東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2019/11/26

「(龍道さんって)なんでやめちゃったんですか?」19歳でイベントの主催!?、みんなの“青春”があった東方の最初期コミュニティ「博麗神社例大祭」

鈴木龍道氏、JYUNYA氏、ビートまりお氏による「博麗神社例大祭」初期、東方コミュニティ黎明期鼎談「第1回」

 日本で最も大きな“オンリージャンル同人誌即売会”、それはポケモンでも、ガンダムでも、ワンピースでもない。東方Projectだ。
 「博麗神社例大祭」は、東方Projectの二次創作同人誌即売会としては最大規模であり、同時に国内で”一つのジャンルを取り扱った二次創作が集まる場所”として最大級のイベントだ。
規模としては「コミックマーケット」にも一時期匹敵するほどであったこのイベントは、どのようにして始まり、どのようにして栄え、現在に至っているのか。

 そこには類例のない「速度」と「勢い」、まさに一つのことに熱をあげて狂っている状態、「熱狂」としか言いようがないムーブメントがあった。

 博麗神社例大祭というイベントを立ち上げた、初代代表鈴木龍道氏。
例大祭初回からサークル参加し、今もなお東方ジャンルにて活躍する「AQUASTYLE」のJYUNYA氏。
 東方コミュニティの最初期から活動し、史上初の東方アレンジCDにも参加者として名を連ねる「COOL&CREATE」のビートまりお氏。
 この3人を招いて、例大祭初期、東方コミュニティの黎明期の思い出を語っていただいた。

 

ーーそれぞれ自己紹介からお願いします。

龍道:
 鈴木龍道です。例大祭を作りました。八回目の後のSP2まで代表をやっていて……。

ビートまりお:
 なんでやめちゃったんですか?

龍道:
 早い! 早いから、その話、超早い(笑)。

伝説のはじまり

JYUNYA:
 AQUASTYLEのJYUNYAです。同人ソフト、東方で『不思議の幻想郷』とか色々、同人ソフト作ってます。初回は映像系のサークルで、まぁ、スパロボっぽい……(笑)。映像を作っていて、それで初回の例大祭に出した感じです。

ビートまりお:
 COOL&CREATEのビートまりおと申します。東方アレンジを2003年ぐらいからやらせてもらっていて、界隈で一番最初に出たCD【※1】
は参加したという自負はあったので。今日は当時の珍しいモノを家で探したんですけど……見つからなくて(笑)。「未知魅知【※2】は2枚ぐらいあったので持ってきました(笑)。例大祭は自分、二回目からサークル参加だったんですけど、一回目は一般参加という立場でがっつり参加はできなかったですけど、語れればいいかな、ぐらいで。

【※1】「Stardust Reverie」。サークル「PopKorn & Hara-Kara」が制作した、現在記録の残る中で一番最初に頒布されたとされる東方アレンジCD。ビートまりお氏はTr.3の「鬼灯提灯紅魂」で参加。

【※2】 「未知の花 魅知の旅」。東日本大震災発生により開催が延期された、2011年の例大祭にて上海アリス幻樂団が頒布した音楽CD。売上金はすべて東日本大震災寄付に回された。以降、音源の再録がされず入手困難な作品の1つとして数えられていたが、2018年に「東方同人音楽流通」により「未知の花 魅知の旅」のダウンロード販売が解禁され、音源の入手は容易になった。

ーーそもそも、初回の例大祭のとき、皆さんはおいくつでしたか?

龍道:
 19歳。

ーー19歳でイベントの主催!?

ビートまりお:
 JYUNYAさんは?

JYUNYA:
 もうこっち来ていて、20歳くらいだったかなと。

ビートまりお:
 俺はまだ岩手だったので、大学生だった。22、23ぐらいですね。俺は大学は岩手だったので。岩手県立大学のソフトウェア総合学部。

JYUNYA:
いいよね~! あそこね、文化祭もすごいし。

ーー留年したんですか?

ビートまりお:
 留年どころか、休学して、そのまま辞めた人間なので。『ラグナロクオンライン
【※】にハマって休学した(笑)。

【※】ラグナロクオンライン。通称RO。韓国の漫画『ラグナロク』を元に、ゲーム会社グラビティによって製作されたMMORPG。日本国内では2002年12月にサービスを開始し、愛らしいドット絵のグラフィックや質の高いBGMなどが評価され、当時のインターネットで絶大な人気を誇った。

龍道:
 あるある!(笑)超やってたよね。

JYUNYA:
 人生踏み外し組だ(笑)

龍道:
 今は例大祭っていくつだっけ? 

