「ガンパレ」で有名な「無名世界観」のオンラインゲームで「共和国の大統領」になった結果、「東方Project」をTCGにすることができた、数奇な出会い
是空とおる氏インタビュー【中編】
「博麗神社崇敬会の代表」「東方やおよろず商店立ち上げ」「よくMCで見る人」など東方の周辺だけでも様々な顔を是空とおる氏のインタビュー連載。東方に関わることになったきっかけや、同人作家だった青年時代、そして「アスカのマネージャーのシンジ君」だった頃、様々な話が前回でも飛び出しました。
中編は東方と関わるきっかけになったプレゼンの場面での驚きの一幕や、それにも関係する「アルファシステム」のゲームのスーパーなプレイヤーであった時代などが語られます。
前編 「昭和最後の??」、是空とおるとは何者なのか。「博麗神社崇敬会」の結成、エヴァでは「アスカのマネージャーのシンジ君」そしてグッズ会社の経営者…!?
<プロフィール>
是空とおる
(ぜくう・とおる)本名は高野信二。漫画家 → 雑誌ライター → 編集 → 声優マネージャー → トレカ開発(ハドソン)→ 会社設立(グッズメーカー「アクシア」代表)という異色経歴は全部書けない。MCやパーソナリティも務める二児のパパさん。コミケ参加も約30年というキャリアで原作・脚本などの代表先は「式神の城」「四季使い」「トリニティ・ヴィーナス」「TRPG書籍各種」。アニメ原案では「えとたま」などがある。オタクビジネスの最先端に立ちすぎて「昭和最後のゴロ」という不名誉な名称を与えられるが、本人的には「誉め言葉」と捉えて今日も「立派なゴロ」を目指して邁進している。好きな東方キャラはレイマリ&お姉さん系らしい。
自分の知らないうちに、声優トレカを作る仕事が決まっていた
是空氏:
宮村優子さんのマネージャーをそろそろ辞めるという時に、木谷さんに食事に誘われて出かけていったら、そこになぜかハドソンの会長が座っていて。「じゃあ来週から来てくれ」と、僕の知らないところで電撃トレードの話が行われていたんですよ(笑)。
——それはスゴい(笑)。それで、どこに行かれたのですか?
是空氏:
ハドソンのグループの中に「未来蜂歌留多商会」【※】というトレーディングカードを扱う会社があって、そこで声優さんのトレーディングカードを作ることになっていたんです。後に僕が『ARTIST COLLECTION』と名付けたんですけど、それを「担当しろ」と言われたんです。
※「未来蜂歌留多商会」
株式会社ハドソンの子会社で、1997年に株式会社フューチャービーとしてトレーディングカード事業を開始した後、1998年に未来蜂歌留多商会に名称を変更した。トレカショップ「フューチャービー」を展開するとともに、オリジナルのトレーディングカードやカードゲームも制作している。2005年にハドソンがコナミの子会社となった後、2006年に同社は清算されている。
——それまでにトレーディングカードやカードゲームを扱ったことは?
