好きな曲の好きなところを、気軽に言葉にしてみよう――東方アレンジの感想の書き方・伝え方
東方アレンジの感想の書き方・伝え方【中編】
「東方アレンジの感想の書き方・伝え方」をテーマとした当コラム。前編では「新譜を出したものの、イベント終了後にみんな聴いてくれているかどうか分かんなくて不安……」というサークルが多いこと、そんなときに「聴きました!」という声があるととてもうれしい、ということをお伝えしました。
「シンプルな感想でもうれしいんだよ!」という内容でまとめましたが、「聴きました!」だけではシンプルすぎない? と思った方もいると思います。「感想の書き方」と銘打ったなら、もっと具体的な感想の書き方を教えてほしかった、という人もいるかも知れません。
そこで中編となる今回は、より一歩踏み込んで「具体的な感想の書き方」という点に焦点を当ててお話していきます。
かんたんだけれど、すごく具体的でうれしくなること
音楽の感想には、さまざまな表現方法があります。なかでも、具体的であればより書きやすく、受け取るほうにとっても分かりやすいです。
東方アレンジCDのほとんどが「一枚のCDに複数の曲が収録」されています。(珍しい例として「針の音楽」というサークルは1曲18分で1トラックだけの風神録CDを作ったことがあるそうですが、それは別として)
音楽サークルはひとつのCDアルバムの中で、多種多様な方向性の音楽にチャレンジしていることが多いです(サークルごとにある程度得意ジャンルや活動方針などはありますが)。これは東方でも、それ以外でも、商業のCDであっても、そうです。アップテンポでキャッチーな曲もあれば、ゆったりめの落ち着く曲もあり、賑やかな曲もあれば、静かな曲もある。ボーカルを聴かせる曲もあれば、インスト(楽器だけの音楽)を聴かせる曲もありますよね。
そんな数あるアルバム収録曲のなかで、どの曲が特に好きだったか、これを具体的にはっきり伝えてもらえると、サークルは喜びます。たとえば、
「新譜『テーマ曲なき東方キャラのテーマ曲』聴きました!
2曲目の『秋静葉のイメージテーマ ~ いい日秋暮れ』が特に良かったです!」
という風に。こんな感想だと、具体的で分かりやすくてうれしいです。「うんうん分かる分かる。あの曲めっちゃ良いよな。俺もめっちゃ好き(一生懸命作ったし)」と、作った側も共感します。
「曲のどの部分について良いと思ったか」。ここを言葉で説明できなくても、そこは作者が勝手に納得してくれます。そこに不思議な共感が生まれるんです。そしてなにより、何度も言いますが「本当に聴いてくれたんだ!」という実感につながります。
ちなみに「この曲が好き、ってひとつに絞っちゃうと、ほかの曲は好きじゃないって思われないかな……」なんて心配をする必要はありません。「聴きましたよ」と教えてくれる、それだけで既にうれしいのですから。
私の友人が言った好きな言葉に「感想は自己紹介である」というのがあります。
「私はこの曲が気に入りました!」という感想はファンからの自己紹介で、それを知ることが出来るのはうれしいです。もしかしたら、「私はこの曲が気に入りました」と具体的に伝えることで、同じような雰囲気・世界観を持った新しい曲を、そのサークルさんがまた作ってくれるかもしれません。
感想は、質でもなく量でもなく数?
