東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2019/12/02

オンラインからオフライン、オフラインからオンラインに。東方のコミュニティと、インターネットとの関わり

鈴木龍道氏、JYUNYA氏、ビートまりお氏による「博麗神社例大祭」初期、東方コミュニティ黎明期鼎談「第5回」

オンラインとオフライン、それぞれの集まり

ーーインターネットとの関わりでいうと、ニコニコ動画ができたのが2006年じゃないですか。その前ってまさに、ブログとかホームページですか?

ビートまりお:
 2ちゃんねる。何回も言ってるけど俺は2ちゃんねるなんだよ。2ちゃんのスレがやっぱり盛り上がってた。

JYUNYA:
 俺らソフトからして見たら、ソフト系の大手サイト、同人ど~らく【※】
とか。あの辺も強かったから、あそこに取り上げられるかどうかっていうのはあった。

ーーアンテナサイトですね。

【※】同人ど~らく。同人ゲーム系情報サイトの最大手として、2003~2009年頃まで積極的に同人ゲーム紹介活動を行っていた。2012頃に再始動するも、現在は休止中。
2000年代当時は「アンテナサイト」と呼ばれる、インターネットで集めたネタを紹介する、個人運営のリンク集ネットニュースサイトが数多く存在していた。

JYUNYA:
 そうそう。あの辺に載るかどうか。あとは、朝目【※】とか。ああいうところに載るかどうかだね。

【※】朝目新聞。ネットニュースサイト兼ネタイラストの投稿サイト。管理人は机器猫氏。画像掲示板に投稿されるパロディイラストを纏めたページ「アサメグラフ」は、当時のネットお絵描きコミュニティの一つであった。

ビートまりお:
 なりたさん【※】のブログでは取り上げられないの?

【※】なりたのぶや。サークル「フランスパン(旧:渡辺製作所)」、プロデューサー(主犯)。渡辺製作所時代に、サイトの雑記で同人ソフト紹介をしており「東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.」はそのサイトで紹介され、じわじわと注目が広がっていった。ビートまりお氏インタビューを参照

JYUNYA:
 あれはもうZUNさんだけだから。公式だけ。

ーーインターネットコミュニティ、総じて、2ちゃんねる、ニコニコ動画、あとmixi【※】もありますよね。mixiコミュニティとかは?

【※】mixi。株式会社ミクシィが運営するソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS)。サービス開始当初は、既に参加しているユーザーから招待を受けないと入れない「完全招待制」という特徴があった。

龍道:
 東方コミュの管理人やってた。けど、俺もうアドレスなくなっちゃったから見れないけど。

ビートまりお:
 mixiっていつ頃?

JYUNYA:
 2003~2004年ぐらいですよね。

ーーそういうコミュニケーションが発展して、すごく2chが強い掲示板時代があって。その後にニコニコが来た、っていう。それは本当にインターネット史ですよね。

JYUNYA:
 俺、mixiは誰にも招待されなかったから知らない。

ビートまりお:
 やってないの!?

JYUNYA:
 俺の周り誰もやってなかったから、悲しい青春時代。

ーー東方のオフ会というか、オフの交流があるじゃないですか。それは大体例大祭やコミケで完結はしているから、ある意味ではその為にものを作ってサークルで出すというのもあったのかなと。皆さん、やはりイベントの時にしか会わない感じだったんですか?

龍道:
 すし~さんが公民館オフとかやってたな。

JYUNYA:
 東方オフ会とかは出たことがなかったなあ。ゲーム製作者はいっときあった。黄昏フロンティアが中心になってやっていたことがあって。それでZUNさんも来て、よく秋葉原の周辺でやってて。ゲームサークルから数人ずつ出て、っていうのはやってました。

ーーまりおさんの方は?

ビートまりお:
 こっちはどぶさんを中心に。あと、したらばで東方のアレンジやろうぜみたいな。俺は参加してなかったけど、そこで集まってたのがどぶさんとか石鹸屋とか、いっぱいいて。そこにいた人が中心になって最初のFlowering Nightをやっていたはず。

ーーどぶさんは千葉のほうに住んでいたとき、そこにみんな集まってったっていう。

ビートまりお:
 そうそう。

龍道:
 どぶハウスね。

ビートまりお:
 当時は割と、ローカルで顔をつき合わせていた面子が、みたいなのは多かったね。

JYUNYA:
 ゲームは欠片もそんなのがなかった。せいぜい飲み会がちょっとあったぐらい。

ーー「集まって何かをする」がちょっと難しいですよね。

JYUNYA:
 あと、ゲーム製作者は外出ない。ゲーム作ってるから(笑)。

ーーこの三人が飲み会とかで集まったっていうのは。

JYUNYA:
 ないないない。

ーーえ、一度も!?

