東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「今、例大祭って大丈夫なんですか?」このニ年間でイベントを開催し続けた自負と、YouTubeで即売会が発信する理由――博麗神社例大祭社務所インタビュー

博麗神社例大祭社務所、代表・北條氏 販売統括・篠原氏 企画統括・関氏インタビュー【第二回】

 このインタビューでは、例大祭社務所代表の北條氏、販売統括の篠原氏、企画統括の関氏の3人に、このコロナ禍において例大祭社務所がどのような動きをしてきたのか、そもそも「博麗神社例大祭」ができあがるまでの裏側、イベントとしての現状や、即売会の中でも特異な「参加者層の若さ」についてどんな考えを持っているかなどを、併せて伺った。「例大祭」というイベントの形が見える内容となれば幸いだ。

※こちらの記事は、2021年6月、12月の2回に渡って行われたインタビュー内容をまとめたものとなっています。

文・聞き手/西河紅葉
写真/紡

 

「今、例大祭って大丈夫なんですか?」

――ここからは、例大祭を運営する「博麗神社例大祭社務所」という組織について、掘り下げて参ります。

 いきなりで恐縮ですが「今、例大祭って大丈夫なんですか?」というのは、参加者の心配のひとつだと感じています。約2年弱、今までのような形態でのイベント開催はできず、入場者数を大きく制限した形で開催している現状で、例大祭はこれからも続けられる? 「社務所」は本当に大丈夫なのか? ……というのは、誰しも気になるところだと思っていまして。

北條:
 正直に言ってしまうと、かなり厳しいです。

 2020年の秋季例大祭は、なんとか開催できたものの、単体の収支で言うなら大きな赤字が出ました。収支よりも先に「イベントをやる」ことだけを目的に開催しましたので、僕らも含めサークルさんや一般参加者さんも大変だったかと思います。

 コロナ禍以降のイベントにまだ誰も慣れていないころで、「こんな窮屈な思いをしながら参加しなきゃいけないのか」と感じた人も、少なくなかっただろうなと。実際にクレームをいただくこともありました。その窮屈さは僕らスタッフも感じていて、あのときは、これからどうするのが良いのだろうと本当に悩んでいました。

――そもそも、検温してから入場するという、今は当たり前になりつつある感染症対策を導入した同人イベントは、当時だと2020年の秋季例大祭が先駆けのひとつでしたよね。

[イベントレポート]行楽日和の例大祭! もや造さんの第七回博麗神社秋季例大祭マンガレポート

北條:
 それ以降、さまざまなイベントが開かれていく中で、例大祭のスタッフたちもほかのイベントに一般参加やスタッフ参加で足を運んだ結果、「新しい形のイベント」に対する経験が徐々に蓄積されたことが、2021年春の静岡例大祭につながってきた部分があります。

 静岡例大祭は、イベントの単体収支で見ると赤字ではないのですが、それまでにかかった費用というものが多く積み重なっていまして。どちらのイベントもコロナ禍以前とはまったく違う規模で開いているので、その準備や機材の費用が発生しています。また、イベントが中止になって会場費が戻ってきても、そこまでの準備にかかった費用は戻ってこないわけです。最後まで用意したけどモノとしては出せなかった、というのも実はたくさんあって。そういう部分でのマイナスは計り知れないですね。

 さまざまなお力をいただいて継続していましたが、この状況がずっと続くなら、もう維持することはできないと思っていました。ですので、春の静岡、そして秋の青海展示場と、あのような形でイベントが開催できたのは、本当にありがたかったです。

――誰もが思っているとおりに、厳しい状況ではあるわけですね。イベントが開催できて本当に良かったと思います。実際、例大祭のスタッフは今、どのくらいの人数で動いているのでしょうか。たとえば、静岡のときは現地に何名ぐらいおられたんですか?

北條:
 静岡が結局……170名弱ぐらい?

