東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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落ちない!溶けない!泡立たない!脳裏にこびりついて離れない。石鹸屋魂のサウンド

落ちない!溶けない!泡立たない!脳裏にこびりついて離れない。石鹸屋魂のサウンド

 幽閉サテライトのターンが終わり、落ち着きつつも静かな熱を湛えるフロア。ヘトヘトになりながらも幸せ、夢心地のようです。いよいよ残すはCOOL&CREATEと石鹸屋。

 両者ともに東方アレンジで最古参の伝説的存在で、クラブチッタでのライブ経験も豊富です。どちらが先にくるのか、まったく読めない展開になってきました。

『つなぐ、つながるーーー!』
『東方ーーーー!』

 MCの掛け声とともにいよいよ始まるステージに、緊張感が高まっていきます。

 そして流れ始めるアタックムービー。観客も、やって来る衝撃に備え、固唾を呑んでスクリーンを眺めていました。腹の底から響くキックの低音が、胸の鼓動を加速させていきます。そうしてスクリーンに映し出されたのは……

 

文:ベルクート
撮影:るぅく

受け継がれる 石鹸屋のコール&レスポンス

『石鹸屋』の文字に、待ってましたとばかりにフロアからは大歓声。

 彼らのおなじみの登場曲『LIVE PHANTOM』のギターが鳴り響きます。これが、何度聴いても恰好良い。そして熱い! Gt.小林ヒロト、Ba.内山博登、Dr.hellnian。メンバーが現れるたびに、どんどん過熱していくクラップと掛け声。

Hey! Hey! Hey! Hey! Hey!

 そして最後に颯爽と現れる、Gt.&Vo.秀三氏。今回の若者性癖破壊コスは紅美鈴だ! 露出は少なくとも、豊満なボディラインが妖艶。歓声もより一層高まります。登場しただけで熱狂するフロアを見て、いかに石鹸屋が待ち望まれていたか、その熱量が伝わってきます。

 まだ何も始まっていないのにすでに燃え上っている……『みんなペース配分は大丈夫なのだろうか?』そんな心配が頭をよぎりましたが、狂ったように手を叩き、声を出している自分に気付いて『まぁ、そうなったら潔く死のうか』と自己解決しました。

 一曲目には何がくるのか。緊張か、期待か、うれしさか、さまざまな感情が入り混じって、爆発しそうです。心臓バクバクドキドキのなか、とうとうhellnianさんがドラムを叩き始めました。

 そして聴こえてきたフレーズは

id恋し いと恋し 言葉でお願い

『id恋し いと恋し』だぁぁぁぁぁぁぁぁ! 任せろ、いつだって準備はできてるぞ!

 脳内には“id恋し いと恋し言葉でお願い”のフレーズが鳴り響いています。頭のなかはこいしでいっぱい。このスタートダッシュに乗り遅れまいとアップし始めたフロア。焦らしに焦らしたドラムの音に、会場全体に響くクラップも次第に勢いを増していきます。

id恋し いと恋し 言葉でお願い

<id恋し いと恋し 言葉でお願い>

 秀三氏の声に秒でレスポンスするフロア。それも声がクリアに聴きとれるレベルの揃い方です! 本当に久々の声出しid恋しなのでしょうか。コロナ禍のブランクを感じさせない盛り上がりようです。それに応えた秀三氏はもちろん、

えーりん!えーりん!

<(゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!>

 はっ、脳髄反射でやってしまった……いつものおふざけタイムで妙な緊張感が吹き飛んでしまいました。一音目から全員見事な<(゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!>で笑いが止まらない。

 そうそうこれこれ! これが石鹸屋のライブなんだ! そして、一通りふざけ倒して準備運動を済ませた我々に、いよいよこの瞬間がやってきました。

id恋し いと恋し 言葉でお願い

<id恋し いと恋し 言葉でお願い>

id恋し いと恋し 言葉でお願い

<id恋し いと恋し 言葉でお願い>

 もうこれしか歌えない。ずっと待ってたんだ!このときをよぉ! 一曲目から形振り構わずフルスロットル!すでにしんどいですし、死にそうですが、叫ぶのをやめられない。ここで叫ばなくてどうする!

