それまで馴染みが無かった世界を開く鍵「Far East JAMMING Night 9.5」レポート
Far East JAMMING Night 9.5ライブレポート
世界観の素敵な作品に触れるとき、人はその世界の住人になってみたいと思う。
『神々が恋した幻想郷』を聴いて緑深い妖怪の山を夢想し、『少女さとり ~ 3rd eye』を聴いて暗く美しい洋館に思いを馳せる。
しかし、幻想郷にはおいそれと訪れることができない。
比較的、我々普通の人間に近いと言えるのは、秘封倶楽部であろうか。
秘封楽曲を聴くとき、秘封倶楽部、あるいは秘封倶楽部に漂う空気になって、その世界観を身体で味わいたくなる。
どうすればよいか?
秘封倶楽部から連想されるのは、喫茶店やバー。東方といえばグッドドリンクとグッドミュージック。
すなわち、ジャズバーである。
文/ohka
編集/えふび~
ジャズバーに行ったことがない東方ファンの「最初の一歩」に― Far East JAMMING Night
とはいえ、ジャズが流れるような大人のバー。興味はあるけど入るのは怖いというかたが多いと思われる。どんなお客さんがいるだろう、話しかけられても会話できる自信がない、そもそもジャズを全然知らない……
秘封倶楽部を感じたいけど、一歩が踏み出せない。そんな皆様にお勧めしたいイベントがある。毎年1〜2回、都内で開催される東方Jazzアレンジサークルのお祭り、Far East JAMMING Nightだ。
どんなお客さんがいるかわからない? いやいや、出演者もほかのお客さんもみんな東方ファンだ。話を合わせる自信がない? いやいや、とりあえず君の好きな東方の話をすればいい。ジャズがわからない? いやいや、そこで流れる曲は普段から親しんでいる東方アレンジだ。
つまり、ジャズバーに行ったことがない東方ファンが「最初の一歩」を踏み出すのに必要なものが揃っているのだ。
本レビューでは東方ジャズイベントの雰囲気を掴み、ゆくゆくは秘封倶楽部の空気になるための指南書の体裁をとりつつ、本イベントの魅力を筆者の感じたことや楽しかったことを通してお伝えしたいと思う。
入店〜開演待ち
下北沢駅から歩いて数分。会場のMusic Island Oがある。本イベントに限らず、多くの音楽イベントでは入場前に列を作っていることが多い。そして東京は行列が多い。なぜか隣のお店で行列のできるラーメンを食べる事態にならないよう、不安であれば列の最後の方に「東方Jazzイベントの列ですか?」と聞こう。「最後尾札、持ちます」と同じノリだ。
いよいよ開場。入場料を払い、お店のなかに入る。ここでドリンクチケットをもらったりワンドリンクをオーダーしたりするのだが、どうして良いかわからなければキャッシャー(入場料を受け取る方)に遠慮なく質問しよう。
店内は麻布張り風のソファー、ディープグリーンやブラウンを貴重とした、南国カフェを思わせる落ち着いた雰囲気だ。
ステージ前に椅子が並び、壁際や奥側にはソファー。もちろんカウンターもある。間近で演奏を楽しみたければステージ前、ゆっくりドリンクを飲みながら空気感に浸りたいならソファー、一瞬たりともお酒を切らしたくないならカウンター。譲り合って、好きな席に陣取ろう。
一番手、Unity-Gainの準備も整い、演奏開始に向けて前説(MC)が始まる。
東方爆音ジャズでよく知られるサークル、東京アクティブNeetsからあつし氏がパーカッションで参加。強力な助っ人に会場も湧く。そしてサークル主催の、O太氏のMCがあまりにも軽妙。完全に笑いを取りに来ている。開場である下北沢を舞台とする2022覇権のロックバンドアニメをコスりにコスる。こういった親しみやすさも、初めの一歩として本イベントを推せる理由のひとつである。
しっかりと場の空気を温めたところで、ぼっち・ざ・東方ジャズ……じゃなくて、Far East JAMMING Night 9.5開幕だ!
東方Jazzイベントの気さくな兄貴 ― Unity-Gain
力強くも静かなピアノソロから始まり、リグル・ナイトバグのテーマ『晩夏の燭』(原曲:蠢々秋月 ~ Mooned Insect)、久石譲氏の音楽を思わせるとても優しい流れ……というか、「you」(ゲーム『ひぐらしのなく頃に』の代表曲のひとつ。古のオタクの必修科目)じゃねぇか!
