東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2019/12/03

「参加者が狂ってるから、こっちも狂ったように会場確保しないといけないの!」“東方しかなかった”が故の熱狂の圧力。昔から今までを見てきた3人だからこそ、博麗神社例大祭について思うこと

鈴木龍道氏、JYUNYA氏、ビートまりお氏による「博麗神社例大祭」初期、東方コミュニティ黎明期鼎談「第6回(完)」

選択肢に東方しかなかった人が多かった

ーー当時を見ていた人からすると、今の東方の界隈というか、ファンとクリエイター含め、どういうふうに感じていますか?

JYUNYA:
 変わんなくない? 俺は変わんないと思う。

ビートまりお:
 Twitterとか、いい意味で落ち着いたとは思うよ。

龍道:
 うん。落ち着いたイメージ。なんか、すごい本当に初期の頃って、半ば暴力なんですよね、みんな。熱狂の暴力というか。

ーー冷静ではないというか。熱狂の渦の中で。

龍道:
 うん。冷静ではないですね。今は「ちゃんと好きでこれ作ってるんだなぁ」みたいなのはあるんですけど、当時はただただぶつけてくるだけの、という感じで。

ーーやっぱり例大祭の人数の増え方って気が狂っているし、この増え方をやっていくイベンターも狂っているんですよ。龍道さんは明確に狂っていたと思う。

龍道:
 (笑)だって参加者が狂ってるから、こっちも狂ったように会場確保しないといけないの!

ーーあてられるようにみんなで狂っていった、と。

龍道:
 八回目が確か一般参加者50,000人じゃないかな。45,000~50,000のはず。

ーーオンリーイベントですよね?(笑)

JYUNYA:
 この頃って、自分含め選択肢に東方しかなかった人が多かったんですよ。もう一年通して東方で楽しむっていう。コミケも東方、例大祭も東方、なんかグッズ買うにも全て東方、みたいな人が多かった。俺が「変わらない」って言ったのは、今は数ある選択肢の一つが東方になっているから。常に居るわけじゃないけど、僕らが何かアクションを起こすと戻って来てくれるし、買ってもくれるんですよ。そういう意味で、作り手側として、何も変わってないなと。ただ、界隈を見ると確かに、絶対的な東方っていう要素が選択肢のたった一個にいい意味で収まったな、という変化はあると思います。

ーー例大祭っていうイベントが独特だったことってなんでしょうか? 例えばまりおさんはまさにユーザーとして、他何個かオンリーイベントも行ったことがあるだろうし、別のジャンルにもいたわけじゃないですか。別のジャンルと比べたときに、東方の例大祭っていうイベントが特別だったことってありますか?

ビートまりお:
 例大祭の初期ってサークル側も一般参加者側も20代前半くらいが多くて、みんな同じような年齢層なの。俺はなんであの時『ビートまりお』として上がっていけたのかというと「俺らと同世代のオタクが頑張ってステージの上で歌ってるぞ!」「俺らと同じ東方オタクが、あのアニサマで歌ってるぞ!!」みたいな感じで、同世代のオタク達が、同世代のオタクを、ガーッと押し上げていって。それがもう、頭おかしくなるぐらいの勢いで広がっていったのが、あの時代だった。
 今は流れも世代も一周して、新しい世代が入ってきたけど、あの時みんなで押し上げて作っていった道がまだ残ったままだから、ある意味落ち着いて歩けるのかなって。

ーーみんな、あそこで見ていたまりおさんが、あんな大きな舞台に立っている、っていうのは相当嬉しいですよね。

ビートまりお:
 自分は止まろうとしても勝手に押されていくし、他の人も押されていく。みんなしてガーッと異常な世界に、熱狂に巻き込まれて行った感じはあるかな。同じ体験は多分、無理だろうなと思っていて。貴重な体験だから。

ーースピードが特別だったんですね。

ビートまりお:
 そうだと思う。

JYUNYA:
 ゲームがちょっと最近そういう感じかも。コンシューマーとかスマートフォンとか含めて。そういう様を今追っかけていっているなという感じはある。行くところまで行くピークまで今は来てるかな。ゲーム系が今度、もうちょっとしたら一周するかもしれない。

ーーこの爆発の仕方をしたイベントというか、ジャンルは他にはないですよね。

ビートまりお:
 ないんじゃない?