是空氏:
『マジック:ザ・ギャザリング』は遊んでいましたけど、仕事として関わったのはこの時からですね。
それで未来蜂歌留多商会に入って、声優トレカの企画を引き継いだら、その時点ですでにマイナス1億円ぐらいの赤字が出ていることが分かったんです。事務所やカメラマンにお金をいっぱい払っているにも関わらず、写真チェックをぜんぜんしていなかったりして。
グラビア業界では、タレントさん本人の写真チェックはないんですよ。写真選びはあくまでカメラマンが決めたり、マネージャーが決めたりするものですが、事務所にすら見せてないのは大問題です。それで、すでに印刷が始まっていたのを「このままだとヤバいですよ」と事務所さんにチェックに出したら、すごい数のリテイクが入って、印刷がやり直しになったりして。
——そのあたりは、宮村優子さんのマネージャーをやっていた時の経験が活きたわけですね。
是空氏:
そうですね。で、この赤字をどうやって取り戻したらいいだろうかと僕なりに考えて、「コミックマーケットに企業ブースで出展しよう」と。ちょうどコミケに企業ブースができはじめた時期だったので。
1998年の冬コミから、企業ブースに「未来蜂歌留多商会」が参加しているんですけど、その時に僕が作ったのが『VIP(Venus in Paradise)』という、人気作家さんのイラストを使ったトレーディングカードです。これが1999年、2000年と大ヒットして、コミケだけでさっきの赤字を取り返すぐらいの勢いになりました。
そうすると今度は、木谷さんから「何をバカ当たりしてるんだ」って怒られるという(笑)。「『アクエリアンエイジ』【※】を作ってるのを知らないのか。手伝え」ということで、『アクエリアンエイジ』も手伝うことになりました。「未来蜂歌留多商会」には、その後も数年間いるんですけど。
※『アクエリアンエイジ』
ブロッコリーから1999年に発売された対戦型トレーディングゲーム。オリジナルの世界観に基づいて、美少女キャラクターの持つ潜在能力を引き出して戦うという、ストーリー性のあるゲームプレイが特徴的だった。後には男性キャラクターや、既存のアニメ作品に基づくエキスパンションも登場したほか、TVアニメ化や実写映画化などの展開も行われたが、2015年に商品展開を終了している。
『ガンパレード・マーチ』にハマって熊本に通ううち、『式神の城』に関わることに
是空氏:
そうやって『VIP』を作ったり、『アクエリアンエイジ』を手伝ったりしている最中の2000年に、PlayStationで『高機動幻想ガンパレード・マーチ』【※】というゲームが発売されまして。僕はそれに、個人的に大ハマリしてしまったんです。
※『高機動幻想ガンパレード・マーチ』
2000年にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されたPlayStation用シミュレーションゲーム。謎の生命体「幻獣」との絶望的な戦いに動員された学徒兵「5121小隊」の日常と戦いを、さまざまな形で体験できる。本作は第32回日本SF大会星雲賞メディア部門を受賞している。
——『ガンパレ』にのめり込んだのは、どういったところですか?
是空氏:
ゲームシステムのスゴさと、やり込み度の高さですね。当時のゲームシステムで「なんでもできる」というのがスゴかったんです。キャラクター的には、原素子というキャラにハマっていくんですけど、『ガンパレード・マーチ』のことを知れば知るほど、裏設定がどんどん出てきて。僕もオタクなので、裏設定をここまで上手くゲームに入れ込んでいるのは、本当にスゴいなと思いました。
そのゲームを作っているのが、アルファ・システムという会社だということで、紹介してもらって、2000年のうちにはアルファ・システムのある熊本まで遊びに行きました。
——さすがに行動が早いですね。
是空氏:
それでアルファ・システムさんとは、どんどん仲良くなっていきました。『ガンパレ』にハマった漫画家さんとも一緒に熊本旅行しました。『ブラックラグーン』を描く前の広江礼威さんだとか。
後に『がっこうぐらし』などを生み出す作家の海法紀光さん【※1】と初めて会ったのも、熊本の「味のれん」という居酒屋ですね。海法さんはその時、『幻世虚構・精霊機導弾』【※2】というガンシューティングゲームをずっと遊んでいて、「なんだアイツ?」と思っていました(笑)。
当時のアルファ・システムがスゴかったところは、『ガンパレ』だけじゃなくて、今言った『幻世虚構・精霊機導弾』だとか、『式神の城』【※3】とか、アルファ・システムの作ったいろんなゲームが全部、裏設定でつながっているんですよ。「この設定はいったい誰が作ったんだろう?」と思っていたら、そこで初めて芝村裕吏さんにお会いしたんです。
※1 海法紀光
『式神の城』をはじめとするゲームのノベライズをはじめ、アニメの脚本、アメリカンコミックの日本語訳など、多彩な方面で活躍している。TVアニメの『がっこうぐらし!』では、原作とシリーズ構成を手がけている。
※2 『幻世虚構・精霊機導弾』
