東方が『パズルボブル』を蘇らせる!?『東方スペルバブル』スタッフインタビュー【PR】
第1回
『東方Project』の生みの親・ZUNさんが、かつてタイトーに所属していたことは有名な話でしょう。タイトーの就職には『東方Project』作品を持って挑み、在籍時に関わった2001年発売のゲームソフト『ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国』には隠しキャラとして「ハクレイのミコ」(博麗霊夢)を仕込んでいたことがイベントなどで語られています。
こうした仕込みをはじめ、タイトーと『東方Project』シリーズの関係は古くから存在していたと言えます。しかし今年2020年2月にリリースされた『東方スペルバブル』ほど、大きく関係を見せたタイトルは初めてではないでしょうか。
今作はタイトーの『パズルボブル』に『東方Project』のキャラクターが登場するというだけではありません。ゲームデザインも独特なのです。なんと対戦型パズルゲームに音ゲーが複合されたものになっており、有名な東方楽曲のリズムに乗って闘うゲームとなっています。
タイトーと『東方Project』、さらにパズルゲームと音ゲーそれぞれの関係、そして長らく沈黙していた『パズルボブル』シリーズの新作など、様々な観点から歴史的な意義を見だせる『東方スペルバブル』。今作をどのように制作したかを、プロデューサーの澤田智之さん、プログラマーの米陀大気さん、そしてサウンドのMASAKIさんからお話をうかがいました。
聞き手にはビートまりおさんにもお越しいただき、ちょっと脱線しながら本作の裏側に触れていきます!
聞き手:葛西祝、ビートまりお
文:葛西祝
『東方スペルバブル』最弱王決定戦!?
――はじめになんですけど、ビートまりおさんは澤田さんたちとはお知り合いなんですか?
ビートまりお:
知り合いと言うか、タイトーさんが生放送とか、スペルバブルのPV収録時に呼んでいただきまして、それもあって「『東方スペルバブル』に触っておこう」と思ったら、想像以上にハマっちゃいまして。こんなにハマれるもんだなぁと。
――月刊ZUNTATA NIGHT3月号で澤田さんとビートまりおさんの直接対戦がありましたね(笑)。
ビートまりお:
そ~なんですよ。『東方スペルバブル』最弱王決定戦。
澤田:
まりおさんに来ていただけると絶対に盛り上がるので(笑)。
ビートまりお:
オレが難易度Lunatic(本作の最高難易度)に苦戦して、クリアしたあたりで、我楽多叢誌の主宰の斉藤さんから「まりおさんハマってるんだったらインタビューしますか?」って言われて「あっ行く行く!」(食い気味で)って(笑)。
――あらためてなんですけど、最弱王はどちらになったんですか?
ビートまりお:
オレが最弱王ですね。
一同:
ワハハハハハハハ!(爆笑)
ビートまりお:
東方ステーションで「オレが一番強い!」ってあんなに言ってたのに(笑)。
――(笑)対戦した楽曲はなんだったんですか? やはりまりおさん繋がりでしょうか。
澤田:
「えーりん! えーりん!」(『Help me, ERINNNNNN!!』)ですね。
ビートまりお:
(自分の曲で)最弱王ゲットしたよ!
