東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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同人誌評
2022/06/21

「それ、東方でやる必要、あるんです」同人誌レビュー『秘する眼と装飾品』/NMN store

同人誌レビュー『秘する眼と装飾品』

それ、東方でやる必要ある?

 いきなり過激な見出しから始まったが、まずは聞いてほしい。

 今でこそ聞かなくなったが、かつて、東方Projectの二次創作を揶揄する意味で「それ、東方でやる必要ある?」といった文言が使われていた。

 早い話が言いがかりに近いものなのだが、ここには、二次創作における改変について、なんらかの必然性を求めようとする心理があるように感じる。

 世の創作はおしなべて、何かしらの先達の模倣であると言ってしまえばそれまでだが、二次創作はパロディであることを明示している。その点において特殊な文化でもあり、だからこそ、上述のような声があがること自体は頷ける部分もある。しかしながら、そこにはより根本的な視点がない。それは、「そもそも何故、二次創作をするのか」の動機についてだ。

 二次創作とは何ぞや。何のためにそれをするのか。誰のためにそれをするのか。センセーショナルな導入となりはしたが、この記事で伝えたいことはつまるところ、そういう話だ。そう、すなわち、二次創作における「必要」の話である。

 

眼鏡、ああ、それはなんと美しい

『秘する眼と装飾品』NMN storeより引用

秘する眼と装飾品 | BOOTH

 フェティシズム。

 特定の対象への偏愛を意味するこの言葉は、日本では「フェチ」と略され、浸透している。そのフェティシズムから、あえてメジャーどころを挙げるとするならば、眼鏡フェチは間違いなく上位に位置するだろう。

 同人創作の文化においても、眼鏡にまつわるフェチを表現した作品は数えきれないほど存在する。本日紹介する同人誌『秘する眼と装飾品』もまた、眼鏡に関する作品となっている。

 

 本誌で蓮子とメリーのふたりが掛ける眼鏡の数々は、まるで実在する製品のようなリアリティを有している。スクエア型の冊子もカタログを意識した構成となっており、見目にも美しさが感じられる。

 一口に眼鏡と言っても、そのデザインは千差万別だ。小ぶりな楕円形のオーバル、六角形のヘキサゴン、フレーム上部が直線となっているクラウンパントといった形状の多様さに加え、フレームや材質、レンズにも違いが出る。

『秘する眼と装飾品』NMN storeより引用

編註:
東方ステーション内で本誌を紹介した際、クラウンパント等の、眼鏡の形状を表す名称をブランド名であると紹介しておりました。
本誌で描かれている眼鏡は、架空のものとなっています。
番組内での誤った紹介につきまして、お詫び申し上げます。

 この多様さは、眼鏡を補助具として捉えるだけなら、本来は必要のない要素であるはずだ。しかしながら、視力を補うための道具に過ぎないそれに、人はいつしか機能以上のものを見出すようになった。

 否応にも他者の視線がとまる顔という部位において、眼鏡の有無が与える印象の変化は大きい。だからこそ、人は眼鏡にこだわりを持つ。伊達眼鏡も含めて、ファッションとしての眼鏡もまた、それをかける当人にとっては充分すぎるほどに「必要」なのだ。

『秘する眼と装飾品』NMN storeより引用

 機能としての眼鏡と、装飾としての眼鏡。

 フェティシズムに理由を求めるのも野暮ではあるのだが、眼鏡におけるフェティシズムをあえて言葉にするのなら、それは、道具としての機能美と、装飾品としての造形美の両立にこそあるのかもしれない。

 

それ、東方でやる必要、あるんです

 ここで、最初の問いに立ち返ろう。二次創作における必要性を問うのであれば、その必要性の所在は作者の中にある。

『秘する眼と装飾品』NMN storeより引用

 東方キャラクターにさまざまな眼鏡を掛けたいなら、霖之助や菫子がいるではないか、という話ではないのだ。この作品においては、「秘封倶楽部のふたりが」「眼鏡を掛ける」ことこそが重要なのである。要素として分解した場合、本誌は「秘封倶楽部」「眼鏡」の属性に分けられる。少なくとも作者にとって、それらの要素は本誌を制作するにあたって欠くべからざるものだったはずだ。その動機は、創作という行為において何よりも優先される理由になる。

 そう、作品が作られる過程の、その動機の中に「必要」はすでに存在していた。そしてまた、それを手に取った読み手にも、同じ「必要」があったはずだ。

 最後に、作者であるぬめのさんが作品内に綴った言葉を引用して、記事の結びとしたい。

 

「補助具としてはもちろん、装飾品としても魅力的な眼鏡が、私は大好きなのです」

 

作品情報

作品名:
秘する眼と装飾品

サークル名:
NMN store

作家名:
ぬめの

Twitter:
https://twitter.com/nununumeno

ポートフォリオ:
https://www.foriio.com/numeno

委託:
https://numeno.booth.pm/items/3369547

ぬめのさんより、ひとことコメント:
大好きな秘封倶楽部に、大好きな眼鏡を合わせた本にしました。構成など細部までこだわりました!

直近の活動状況:
イベントは9月京都秘封、10月秋例に参加予定です。秘封新刊も制作中です!