
これは、彼らの人生を変えるライブなんだ。 2019年上海開催東方ライブ「魅知的幻想歌謡会」レポート(前編)
「魅知的幻想歌謡会」ライブレポート

12月7日、僕は人生初の上海旅行を楽しんでいた。
旅行の目的は、WePlayというイベントを自分の目に刻むこと、そして今日の夜に行われるライブイベントを、自分の心に刻むことだ。僕は上海のグルメ(何故か日本よりおいしいケンタッキーとかね)を楽しみつつ、WePlayを大満喫。
(気になる東方ブースの様子は下の記事を読んでみよう!)
博麗神主と中国ファンとの「一期一会」。ZUNさんって、本当にすごい人なんだ。上海WePlay、上海アリス幻樂団上陸レポート
あとはライブを残すのみとなり、僕はいそいそとライブ会場に向かう。
ライブ会場の「万代南梦宫上海文化中心 未来剧场(バンダイナムコ上海文化センター 未来劇場)」は、サブカル系のイベントが多く開かれているホール。日本のアーティストも数多くここでライブをしている。2年前ほどにリニューアルされたばかりで、内装がとても綺麗だ。今回ライブが行われた2F会場の広さは、ライブフリーク向けに例えるなら、池袋harevutaiを想像してくれればイメージしやすいだろう。渋谷O-WESTも近いかもしれない。
そんなライブハウスも今日は東方一色だ。前述の通り、このライブ「魅知的幻想歌謡会」はWePlayにコネクトする形で行われており、開場を待つ列には、WePlayの紙袋を持っている人やコスプレをしている人もちらほら。

そんなわけで今日、この会場は東方で満ちている。ステージ奥の特大LEDモニターにはweplayのキービジュアルもしっかり映っている。
ステージと、開演前のフロアを見ながら、自分がライブに行き始めた頃を思い出す。
僕が最初に行ったライブはFlowering Night 2012。そのライブの楽しさで、僕の人生が変わった。あれから数年が経ち、僕はまだまだライブオタクを続けてる。今回参加している日本のサークルのライブには、何度も足を運んだことがある。だけども、海外での東方ライブは見たことがなかった。
開演の時間が近づく。入場口からフロアに押し寄せるファンたち、「もっと近くで見たい」「もっと近くで聴きたい」そんなプリミティブな感情が聞こえてくる。すでにチケットは完売しており、600人ほどのキャパシティのライブ会場が埋め尽くされるのにそう時間はかからなかった。
さらに半刻ほど経ち、司会の大米氏がライブの注意点をアナウンスしていく。もちろん中国語なので僕はほとんど聞き取れないが、ライブの前に言うことは世界どこでもおきまりだ。
「今日は激しい曲ばかりだから、みんなついてこいよ!」
僕が初めて見る、上海のライブ。「魅知的幻想歌謡会」が開演する。
真の意味で、音楽に言葉の壁はない ー 1st.「東京アクティブNEETs」
トップバッターは東京アクティブNEETs。”爆音ジャズ”シリーズを始めとしたインストアレンジが人気のサークルだ。
ステージにはDr.ショボン、 Ba.蒼井刹那、 Sa.山石本薫、そして謎の存在である罪袋がスタンバイ。リーダーであるKey.紅い流星、Tp,ヒロコマンは上海にはこれないが、なんと映像を通じてのライブ参加。その想いに答える形で、赤いサイリウムが会場に満ちる。
ん…トップバッターがインスト……?自分の経験上、ライブを初めて見る人にとって、インストは比較的盛り上がりどころや盛り上がり方をつかみにくいジャンルだ。
「終ハロローグ末此レカラ(原曲:赤より紅い夢)」でこのライブはスタートする。やはり東方の始まりはこの原曲から始まるのが美しい。
「紅星ミゼラブル~廃憶編(原曲:亡き王女の為のセプテット)」→「ツキミノ庭ニワ(原曲:U.N.オーエンは彼女なのか?)」と、メドレー形式で休み無く曲が続いていく。
やっぱり、フロアの動きはどこかぎこちないような気がする。その様子を、自分がライブに行き始めた頃を重ねて愛らしく感じていた。
「彼の世に嬢の亡骸(原曲:幽雅に咲かせ、墨染の桜~ Border of Life等)」
→「恋色マスタースパーク(原曲:恋色マスタースパーク)」
→「弾幕注意報(原曲:永夜の報い ~ Imperishable Night.、少女綺想曲 ~ Dream Battle)」