もともと『パズルボブル』シリーズのリニューアルをやりたかった
――『東方スペルバブル』という企画はどなたが発案されたものなんでしょうか。
澤田:
企画を立てたのは僕になります。『パズルボブル』をリニューアルすることが、タイトーの社内プロジェクト的には課題としてあったんです。(『東方スペルバブル』までに)いろんな試作のトライ&エラーがありました。その中で僕が案として出したのが、『パズルボブル』ならではのバブルシューティングの新たな形として、「音楽と合わせる」ことでした。
そして作っていくうちに、最初はリズムに合わせるだけだったのが、「もっと音楽的な要素を入れたほうが気持ちいいんじゃないか」ということを考え、このあたりから僕と米陀でガッツリとプログラムを実装して行きました。
――まずは音ゲーと『パズルボブル』をミックスする実験を行っていたんですね。
澤田:
僕が「こんなアイディアはどうだろう」と言うと米陀が実装し、さらに米陀が「もう少しこうしてみたんですけど」と、こういう感じでふたりでコネコネしあって、インゲームの形ができあがっていったんです。
その中で、音楽の重要性がこのゲームの中でかなり高まっていき、「音楽にノると楽しい」となって、それなら、ただのBGMではないとなっていきました。
となると、弊社の『パズルボブル』にはバブルンとボブルンというキャラクターがいるんですけど、特に音楽的な要素のあるキャラクターではないんですね。なので、よりゲームシステムとマッチして、さらに楽しく遊べる作品が何かないかなあ、とアプローチして、『東方Project』にたどり着きました。
最初に東方ありきで企画が立ち上がったというよりも、ゲームができあがってきて、「これ、東方に合うんじゃないか?」という感じです。その後「一回、ZUNさんに見せてみる?」となりました(笑)。
それでZUNさんにタイトーに来ていただいて、「こんなのができたんですけど……」と紹介してプレイしていただいたところ、「ちょっと変わったプレイフィールだけど、面白いし、新しいね。こんな変なゲームを出すのもタイトーっぽくていいんじゃない?」というような反応をいただきました。
そんなノリで(『東方Project』を使うことを)快諾していただいたところで、「じゃあ東方のキャラを使った、対戦型のパズルゲームにしよう」とまとまっていったんです。
――最初から「対戦型パズルゲーム」として企画したわけではないんですね。
澤田:
最初からではないですね。『東方Project』のタイトルを使うことが決まったとき、やはりキャラクターたちがたくさん居る作品なので、キャラをより生かせるパズルゲームの形は対戦型パズルだろうなと。
東方のキャラクターたちは、スペルカードの能力とかいろいろ持っているので、非常に対戦型ゲームにしやすかったんです。そもそも、格ゲーなどの対戦型ゲーム的なフォーマットが為されているキャラクターたちなので、ぴったりだなと。
実際にはタイトーは昔から『東方Project』とのコラボを続けていた
ビートまりお:
ZUNさんって元タイトーじゃないですか。知ってる人も知らない人もいるかもしれないですけど。
それで、今回、タイトーからこういうゲームが出たというのは「おっ!」とはちょっと思いましたね。
澤田:
実は僕らのテンションと、受け取り側のテンションとでちょっと差があるなと思っていて。今回、ZUNTATAがアレンジ楽曲を提供したこともフィーチャーされたんですけど、これまでも『グルーヴコースター』(※1)で何年も東方とのコラボはやっているというのがありますし、その前にも『ミュージックガンガン!』(※2)でも(東方楽曲は)入ったりしています。
【※1】『グルーヴコースター』 タイトーが展開するアーケードリズムゲームタイトル。最初はスマートフォン(iOS)で2011年より配信を開始、2013年よりアーケード版としても稼働した。
現在はSteam版・Nintendo Switch版でも発売しており、全てのバージョンに東方アレンジが収録されている。
【※2】『ミュージックガンガン!』 アーケードで展開された、ガンシューティングと音ゲーをミックスしたタイトル。過去に東方楽曲は「東方散楽祭」や「東方音銃夢」などを起用していた。
なんなら、クレーンゲームにおけるプライズでも『東方Project』のアイテムってずーっと出しているので、タイトーと『東方Project』の関わりで言うと、わりとずっとやっているんですよ。
――それを受け取り側が表立って見ていないなあと。
澤田:
そうなんですよ! 確かに、二次創作ゲームとして出すっていうのはひとつ、歴史的な部分もあると思うんですけど。
ビートまりお:
家庭用ゲーム機で大手メーカーが『東方Project』を扱ったタイトルを出したのって『東方スペルバブル』が初めてじゃないですか?
