東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2020/03/27

意外な高難易度やオンラインが実装されていない理由とは。『東方スペルバブル』スタッフインタビュー【PR】

第3回

なかなかの高難易度!? 意外に難しいストーリーモード

ビートまりお:
 さっき「『東方スペルバブル』はよい子のゲーム」って言ってたじゃないですか。難易度「Lunatic」編ってよい子向けじゃなかったと思うんですよ! ZUNさんからLunaticを難しくしてほしいみたいな話があったそうですが、実際はどうだったんですか?

澤田:
 覚えてらっしゃるかはちょっとわからないんですけど、さっきお話したようにZUNさんに見せたときに「Lunatic、これやるの?」みたいな話が出て、「もちろん最高難易度として出したいと思っているんですけど……」みたいな話をしたら、「Lunaticって言うからには難しくして欲しいなあ」ってZUNさんがおっしゃっていて。

 その言葉がこびりついていたわけではないんですけど、ただ「Lunatic」って名前でやるには難しくしたいというのと、やはり(『東方Project』は)非常にゲームが好きな方が多い作品だと思うので、やりごたえを作りたかったんです。 

 表面の霊夢編は易しく作るのは最初からそうするつもりでしたし、裏面の魔理沙編はガッツリ難しくしようというのもコンセプトからあったので、何度も何度もトライして、やりごたえのあるものにしました。

米陀:
 そういう意味では、開発も長い間プレイし続けるなかで、どんどん新しい発見だとか、新しい攻略要素が見つかっていくと、おのずと難易度が高くなり……。今見つけた攻略要素をステージに入れようとか、作っていく中でどんどんレベルが上がっていって、(作っている)自分たちも物足りなくなっていってってところはありましたね。

――開発している側が1から10までわかってしまっているから、どんどん難しくなるあるあるですね

澤田:
 ディレクターの菊地もすごく上手で、米陀とふたりで最後のステージデザインとか難易度調整をするんですけど、放っておくと盛り盛りになっちゃうんですね。それを僕が眺めていて、「そこはやりすぎだから!」とか「僕がクリアできないから!」みたいな感じで調整していました。ゲームって、盛る(難しくする)のはわりと楽というか、難しくはないんですよ。

ビートまりお:
 音ゲーの場合って難易度を上げるのは譜面を難しくすることじゃないですか。あくまでもパズルゲームなんだなと思ったのは、難易度Lunaticに行っても譜面は4分音符のままで、パズルゲームがすごく難しくなっているのが新鮮でよかったですね。

澤田:
 音ゲーの部分は難しくするというのはなかったですね。

ビートまりお:
 そこは気持ちよくできていましたね。何回もトライしたっていう点では、原作で『東方文花帖』っていうシリーズみたいなのがあるんですけど、それの「金閣寺の一枚天井」(※)みたいな。2000プレイぐらいして、やっとクリアしたので、うわー!! とか言ってたんですけど、今回、『東方スペルバブル』のLunaticがそれぐらいかかったので、本当に嬉しかったです。やっとできたー! クリア!!

【※】『金閣寺の一枚天井』 『東方文花帖』に登場する超高難易度を誇る弾幕。あまりの難しさの理由は、制作したZUN氏自身が数回でクリアしてしまったため、ほぼそのままリリースされたためだそう。

キャラクターを生かす演出と対戦のバランス調整

――各キャラクターがスペルカードを3枚持っていますよね。キャラごとの能力の差別化や、こだわりはありますか。

米陀:
 ディレクターの菊地と相談してたんですけど、やっぱりZUNさんの作ったキャラクターそれぞれ非常に濃いです。その特徴をなるべく生かすように、スペルカードは原作にあるものを必ず使ったり、時には原作にある弾幕の演出を少しモチーフにしてデザインしていただいたりとかしてもらいました。

 パズルで闘う用の能力になっても、キャラクターを外れ過ぎないようにというには意識しました。

ビートまりお:
 前におっしゃってましたけど、リリース直前、ギリギリまでバランスを調整してたっていう話だったじゃないですか。そういう熱い話を聞きたいなって。

米陀:
 正直、そこは澤田との戦いというか。目を盗みつつというか、ここまでは許してくれるかな?っていう感じで(笑)。

ビートまりお:
 もういじっちゃ駄目のラインを超えていじってたんでしょ?

澤田:
 QC(※)との戦いですよ。もうコードフリーズなのに。

【※】『QC』Quality Control 品質管理の業務。QAとの違いは「商品を提供する合格ラインに達しているか」を判定するかどうか。

(同席していたタイトーの品質管理の方)
 2週間以上コードフリーズが続くっていう(笑)。あのですね、いじるのはコードフリーズじゃないんです(笑)!