そうだ そこにいるあなた

私の家に来ない?

人の形やめちゃえば

ずっと楽しく暮らせるよ

 わかりましたあああああ!! 人間やめま~~~~~~~す!!!! 

 もう止められない。誰も彼もが、壊れたラジオのように同じフレーズを叫びました。そこに明滅するステージライトと加速するドラムが追い打ちをかけ、フロア側もどんどん加熱していく!

id恋し いと恋し 言葉でお願い

<id恋し いと恋し 言葉でお願い>

id恋し いと恋し 言葉でお願い

<id恋し いと恋し 言葉でお願い>

 フロアの緊張感を解放し、あっという間にフロアの心を鷲掴みにした『id恋し いと恋し』は大量の犠牲者を出しながら嵐のように去り、そして

『待たせたな石鹸屋だ!』

 秀三氏の放った決まり文句に、全力の歓声で返すフロア側。ええ待ってました!待ってましたとも! そしてMCもおざなりに、熱が冷めやらないうちに次の曲を畳みかけます。

瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!

瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!

 二曲目は『さっきゅんライト』! ステージ側の電光石火の歌い出しにも対応してくるフロア側。会場が怒涛の『瀟洒』コールで埋め尽くされました。

夢幻 絡繰の奇術師

操り人形 手繰る指先

 そして10秒足らずで入るサビに、フロアも即座に反応します。サビに入ったその瞬間、人がピンポン玉の様に跳ねる様子は壮観です。

 MCから突然トップスピードになる石鹸屋ステージに『何も変わってない』と安心感を抱きました。ドでかいライブハウスで、みんなと一緒にバカみたいにジャンプできる。『瀟洒』と叫べる。『遠い存在になっていた世界が、今ここに戻ってきたんだ!』そう実感した瞬間、赤坂BLITZの『石鹸屋 LIVE DOJO 2015』の開幕さっきゅんライトを思い出してウルっときてしまいました。歴戦の石鹸屋ファンの方々も、Flowering Night 2011など、いつかのライブシーンを思い出した人もいるのではないでしょうか?

 今回のライブは『20代以下の人』と聞かれて挙手していた人も多く、目測で9割を超えており、同じように『初めての人』も半数近くいました。今この瞬間が、彼らにとっての忘れられない最初のステージになることでしょう。

 経験者は『声出しの石鹸屋が帰ってきた!』
 新規層は『声出しってこんなにすごいのか!』

 それぞれの違いはあれど、ただひとつ確かなことがあります。それは、今この場でライブ歴もファン歴も関係なく、全員が揃って『瀟洒』と叫び、サビでジャンプしていること。最高に楽しいだろ!?

 声出し東方ライブ、やっとここまでこれた。この幸せを噛みしめながら泣き笑い、必死にジャンプしていたら、一瞬で語りパートまで来てしまいました。本当に、楽しい時間は短い。

<HEY!メイド長!>

狂リ狂リくくり付けて

クルリクルリ狂い出す歯車

<HEY!メイド長!>

咲いて咲いて切り裂かれて

刺して咲かせて最期にサヨナラ

 が一心不乱に手を挙げ、秀三氏に向かって叫びます。<HEY!メイド長!>

 しかし美鈴コスで咲夜さんの歌を歌うとはこれいかに。世界美咲劇場でしょうか。一瞬、Kugi氏の東方手書き動画『さっきゅんヘアメイク』のラストシーン、美鈴と衣装を交換しちゃう咲夜さんを思い出しちゃったり……そういうことなのでしょうか?

 いろいろと想いを巡らせているうちに、『さっきゅんライト』は後半の追い上げへ。小林氏が振り上げるギターに、フロアも沸き立ちます。

瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!

瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!

瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!

瀟洒!瀟洒!瀟洒!瀟洒!