そしてそのメロディを彩るのは、不思議な楽器スティールパン。打楽器のようだけど音階があり、しっかりメロディの一翼を担っている。聞こえてくる音のイメージと実際の楽器が全然かみあわない、この不思議さ。現場で見なければ、この音がこの楽器から出ていることがわからない。これもJazzイベントの醍醐味と言える。
ライブイベント全般に言えることだが、楽器を操って美しい音楽を奏でる様子は、見ているだけで十分にエンターテイメントだ。楽器だけじゃない、音ゲーでも料理でも溶接でもなんでもそう。美しい操作を見るのは楽しい。“Smooth Operator Operating Correctly”だ。
MCでワンカップ日本酒を煽り、次の曲へ! 『タイトル未定』(原曲:今昔幻想郷 ~ Flower Land)。ラテンの空気感。暑い。この風見幽香は熱帯植物を侍らせている。かと思えばすぐにJazzyとなり、またラテンの雰囲気に戻る。お店の雰囲気とマッチして、とても心地よい。
しかしそのラテンのリズムを刻むのは、とても見覚えある形のシェーカー(マラカス的な楽器)。最低で最高。大層、手に馴染むそうな……(笑)
次のMCで、先程あおったワンカップを用いてボトルネック奏法! ……狂気。同サークル最後の曲はコミケ101リリースの新譜収録曲、『Untwisted by degrees』(原曲:今宵は飄逸なエゴイスト(Live ver) ~ Egoistic Flowers.)。
きらびやかな明るく跳ねたメロディ、ステージで楽しく暴れまわる依神姉妹のよう。しかし、サビではむしろ落ち着いて行く、緩急もしっかり。印象的な原曲冒頭をラストにもう一度叩き込む演出に、すっかり体温が上がってしまった。
セットリスト
1. Awakening2 (タイトル画面で流れるあのフレーズ)
2. 晩夏の燭 (蠢々秋月 ~ Mooned Insect)
3. タイトル未定 (今昔幻想郷 ~ Flower Land)
4. Untwisted by degrees (今宵は飄逸なエゴイスト(Live ver) ~ Egoistic Flowers.)
転換タイム
文字通り自由な東方フリー・ジャズ ― fractanisharmonicoo
二番手はfractanisharmonicoo(ふらもに)。
イントロ曲『はじめまして神々』(原曲:封印されし神々)のプリミティブな、野生感のある出だしから『竹取の願 live ver』(原曲:竹取飛翔 ~ Lunatic Princess / Voyage1970)へと続く。
バリトンサックスの低音がとても聴き心地良い。私のような入門者がJazzと聞いて思い浮かべる代表的な音のひとつだな、と感じた。楽器本体も無骨な質感が渋く、とても格好良い。
続いて『洞窟散歩』(原曲:厄神様の通り道 ~ Dark Road)。またしても見たことがない楽器が登場した。木でできたウィスキースキレットのようなそれは、ディジュリドゥという木管楽器とのこと。これまた土着感のある、ぶっとい良い音。そしてバスクラリネット。こちらはモダンでスマートなシルエット。音も落ち着いた雰囲気。
内容は、本当は怖い厄神様とでも言わんばかりの不穏な展開。息を押し殺すように進むさまは、前衛芸術系暗黒舞踏の趣がある。そしてそのまま曲は終わりを迎えていく。わかりやすく盛り上がる山場などはない。すごい、これがフリー・ジャズか。
『幻色』(原曲:恋色マスタースパーク)。控えめながらも緊張感のあるメロディに、多彩に刻まれるパーカッション。筆者は音楽を聴くときに足や指を叩いて拍を取るクセがあるのだが、まったく拍取りができない。なぜ演者の皆様は合わせられるのだろう。肌感覚で合わせているのだろうか?
『欲望と深淵 live ver』(原曲:デザイアドライブ)を経て最後の曲『ナラティブフェイス』(原曲:ネイティブフェイス)。仕上げと言わんばかりの疾走感!