澤田:
そうかもしれませんね。そこはなかなかいいタイミングだったのかな、と思ってます。
ビートまりお:
どっかのサークルが『パズルボブル』のパクリゲー出したのかな? と思ってよく見たら「タイトーだったんだ! マジか! 本家じゃん」みたいな(笑)。
澤田:
確かにそういう意味では、家庭用ゲーム機で、インディーじゃないメーカーが買い切りの東方のゲームを作るというのはもしかしたら初めてかもしれないですね。
大手パブリッシャーによる東方作品など商業ベースの動きのある中で、タイミングもよかったのかなと思っています。ZUNさんがどういう風に考えているのかまではわからないですけど。
――最初にZUNさんに企画をもっていったのはいつなんでしょうか。
澤田:
ソーシャルゲームで出るっていうのにビックリして、意外と商業ベースのアプローチはありになったのかな、と思って、その後くらいですね。
逆に言うと(大手メーカーが『東方Project』を使うソフトを作るのは)ダメなんだろうな、と思っていた部分もあります。
――『東方Project』は同人というフィールドを大切にしているイメージはありますからね。
澤田:
そうですね。なのでソーシャルゲームなどが動きとしてあって、そこでのインタビューでもZUNさんがいろいろ語られてたと思うので、そのあたりの考え方や、意識の変化があるのかな、とは思いました。
ただ、とりあえず企画ができて、『東方Project』と相性が良さそうだということで、一回ZUNさんにぶつけてみるかという、どちらかというとそういう気持ちのほうが強かったですね。あんまりそこは、商業ベースだから、コンソールだからというよりも、ゲームデザインが『東方Project』に合いそうだし、ZUNさんは気に入ってくれるかもしれない、ぐらいな感じでした。
――お話をZUNさんに持っていったところ、いい方向に発展したんですね。
澤田:
どちらかというと「(コンソールで『東方Project』のゲームを出す)そこを狙ってやるぞー!」みたいな野心的な感じはなくて。
――そのあたりは受け取り側の僕らがタイトーさんと『東方Project』の繋がりをあまりみれてなかった、というのはあるかもしれません。
ビートまりお:
アーケードが一番最初ですもんね。
澤田:
『ミュージックガンガン!』が確か一番最初だと思うので、そういう意味ではやはり古巣に対してZUNさんなりの思い入れや配慮をいただいている感じはします。
【コラム】自分の曲は遊んじゃいますよ
開発では “東方のカルチャーに寄り添うこと”を大事に
――(笑)タイトーさんが『東方Project』のゲームを作るにあたって、キャラクターや楽曲、シナリオなど特に大事にした部分はいかがですか。
澤田:
独特な、といったらちょっと違うかもしれないですけど、『東方Project』は長い歴史があって、ひとつのカルチャーとなっていると思っています。しかも、原作者であるZUNさんが『東方Project』すべてを管理しているわけではなく、ファンが二次創作によって自由に広げているコンテンツなので、どうやってアプローチしていくかは最初すごく悩みました。
僕も米陀も、そんなに東方に浸かってきた人間ではないんです。もちろん東方は知っているし、好きですし、東方の楽曲も音ゲーで大好きだったのでよく聴いていたんですけど、カルチャーのところまではどっぷりというところではなかったんです。
東方のゲームを作るとなった時、作法じゃないんですけど、東方のカルチャーに寄り添うことを大事にしたのと、僕らも理解度を高めようってところですね。知らないことも多く、そこはしっかり見るべきものや聴くべきものを勉強して、ファンになっていこうと意識しました。
――例大祭に参加したりするくらいの東方ファンではなかった、というところですね。
澤田:
そうですね。とはいえ、まあ……米陀とかはニコ厨なんでね。
米陀:
自分は10年前くらいにニコニコ動画で流行ってたMADとか、あとはMMDなど東方タグが付く動画をランキングで見てたぐらいでした。リアルイベントは行ったことはなかったし、キャラクターに関してもよく素材にされるようなアリスやチルノとか魔理沙とか、その辺しか知らなかったので、『東方Project』全体でキャラクターが100人以上いると知ったのは、この『東方スペルバブル』に関わって初めてでした。
東方のアレンジ曲に関しては、自分も音ゲーをやっていたので、どの音ゲーにも必ず入っているものは知っていました。
MASAKI:
自分が『東方Project』の音楽に触れるようになったのは、専門学校時代に、クラスの同級生に東方マニアがいて、そこで。自分が初めて東方を知ったのは、ゆっくり霊夢だったんです。
ビートまりお:
ゆっくりすげぇな。やっぱり。
MASAKI:
「ゆっくりしていってね!!!」から入って、そこから知っていって、「東方のCD貸してくれない?」って言ったら、すごい大量に持ってきてくれて、そこからスタートでした。
『パズルボブル』にまつわる少しメタなシナリオ
――シナリオもちょっと面白い構造を持っていますよね。『パズルボブル』が幻想郷入りしたって設定が、ここまでにお話いただいたように、ちょうどシリーズをリニューアルする最新作がなかなか開発されず、『東方Project』と組む流れそのままのようで。