→「天狗的日常(原曲:風神少女)」……と、東方爆音ジャズBESTメドレーに収録されている曲を中心にした容赦ないラインナップだ。
紅魔郷から花映塚まで、ひとつひとつ歴史を追うように演奏されていく。
数拍の休符を挟んで第2ラウンド.「西方ノ蒼ィ汽車」から始まり、「Clownish Moon」や「Evel Trinity」など新しい曲も盛り込んでいく。
少し間を置いて「Sadistic Yuan Xian」でラストラウンドがスタート。「平成時代劇」といった超人気曲をプレイし、「紅月ノ摩天楼」で出番を終えた。
ぎこちなかったフロアの盛り上がりは、罪袋がしっかりアシスト。罪袋は謎の存在というわけではなく、アジテーターというれっきとした役職(パート)なのだ。アジテーターはフロアと一緒になって盛り上がることで会場全体を1つにまとめる。SOIL&”PIMP”SESSIONSの社長なんかが有名だろうか。
僕らは罪袋と一緒におどるだけで、自然にアクティブNEETsの、ジャズの世界に引き込まれていく。そして、インストだからもちろん言葉の壁は無い。よく音楽に言葉は要らないと言うが、真の意味で言葉なんて必要ないのだ。
インストは盛り上がりづらいという不安はどこへやら.気づけば会場中がノリノリに踊っていた。初めてのライブだろうが、ここが上海だろうが関係ない。音楽が僕らをノせてくれる。その事実は昔の自分自身や僕がたくさん見てきた日本のフロアと同じで、最高の親近感があった。
日本語詞で歌い切る、彼らなりの愛の表現 ー 2nd.「TsuBaKi」
続いては、中国の東方アレンジサークルTsuBaki。ステージにはVo.Napoleon一人がスタンバイし、「歓喜な夜雀の歌~An die Freude~」からライブはスタートする。
僕は曲が日本語詞であることに驚いた。異国の言葉で創作する難しさは相当なものなはずだが、実は中国の東方アレンジシーンでは日本語詞は珍しくない。彼らなりの愛の表現なのかもしれない。
“ごちそうさま”で曲を締めると、V-Rock調の彼岸帰航アレンジ「此岸的dancefloor」へ。まるで妖怪に食われてしまった肉体から、魂が流れ出てしまったかのように、僕には思えた。ギアの上がってきたフロアも赤いサイリウムで応えている。
そして、「夕時雨」。この歌は、メリーが居なくなってしまった蓮子の感情の唄。そう、秘封倶楽部の感情は、中国のみんなも好きなのである。
次の曲を歌う前に一呼吸し、ゲストボーカルを呼び込む。曲は「永夜紅蓮」。CDでは、GET IN THE RINGのみぃとのデュエットだが、今夜は特別、瑶山百霊(from Yonder Voice)をステージに呼び込む。
蓬莱山輝夜の姿の瑶山百霊がステージに上がると準備は万全。中国東方アレンジを代表する2人のコラボに、会場も一層の興奮を見せる。メタル調の曲に合わせて、フロアも加速。手を振り、頭を振るその光景は、渋谷CYCLONE【※】でいつも行われている光景と何ら変わらない。
※渋谷CYCLONE:メタルバンドがよくライブをしているライブハウス。東方だとIRON ATTACK!なんかよくやってる。
Napoleonが妹紅のパートを、瑶山百霊が輝夜のパートを、それぞれが殺し合うように歌っていく。スクリーンにはMVも流れ、空間全体を蓬莱の世界に引き込んでいく。向かい合って威嚇し合ったかと思えば、手を合わせて慈しむ表情を見せる。定命の僕にはたどり着け得ない感情。それを2人は歌に載せきった。
次が最後の曲であることを告げると、フロアからは惜しむ声が。ああ、こういうとこも世界共通なんだ。
ラストの曲は「信仰之光」。サークル「EX永遠亭」の獣コンピレーションが初出である、一対の神獣のポップロックアレンジだ。さっきまで怖い表情で拳を振っていたメタラーたちは、今、朗らかな顔でクラップをしている。
フロアの表情を七変化させる、そんなTsubakiの魅力を感じるステージだった。
東方音楽イベントを支えてきた、盟友の響宴 ー 3rd.「COOL&CREATE」
司会が次の出演者の紹介をすると、あ・・察しと言わんばかりに会場から“114514コール”が!そのコールに応えるように謝謝茄子と叫びビートまりおが登場する。今日のまりおには強力な助っ人がいる。そう、DJ.Masayoshi Minoshimaだ!