ビートまりお:
 ないかも。

ーーJYUNYAさんとまりおさんはお仕事を依頼する関係だった訳じゃないですか。

JYUNYA:
 それもあるし、イベントでよくお会いしてた。

ビートまりお:
 接待してくれたよね。しゃぶしゃぶを。初めての肉の万世、俺JYUNYAさんだったもん。「肉もう一枚食べなよ」とか言われながら。

JYUNYA:
 やってた!? 俺、うなぎ食わせた記憶しかない。

ビートまりお:
 うなぎ食った記憶ねえわ、逆に(笑)。

龍道:
 大丈夫? それ別の人じゃない?(笑)

ーー龍道さんとはなかったんですか?

龍道:
 ないない。

ビートまりお:
 そもそも俺があんまり外に出ない人間だから。引きこもってた。

龍道:
 みんなそうだからね(笑)むしろ「イベント代表と飲もう」なんて酔狂な人は、基本いないですからね。飲んで何話すの? っていう。

ーー初期のコミュニティって、そこまであまり大きくなかったのかな、みんな結構繋がってたのかなって思っていました。

ビートまりお:
 絵師界隈はめちゃめちゃ繋がってたと思う。それこそ所沢界隈の絵師はみんな繋がってたイメージ。

龍道:
 あぁ! 懐かしい! 所沢界隈。

JYUNYA:
 そんなのあったんだ。

ビートまりお:
 俺はそこあんまり行けなくて、hellnianとか御影獏【※】とかあの辺がめちゃくちゃ仲良しだった。

【※】御影獏。サークル「夢見ごこち」。
R18同人誌を東方ジャンルにて執筆。現在は「天華百剣」のコミカライズ「天華百剣 -戯-」を連載中。

龍道:
 あそこは、ほた。
さん【※】が中心人物だったイメージかな。

【※】ほた。サークル「いよかん。」。
代表作に「宴に至る」「かぜなきし(ACID CLUBのnagare氏と共作)」「うつつのゆめ(サークル四面楚歌発行、挿絵を担当)」。現在は小説「うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない。」のコミカライズを担当。

ビートまりお:
 金沢で東方イベントがあった時に、みんなで金沢合同『大宴会 酒・肴』っていう同人誌&CDの企画作品を作って、金沢旅行に行こうぜ!って話があったんですけど、何故か俺だけ旅行のこと知らなくて。「え?まりおさん、myuさんが誘ったはずだよ?」って言われたけど、俺あいつに誘われなかったよ。あいつなんも教えてくれなかったよって(笑)。みんな車ですげえ楽しそうに……。俺いまでもずっと言ってる、「あれ楽しそうでしたね」って。「俺も頑張って曲参加したのについていってないですよ」って。

JYUNYA:
 やっぱ絵師さんとかそういうとこが中心だったんですね。

ビートまりお:
 そうそう。絵師のコミュニティが強かったね。

JYUNYA:
 俺らはそういうのなかったけど、逆にユーザーはユーザーであったかもしれないですね。好き同士集まって。

ーーmixiができたあたりでオフ会があったり、カラオケオフとか。石鹸屋さんのライブがある前には、石鹸屋カラオケオフみたいなのがあったっていうのは聞いてます。

ZUNさんのこと、どう思ってた?

ーーお聞きしたいのはZUNさんが例大祭ではどうだったのかと。第一回ではものすごい人で囲まれている状態だったのか……。

JYUNYA:
 俺、ちょっと記憶にある。

龍道:
 みんな参拝していたイメージがある。

JYUNYA:
 でも、今みたいに握手とか「話させてください」とかじゃなく、みんな一歩引いてるかんじだった。すっごいみんな見てるけど、誰も話に行かなかった。あれは尊い存在すぎた。今みたいに原作者が色々発言しない時代だったし、そんな「作者さんと話したい」っていうような、陽気なジャンルでもなかったから。当時はちくまの人がサインもらいに行ってたけど「よくお前サインもらいに行ったな」って思って。とてもじゃないけど、尊すぎて。でも、今は普通になってる。

ビートまりお:
 そうだよね。

ーー参加サークルさんには第一回のときから、ZUNさんは原作を配っていたんですか?

JYUNYA:
 配ってたけど、サインをもらうとかそういうのは全然できなかった。

ビートまりお:
 ZUNさん、昔は結構アレな感じのツイートしてたよね。

JYUNYA:
 今より勢いがあっていいよね(笑)

<みんなでZUNさんの古いツイートを見始める>

ーー僕、ZUNさんがTwitter始めたから始めたんですよ。

JYUNYA:
 あ~、つぶやきいいなこれ! Twitterで言ってる感じがいいね。

ビートまりお:
 ふぁぼとかついてないツイートがあるのが信じられない。

JYUNYA:
 作りながらツイートするっていうのがいいね。何やってるかみたいな。

龍道:
 開発者のツイートだ……。「Lunatic調整する時間とれるのかな」とか。

JYUNYA:
 2009年って何のマスターだろう?

ーー星蓮船でしょうか。この頃はまだ3月の例大祭ですし。

JYUNYA:
 こういう発言を見ると、
同人やインディーのゲームクリエイターっぽいですよね。「俺いまこんな感じで頑張ってる」って、よくやる。これやらないと、ゲーム製作者は死んじゃうから。

ビートまりお:
 なんでこんなRT・いいねが少ないの?