ーー今は例大祭16ですね。

龍道:
 もう16年経ってるんだ(笑)。

JYUNYA:
 気落ちするわ……。

ーー当時は19、20、23歳で。青春じゃないですか!

龍道:
 いつまでも青春が続いている。

JYUNYA:
 でも、そんだけ時間経っても我々、まだまだ戦えるから(笑)。

ビートまりお:
 JYUNYA先生、頑張ってくださいよ~。

龍道:
 二人とも頑張ってるじゃない!(笑)

ビートまりお:
 当時、エロゲー会社じゃなかったっけ? 営業でしょ?

JYUNYA:
 不動産じゃなかったっけ?

龍道:
 不動産会社にいて、その後にエロゲーの会社。(例大祭初回は)不動産会社にいたときに。

ーー噂によると、不動産会社にいたときに何かスペースをとってしまったから、例大祭とFateの(即売会)が生まれた、という……

龍道:
 そうですね。自分が所属していた不動産会社は、社長と自分しかいなかったんですけど、本当に今言ったとおり、会場が余っちゃったからと。Pioが。

ビートまりお:
 社長も同人やってたの?

龍道:
 うん。イベントスタッフ。本来使う予定だったイベントが無くなってしまい、社長から「赤字にしなければ何してもいい」って言われて。その時はまだ『Fate/Stay Night』発売前だった。

ビートまりお:
 前だったんだ!?

龍道:
 体験版も出ていなかった。

ビートまりお:
 体験版すら出ていないときにオンリーやろうとしてたの?

龍道:
 だって、『Fate』の前に出ていた『月姫』の秋葉【※1】
がずっと好きで。だからやろうかなって。それのイベント名は「魔術師との絆」っていう。これ(カタログ)の表紙 QP-flapper【※2】さんなんだよ。

【※1】遠野秋葉。「月姫」のヒロインの一人。主人公、遠野志貴の義妹。
【※2】 QP-flapper。イラストレーター小原トメ太とさくら小春によるユニット。Leaf系同人誌から活動をスタート。現在は「オンゲキ」「マギアレコード」などでキャラクターデザインを務める。

一同:
 そうなの!?

龍道:
 で、(『Fate/stay night』オンリーだけでは)会場がまだ半分ぐらい余っていて。その頃、初めて「妖々夢」やったぐらいだったのかな。イベントスタッフの合宿があって、そこでちょっとやらせてもらって。これはとても面白いと。

ーーイベントスタッフというのは?

龍道:
 同人イベントのスタッフをもう17年ぐらいやっているんです。

その合宿でやらせてもらった時に、あまりにもその、音楽とか、妖々夢一面のレティの「無何有の郷 ~ Deep Mountain」に感動して。本当に、最高にピアノが綺麗で、好きで好きでしょうがなくて。「これはイベント開かなきゃ」「ちょうど会場余ってるからやろう」という、本当にそれだけなんですよ。

ーーすごい。伝説ってそういうところから始まるんですね。

龍道:
 本当に、雑に始まりましたよね(笑)。

ーーいや、ぽい。すごく「ぽく」ていいです(笑)。それで、(例大祭参加者を)募集することになったわけですけども、スタッフさんとかはもうイベントスタッフがいるから全然大丈夫、という感じですか?

龍道:
 オンリーイベントのスタッフ友達がいたので、都産貿とかでずっとやってた。

ーー少しお聞きしたいのが、オンリーイベントとかのスタッフがコミュニケーションをとっている、各イベントを立ち上げたりイベントスタッフを融通したりする、みたいな状況をみんな知らないんですけど……。

龍道:
 正直いうと、都内のスタッフってほとんど共通なので。Aと言うイベントにいる人はBのイベントにもいるし、Bのイベントにいる人はAのイベントにもいるし。

ーーイベントのスタッフ達というのは、みんなイベンター候補生……と言っていいのでしょうか?