米陀:
 実はパッチでも一つだけスペルカードを調整させてもらってるんですが、(取材時点で)まだ作業が終わってないんですよね。まだ調整し足りないところがあって。

ビートまりお:
 バランスを取るためにも。

——やはり対戦ゲームですからね。

米陀:
 ここは尽きないです。

――開発していて「このキャラ上手く作れたな、良い演出ができたな」というのはありますか?

澤田:
 僕は最初見た時は、河城にとりの「お化けキューカンバー」ですね。けっこうあれは物議をかもしましたね、きゅうりに手足が生えたものがフィールドに落ちてきて、玉が緑になるという。あれはビックリしました(笑)。

米陀:
 演出的にはそういうネタ的な部分もありますよね。トランプで場が隠されちゃうやつとか。「なんだこれは……」みたいな(笑)。

澤田:
 キャラで本当に大事にしたところは、性能の差はあっても優劣は絶対にないようにと考えていたことです。どうしても対戦型ゲームって、強キャラが出るともうおしまいになるジャンルなので、すべてのキャラが、あらゆる対戦のかたちでも使えるようにしようと。

 外部のデバッグ会社にも、格闘ゲームや戦略型のカードゲームとかができるような人たちにキャラクター(の性能)を見てもらうことをお願いしました。タイトー社内だけだと、どうしてもできない部分があります。能力を作るのはできるんですけど、(対戦で)かけ合わせた時にどうなるかはわからないので。

 スペルカードの掛け合わせなどで、「これはA、これはB、これは使えないからC」と評価をつけてもらって、それを見て「じゃあちょっとチャージタイムを変えよう、この能力は上げよう。そもそもボツだ」と決めていきました。

ビートまりお:
 最終的なダイヤグラムは平均になったんですか?

澤田:
 完全な平均ではないんですけど、でも(と強キャラを言いかける)。

米陀:
 (思わず制して)やめてください(笑)。攻略情報を与えてしまいます! みんなそのキャラしか使わなくなりますよ(笑)!

――バランス崩壊情報が公式から(笑)!

澤田:
 (ぐっとこらえて)……かなりバランスは平らたくなるようには務めたって感じですね。ただ出してみて、まだちょっと気になるところもなくはないです。

ビートまりお:
 基本的には好きなキャラ選んで遊べるってことですよね?

澤田:
 そこは意識しましたね。

――1キャラでスペルカードが3つあるというのもいいですね。1つだけだと使いにくいキャラが生まれてしまいますし。

澤田:
 (スペルカードの数があると)結局、掛け合わせの数が増えるので、そこは菊地と僕とで押し問答がありました。「3つは多いよ!  2つでいいよ!」みたいな。

米陀:
 ありましたね、ほんとに(しみじみと)。

澤田:
 (菊地さんは)「作りますよ!」って(笑)。現場がすごく「3つは絶対欲しいです!」というところがあって、じゃあ頑張ってみようという感じになったんです。

【コラム】スタッフの持ちキャラは?

要望の大きいオンライン対戦の実装。しかし課題が。

――やっぱり対戦ということでは、今後のアップデートでネット対戦を実装する予定はあるかが気になります。

澤田:
 これは僕のほうから説明すると……一番は会社のプロジェクトなので、納期というか、プロジェクトに関わる時間は決まっていまして。もちろんネットワーク検証はしているんですよ。その時点で開発の時間が取られることがわかったんですね。

 ネットなどでユーザーさんが書かれているように、やっぱり音ゲーだから同期が大変なんじゃないかって言っていて。麻雀などターン制のあるゲームと違い、同期もシビアですし、ラグの処理も大変なので、ハードルが高いことが検証の段階でわかりました。

ビートまりお:
 完全同期する必要はないゲーム性じゃないですか? これって。結果だけ送れば……。

米陀:
 そういうやり方も全然あるとは思うんです。しかし、たとえば対戦相手が拍撃中の「7連!」って声が相手のプレッシャーになったりするんですけど、ネット対戦になると、必ずしも相手の掛け声が聞けないとか、遅れて聞こえてくると、今度は自分の曲とズレてしまうんですよね。

 なので今の『東方スペルバブル』のかたちを保ったまま、ネット対戦ってかなり厳しいんです。なにかしらを削らなきゃならないことになるので、仕様の変更を吟味している時間もなくて……。