関:
 そのぐらいですね。

北條:
 本当は「今の御時世、人数はもっと減らしたい」という話もありました。ただ蓋を開けてみると、当日に体調不良で欠席となったスタッフや、緊急事態宣言下で県跨ぎの移動自体が禁止されている企業に勤めているスタッフもたくさんいたりして。それに当日あの悪天候があり、予想以上に人的コストがかかったので……決して多すぎたとは思わないんですけど、正直予想より集まったなと思っています。

――即売会というものの体制を知らない方が多いと思うので、それまでの、2019年や2018年の例大祭では、どのくらいの人数がフルで動いていたんでしょうか?

北條:
 それまでですと、春で約500名。秋で大体300~350名ぐらいですね。当日は、先程の通り300~400人以上が動いています。事前の段階では、事務所やそれぞれの自宅で当日に向けての準備をしてくれるスタッフが20~30人くらいですね。

――この人数はほかの即売会と比べると、多いのですか?

北條:
 たぶん、多いですね。同規模のイベントの中では、例大祭が一番多いと思います。

――スタッフの年齢層はどのあたりが多いのでしょうか。

北條:
 ものすごく幅広いですよ。

関:
 部署によって違うんです。たとえば警備担当だと、年齢の高い方が結構多いですね。変わって企画担当とか館内担当になると、学生さんが増えてきます。「初めてスタッフやったよ」みたいな人とか。

北條:
 高校生もいますね。

――みなさんどのような経緯でスタッフになられるのでしょうか。

北條:
 ひとつは、実際に例大祭に来ていて「スタッフが面白そうだからやってみたい」という、ストレートなケース。

 あとは生放送を観て、ですね。例大祭の生放送では必ず、各部署の責任者が出て挨拶をするんです。「ウチの部署はこんなことをしています、ぜひスタッフ登録して遊びに来てね」というような。部活紹介みたいですね。それを生放送でやっていて、それを観て登録してくれる若い子も結構多いです。

 昔はなんというか、同人的なつながりで、たとえば大学サークルや漫研を通じてスタッフになるケースが多かったですが。

――先輩後輩のつながり、ですね。

北條:
「ちょっとやってるから手伝いに来てよ」「面白いから来なよ」みたいなつながりが多かったですよね。

関:
 誰かに誘われて、その人がさらに誘って、といった拡がり方が今まででしたが、最近は裸一貫で突っ込んでくる若い子、気概のある元気のある子がちょっと多くなってきた感じですね。

――裸一貫、良いですね。関さんの統括する企画部署は、若い人が多いのでしょうか?

関:
 そうですね。でも、若い人だけじゃなくてベテランの方もいらっしゃいますよ。たとえば「息子がサークル参加してるんだけどさ」という方が来たり……。

――そういうパターンもあるんですね!

関:
 もともと自分でも同人活動を前にされていたらしいんですが、例大祭の生放送を観て「自分も放送を手伝ってみたい」という感じで参加されていて。年齢関わらず、いろんな世代の方が「例大祭に興味ある」「面白そう」と言って、来てくださっていますね。

――では、例大祭生放送で発信を続けていることが、新しいスタッフの獲得につながっているんですね。

北條:
 例大祭に限っては、多いと思いますね。

篠原:
 スタッフ登録の際に記入する資料、「生放送を観て来ました」と書かれる方が結構おられるので、効果は出ているみたいですね。あまり、ほかのイベントだと聞いたことがない人の流れだと思います。

 

意図を含めて伝えたい――即売会がYouTubeでの発信をする理由

――そもそもほかの即売会だと、定期的に自分たちの運営形態について発信をしているケースが、少ないかもしれません。

北條:
 正直、うちのコンテンツがめちゃくちゃ面白いからみんな見てくれてる、とは思ってないんですよ。

――北條さんこう仰ってますが、大丈夫ですか関さん。

関:
 大丈夫です(笑)