1曲目は「ナイト・オブ・ナイツ」。
Masayoshi Minoshimaがナイト・オブ・ナイツを流した。そしてエフェクトをかけた。 想像してほしい。この光景にブチアガらない東方厨はいない。
ビートまりおのMCの時間、いつものように、フロアとコールアンドレスポンスで遊んでいく。
まりお「114」 フロア「514!」
まりお「24歳」 フロア「学生です!」
なぜ日本語でコールアンドレスポンスできるのか。疑問に思う僕を余所にライブは進んでいく。(bilibili動画を通じて中国でもこのカルチャーは人気があるのだ)
「最速最高シャッターガール」の間奏中に、「みなさん、射命丸文は好きですか?」とまりおが問うと、フロアは歓声をもって答える。当たり前に成立しているが、思い出してほしい。ここは中国だ。でも東方は日本のコンテンツだから、”東方のキャラクターの名前”はみんなわかる。
フロアとのシンクロはさらに進む.「人間が大好きなこわれた妖怪の唄」は3拍子の曲なのだが、バッチリ曲に合わせてノッている。ステージを見ると、スポットライトがビートまりおを照らしていないことに気づいた。そう、この曲での彼は語り部。にとりと”人間”の、心、感情を歌っていく。まるで黒子のように。スクリーンに映されているキツネイロ氏制作のMVも合わせ、ひとつの世界を作っている。
曲が終わると、きれいなまりおから雰囲気は一変。みんなで腕をふる練習が始まった。COOL&CREATEの曲で腕を振るものといえば、そう「Help me, ERINNNNNN!!」だ!!
間奏中はおなじみのコールアンドレスポンスの時間。その際、僕はVJのテクニックにおどろいた。
ライブに足を運んだことのない人のために敢えて説明すると、「Help me, ERINNNNNN!!」のコール&レスポンスパートは、ライブだとほぼ無限に続く。ビートまりお氏が気の済むまで永遠にやる。
それにはバックDJのA-Bリピート(特定のフレーズを何度も繰り返す)という“ホットライン”が必要だ。もちろん、世界のMasayoshi Minoshimaはバッチリ対応する。
それにあわせて、スクリーンにはサークル「迷走ポタージュ」制作のフラッシュが流れているのだが、VJは、コール&レスポンスに映像をバッチリ対応させて、違和感を全く感じさせない。
フロアは、練習なんていらなかったくらい、会場の手は息ピッタリに振られている。DJブースでMasayoshi Minoshimaも手を振るのが、愛らしい。
まりおの「いっしょに歌ってくれ」という掛け声と共に、最後の曲は「最終鬼畜“上海で”声」。
もちろん当然のようにみんな歌える、だから会場中がシンガロングする。赤いサイリウムが乱れ交い、声が飛び交う。そんなフロアに応戦するように、Masayoshi Minoshimaも攻めたエフェクトを披露する。
COOL&CREATEとAlstroemeria Records、最近のコラボが決して多いわけではない。だがこの2人の息はぴったりだ。それもそのはず。どちらも「東方カーニバル」の時代から東方音楽イベントを支えてきた、いわば盟友なのだから。
(ライブレポート後半戦に続く)
これは、彼らの人生を変えるライブなんだ。 2019年上海開催東方ライブ「魅知的幻想歌謡会」レポート(前編) おわり