龍道:
 俺も知らない。

ーーコミックマーケットですらこのスピードでは大きくなっていない。

JYUNYA:
 なってないかも。

ビートまりお:
 俺、コミケで最初、東方がジャンルコード【※】を貰った
ときはやっぱり嬉しかったもん。段階をちゃんと経て、コミケでジャンルが独立して。今なら割とスッと人気作品が次のコミケでジャンルコード入ってくるけど。この時は本当に、ボンボンボンと上がっていく様をまざまざとみんなで見る、という感じで。

【※】ジャンルコード。コミケでのサークル配置は申込時のジャンルコードによって区分され「創作(少年)」「歴史・創作」「同人ソフト」などの大ジャンルと、その中で区分された「東方Project」「TYPE-MOON」「進撃の巨人」などの個別ジャンルがある。個別ジャンルに分かれるということは概ね、サークル数の増加によって増えた事による事務処理の効率化を図るという意味があり、その変遷を追うことで結果的に「とても人がいるジャンル」の潮流を判別できる。

龍道:
 みんなで見て、みんなで大きくした感じだね。

ビートまりお:
 そういう感じがあったから。

初代代表から視た、今の例大祭

ーー龍道さんから見て、今の例大祭はどうですか?

龍道:
 言葉を濁さず、本当、ただただ純粋に、今のこの規模をちゃんと運営しているっていうのはよくやってるなと。結局イベントって、続けていくと、まずスタッフにとってのマンネリが始まっちゃうんですよ。そうするとどうしても情熱が保てなくなってきて、どんどんイベントのキャパも下がっていく。それはどんなイベントでもどうしようもなくて。でも、こうやってある程度の規模をちゃんと確保して企業のイベント誘致とか、子供向けの企画とかもやってらっしゃるので、頑張ってるよねって。イベント続けるって本当に大変なので。

ーー例大祭SPは、本来そういうようなことを目指していたんですか?

龍道:
 SPはそもそも、例大祭が大きくなりすぎちゃったから、みんなに還元するイベントを作ろうっていうことで。だから、一番最初とか法被を無料で大量に配ったり。可能な限りおふるまいをしようって! 

ーーもう、イベントを一個開くしかないぐらいの感じだったんですね。

龍道:
 そうですね。イベントで受けた恩はイベントで返そうって感じで。

ビートまりお:
 今、イベント多くて大変だよ。春やって夏やって秋やって冬でしょ。秋のイベントは特に大変だよ。SPなんか始めるから(笑)

龍道:
 すいません。

JYUNYA:
 昔って、まず年明けからダラダラしてゆったり夏コミまで調子を上げていく、で、夏が終わってちょっと秋はまだダラダラしてすぐ冬コミが来ると。で、一年が終わり年明けとともにダラダラして五月くらいに「やっべ、そろそろ夏コミだ」……っていうようなサイクルだったけど、当時、例大祭が三月だったので年明けて「あ~」ってしてたら「あ、やべえ例大祭だ!」って(笑)。

例大祭でエンジンかかって、GWでちょっと休んだと思ったら夏が来て。で、ちょっと四ヶ月しかなかった休みに秋の例大祭とかSPが来て。もう、とにかくゲーム制作は休む時間や腐ってる時間がない。

ーー走り続けるのは大変ですよね。

JYUNYA:
 まぁ、イベントは全部出るよね。そうすると、「どこ休むんだよ」っていうね。だから五月になって、ちょっと余裕が出たよね。今はね。

【コラム】2011年の例大祭

もう一回例大祭を立ち上げるとしたら?

ーーそれからずっと五月で、この次が三月なんですよね。静岡で。

ビートまりお:
 龍道、なんで静岡にしたの?

龍道:
 知らねえ! 本当に知らねえよ! 面白いぐらい知らねえ!

ビートまりお:
 考え方としては、三月に戻ってきたよね。

ーー例大祭を覗きに来られたっていうことはあるんですか?

龍道:
 毎回行ってますよ。知り合いのサークルぶらぶら回って。

ーーそうすると「なんでやめたんですか」になっちゃうんですよね。

ビートまりお:
 なんでやめたの?(笑)

龍道:
 いや~、なんででしょうね?(笑)

ビートまりお:
 じゃあ、2004年に戻って龍道がもう一回例大祭を立ち上げるとしたら「ここ、こうしときゃよかった」みたいなのは?