ーーそりゃ、そうでしょう(笑)。バレてないから。

JYUNYA:
 今からでも、リツイートしてあげないと……。

ーー今RTするのはひどい(笑)。でもまだこの頃Twitterってあまり強くなかったですよね、2009年。

JYUNYA:
 全然そうですよ。

ーー皆さんはいつ頃からTwitterやり出しました?

JYUNYA:
 2010年ぐらいにはもうみんな始めていて、創作者が自分の創作物を発言する場としてすごく使っていて、世間一般には東日本大震災前後には結構みんな使っていて、情報発信してた。

ビートまりお:
 Twitter初期に話題になったのって、ヨドバシでトイレ入って「ティッシュない」ってつぶやいたらティッシュもらえた【※】、みたいな。

【※】2010年頃、「【急募】トイレットペーパー inアキバヨドバシ3F男子トイレ個室」というツイートにTwitterユーザーが反応して、無事20分後には紙が届いたという事件。
他のインターネットコミュニティとは異なる、Twitterのリアルタイム性を象徴するものとして話題になった。参考:https://getnews.jp/archives/58670

ーーよく覚えてますね。本当、まりおさんはインターネット遊び人なんですよね。インターネットの事件めちゃくちゃ覚えてる。

ビートまりお:
 ZUNさんといつぐらいから話せるようになった?

JYUNYA:
 俺、ゲームクリエイターとしてもZUNさんに尊敬があったから、とても話せなくて。あと当時の若さや年齢差もあったから。酒飲めないし。俺が図々しく話せるように、本当の意味で話せるようになったのはPlay!Doujin始めるようになってからかな。それまではイベントや同ソの飲み会で挨拶はしてたけど、ZUNさんはZUNさんでいろんな人と会うからあまり迷惑になりたくないと思って長く必要ないことは話せなかった。挨拶してちょっと話すだけで。

ビートまりお:
 なんか突っ込まれたりした? 俺、2007年のフラワリングナイトの打ち上げで初めてちゃんと話したんだけど、まぁ怖かったね。トゲトゲしてて。「人の曲のアレンジなんてして何が楽しいの?」とか言ったりして。

龍道:
 怖ぇ~!(笑)

ーーバリバリの一次創作者ですね。

ビートまりお:
 俺がとあるシューティングゲームの事を熱弁したら「あのゲーム僕は嫌いだからね」とか……。

ーー全然響かない……!

ビートまりお:
 今でこそ、何言っても優しく受け止めてくれるけど、当時はパリィ!と弾いてくる感じだったね。あの時はイケイケだった。

ーーコミュニティではZUNさんへの信仰値がすごく高い、という感じでしたか?

龍道:
 今も昔も高いんじゃないかな。

JYUNYA:
 取り囲んで、ちょっと一歩引いて見ることはあっても、「わ~、ZUNさんだ~! サインください!」みたいな感じではないかなあ。個人的にも「わっ、尊い……」「この方が、この霊夢を生み出した方なんだ。すごいな……」みたいな尊敬があったから、一歩引いてた。だからそれでサインもらってきた奴は「よくもお前!」って。

ビートまりお:
 当時はZUNさんの人となりわからなかったし、本人も出さなかったから。今は意図して自分のキャラを出してるっていうのをやってるけど、当時はわからなかったから。

JYUNYA:
 当時は「怖そう」って思ってた。

ビートまりお:
 実際怖かったよ。

龍道:
 超酒飲みだよ!

ーー龍道さんもお酒のお席で、みたいなのはあったんですか?

龍道:
 正直言うと、今でも俺はZUNさんとしゃべれる気はしないな。

ーーイベント主催はちょっとまた、クリエイター側と立ち位置が違いますよね。

龍道:
 そういう意味では、今でも昔とイメージは変わらないかな。

JYUNYA:
 確かに。認識されて話せるようになったり一緒に何かやるようになると、怒られるとか、強く当たられる時期とかに入るんじゃない? 俺は多分今その時期なんだと思う(笑)。「何が面白くてコンシューマーなんかやってんの?」とかしょっちゅう言われるし。「とっくに飽きたよこんなもん、やる気が知れないね」とか。

ビートまりお:
 それは期待の裏返しだと思うよ。

JYUNYA:
 だと思いたいけど。「新しいことをやりたい」って相談すると、「そんなつまんなそうなことを……僕は知らないよ?」とか、言う癖に面倒見てくれるんだよね(笑)。

ビートまりお:
 そうなんだよ。

JYUNYA:
 「本当に君はこれを選ぶのかい? 選択したらもう前の環境に戻れなくなるよ」とか。「でも、決めるのは君かぁ、じゃあいいや」って、俺何も喋ってないのに一人で勝手に終わっちゃう(笑)。だから、クリエイターに厳しいね。厳しいっていうか、何も思ってなきゃ言わないんだろうなぁっていうのも思いますけどね。そんな感じです。

(第6回へつづく)

オンラインからオフライン、オフラインからオンラインに。東方のコミュニティと、インターネットとの関わり おわり