東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「こんな甘い考えで一般参加してはダメだ」最初の例大祭で味わった、大いなる悔恨――最強の一般参加者「尊王」氏、独占インタビュー

例大祭一般参加者・尊王氏インタビュー

 最強の一般参加者・尊王氏の成り立ちと、これからの同人誌即売会についての視点を深く掘り下げるインタビューの第二回。今回は、尊王さんが東方Projectに出会うまで、そして伝説の「第一回博麗神社例大祭」の話です。初回のコミケに続く経験が、その後の尊王さんをさらに大きく変えたお話です。

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その男は幼少期から変わらず“のめり込んで”いた――最強の一般参加者「尊王」氏、独占インタビュー

例大祭一般参加者・尊王氏インタビュー

 

東方に出会う前夜――AirRPG、EtlanZ、葉鍵ロワイヤル

尊王:
 同年の冬コミにも行き、同じように会場全部を歩き回って。そこでいくつかのサークルとの出会いを果たして、また次も行ってみようと思いました。だから、その冬コミが人生の分かれ目ですね。2002年12月30日、この日に行かなかったら、いまのような人生になっていないと思います。

――当時は、どういうジャンルを追っていたんですか?

尊王:
 主にスクウェア・エニックスの、4コママンガアンソロジーに参加している作者さんのスペースに行くのが目的でした。岬下部せすな先生とか、ちるみる先生とか幸宮チノ先生とか。同じく、スタジオDNAのアンソロジーに出ている方も追っていました。あきかん先生とか。すみません、あまり思い出せなくて……。

――いえいえ、十分です。

尊王:
 ちょっと家に帰って当時のカタログを開いてみないと、思い出せないですね。

――当時のカタログ、しっかり取っておいておられるのですね。

尊王:
 コミケ、例大祭、紅楼夢のカタログは、買ったものは全部取っておいております。

――素晴らしいです。当時は主に、アンソロジー4コマの作者さんを中心に追いかけていたと。そこから、どのように東方に移ってくるのですか?

尊王:
 その話をする前に、見てもらいたいものがありまして……。

――『AirRPG【※】』じゃないですか!

【※】『AirRPG』:同人ゲームサークル「はちみつくまさん」制作の同人RPG。『Air』『Kanon』などKey制作の美少女のキャラクターが登場する。RPGツクール製ながら、50時間をゆうに超える大ボリュームが話題を呼び、とにかくやりこみができるRPGとして人気を博した。その後、はちみつくまさんは2004年頃より「東方淫魔郷 ~はじめてのだんまく~(R-18)」「東方サッカー」「東方冥異伝」など、東方二次創作作品をリリースするようになる。

尊王:
 自分の運命を変えた作品が3つあって、そのうちのひとつですね。ほかにも、会場内で、スクウェア・エニックスのアレンジサークルを見つけたんです。そのサークルがEtlanZ【※】さんですね。

【※】EtlanZ:同人音楽サークル「EtlanZ(旧名義:EXCELCIA)」。2000年にスクウェア系アレンジアルバム『 Romancing Sa・Ga MIDI BEST COLLECTION』をリリースし、以降数々のゲーム音楽ファンCDをリリース。「ふっかつのじゅもん」などの大型コンピレーションCDや、ファンイベント「メガロック・ファンフェスタ」のプロデュースも手掛けた。近年では、Nintendo Switch版「東方幻想麻雀」のサウンドディレクション・楽曲提供を担当している。

尊王:
 コミケ63のときには『ロマンシングカノン』を頒布していて、当時はそれを買ったんですが、これよりも前の作品があることを知って、後日『AirRPG』を手に入れました。このゲームが自分の性に合いすぎてしまって……二次創作RPGの世界にはこんなにすごいものがあるんだと思って。『AirRPG』で同人ゲームのすごさを知り、EtlanZでアレンジ音楽のすごさを知り、そこからずっと追っていこうと決めました。もうひとつ、わたしのホームといえる作品があって……これがすべてですね。

――『葉鍵ロワイヤル【※】』の実本!!

