「東方の漫画を読んだら、やきものが好きになった」同人誌レビュー『染付ロマネスク』/ビタミンごはん
同人誌レビュー『染付ロマネスク』
骨董と妖怪は、ちょっと似ているかもしれません。
自分が生まれるずっと前からこの世にあって、
自分がいなくなってしまった後も、きっと同じ姿で残っています。
そしてなぜだか、不思議なちからを、もっています。
これは、本日紹介する同人誌『染付ロマネスク』の巻末において、作者であるはせがわけいたさんが書かれたあとがきである。
朴訥とした語り口が、すっと心に入ってくる名文だ。
あとがきの引用を書評の冒頭に持ってくるなんておかしな話かもしれないが、あまりにも素敵な文章なので紹介させてください。
東方とやきもの。この、少し変わった組み合わせの同人誌をレビューしていきたい。
※本レビューには、『染付ロマネスク』のネタバレが含まれています。予めご了承ください。
うつわの流れつく先
『染付ロマネスク』は東方の漫画でもあり、同時に「やきもの」、すなわち陶磁器の漫画でもある。
そのやきもの成分の濃さたるや、素人目に見ても伝わるだけの熱量がページの随所に込められている。
二次創作において、「お題」がはっきりしている作品は魅力的に映るものだ。そうした点において、『染付ロマネスク』は100点の同人誌といえる。
冒頭における鈴仙とてゐの会話シーンから抜粋。個人的にも特に好きな頁で、このやり取りだけで両者の価値観の違いが見て取れる。
はせがわさんの、こうした会話の間の取り方は実に見事で、てゐが返答する前に一拍置くふきだしや、「眺めるのよ」と返す鈴仙がばつの悪そうな表情を浮かべるところなど、「そうそう、これがビタミンごはんだよ」と頷くばかりだ。
ストーリーにも目を向けていこう。
無縁塚に流れ着いた大量の陶磁器。それらを拾った霖之助のもとに魔理沙が訪れる。
無縁塚は幻想郷の外の世界で忘れ去られたものが流れ着く場所だ。一見すると見事な出来栄えのうつわたちが、なぜこんなにも流れ着いたのか。
結論から言うと、これら大量のうつわはすべて贋作である。
うつわをまじまじと眺め、何かに気づいたような険しい表情になる魔理沙。そこに現れた紫が「外の伊万里は『骨董』になったのです」「なってブームが去った…かな?」と告げる。
魔理沙は露骨に不機嫌になった
陶磁器というものは、食器や壺としての用途と同時に、美術品としての側面を持っている。むしろ、ブームの背景にはその側面が強く押し出されていたのかもしれない。そうした中で、人を欺くために作られたうつわはしかし、ブームの終焉とともに需要を失ったということだ。
美術品において、贋作は避けては通れない問題である。近年(といっても6年ほど前だが)では、国宝級とされる曜変天目茶碗の鑑定結果が論争にまで発展したケースもある。
舞台が香霖堂であることや話のオチも含めて、どこか小説の「東方香霖堂」めいた趣の本書だが、その中において、感情を剥き出しにするのが魔理沙だ。
魔理沙にとって(もちろん霖之助や紫にとってもだが)、偽物のうつわは到底許容されるものではないだろう。
道具店の生まれでもあり、スペルカードにおいて模倣を行う魔理沙にとって、「本物と偽物」には彼女なりの矜持があるのかもしれない。本書において、怒りを表明するキャラクターが魔理沙であるのは、とても自然なことであるように感じる。
そして、この魔理沙の感情の発露は、作者であるはせがわさんの声でもあるように思われた。偽物それ自体より「偽物が作られてしまうこと」への怒りが、そこには見て取れた。
皿の形
無縁塚に流れ着いた偽物のうつわ。これを前に魔理沙が提示した解決策、それが本書のオチとなるのだが、これがとても気持ちのいいオチとなっているのでぜひ読んでほしい。実に幻想郷的な、あるいは霧雨魔理沙的な落としどころとなっている。
これは、冒頭での鈴仙とてゐの会話に対するアンサーにもなっており、うつわの本質を最後に示すとともに、魔理沙の笑顔をもって幕を閉じる。
本書に記載されている参考文献の数からも、はせがわさんのやきものへの愛情が感じられる『染付ロマネスク』。
読み終えたあとの晴れやかな気持ちとともに、やきものが好きになる漫画です。
作品情報
作品名:
染付ロマネスクサークル名:
ビタミンごはん作家名:
はせがわけいたTwitter:
https://twitter.com/kt_hasegawa委託:
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=8880はせがわけいたさんより、ひとことコメント:
魔理沙の「霧雨のお嬢さん」なところを、霖之助たちと絡めて描けて、お気に入りの一作です。直近の活動状況:
オリジナルの同人ゲームを制作・公開中です。
並行して、アリスが主人公のゲームも構想中。