 最後まで叫べ!跳ねろ!拳を振り上げろ! ラストまで一気に駆け抜けます。ラスサビの耐久ジャンプ、激エモギターパート、そして最後の『瀟洒』を叫び終えた瞬間、体力を使い切ったと思いきや……

 興奮もそのままに、シームレスに次の曲につながりました。鳴り響くは原作タイトル画面のいつものメロディー。そして、石鹸屋でこのメロといえば萃夢想だ!

 三曲目『東方萃夢想 ~saigetu~』。

 最後にやることが多い曲なので完全に不意打ちでした。ギターから鳴り響く静かなイントロに、先ほどの狂喜乱舞の世界は鳴りを潜め、フロアは静聴体制に入りました。Gt.小林氏の表情をチラリと伺うと、『どうだ?』とでも言わんばかりにニヤリとしています。やられた! 体力的にはクールタイムですが、我々の琴線にはクリーンヒットです。

 この曲は、数々の石鹸屋ライブでトリを務めてきたきた名曲。思い入れがある人はたくさんいるでしょう。そして、その人ごとに感じた物語とライブシーンの思い出があります。ふと観客席を見やれば、微動だにせず耳を傾ける人や、静かに握りこぶしを作る人、ゆっくりと頷く人など、さまざまな反応が見受けられました。そして、

ただ強く在り

<故に遠くあり>

 このコール&レスポンスだけは忘れられない。魂に刻み付けられています。筆者はもうこのあたりで限界でした。ポロポロと涙が零れてくる。とってもひどい顔になってたと思います。替えのマスクが無かったら大変でした。

永い 夜が 明ける

 ヴォーカルパートを終えようとも、私たちの萃夢想は終わりません。アウトロでは、一音一音噛み締めるようにシンバルを叩き、一発ごとに空を仰ぐhellnian氏が印象的でした。CD音源よりもずっと永く続く、ライブならではの余韻がたまりません。

 そして永い夜が明け、MCタイムへ。

\石鹸屋/ \石鹸屋/ \石鹸屋/

 思わずニヤリとしてしまいました。隙があればすぐこれです。石鹸屋恒例、MCタイムに挟まれるなんの脈絡もないフロアからの石鹸屋コールです。でも、ずいぶん久しぶりな気がします。クラブチッタでこれができるだけでも最高にうれしい。蘇った“いつものやつ”にしみじみしていると

「いけるかお前らぁぁぁぁ!」

「いくぞ!!!!」

 秀三氏が吠えました。MCタイムが非常に短い。でもそれで良いのでしょう。フロアを見渡せばわかります。誰もが、眼を爛々と輝かせ、赤いオーラを放っています。言葉は不要!『焚き付ける必要なんてないな』といわんばかりにそのままの勢いで次の曲へ。

 この細かく刻まれたギターは……『EX妖魔疾走』だ!!

 アンセム曲に次ぐアンセム曲で攻めてきました。さきほど『東方萃夢想 ~saigetu~』で夜は明けたようですが、なんともう一夜遊べるそうです。ライブ二日分の体力が消し飛ぶ!全部ここに置いていけ!

声を張り上げて 月に手をかざし

謳え 終わらない宴を

夜を駆け抜けて 月明かりの下 踊ろう

 クラブチッタ全体が、サビの歌詞通りの状態になってました。そして完璧に統率されたサビの高速腕振りワイプが炸裂!腕がちぎれそう! でもやめられません。楽しすぎる! 若い人が多いはずなのに、こうも動きがピッタリ合うとは……訓練されていますね!?

 サビのあとの間奏には内山氏のベースと小林氏のギターが前面に押し出されます。くぅ~カッコイイ! 加えてhellnian氏のドラムがどんどん追い上げてくる! 最後まで腕を振れ!

 極めつけは秀三氏の『いってらっしゃいませぇぇぇぇ!』そう、これが聴きたかったんだ! フロア側も『いってきます!!!!!』とばかりにブンブン腕を振ってます。それはもうすごい勢いです。体ごと左右に揺れてるんですから。

 そのままどこに行くかと申せば、追撃の五曲目『ってゐ! ~えいえんてゐVer~』。

 これは、殺しにきてますよね? 絶対死んじゃいます。というかここに来るまでに数回死んでる気がします。

う~さぎ うさぎ 何を見て跳ねる

 勝手に身体が足踏みをはじめます。うわあああああ!やるっきゃない! フロアのみんなもやる気のようです。石鹸屋の魔力にあてられて、疲労の色が見えないのが怖い。一緒に死のうか。

てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ!

てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ!

 いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

かごめ かごめ!

かごの中の鳥は いついつ出やる

後ろの正面だぁれ!

 もう最初のサビから喉が死んでいました。しかし、この衝動は止めようがありません。『今やらなきゃ絶対に後悔する』そんな思いが体を突き動かしてくれます。間奏のクラップ、そして最後の『かごめかごめパート』だ!

 その瞬間、音が消えました。

 そう、今は声が出せるんだ。みんな力の限り叫んだ。

『聴こえねぇぞ?』と煽る素振りを見せる秀三氏と、ニヤついてるようにも見える両サイドのギター&ベース。観客もより一層叫び声を上げます。

かごめ かごめ!

かごの中の鳥は いついつ出やる

後ろの正面だぁれ!

 ここから加わるギターの音色!からのhellnianドラム!大サビを終え、全員で走り切ります!

てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ!

てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ てゐ!

 そして有終の美を飾るは……

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

『巡るHarvest』だ! 最後の最後までお約束!フロア側も最後の力を振り絞って叫びます。収穫のときだ、叫べ! 乗り遅れるな、ハーベスト!

 すっかり最後の曲としての印象がついた『巡るHarvest』。今年の石鹸屋のライブを思い返せば、4月の超東方ライブステージで最後に演奏されたのも『巡るHarvest』でした。あの日、この土地クラブチッタに実りを願って蒔いた種が、この秋のうた祭で実ろうとしているのです。あのときは声は出せませんでしたが、今なら声が出せます!

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

 鉄板曲のみで固めた、石鹸屋ハイライトのようなセットリスト。久方ぶりの声出しライブでも、どれもが色褪せない“最高のいつも通り”を見せてくれました。10代以下から40代以上まで、石鹸屋と私たちで絶やすことなく脈々とつないできた稲穂が、今ここに実りました。

天照らし土麗かに 水は呼んだ 実りを

秋を迎える喜びを 共に分かち合おう

生き抜いて役目終えても 尚も巡る命よ

秋に穂垂れる喜びを あなたに捧げよう

みんなと叫んだ『id恋し いと恋し』
みんなと跳ねた『さっきゅんライト』
みんなと泣いた『東方萃夢想 ~saigetu~』
みんなと振った『EX妖魔疾走』
みんなと歌った『ってゐ! ~えいえんてゐVer~』
そして『巡るHarvest』。

 私たちも、この歓びを、このステージに捧げよう。ライブ歴もファン歴も関係なく、収穫祭うた祭に集いし東方好きたちよ! このときを迎える喜びを共に分かち合おう!

 観客席から臨む石鹸屋のステージは、黄金色の照明を受けて光り輝いていました。その光はちょうど石鹸屋メンバーたちの背後から照らされ、文字通り後光が射します。そして観客側から伸ばされた手が逆光で影となって、細いシルエットを映し出すのでした。それはまるで地平線いっぱいまで広がる、黄金に輝いた稲穂のようで……

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

 フロアがひとつになりました。もう、明日どうなったって良い。力の限り叫ぼう! 喉が潰れてるし声も裏返る。叫ぶと痛い。だが叫ばせてもらおう。変な声になろうと、どーせこの爆音で隣の人には聞こえねぇ!

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

Harvest! Harvest! ライラ―ララー!

石鹸屋に魅了されたすべての人々へ捧ぐ。「あなたに幸あれよ」

 

セットリスト

1.id恋し いと恋し
2.さっきゅんライト
3.東方萃夢想 ~saigetu~
4.EX妖魔疾走
5.ってゐ! ~えいえんてゐVer~
6.巡るHarvest

落ちない!溶けない!泡立たない!脳裏にこびりついて離れない。石鹸屋魂のサウンド おわり