龍道:
 イベント名をまず、ZUNさんに聞くかな……。

JYUNYA:
 わかんないよ。二巡目のZUNさんが「夢幻創世記」って……

一同:
 (笑)

ビートまりお:
 ZUNさんはああいう性格だから、最初に「例大祭」を出すと「これじゃダメだろ! 例大祭に迷惑だろ!」って絶対なにかいう人なんだよ。

ーー全部この眼の前のチラシが「夢幻創世記」になっていた可能性があるんですね。

JYUNYA:
  で、その話になって「当時夢幻創世記は例大祭って名前だったんですよ」「ダサ!」って(笑)

龍道:
 それぐらい。あとはもう、何やっても無駄。なるようにしかならない。勢いが強すぎて、何やっても本当に無駄ですね。

JYUNYA:
 何をやっても無駄って、ある意味で深いなぁ。

龍道:
 でも、それぐらいすごかった。

ーーみんな熱に浮かされていたんですね。スペースが増え続ける間。

ビートまりお:
 龍道は自負あるの?「俺がいなけりゃ東方はここまでにはならなかったぜ」みたいな。

龍道:
 生き抜いた自負はある。要するにイベントを、会場を大きくしながら生き抜いた自負はある。けど、自分がいなくても結局誰かが東方のイベントをやっててくれていたから。

ーー押し上げられてしまって、波の中で沈まずに。

ビートまりお:
 だから、なんかちょうどいい神輿だったんだよ。

JYUNYA:
 若かったしね。

ビートまりお:
 周りに歴戦の勇者、スタッフたちがいたじゃん。だからちょうどいい神輿だったね。

龍道:
 倒れなかったことだけが本当に自負ですね。後はただただスタッフに恵まれたイベントでした。

ーー絶頂期まで、この凄まじい勢いとともにイベント主催をやってきた、っていう八年間。

龍道:
 この勢いで大きくなるイベント、死ぬよ。怖いよ。本当に怖いからね!

JYUNYA:
 一手間違っただけで天板が割れるみたいな。「うわ、水漏れてきた!」みたいなのあるよね。

ーー普通の人は様々な問題が発生していた第五回で死んでておかしくないんじゃないかなって。

龍道:
 大量の問題が起きたから、会場広くして……。

ーー自分がイベンターだったら、ここで企業と一緒にやったかもな…と思います。

一同:
 あ~。

ーーこんな規模で大きくなってしまったら、今なら何かしらの企業が入ってきちゃう速度かなって。ヘッドを張りつつ、主体は企業、みたいな感じに今ならなりかねないですよね。

JYUNYA:
 2006年ぐらいから始めていたら、どっかと一緒にやっていた可能性は絶対あると思う。

ビートまりお:
 ただ、これ原作もやっぱり同人作品じゃん。これはどこまで行っても守ってたんじゃないかなって思う。商業ベースが入ってこないままだったんじゃないかなって。

JYUNYA:
 そうなった可能性があれば、例大祭にZUNさんは出なかったかも。今も原作者が例大祭にターゲットを当てて新作を出して、ってやっているのはすごいことだと思う。どこかで原作者も、絶対想いが乖離しちゃうから。普通はそんなもんじゃないですか? こんな十何回とかやってたらさ、どっかで「じゃ、君らは君らで頑張りなよ」とか、出さないときとかあるはずなのに、頑なに春に出るからね。

ビートまりお:
 自分で名前つけたっていうのは大きいんじゃない?

龍道:
 それはある。

JYUNYA:
 そして、今の体制を維持しているのはすごくいいことだなと思う。

龍道:
 ZUNさんが出てくれるからこそ、いろんな人が何も悩まずこのイベントに来れるのかな。安心して。そこは本当にありがたい。でもね、ZUNさんサークルカット描いてもらえると嬉しいです。

ビートまりお:
 初回は?

龍道:
 初回はさすがに大丈夫。何回かはこっちで似たようなフォント使って書いてたりしますね。まあ、申込どうしますってイベントで聞いて、その後の事決めずに進めた自分が悪いんですけどね。

JYUNYA:
 これは露骨に送ってきてないってわかる回じゃん(笑)。

JYUNYA:
 たまにZUNさん、例大祭出るときのTwitterが「ブースをなぜかいただいていたので」だったり(笑)。

ビートまりお:
 今もそうでしょ、「勝手にとられてたから」って。

JYUNYA:
 明確に言っちゃうからね、「申し込んでない」って。

ビートまりお:
 コミケはちゃんと申し込んでるんだよね?