そして原曲のメロディからの、ダークな暗黒ギター。キーボードも体全体を使って鍵盤を叩く。演劇舞踏の風情すらある。横溝正史映画で、金田一探偵が殺害現場に駆けつけるときの音だ。絶対、誰か無残に死んでいる。
この不穏さが、極めて心地よい。そして再び疾走感ある原曲メロディーできれいに締める。フリージャズ、すごい。
セットリスト
1. はじめまして神々 (封印されし神々)
2. 竹取の願 live ver (竹取飛翔 ~ Lunatic Princess/ Voyage1970)
3. 洞窟散歩 (厄神様の通り道 ~ Dark Road)
4. 幻色 (恋色マスタースパーク)
5. 欲望と深淵 live ver (デザイアドライブ)
6. ナラティブフェイス (ネイティブフェイス)
夢に見たジャズバーの空気感 ― ACCORD ON CODES
転換をはさんで本日のトリ、ACCORD ON CODESの登場だ。
一曲目は『Retrospection』(原曲:レトロスペクティブ京都)。美しいピアノから始まる、スムーズな滑り出し。アップライトベースの粒のたったぶっとい低音がきもちいい。兎にも角にも瀟洒の一言に尽きる。
これは、ジャズバーだ。子供のころに憧れたバーのイメージだ。大人になった今、我々はこの美しい音を聴きながらお酒を煽ることができる。未成年諸氏は、成年してその場に踏み入れる日を楽しみに待っていてほしい。少し気取って良い音楽とお酒を楽しむこと、その楽しさは掛け値なしであると保証する。
neno氏、キノ爺氏のMCで、大事なお話。「ぜひ、お酒飲んでください」。そう、このようなイベントの多くは、ドリンクの売上がないとお店に利益が出ないのである。お店がなければイベントは開けない。無理のない範囲でドリンクを頼み、お店に貢献しよう。そのドリンクがお店の存続、ひいては次のイベント開催につながるのだ。
閑話休題、次の曲へ。うっとりする力強さと落ち着きのサックスが印象的な『What’s today?』(原曲:明日ハレの日、ケの昨日)。これもまた、憧れたジャズバーだ。
『Midnight quietness』(原曲:亡き王女の為のセプテット)の、優しく静かなピアノ。もともと落ち着いた原曲ではあるが、本アレンジはその物悲しさが隠れもしない。好きだ。ワインを飲み、瞼を閉じ、ただただ静かに聴きたい。
これまたお酒のすすむ、落ち着いたBossa Nova。『A pretty tea room』(原曲:上海紅茶館 ~ Chinese Tea)を経て、最後の曲『Run through the seafloor』(原曲:ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express / 53ミニッツの青い海)。
ついに秘封曲だ。本稿冒頭で述べたとおり、やはり秘封倶楽部はジャズの雰囲気に馴染む。いや、本曲が馴染むようにアレンジされている。美しい。
セットリスト
1. Retrospection (レトロスペクティブ京都)
2. What’s today? (明日ハレの日、ケの昨日)
3. Midnight quietness (亡き王女の為のセプテット)
4. A pretty tea room (上海紅茶館 ~ Chinese Tea)
5. Run through the seafloor (ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express / 53ミニッツの青い海)
東方 Jazz イベントが開く鍵
ACCORD ON CODES + ふらもに+Unity-Gainによるアンコール『Re:Lease(arranged by fractanisharmonicoo)』(原曲:佐渡の二ッ岩)も終わり、一晩の東方Jazzナイトが閉幕した。
演奏後は各サークルの物販へ。名残惜しいかたはお酒を飲みながら物販を物色するもよし、演者の方々に話しかけるもよし。そう、イベントは演者の方々とお話する機会でもあるのだ。即売会では聞けない、あんなお話やこんなお話も聞けるかもしれない(もちろん、演者の皆様に限らず、ほかの方に話しかける際は失礼のないように十分な配慮を!)。
ここまで見てきたとおり、ひとことで東方Jazzイベントといっても、見どころ、楽しみどころはさまざまだ。何が出てくるかわからない。しかしそのなかに、我々が確実に掴むことのできる手がかりがある。東方だ。この東方という要素が、それまで馴染みが無かった世界を開く鍵となるのだ。
未体験の皆様には、ぜひ次のFar East JAMMING Nightを体験していただきたい。それはいずれ、バー・オールドアダムを開く鍵となるだろう。
アンコール
Re:Lease (佐渡の二ッ岩) (arranged by fractanisharmonicoo)
例大祭前夜、東方ジャズライブでアツくなれ!5/6に都内で Far East JAMMING Night 10 開催!オンライン配信も!
2023年5月6日(土曜)の夜に、東方ジャズアレンジサークルが3サークル出演するライブ「Far East JAMMING Night 10」を開催します。
場所は東京の下北沢、料金は会場¥3,500+1ドリンクオーダー、配信は¥2,500です。
タイムスケジュールとしては、開場19:00、開演19:30、終演22:45を予定しています。
出演サークルはこちらです
・Unity-Gain
・ついったー東方部
・ACCORD ON CODES詳細やご予約はこちらの告知ページからお願いします。
告知ページ
https://accord-on-codes.com/post/714217120326647808/jamming10ジャズのライブのことをよく知らないという人のために、ライブの参加ガイドの記事も公開しています。ぜひ読んでみてください。
参加ガイド
https://accord-on-codes.fanbox.cc/posts/5729556ライブがどんな雰囲気か知りたい人はこちらの告知動画を見てみてください。
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それまで馴染みが無かった世界を開く鍵「Far East JAMMING Night 9.5」レポート おわり