1997年にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されたPlayStation用ソフトで、ガンコントローラを使用してプレイするシューティングゲーム。アルファ・システムが開発を担当している。
※3 『式神の城』
2001年にタイトーからリリースされたアーケード用縦スクロールシューティングゲーム。2003年に『式神の城II』、2006年に『式神の城III』が、それぞれアーケードで登場している。また2005年には『式神の城II』と『式神の城III』の間のストーリーを描いたアドベンチャーゲーム『式神の城 七夜月幻想曲』が、PS2で発売されている。いずれのゲームも、アルファ・システムが開発を担当している(『式神の城III』はスコーネックとの共同開発)。
——『ガンパレード・マーチ』のキャラクターAIを作ったり、背景設定となる「無名世界観」【※】の構想を考えられた方ですね。現在ではゲームクリエイターとしてだけでなく、作家や漫画原作者としても活躍されていて。
※「無名世界観」
『高機動幻想ガンパレード・マーチ』『幻世虚構・精霊機導弾』『式神の城』といったアルファ・システムのゲームの各世界は平行世界としてつながっており、互いに影響を与えあっているとされる世界観。ゲーム以外に、アルファ・システムの公式ホームページに掲載されたWEB小説や、芝村裕吏氏が主催していたオンラインゲームなども、この世界観に含まれている。
是空氏:
芝村さんは、オタク少年が一度は絶対に考えるような設定を商業クオリティの高次元空間で具現化していて、本当にスゴい人だなと思っています。
そんな感じで熊本にほぼ毎月遊びに行っていたら、アルファ・システムの中でも僕に対する信頼度が少しずつ上がっていったみたいで。のちに『式神の城』のコミカライズが出るという話になった時に、アルファ・システムさんから逆指名みたいな形で、僕に声がかかったんです。
『東方紅魔郷』は『式神の城』のオマージュだと思い込んでいた
芝村裕吏氏のゲームに参加していたおかげで、ZUNさんに対面できた!?
——是空さんは、アルファ・システムや芝村裕吏さんが作られたゲームで、プレイヤーとしてもかなり有名な存在になったと聞いているのですが?
是空氏:
そうですね。僕か、海法紀光氏か、というぐらいには(笑)。
——多くのプレイヤーのまとめ役として活躍されたこともあるとか?
是空氏:
それは芝村さんがアルファ・システムを辞められた後に主催している『電網適応アイドレス』というオンラインゲームですね。休眠状態ですが現在も継続中です。
——それはどういったゲームなのですか?
是空氏:
BBSやチャットを使ってテキストやイラストで進行する、インターネットを使ったテーブルトークRPGみたいなゲームなんですけど、最大時は2000人ぐらいが同時に参加していました。
プレイヤーはそれぞれ、好きな王様の国民になるんです。……まぁ、自分が王様になっても良いんですけど。重要なのは、自分がどんなキャラクターで、どんな武器を持っているのか、設定文やイラストも全部、自分で作るということです。そうすると、それをゲームマスターがチェックして、それに合った能力値をつけてくれるんです。それで戦ったり守ったりする、国作りゲームですね。
ゲーム全体では40カ国ぐらいあったので、そこでまず王様のプレイヤーが40人ぐらいいて、そこにそれぞれ紐付く国民のプレイヤーがいると。さらに、国に所属していないプレイヤーも山のようにいて。そのゲームの中では帝国と共和国の対立構図などもあるんですけど、僕は「FEG(フィールド・エレメンツ・グローリー)」という国の代表、および共和国の大統領を、「是空とおる」そのままの名前でやらせてもらってます。
——共和国の大統領ですから、そこに所属する大勢のプレイヤーを率いる立場だったわけですね。
是空氏:
そうですね。ちなみに『アイドレス』では、海法紀光が「海法よけ藩国」という国の藩王、つまり王様をやっていたのですが、じつはその「海法よけ藩国」の国民の中に、ニコニコとZUNさんを繋いだ人がいたんですよ。本当にたまたまネットゲームで一緒に遊んでいたんです。
——えっ!? そんな偶然ありますか?
是空氏:
そうなんです。2009年に僕が「アニサマ」の会場でZUNさんを訪ねて行った時に、なんとその方もZUNさんと一緒にいたんですよ。それでZUNさんに「この人なら大丈夫ですよ」と紹介してくれて。僕としては「ありがたいけど、なんでだろう?」と思ったら、プレイヤーネームを聞いて「あっ、君か!」と。
——それはまた、ものすごい奇遇ですね。
是空氏:
『アイドレス』で大統領として行動する僕のことを見てくれていて、それでZUNさんにも「彼は大統領だから大丈夫ですよ」と言ってくれたのは面白かったですね(笑)。もちろんそれだけでなく、彼のほうが僕のことをいろいろと知っていたらしく、きちんと「彼は同人でも商業でも活動してる人なので大丈夫ですよ」と説明してくれたのが決め手だったようなのですが。
——「大統領」は信用できますね(笑)。もちろん仕事の経歴があってのことだと思いますが……!