【※】葉鍵ロワイヤル:ネット掲示板・2ch(現5ch)で複数の有志により制作された、Leaf、Key歴代作品のキャラクターが登場するリレー小説。当時の2chでは、さまざまな作品のキャラクターが小説『バトル・ロワイアル』の設定をベースにして戦うパロディ小説を連載するスレッドが複数作られていた(2chパロロワなどと呼ばれる)。葉鍵ロワイヤルもそのうちのひとつで、800話を超える大長編となった。その後、有志の手により同人書籍化が計画され、全7巻まで刊行。現在は電子書籍として無料公開されている(全巻合本版のみ110円。) 上記の写真は1巻。1巻の挿絵担当は、のちに『東方儚月抄 ~ Silent Sinner in Blue.』の連載を手掛けることになる、秋★枝氏。

尊王:
 本当にたまたま偶然、コミケ63で通りがかったサークルスペースで手に取ったのがこの作品で。この作品を読んだので、次からコミケ行こうと思ったんです。

――秋★枝さんのサインが入ってる……。現物、初めて触りました。

尊王:
 葉鍵作品のことは、当時は恥ずかしながらアンソロでしか知らなかったんですよ。そこから『AirRPG』や、この本を読んで知るようになったというか。とにかくこの作品に魅入られて、これのためにコミケに行こう、これが頒布しているイベント、コミックレボリューションだったり葉鍵オンリーイベだったりに行ってやる、というのがコミケの次の原動力でした。

 

最初の東方は、コミケで買えなかった

尊王:
 いろんな葉鍵作品のゲーム、葉鍵同人誌を読んで葉鍵に興味を持つようになったころ、ちょうどそのタイミングで葉鍵サークルが一斉に東方へ移行したんです。『ロマンシングカノン』の次回作『ToK』に、東方のキャラも出たりするんですよね。

――当時のジャンルの移り変わりがわかります。本当に一斉に、みんな東方を知って民族大移動が始まる瞬間があったんですよね。

尊王:
 よくビートまりおさんもおっしゃってますが、渡辺製作所(現:フランスパン)さんの雑記で『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』が紹介されたタイミングですよね。そこで私も東方を知りました、それが2003年ですね。

――当時を生きていた人に話を聞いて、渡辺製作所で紹介された『紅魔郷』の話が出てこなかったことが一度もないです。ここは本当にターニングポイントなんですね。

竹本泉、菊地秀行、諸星大二郎、藤原カムイ、京極夏彦、森博嗣、アガサ・クリスティ…ZUNさんが愛した作家たち

【第6回】

――最初はスクエニ系の4コマアンソロからコミケに入り、コミケで葉鍵の二次創作RPGに出会ってさらにのめり込み、ジャンルを追っていった先に、東方と出会うと。ようやく東方の話にたどり着きました。

尊王:
 東方のことを知って、次のコミケで新作の『東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.』が出ると知って、当然興味を持って買いに行こうと思いました。実際には惨敗でしたね。

――準備したけど、買えなかったと。

尊王:
 買いに行く順番をかなり後ろの方にしていたんです。プレイしたことがなかったゲーム、しかもシューティングゲームという未知のジャンル。当時私がやったことのあるシューティングは、先ほど話したファミコンの『ドラえもん』2面しかなかったような状況で。

――興味があったとはいえ、それならヒエラルキーは下がりますね。

尊王:
 そういう状況で、まあ買えたらいいよねくらいの気持ちで、5~6番目くらいの優先度でリストに入れていたんですが……今でも鮮明に覚えています。
 最初に行ったのが西2ホールの『葉鍵ロワイアル』第3巻。その後に東3ホール、つまり真反対側のシャッター横で売っていたはちみつくまさんの最新作、同じくシャッター横で当時非常に有名だった、黄昏フロンティアさんの『Eternal Fighter ZERO -Bad Moon Edition-』、さらに渡辺製作所の『GLOVE ON FIGHT』でタッグを組んでいた南向春風さんが出した初のフラッシュ集を西のシャッター横で手に入れて、また東に戻ってきて、シャッター近くの上海アリス幻樂団のスペースに行ったら……完売していました。