澤田:
ここはIOSYSの七条レタス【※5】さんと一緒に作っていった形になります。レタスさんにシナリオのお話を持っていったとき、けっこうお忙しいながらも「やります!」と言ってくれたので、お願いしました。
【※5】『七条レタス氏』作詞家・シナリオライター。『CHUNITHM』や『イロドリミドリ』の原作と脚本を手掛ける。D.watt名義では、同人サークルIOSYSの創設メンバーのひとりとして作曲を担当。ビートまりお氏とも交流がある。
プロットとかのやり取りをしながら、メタっぽいところとか、ネタっぽい感じが出てきたときに、「あっ、シナリオのノリはこんな感じだな」とわかったので、その辺は(シナリオを)読んでいてありだなって思いました。
――『たけしの挑戦状』(※6)のネタも入ってましたね。古のタイトー作品ということで。
澤田:
そうなんですよ。気づく人は気づくネタですよね。レタスさんもIOSYSの自分のネタを入れてきたり(笑)。
【※6】『たけしの挑戦状』。1986年タイトー発売のファミコンソフト。ビートたけし氏が制作に関わっており、当時としては非常に斬新な内容が多く盛り込まれ、「伝説のクソゲー」とまで呼ばれた。キャッチコピーは「謎を解けるか。」
2017年に、TAITO CLASSICSとして移植が行われており、現在はスマートフォンでも遊ぶことが可能。
ビートまりお:
レタスさんのこと、いつもwattさんって呼んでいるからwattさんって言いますけど。なんでシナリオにwattさんをチョイスしたんですか? オレすごくいいチョイスだなと思ってて。起用するに至った経緯を教えてほしい。
澤田:
レタスさんに頼むことができたのは本当に奇跡でした。イラストレーターさんはすんなり決まったところもありました。『東方Project』をできるだけ描いたことのある絵師さんでありながら、最近幅広く活動されている方も含めてチョイスしてみたりとか。
音楽も、有名なアーティストさんがたくさんいらっしゃるので、そんなに困ることはなかったんです。じゃあシナリオライターさんってことになったとき、『東方Project』のライターさんってパッと出てこなくって。
ゲームシナリオは、小説の執筆とはまたジャンルが変わるものと思っていますので、どこのサークルにお声がけするのがいいのか、正直僕も迷っていて。
いわゆる普通のシナリオ制作会社さんに頼めないんですよ。『東方Project』のカルチャーがわかっていないと絶対頼めないので。いまから東方を理解するんじゃ間に合わないですし。
なので、わかっている人に頼まなきゃならないというのはずっとあったんですけど、実はたまたまIOSYSさんに「曲を提供していただけませんか?」とお願いするタイミングがありました。IOSYSさんなら『東方Project』に長く関わっていて、しかもいろんな活動も幅広くされている。もしかしたらいいライターさんを知っているかも知れないなと。
それでIOSYSさんに相談したら、レタスさんができますという話をいただきました。「なるほど、IOSYSさんにシナリオを書いていただけるならそれに越したことはないなあ」っていう。
ビートまりお:
ちょうど他のシナリオが一段落してヒマしてたタイミングだったのかも?(笑)
澤田:
タイミングがよかったですね。楽しんでシナリオを書いていただけてたと思います。キャラクターとゲームは決まっていたので、これをどう上手く調理するか、いろんなアイディアをキャッチボールしながら、早い段階で、現在のシナリオの方向性に決まっていきました。
「ゲームがゲームなので、異変みたいな感じにしないほうがいい」という意見もレタスさんからいただきましたね。
――プロット案はレタスさんから出てきたものなんですね。最初ストーリーを読んだとき、もしかしてタイトーさんのほうが『パズルボブル』を復活させるためにこうしたシナリオの原案を出したのかな、と思ったんですよ。
澤田:
基本的にはレタスさんからです。レタスさん発信の部分のほうが大きかったと思いますし、実際に上げて頂いたものが面白かったので、そこは安心でした。
ビートまりお:
クリアしたときwattさんに「シナリオよかったよ!」って連絡したら、「いや! やりすぎじゃないかとかドキドキしてました……」みたいなことを言ってました。自分の作品のネタを入れ過ぎたりとか、ネタがちょっと濃すぎるんじゃないか心配だったらしいです。割とOKが出すぎてて心配だったみたいで(笑)。
澤田:
「ありあり!! 面白い!」という感じでした(笑)。
ビートまりお:
うちのCOOL&CREATEの曲のネタとかも入れてくれたりね。嬉しいな~と思って。東方界隈の空気感もちょうど良く表現されてるなって。
澤田:
やっぱりその辺はさすが長くやってらっしゃるので、キャラの掴みなんかもバッチリでした。
ビートまりお:
キャラに違和感を感じなかったんですよ。キャラの解釈違いがない!
澤田:
みなさん、プレイしてくださった方々が、キャラの解釈が一致したって言ってくださって。本当に良い方に巡りあえたなという感じがします。
(第2回につづく)
東方が『パズルボブル』を蘇らせる!?『東方スペルバブル』スタッフインタビュー【PR】 おわり