北條:
 もちろんがんばってると思いますよ! がんばってるところもあるんですけど、大事なのは「定期的に情報を出すこと」だと思っていて。続けることで「例大祭の放送だったらそういう情報が出るから、観ておくか」と判断して観てくれている人が多いかなと思っています。

関:
 最近のケースで言うと、入場の方式がかなり変わっているじゃないですか。2020年の秋は、時間ごとの入れ替え制にしたり。それが大変だったので、次の2021年の静岡例大祭は段階入場制にしたりとか。僕らとしてはより良い形にアップデートしていきたいと考えているのですが、参加者からしたら「そんなこと言われてもよく分かんない」というのは、正直なところだと思うので。

――いつもの即売会と違うと「分かんないよ」と言われてしまう、という話ですね。

関:
「入場方法が変わります」のお知らせだけだと、「何がどうなるの?」とうまく伝わらないことが多かったんですが、生放送で入場に関する説明に時間を割いて、2回ほど丁寧に伝えたんですね。そうすると「あ、こういう入場なんだね」って理解してもらえたりとか。

 生放送で伝えることで、何故僕らがこんな方式をとっているのか、という“意図”の部分を噛み砕いて伝えられていると感じています。この業務にはこういう意図があるので、このような形にしているのでご協力をお願いします、というのを生放送では伝えています。

――若い人の多いYouTubeで意図を含めて伝えていることで、親御さんが安心してお子さんと一緒に参加できている、という部分もあるのかもしれないですね。

関:
 そうかもしれません。信頼して観ていただいてるのかなという気持ちではいますね。生放送としての面白さはそれでいいのか? と思うときはあるんですけど……(笑)

――「どうして即売会の運営が生放送やってるの?」と疑問に思っている人も多かったことかと思いますので、今回お話が聞けたのは大変良い機会でした。ありがとうございます。

 

例大祭ってどうやってできているの?

――ここからさらに「そもそも即売会って、どうやってできているの?」という、もっと基本的なところを伺っていきたいと思います。私たちが参加している同人誌即売会が、どのように始まって運営されているのか、実は参加している人も知らないことが多いですよね。そういった部分についてお聞かせいただけますか。

 たとえば、5月に例大祭を開催するよ、という話になったら、まず最初に行われることは何なのでしょうか?

北條:
 まずは会場を押さえるところからでしょうか。だいたい開催日の一年以上前から、会場との日程交渉が始まります。例大祭は今、一年間に春と秋の二回開催をしているので、春の準備をやってる最中に秋のことはもう考えていて、一部では準備が始まっているんです。

 イベントが終わったら必ず反省会というものを開きます。そこで今回のイベントでの反省をし、それを踏まえて次のイベントへのキックスタートを行っています。春が終わればすぐに秋の準備だ、という感じですね。

――本当は例大祭各部署の方々からお話をお伺いしたいところですが、今回は代表して販売担当・企画担当のおふたりに伺います。それぞれの部署で最初に始まることはなんですか?

篠原:
 販売担当は、販売する例大祭のグッズの企画・制作が大きなところになります。ですので、まず代表の北條、副代表の荒瀬と、どのようなグッズラインナップにするか、何を作るのかを決めます。そこからどんなイラストをつけるか、どの作家さんに描いていただくかを選定していって……という感じですね。

 気をつけないといけないのが、とにかく当日にグッズが用意できればいい、というものでもないことですね。カタログにグッズのビジュアルを載せなければならないんです。そうなると、春と秋の例大祭の間って、実はわりと短いので……。依頼がトントン拍子に進めばよいのですが、作家さんとお話がつかない、スケジュールが合わないといった事態になると、カタログには「Now Printing」で載ってしまったりとか(笑)

――なかなか苦労がありますね……。

篠原:
 グッズに関しても、ここ最近マンネリ化してきたと感じていて、ラインナップを変えていこうと思っています。

 特にコロナ禍で、カタログが入場券ではなくなったこともあり、以前ほどカタログ販売所に人が来るわけではなくなりました。販売所に来る理由も少なくなったことを踏まえて、我々も変わっていかなきゃいけないのかな、というところを検討していました。