――それは……無理ですね(笑)

尊王:
 当時のコミケに参加した人だったら、10人が10人とも「それは買えないよ」っていう、そういう行動を私はしてたんですよ。

――尊王さんにもそんなかわいい時代があったのかと、少しほっこりしました。

尊王:
 唯一、買おうと決めていて買えなかった原作は『妖々夢』だけですね。無念でした。結局『妖々夢』も『紅魔郷』もショップ委託で買い、そこからしばらくは東方作品に触れることができませんでした。シューティングゲームに本当に触れてこなかったので、まず『紅魔郷』のEasyがクリアできないんですよ。3週間くらいかけてようやくクリアしたのかな。

――最初はみんなそうですよね。『紅魔郷』、難しいですから。

 

例大祭までに、なんとしてでも全キャラと会わねばならない

尊王:
 クリアしたあとの話ですが、秋葉原の同人ショップの店頭で、紅魔郷のプレイ動画をずっと流しているのを見かけたんです。そこから流れている曲が本当にすごくいい曲で、でも私は同じゲームを遊んだのに聞いたことがなかったんです。絶対に自分でもプレイして聞いてみたい、そう思った曲が「U.N.オーエンは彼女なのか?」だったんですね。

――なるほど。尊王さんが一番好きなキャラクター、フランドール・スカーレットとの出会いはそこからなんですね。

尊王:
(紅魔郷はEasyだと5面までなので、Normalで)レミリアを倒すのにさらに 3 ヶ月ぐらい掛かり、2003年末にようやくレミリアまでは倒せたかなというところで。

 そのころ、第二回東方Project人気投票と、第1回最萌トーナメントがあったんですが、欠席しました。まだ紅魔郷もクリアできてないし、妖々夢は触ってもいなかったので、ネタバレ防止で。

――自分でクリアしてから見に行かなきゃダメだと。

尊王:
 2003年末に「東方のオンリーイベントが来年春に開催されるらしい」って話を聞いて、それまでになんとか自力でキャラの姿を拝まなければならないと思いました。
 年が明けるころに、なんとかフランドールまでたどり着きました。会えたから、残念だけど倒すのはちょっと断念して、今度は妖々夢に移行して。やっている人はわかると思うんですけど、紅魔郷のフランドールまでいけたら、妖々夢はプレイして一発でエキストラまでいけちゃうんですよね。

――いけますよね。難易度的に。

尊王:
 とはいえ、紫に会うまではさすがに大変だな……と思っていたら『永夜抄』の情報が出てしまって、プレイヤーキャラに紫が出ちゃったので、ネタバレもあったもんじゃなくなりました(笑) とりあえず全キャラには会えましたってところで、東方のオンリーイベント、第一回の『博麗神社例大祭』につながってくるんです。

――例大祭よりも例大祭に詳しいかもしれないと言われている一般参加者は、例大祭がはじまるまで一度も東方原作をイベントで買えていなかった。エピソードとしては大変興味深いです。そして、いよいよ例大祭がやってくるのですね。

尊王:
 そうですね、伝説の「第一回博麗神社例大祭」。そこで、初回のコミックマーケットとは比べ物にならないほどに、また叩きのめされるんです。

 

大いなる悔恨、第一回例大祭

――当時の伝説というか、会場に入りきれないほどの人が押し寄せた話ですね。第一回の出来事で、覚えていることはありますか?