澤田:
 僕のほうで、最終的な取捨選択をした結果、やはり「ゲームとしていいものにしよう」ということですね。

 限られた時間の中で、より重要視するべきところは中途半端なかたちのネットワーク対戦ではなく、やっぱり本当に楽しいゲームで、インゲームが洗練されてできあがってるゲームを、まず作ってお届けすることを大事にしました。

――そうした背景や実装の難しさがあったんですね。ただ、いちプレイヤーとしても、今後、実装される可能性を待ってます。

ビートまりお:
 いやもう土台のゲームの楽しさは伝わったんで、全ユーザーが待ち望んでいると思う! 例えば『チルパ』(『チルノのパーフェクトさんすう教室』)ってサビ前で“9連”まで行くじゃないですか。あれ、元ネタの⑨とかけてると思うんですけど、さっきおっしゃったように、ローカル対戦なら隣で一緒に「⑨~~~~!!」ってめちゃくちゃ盛り上がれますもんね。
 ただ、やっぱりいつでもどこでも誰かと対戦したいじゃないですか。友達も少ない人もいれば、昨今のコロナウィルスで外出もしずらいですし! タイトーさん、楽しみにしてます…!

VTuberが『東方スペルバブル』を広めてくれる?

――『東方スペルバブル』はリリース後もZUNTATA NIGHTなど、活発にストリーミングで広めようとされていますね。

ビートまりお:
 VTuberさんにプレイしてもらった動画がバズったじゃないですか。あれはさすがだなと。

――あれはPRで入れようという話になったのでしょうか。

澤田:
 流れでいうと、グルーヴコースターチームが実はVTuberを起用してたところがきっかけとしてあって、そこでにじさんじさんなどと繋がりがありました。

ビートまりお:
 いいところを突いてきたなあと。花形さんはVTuber大好きなんでしたっけ?

澤田:
 大好きです(はっきりと)。もはや半分個人の趣味だと思います(笑)。こう言うと花形は「違う!」って言うんですけど(笑)。

ビートまりお:
 ミライアカリさんとか、人気な人にやってもらってますよね。

澤田:
 そうですね。月ノ美兎さんとか、電脳少女シロさんとかメジャーどころにやっていただけて。VTuberさんってファンが多くてバズる力がかなりあり、インフルエンサーとしてすごいことが『グルーヴコースター』でわかっていたんですね。それなら今回の『東方スペルバブル』は音ゲーの部分もありますし、インゲームも面白くできているので、動画映えするだろうと早いうちにVTuberの方たちにPRの協力をしてもらえないかと。それでホロライブさんにもお声がけしました。

 (宝鐘マリン)船長がアサインされたのは、ホロライブさんからの提案です。僕らも最初東方好きって知らなかったんですよ。

ビートまりお:
 これで初めて知りましたよ。東方ガチ勢なんだなって。その後、白上フブキちゃんとか、不知火フレアちゃんも『東方スペルバブル』実況をやってましたけど、あれは皆さんが自分からやってくれたんですか?

澤田:
 そうですね。不知火フレアさんは東方については有名な楽曲については知ってるけど、、、という方でしたが、とても楽しそうにやっていただいて。そんなに東方に詳しくない方でも楽しめるゲームだとわかってよかったです。

【コラム】シナリオのレタスさん、VTuberの沼へ

『東方スペルバブル』今後の展開

——今回は『パズルボブル』と『東方Project』を組み合わせてというかたちでしたが、今後、タイトーさんの他のゲームで、また東方と何かやろうという案はありますか。

澤田:
 非常にご好評いただいておりますし、可能性は、あり得るんじゃないかなと思います。けれども、どんな形がいいのかっていうのは、また試行錯誤が必要かなと思います。

 今回はたまたまゲームデザインから始めて、『東方Project』に合うものが出来上がり、ちょっとラッキーな流れではありました。逆に『東方Project』をお題としたときに、僕らの持ってるものの中で合うものがあるのかっていうのは、また考え方が変わってくるので、何ができるのかな、というところはあります。

 でも、せっかくまりおさんともお知り合いになれたので、何かやりたいなと思います。

――今回、Switchでリリースしましたが、今後は他のプラットフォームでのリリースは検討していますか?