龍道:
 全員が全員ではないかな。本当に、イベントスタッフが好きな人は年中いろんなイベントやってるし、大きいのだけっていう人ももちろんいるし。

ーー「龍道くんが新しいイベントをやったらしいよ」って言って一回目を見に行ったイベントスタッフが、そのまま例大祭スタッフになったと。

龍道:
 その場で、強いスタッフがいっぱい見に来ていて。片っ端からお願いして「手伝って! 手伝って!」って(笑)。

ーー「傭兵がいるぞー!」ってなって(笑)。

龍道:
 ……で、ギリギリ足りたかどうかって感じですね。

ビートまりお:
 俺、覚えているのが、募集スペースが、Fateが100スペ、東方が50スペだったじゃん。発表されたときに「舐めんなよ」って思った(笑)。これ最終的に100と108になって、東方が多くなったんだけどね。

ーーもう、その頃から既にそのくらいの盛り上がりだったと。

ビートまりお:
 多分そう思ってたのは、俺だけじゃないはずで。みんな「舐めんなよ」って思ってたんじゃないかな。俺もそうだったけどさ、その時のオタクって『月姫』も好きだったしTYPE-MOONも好きだったし、東方も好きだった。どっちも触れるのがオタクだったんだけれども、シューター勢【※】
としては「50スペース?Fateの半分?STGがマイナージャンルだからって舐めんなよ。もっといくぞ」と。

【※】シューティングゲームプレイヤーの総称。

JYUNYA:
 俺は逆に「スペース埋めなきゃ」と思ってた。「埋めないと人来ないんじゃないかな」って。そもそもその時、ZUNさんとかも出るの全然知らなかったから。東方の原作を遊ぶ人が好きなのは分かるけど、東方で創作しよう!っていう人がどれくらいいるのかが全然わからなかった。

ビートまりお:
 俺、当時「2ちゃんねる」見てたから。2ちゃんではやっぱもう、ワーッ!ってなってて。

龍道:
 でも、原作じゃん。

ビートまりお:
 いや、原作から派生した二次ネタはもうたくさんあったよ。

JYUNYA:
 あー、でも確かにそうだったかもな。

ビートまりお:
 Coolier【※】
とか。結構、ふつふつとしていたね。

【※】Coolier。東方プロジェクトの個人掲示板サイトならびに個人サークル。東方創作コミュニティの1つ。代表は東方系SS投稿サイト「東方創想話」の管理人でもあるmarvs氏。

【コラム】最萌トーナメント

当時の思い出

ーーJYUNYAさんは、このイベントを何経由で知ったんですか?

JYUNYA:
 当時、一緒に行動していた先輩のサークルの「はちみつくまさん
【※】っていうところと、電車に揺られながら話していたんですけど。「今度、東方の例大祭っていうイベントあるから一緒に出ない?」って突然言われて。いつっすかって聞いたら「2、3ヶ月後なんだけど」みたいな(笑)。
 東方好きだけど、ソフトってなるとなかなかね。完成まで数ヶ月から数年はかかるし、本当に出るんすか?って話を聞いて。「いや、俺たちソフトが出さないで、誰が盛り上げるんだよ、この例大祭」と。「だって、例大祭って、東方ってゲームじゃん、元々。その二次創作のゲームがそもそもついてかないでどうすんだよ。出ようよ」って言われて。
 マジか……と思いつつ、「じゃあ、一緒に参加して盛り上げましょう」って話をして。で、どっちがサークル参加しますかってことで、話を持ちかけたかじゃんけんかどっちで決めたかは覚えていないですけど、その時に「はちくま」のほうがスペースの申込みをしてそこにアクアも合体で参加することになって。結局その「はちくま」は当日、ゲームを落としたっていう(笑)
【※】同人ソフトサークル「はちみつくまさん」。初期は主にKey系のキャラクターが出てくるロールプレイングゲームを制作、その後「東方サッカー」「東方冥異伝」などの作品をリリース。Key由来のオリジナルキャラクターが登場するのがはちくま製RPGの特徴。後にサークル「苺坊主」の「東方蒼神縁起」「東方幻想魔録」の製作に協力。

一同:
 (笑)

JYUNYA:
 すごいカッコいいこと言ってたんですが、オチがアレ(笑)。

ーーJYUNYAさんは落とさなかった?

JYUNYA:
 落とさなかった。
当時若さもあって3徹して間に合わせたから。(笑)。その一週間前に当時出していた新作のマスターアップがあって。それ出した後、そのまんま徹夜直行して、例大祭持ってって。

ーー何を出したんですか?