尊王:
 いや、むしろ覚えてることしかないというか、悔恨の念というか……。

 例大祭に行く前の時点で、葉鍵のオンリーイベントには何回か足を運んでいたんですよね。なのでだいたいこのくらいなのかな、という規模感が分かっていた……つもりでした。一番広いのはコミックマーケット。それよりすこし小さいのがコミックレボリューション。もうすこし小規模になってくるのがサンシャインクリエイション。それよりもさらに縮小したものが、各ジャンルのオンリーイベント。そういう理解でした。

――その認識自体は、間違っていないです。

尊王:
 さらにいうと、当時の感覚として、東方原作ってかなり手に入れるのが大変だったんです。委託も時間がかかって、ようやく出てもすぐに完売という状況がずっと続いていていました。需要と供給があってなかったので、ゲーム本編を触れている人が少ないし、触っていない人がオンリーイベントになんか行かないだろう……そう思っていたんです。

――2004年当時、ニコニコ動画はおろかYouTubeもまだない時代ですからね。ゲーム本体がなければ、リプレイファイルも再生できませんし。

尊王:
 ひとつだけ、大きな失態があるとすると、私は東方人気投票と最萌トーナメントを辞退していたことです。つまり、そこでの人気の状況を知ることが出来てなかったんです。そこを追っている人だったら、その果てしない熱をそこで知ったんでしょう。私はそれを知ることなく、例大祭に突っ込んでしまったので、完敗を重ねたんでしょうね。

――過去のインタビューでビートまりおさんが「みんな第一回の例大祭にあんなに人が来ると思ってなかったっていうけど、俺はその時から『これはやばいことになる』って思ってたよ」っておっしゃってますね。

尊王:
 それこそ、ビートまりおさん自身が大のシューティング好きと謳ってるぐらいですから。

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尊王:
 朝の8時半前に例大祭の会場に行ったら……ものすごい人がいるんですよ。あ、あれ?どういう状況?もしかして、隣のFateのイベントの列かな? なんて思いながら、会場にだんだん近づけば近づくほど、どうやらほとんど東方の列じゃないか……? と。これはとんでもないことになっている、とそこで気がつくんですね。

――会場の大田区産業プラザPioに行ったことがない人には分かりづらくて恐縮ですが、大展示場の奥側の一番大きなシャッターを開けたらしいですね、そのときは。

尊王:
 そのあと、いろんなイベントで何回かPioに行ってますが、あのシャッターが開いたのはその時しか知らないですね。そのシャッター列は、もちろん全て上海アリス幻樂団のものでした。

▲第一回のカタログ。右上に、上海アリス幻樂団のサークルカットがある。

――実際、原作は買えたんですか?

尊王:
 買えました。でも、買って列を抜けたら、もう会場には何も残っていませんでした。

――上海に並ぶか、ほかのサークルに行くか、完全に2択だったと聞きますね。

 

「こんな甘い考えで一般参加してはダメだ」

尊王:
 目星をつけてたサークル全てが完売していました。目星をつけていた壁サークルに行ったら何もなく、誕生日席に行ったら何もなく、欲しかった島中も何にもなく、もう一度チェックしていなかった壁サークルに行ったらまったく何もなく……できたことは、見本誌を読むことだけでした。

――凄まじいですね……その状況を見て、どう思いました?

尊王:
「こんな甘い考えで一般参加したらダメだ」と反省しました。もっと、一般参加者としてのレベルを上げないとダメだと。

――尊王さんがSNSなどでよく言われる「一般参加者のレベル」という概念は、この体験から来ているのですね。初回のコミケから会場の下見をするほどの慎重さを持った人が、立て続けに2回も大きな敗北を期し、意識がもう一段変わることになると……。

尊王:
 2回分というか、この例大祭での完膚なきまでに叩き潰された経験が、何より大きかったですね。さらに言うと、その半年後に第一回例大祭読書会に参加しそびれる、という失態もやらかします。完全に油断していました。

――立て続けに……。そんなことがあってから、尊王さんにとって同人誌即売会はもう、ひとつの「闘い」になったわけですね。

尊王:
 第一回例大祭の完敗と、読書会の存在にまったく気づけなかったというふたつを、半年ぐらいの期間で叩き込まれてしまって。「もうダメだ、これは一般参加者としてちゃんとしなければ」と思った年でしたね。

