続ける少女の物語としても楽しむことが出来るこの作品を、ぜひ手に取っていただけるのならば幸いです。

 そして、このレビューが本作品の「語り部」としての役割を果たせていることを願っています。

 それでは、最後に本作の「レビュー」のフレーズを引用して本レビューの幕を下ろすことに致します。ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

「すでに存在する物語を、掘り起こし、ばらばらにして中に隠された秘密を暴き出すこと。それこそが、レビュー」

 

作品情報

 

作品名:
幻想のレビュー

サークル名:
四面楚歌
http://allenemy.fc2web.com

作家名:
人比良

Twitter:
https://twitter.com/allenemy

委託:
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1461743

人比良さんより、ひとことコメント:
『幻想のレビュー』は、「秘封シンポジウム」さんで実際に上演された朗読劇を元にした小説本です。朗読や舞台、とても良いですよね。
冬コミの新刊である『幕が降りてくる』は朗読・上演を前提とした朗読劇台本合同で、興味がある方はそちらも手に取って頂けると喜びます。

直近の活動状況:
5/8の博麗神社例大祭に参加予定です。秘封総集編とか出るかもしれません。

 

新刊告知

人比良さんより、新刊告知のコメント:
こ22ab 四面楚歌にて、総集編「封花封葬」、書きおろし本「死至祭」、新作Tシャツやアクスタを頒布予定です。