北條:
 あとは年齢層に合わせて、安価なグッズのラインナップにも力入れていきたいですね。

 コレは失敗談ですが、以前ガチャガチャの景品を作ったことがあって。ガチャガチャの本体を会場に6台ほど持ち込んだのですが、人気が出すぎて列がぐんぐん伸びてしまって。しかも……詰まるんですよ、コインが。

関:
 大変でしたねあれは。

北條:
 トラブルが続出したので、お金は直接スタッフに渡して、ガチャガチャはお金を入れずに回せる状態にしたり、とか。それでも伸びていく列に応対が間に合わなくて、最終的には普通のグッズ販売になっちゃう、ということもありました(笑)

――それだけ、100~200円くらいのグッズ需要が高かったわけですね。

篠原:
 なかなかその、僕たちが古いオタクだというのもあって(笑) 新しい血を入れていかなければと思っています。新人スタッフに「今の流行りってどんなのがある?」と聞いたりして、意見として取り入れたりとか。生放送で「こんなグッズが欲しい」という要望を受け付けたりとかもいいな、と思っています。

――ありがとうございます。企画部署はいかがでしょうか? 継続して行われている生放送などもあるので、どこが始まり、というのは難しいかもしれないのですが。

関:
 おっしゃるとおりで、企画によってまちまちです。分かりやすいもので言うと、キッズイラストコンクールは、募集と集計が終わった時点ですぐに、来年開催するかの検討をしています。

――「これだけ集まったから、続けてもいいよね?」というような。

関:
 企画当初から「好評だったら続ける枠」だと決めておいて、実際の様子を見てイケると確信したらもう、カタログのページに書いちゃうんですね。「ご応募いただき有難う御座いました、次回も秋ごろを予定しております!」と。先にスタートすることを決めておいて、あとで内容の深い検討を始める感じです。形が固まってきたらカタログの掲載内容を詰めたり、生放送やホームページで募集をしたり……という感じです。

 長い企画は1年前ぐらいから計画は進んでますし、短い企画に関しては2か月ぐらいで急に決まるものもありますね(笑)

――直前で「やろう!」と決まるものもあるんですね。

関:
 北條さんから「上海の東方イベント(上海THO)から出展したいって声をもらったよ! スペース開けて!」って言われたら、もうシュッと2か月くらいで仕上げます。カタログの記事もババッ!って入れて(笑)

――面白いと思ったら、とっさの対応もどんどんやるよ、と。

関:
 みたいなパターンもあるんですけど、基本的には事前に企画を考えて進めるほうが多いですよ(笑)

 イベント開催が終わったら、すぐに企画担当で集まります。「次回は春だからちょっと抑えめにしとく?」とか、「次回は秋だから企画でスペース大きく取れそう」とか、さまざまな要素を検討に入れつつ、ですね。

 参加者が求めているものは何なのかが第一にあり、その上で、今だと「それは感染症対策を行った上で実現可能なのか」なども懸案しつつ、案出しをしています。

――ありがとうございます、楽しそうな部署だというのが伝わってきました。

 これまで、例大祭がどうやって運営しているのかという部分は、カタログに一部掲載されていたりする部分はありましたが、Web媒体の文字上に残っているものはあまり多くないかなと思っています。こうしてお話が聞けたのは貴重な機会でした。

篠原:
 事前の動きって、ブラックボックスに見えますもんね。当日の動きばっか目立っちゃうから。

 

 今回はここまで。次回は、何故例大祭が「即売会以外の部分」に力を入れているのか、キッズイラストコンクールなど最近の事例も交えながらお聞きしていきます。

「今、例大祭って大丈夫なんですか?」このニ年間でイベントを開催し続けた自負と、YouTubeで即売会が発信する理由――博麗神社例大祭社務所インタビュー おわり

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