澤田:
 検討材料としてはあるかなと思ってます。あとはお客さんがいるかどうかと、このゲーム性に合うかどうかとかですかね。

——あとは『東方スペルバブル』は若年層向け、ライトユーザー向けとしては結構値段が高いなと思ったんですよ。

ビートまりお:
 子供たちにとっては、ちょっと高いんだよね。

澤田:
 正直、値付けはすごく悩みました。それこそインディーズでは1000円、2000円というタイトルが多い中で、この金額でやるっていうのはかなり悩んだ部分ではあるんですけれども、苦渋の選択っていうところはありましたね。

ビートまりお:
 まぁ、でも10連ガチャ2回ぐらいでしょ? 安いかな!(笑)

——その比較はおかしいでしょ(笑)!。いやわかりますけど。

ビートまりお:
 でもこのゲームは本当にちゃんと楽しいゲームだから売れてほしい! これはマジで思ってるから、盛り上がればいいなって。

――答えづらい話をありがとうございます。

澤田:
 いえいえ、全然。気になるところだと思うので。

――まとめになります。皆さん1人ずつ、『スペルバブル』に関する思い入れや、注目してほしいところを語っていただけますか。

米陀:
 音楽っていうところから『東方Project』と関わったのもあり、音ゲー部分の感じ方っていうのが、プレイしたときに初めて伝わるゲームになっています。

 画面を見てるだけだと伝わらない部分があるので、まずは人がプレイしてる動画とか、盛り上がってるところを見ていただいて、少しでも面白いなと感じていただけた方は、お手に取っていただけるといいなって、心の底から思っております。

MASAKI:
 音楽は主張しすぎない程度に、いい感じにスッと入る。そういうところを狙って頑張って作ったので、ぜひ音楽にも注目していただけると嬉しいです。

――ありがとうございます。では、最後に澤田さんお願いします。

澤田:
 米陀と最初に作り始めて、ZUNさんにプレゼンするぐらいになってから、かれこれ1年半から2年ぐらい経っていますけれど、いまだに開発陣が楽しく遊べるものになったのが、今回、僕が担当できて良かったなと思ってるところです。

 米陀と菊地が二人で楽しく対戦してる姿だったり、社内のスタッフたちが楽しく遊んでいる姿を見て、本当に開発陣が自分で楽しくやれるゲームを作れたので、そこはよくできたというか、自分の中で一つ達成感があるところですね。

 しっかり楽しく、長く遊べるものとして、世の中にご提供できている自信はあるので、そこは太鼓判を押せます。ぜひ遊んでいただいて、長く愛していただければなと思います。

終わりに――真・最弱王決定戦

――本日はありがとうございます……と言いたいところですが、最後にひとつお願いいいですか? せっかくこの場にSwitchもあることですし、あらためて澤田さんとビートまりおさん……どちらが本当の最弱王か決着をつけませんか?

澤田:
 !?

ビートまりお:
 リベンジ? いいよ。リベンジ戦やろう!(生き生きと)

澤田:
 対戦は想定してなかったですよ……。

――いえいえ! 無茶ぶりを受けてくださりありがとうございます。これで『東方スペルバブル』スタッフインタビュー後編をきれいにまとめられます!

ビートまりお:
 オレはこの前、配信映えを狙って負けましたけど?(自信ありげに)

米陀:
 澤田はLunaticをクリアしてないですからね。

澤田:
 僕、うどんげで止まってる(笑)。

ビートまりお:
 じゃあ最弱の「マスパ」使ってみるか!(と魔理沙を選択)

澤田:
 ならレミリアで行こっかな~。

――楽曲はどうします?

澤田:
 このあいだは『Help me, ERINNNNNN!!』やりましたからねぇ。

――『ナイト・オブ・ナイツ』でどうですか?(笑)

ビートまりお:
 えっ! やだって(笑)!

 
――それでは『境界の宴』で! 試合開始!(以下、動画にてお楽しみください!)

一同:
 ああああーっ!

――まりおさんの……勝利!

澤田:
 さすがLunaticクリアしてる人は違いますね。

ビートまりお:
 最弱王は……(澤田さんに)あげますんで。

一同:
(拍手)ありがとうございました!

 

 見事リベンジに成功し、最弱王の座をプロデューサーの澤田さんに明け渡すことにしたビートまりおさん。一進一退の攻防となった二人の対決は、後ろで観ていて面白さがはっきりと伝わるものでした。

 こうした白熱した試合を生み出した『東方スペルバブル』は、様々な要素が絡み合ってできあがっていたことがよくわかるインタビューとなったのではないでしょうか。タイトーの様々な音ゲータイトルと『東方Project』楽曲が関わってきた歴史や、バブルシューティングと音ゲーをミックスさせる工夫などなどがそこにありました。

聞き手:葛西祝、ビートまりお
文:葛西祝

(おわり)

『東方スペルバブル』公式サイトはコチラ

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