JYUNYA:
 それも映像だったんですよ。で、新しいサークルメンバーがちょっと入っていたから、新しい人と新作作ろうってなって。3日間のタイムアタックだったんですけど。それで「はちくま」がゲーム落としたから、「せめてこっちが焼くよ!」って言って、はちくまの人が焼くの手伝ってくれて。

ビートまりお:
 AQUASTYLEでスペースとったわけじゃないんだ。

JYUNYA:
 そうそう。その時まだ、
自分たちの中で合体スペースという概念がなかったから。様子見もあったから、じゃんけんで決めたか、はちくまが出すかで決まったかどっちか忘れたけど、で、はちくまはゲーム置いてないっていう(笑)。

龍道:
 切ない!(笑)

ビートまりお:
 ちょうどあれでしょ? マリグナ事件【※】
が起きた後。

【※】AQUASTYLEで制作していた、とあるロボット対戦シミュレーションRPGをモチーフとしたパロディ映像作品が、コミケでの頒布直前に版権元からの連絡が入り、販売中止になった話。

JYUNYA:
 いや、全然その前。勘違いされてるけど、
その2年前から東方でもやっていたんだよね

ビートまりお:
 「マリグナやめて東方来たの?」みたいな……

JYUNYA:
 とか言われてるけど!(笑)その前からやってたよ。

ビートまりお:
 俺ですらそう思ってたよ(笑)。

龍道:
 ひどい! それの音楽やってたでしょ(笑)。

JYUNYA:
 そう、それで例大祭の日、その音楽依頼の件ででミーティングしようって言ってて。まりおさんが「じゃあ俺蒲田にいるから、その時に例大祭に行くから。11時入場で、上海アリスのスペースとか寄って、12時ぐらいにAQUAのブース行くからミーティングしよう」って言ってて。

 でも、まりおさん来なくて。1時過ぎぐらいに来て、「どうしたの?」って聞いたら「あー、外で別の祭りやってた」って(笑)。こいつマジか、絶対遅刻の嘘ついてんだろ!って(笑)。まぁいいやってことでミーティングして、色々楽しんで。
 後でCOOL&CREATEのサイト行ったら「うわ!めっちゃ他の祭りの写真を撮ってる」って(笑)。

COOL&CREATEの当時のブログ、WEBアーカイブより

ビートまりお:
 丁寧に、ブログのネタを(笑)。

JYUNYA:
 ……っていうのを、WEBアーカイブで昨日見ていて、改めてこのやろうと(笑)。……当時、まりおさんの下品で超面白いブログがあったんですよ。レポートがね。一ミリも例大祭のこと書いてないっていう。

ビートまりお:
 着いた頃にはもう終わってるから。諦めてた。

龍道:
 10時に着いたんだっけ?

ビートまりお:
 朝、早起き全然できなくて。大学の友達が一人東京行って住んでたから、久しぶりに会ってわーってやってたら朝全く起きれなかったから(笑)。「とりあえず行こう、なんかあるかもしれない」って。

龍道:
 当日は確か、3,300人ぐらい来ていたので。あの会場に。

ーーそんなに来ていたんですか!? データに残っているのは2,500人ぐらいと書いてありました。

龍道:
 もしかしたら、サークル参加とか合わせていたかもしれない。でも、2,500に収まることは絶対にないです。

JYUNYA:
 超絶狭かったことは覚えてる。

龍道:
すごく通路幅広いはずなんだよ。サークルがみちみちに詰まってなかったから。ともかく参加者の数がすごかった。

JYUNYA:
 トイレ行ったら戻って来れなかったもん。

ビートまりお:
 「コスプレブースそんないらねえだろ」とは当時思った。

龍道:
 あのへんのコスプレブース、めっちゃごった返してたよ。上海アリスがあったから。

ビートまりお:
 俺着いた頃に、まだ上海アリス全然並んでて。一般のスペースは全部なくなってて。軒並みないんですよ。端から端までみんな買うから。なんもなかったよ。

龍道:
 だって、コピー誌すらないんだもん。

JYUNYA:
 俺もすげえいっぱい持ってったけど、最後手ぶらで帰ったし。

ビートまりお:
 上海アリスも列捌くの、多分当時そんなに慣れていなかったし。列ずーっとあって。

ーー参加サークル、全部ほとんど売り切れたと。すごいですね。108サークル全てが売り切れ。

ビートまりお:
 みんな飢えてたと思う、確実に。

ーーまりおさんの「50スペじゃ少ない」っていうのは当たっていたと。

ビートまりお:
 絶対そうだよ。

(第2回へつづく)

「(龍道さんって)なんでやめちゃったんですか?」19歳でイベントの主催!?、みんなの“青春”があった東方の最初期コミュニティ「博麗神社例大祭」 おわり

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