「世界の謎」を追っていくことで、“痛いオタク”としての夢を具現化できた
30歳を前にして、自分自身の会社を起業
——話の順番がちょっと前後しましたが、アルファ・システムさんと親しくなって熊本に行くようになったのが2000年〜2001年ですから、是空さんはまだ20代ですよね?
是空氏:
そうですね。僕はだいたい5年周期で、大きな出来事が起きるんです。19〜20歳で漫画家デビュー、25歳で宮村優子さんのマネージャーと未来蜂歌留多商会への入社で、30歳手前の29歳の時に、アクシアを起業しているんです。
起業した理由としては、会社としての名刺を持っていないと、自分が次の段階にいけないと思ったんです。アルファ・システムにはこの当時、『ガンパレード・マーチ』がヒットしたので、有象無象の人たちが押し寄せてくるわけですよ。たとえ自分よりも経験の浅い編集者だとしても、大手出版社の名刺を持ってやってきたら、やっぱりそっちが優先されちゃうんです。名刺がフリーランスの個人名だと、不利なことしかなくて。「こいつは悔しい、ダメだな」と思って、社長という肩書きを持っておこうと考えたんです。
——会社を起業された時点で、未来蜂歌留多商会からは離れられているのですか?
是空氏:
離れていますね。というか、そもそも履歴書すら出していないんですよ。本人の預かり知らないところで入社が決まっていたので。
未来蜂にいた頃は、ハドソンの会長の直下に高橋名人がいて、高橋名人が僕の上司だったんです。それでいろんなトレーディングカードを作っていました。L’Arc-en-CielとかGLAYとかGACKTとか、ビジュアル系バンドの方々のトレカなんかも作ったりして。
——起業した当時のアクシアは、どういう会社だったのですか?
是空氏:
この時までにできている人脈を考えて、グッズやトレーディングカードを作るメーカーにしました。特にトレカに関してはブームの時期だったので、さっそくアクアプラスさんと『To Heart 2』のトレーディングカードを作らせてもらいました。
あとはイラストレーターさんを紹介する仕事に注力しています。商業でイラストレーターさんに声をかけるというのは、未来蜂の『VIP』の頃から始めて、今でもやっていますから、もう20年以上続けていますね。
——具体的には、どういうことを?
是空氏:
「このメーカーのイラストを描きたい」と思っている作家さんがいたら、「それを同人ではなくて商業でやりましょうよ」と声をかけるんです。「ちゃんとメーカーから公式に認められた状態でやりましょう」と。やっぱりメーカーに還元しないと、そのメーカーが生き残らないので。あとはグッズやトレーディングカードと、アンソロジー本にも注力することにしました。なので、編集プロダクションみたいなこともやっていますね。
——オタクという場所をずっと続けていくためには、ユーザーも作家も版権元も、みんなが幸せな状態にしなければいけないということですか?
是空氏:
その通りです。東方Projectにしてもそうで、仮にZUNさんが「何をやってもいいよ」と言ったとしても、僕はそれを真に受けてはいけないと思っているんです。他人様が作っている作品であり世界観なので、作品に対する想いや知識、リスペクトがなければ、商品を作ってはいけないと思っています。そのリスペクトが、タイトルをさらに広げる作業になるので。IPの消費ではなくて、生産につながるものじゃないとダメだと思っています。これが僕らの仕事の難しいところで、残念ながら消費になってしまうこともしばしばです。
中編では東方とそれまでのオタクとしての生き様が重なる一瞬をはじめ、ここでしか聞けない話がたくさんでしたが、明日更新予定の後編は、「超東方LIVEステージ2018」を是空さんが手掛けるにいたる経緯などが語られます!
コラム:同人誌即売会の“失敗”が、会社の起業につながった
「ガンパレ」で有名な「無名世界観」のオンラインゲームで「共和国の大統領」になった結果、「東方Project」をTCGにすることができた、数奇な出会い おわり