 

一般参加者から見た、当時の例大祭で起きたこと

尊王:
 第一回例大祭はとにかく会場が人が多くて。神主が作った『東方妖々夢 スコアアタック』という特別版を遊びたかったんですが、大人気すぎて抽選になりました。そもそも抽選にすら行けなかったくらい人が集中してたり……。そのスペシャルなステージは、クリアできた人がひとりしかいなかったんですよね。アフターイベントでその人を表彰しようと思ったら、なぜかわかりませんがリプレイが残っていなくて。仕方ないのでその方、皆さんの前でもう一度プレイして、しっかりそのままクリアされたという。その様子を拝見しましたね。

――「妖々跋扈 ~ Speed Fox!」が入っているバージョンですね。

尊王:
 その曲が入っているのが……このCDですね。

――『Cradle』のオリジナル版ですね! ぼくは風神録新参だったんで、東方に入ったころにはこのCDめちゃくちゃプレミアついてて……再録の『Cradle Re:Boot』でやっと手に入れました。

尊王:
 最初にこちらを見せるべきでしたね。これが当時配られた、第一回例大祭開催告知チラシです。

――貴重な品です。素手で触っていいのかな……。

尊王:
 あとは、カタログですね。修正紙付きの。

――第一回のカタログは、初版と二版があるんですよね。初版には修正ペーパーが後に配られたという。ああすごい、当時の尊王さんが書かれたメモがサークル配置図に残っていますね……。

尊王:
 配置図に掲載されている108のサークルのうち、今でもすべての例大祭に皆勤で参加し続けているサークルは、もう3つだけです。やむっさんの「ReverseNoize」たのさんの「貴様それでも人間か!」、あとはむむむさんですかね。本来なら呑んべぇ会のみなさんも同じはずなんですけど、神主の結婚式と例大祭が同日になった時に、参加が途切れてしまったんですよね。

――皆勤は3つだけと言いますが、20年続いているイベントに皆勤サークルがいる、ということ自体がそもそも驚きです。

尊王:
 このカタログとチラシをセットでお見せしたかったのが、このチラシを描かれていた鳴海柚来さんのことを話したかったからです。当日、おおよそ全てのスペースから頒布物がなくなって、鳴海さんのサークルスペースで見本誌を読ませていただいてたんです。そうしたら、なにやら後ろの方でなにかざわつき始めて、明らかに周りの人の反応がおかしいんですよ。群衆が割れたと思ったら……帽子を被った人が歩いてきたんです。

――帽子。ハンチング帽ですね。

尊王:
 各サークルスペースに回って新作を手渡していた、神主だったんですね。私はそれまで御本人の顔を見たことがなかったので、そこではじめてその存在を知るんです。(ファンイベントなはずの)即売会に「原作者」がいる、ということの衝撃たるや。それまで行っていたスクエニ系や葉鍵のオンリーに、原作者がいることはありえませんでしたから。

――いまやもう例大祭にZUNさんがいることは当たり前ですし、ちっちゃい子からしたら「東方をつくったお酒好きのおじさん」みたいなイメージでしょうからね。

尊王:
 そういう意味で、実際に製作者が最新作の体験版を出して、会場にサークル参加していて、ほかのサークル参加者に作品を配り歩いているっていうのは、とんでもない光景でしたね。後日、その様子を描いたレポ漫画を鳴海さんがWEBにあげていらしたんですが、その中での神主は完全に後光が差していて、差しすぎていて、シルエットすらも描かれていないという表現だったんです。そのレポ漫画ほど、神主のすごさを表しているものがないなと、今でも思っていますね。

――オーラが強すぎて、本人が見えなくなるほどの。

 

 

(第三回に続く)

 

「こんな甘い考えで一般参加してはダメだ」最初の例大祭で味わった、大いなる悔恨――最強の一般参加者「尊王」氏、独占インタビュー おわり

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