JYUNYA:
 そりゃ、そうでしょ。最大の謎は、本人が「同人ソフト」で申し込んでいるのか「東方Project」で申し込んでいるのか。本人に一回聞いたら「ん~、僕は同人ソフトだと思うんだけどね」って。

ビートまりお:
 俺、コミケ申込書の「注目している作家」にずっとZUNさんって書いてます。

JYUNYA:
 俺もそう。

ーー素晴らしい! もはやみんな注目していますけどね(笑)。

ジャンルだけは生き残ってほしい、それだけ

ーー黎明期の、ほとんど世に出ていない情報がいっぱいあったので、非常に良いインタビューになったと思います。

ビートまりお:
 だって、多分まだ話せないんでしょ?龍道やめたいきさつは、きっと。

JYUNYA:
 十年後にまたやったらね。

龍道:
 結局、良い事も悪い事も何を言ってもジャンルが傷ついてしまうのが本当に嫌で。ジャンルの衰退に少しでもかかわってしまわないようすーっとフェードアウトって事で。

JYUNYA:
 それは超偉かった。本当。

ーー私が2007年ぐらいに東方ジャンルに入ったとき、龍道さんの悪い噂みたいなのが異常にインターネットに書かれていて。僕もしばらくそれは事実だと思っていたんですよ。それらの噂を、龍道さんは自分が出ていく時に全部持って行かれた感じがあるんですよね、全ての噂を引き受けたんだと。いろんな人から色々とお話を聞くと「本当に龍道さんは、いろんな人の気持ちを持って行っていったんだ」っていうことが分かって。

JYUNYA:
 普通じゃそんなことできないよ。

ビートまりお:
 そんな悪評だったんだ。

ーー他の人から見たら分からないですからね。悪目立ちというだけで。あとはFlowering Nightにも関わっていらっしゃったから、「なんでもやる」っていうのが悪いイメージで伝わっちゃっていたのかもしれません。

JYUNYA:
 例大祭SPやるだけで、「龍道は金がないから……」とか。

龍道:
 そんなこと書いてあった!?(笑)

JYUNYA:
 なんでも言われてたから。何やっても言われる。多分、龍道息してるだけでも「あいつ呼吸してるぞ!」って。そんなレベル。で、それで最後スッ……といなくなったのが本当にすごいと思う。

ーー大体、そういうのってイベントごと消滅しますよね。

JYUNYA:
 大体の末路ってそうだから。

ーーそれが「何かあったんだろう」で済んでいるのがすごいですよね。

JYUNYA:
 この一連の流れって、起承転結、まで行ってないんですよ。転のところまでいって、新しく転じていってる。普通は「起承転結、はい終了。第二世代、ポシャって終わる」みたいな。

ビートまりお:
 断絶せずに続いているのがすごいよね。

JYUNYA:
 そう。外から見ているぶんには分からないもん。

龍道:
 本当にオンリーイベントを始めた者としてはジャンルだけは生き残ってほしい、それだけなので。
 だから今も例大祭を続けてくれてるのは嬉しく思っています。

ーー今日は結構喋っていただいて。

龍道:
 楽しかったです。

JYUNYA:
 俺はもう、記憶があやふやだから……。やっぱ当時は夢中でやってたからあやふやだよね。

龍道:
 これ、例大祭で一番最初に申し込んできたサークルの申込書。

ーー全ての始まりですね。

ビートまりお:
 俺と同じ年じゃん! だからやっぱり、この世代だったんだって。

 

 初期の東方界隈にあったのは、間違いなく「熱狂」だった。狂乱と言い換えても良い。

 インターネットに居たオタクたちがそれぞれ「ZUN」という稀代のクリエイターに触れ、感じた「面白い」を、なんとか自分なりの形にしようともがいていた。
それが東方アレンジCDであり、二次創作ゲームであり、同人誌であり、小説であり、コスプレであり………最初の東方Projectオンリー即売会、博麗神社例大祭だった。

 そこからの増加は、本当に狂気としか言いようがない。短期間に、此処までの増え方をしている「同人ジャンル」は他に一つもないからだ。明らかに常軌を逸しているとしか思えないその様も、若い彼らにとっては、本当に楽しいお祭りだった。「楽しくて仕方ない」の真っ最中だった、だから此処まで大きくなった。

 参加スペース3000以上、参加人数50000人を超えるイベントになった今でも、その根本は変わらない。どんな経緯があるにせよ、彼らは「東方Project」が好きで、例大祭というイベントに集まっている。東方に出会い、楽しみ、憧れ、救われ、そうしていまここにいる。

 例大祭は、その始まりからずっと、東方が好きな「同じ」「人たち」の集まり、同人即売会として、今も在り続けている。

 (おわり)

「参加者が狂ってるから、こっちも狂ったように会場確保しないといけないの!」“東方しかなかった”が故の熱狂の圧力。昔から今までを見てきた3人だからこそ、博麗神社例大祭について思うこと おわり