これは私の持論なのですが、音楽はとにかく「人に聴かれてなんぼ」ではないかなと思います。もちろん、音楽の細かいところも聴いてくれていることが分かり、それらをひとつひとつ拾い上げて言語化した“濃密な感想”――
「この曲は歌詞がすごく考えられているし、ボーカルはもちろん後ろのバッキングもすごく良い音で作られてて、構成の緩急もあるし時間とテンションの操り方が本当に巧妙で……本当によくできている……」
こういう感想をいただいたら、当たり前ですがとっっっっってもうれしいです。
でも、リスナー全員が「濃密な感想」を書くことを目指す必要はないよね? とも思っています。
「新曲聴きました」
「私も聴きました!」
「1トラック目のこの曲良いよね!」
「わかる!」
「その曲も良いけど4曲目の◯◯◯◯も良いぞ!」
「『針の音楽』のCDハマった奴は『幻宴Project』もオススメ」
などなど、複数人から多様な意見が投げられ、ファン同士の中で感想がシェアされたり交流が行われたり、あれが良いだのこれが良いだのと議論される――このように、たくさんの人から「小さな感想」が来るほうが、とても“盛り上がっている”状態になりますよね。ひとりの「濃密な感想」よりも、その楽曲はより大きな規模で“楽しまれている”ことが分かります。
音楽はどうしても、一曲を最後まで聴くのに、時間がかかります。鑑賞者が時間に拘束される芸術、と表現できるかもしれません。それはつまり、一枚のイラストや数秒で面白さが分かるショート動画と比べて、どうしても拡散力が低くなってしまうということです。
SNS社会において拡がりにくいのが音楽であるなら、その拡散力を上げるのは「口コミ」です。音楽そのものの良さもさることながら、それ以上にたくさんの小さな感想があちこちから投げられる、それこそが「近年の音楽のリツイートの形」なのかなと感じています。
ですので「音楽の感想」は気軽に出していいですし、「聴きました! 良かったです!」と言われるだけでも、作者はじゅうぶんに勇気づけられます。そして、その評判をほかの人が聞けば、その人もまた興味を持つようになります。「音楽の感想」は、ハードルが低くて良いんです。
音楽の感想や紹介に便利な三要素
とはいっても、「聴きました!」「この曲好きです!」以上に、もう少し自分の言葉で感想を言いたい人、「曲を人にオススメしたいけれど語彙力が……」となって困っている人も、いますよね。
音楽を言葉で語るとき、必要なのは「言語化能力」や「語彙力」「音楽的知識」よりも、「音を耳でどのように拾うか」だと思います。
「3分04秒のカコーン!って音良いですね!」
「うん! 良いよなそこ!」
……って感じで。音楽を作る人同士の会話も、わりとこんな感じです。専門的なことを喋ることもありますが、意外にも評する言葉は短いです。あとは、
「ここすき(4分25秒)」
とか。
ぶっちゃけてしまえば、その曲が好きであれば、どこを褒めても良いんです。「好き」という気持ちが本当であれば、何を言ってもおそらく間違いはありません。みんなどの曲も一生懸命に作ってるので、どこを褒めてもだいたい当たるんですよ! ……しかしこれはアドバイスとして少々強引なので、ここからはもう少し「感想らしい感想」「自分らしい感想」を書きたい・送りたい、または曲を紹介したい人向けのアドバイスをします。
さて、音楽について語るとき、音楽の感想を書くときは、以下の3つの点に注意すると良いです。
1.どの曲・その曲のどこが好きか
2.どういう気分・どういう感情になるか
3.そのようになる音楽的原因はなにか
たとえば「1. どの曲・その曲のどこが好きか」は、
「例大祭の新譜『△△△△(アルバム名)』の3曲目『××××(曲名)』が好きです!」
というように。
そして「2. どういう気分・どういう感情になるか」は、人によって受ける感情やイメージがそれぞれ変わります。なにを感じたのか、それをどのように表現するか、ここは最も個性が出るポイントだと思います。
・楽しくなる
・元気になる
・ハイになれる
・落ち着く
・うれしくなる
・悲しくなる
・前向きになれる
・踊りたくなる
・歌いたくなる
・自分の世界に浸れる
・眠たくなる
などなど。
最後に「3. そのようになる音楽的原因はなにか」。これは2. に対する理由付けの部分になります。音楽がよく分からない、という人にとってはここが最も難しいポイントだと感じるでしょう。でも、2. を言語化できれば、それ自体が3. のヒントになっているはずです。たとえば、
楽しくなる・元気になる・踊りたくなる・うれしくなる・前向きになれる・ハイになる音楽は……
→ リズムが賑やか or ノリが良い or サウンドが明るい or テンポが速い etc…落ち着く・眠たくなる・自分の世界に浸れる音楽は……
→ リズムが静か or ゆったり or 静かなサウンド or テンポがゆっくり etc…悲しくなる音楽は……
→ 暗い音楽 or 重たい音楽 or テンポがゆっくり or 緊張感のある響き歌いたくなる音楽は……
→ メロディが良い or 歌詞が良い or メロディと歌詞のリズム感が良い
といったように。(これらはあくまで一例です。すべての音楽に対応しているとは限らないので、自分の好きな曲のイメージに合ったふさわしい言葉がないか探してみましょう)
1.2.3.は、それぞれ順番が前後しても文章が自然であれば差し支えありません。これらを組み合わせて短い感想文を作ると、
「『テーマ曲なき東方キャラのテーマ曲』の1曲目、『犬走椛のイメージテーマ ~ 風と走る千里眼』が好きです! 快活なテンポとカッコいいメロディで爽やかな気分になれます!」
こんな感じになります。
ドラムのハイハットのグルーヴ感がどうのとか、コード進行がどうのとか、ミックスがどうのとか、転調がどうのとか、音楽の専門的な領域にはさほど踏み込んでいない内容ですが、短いなりにも感想文らしい感想文になっていると思いませんか? この三要素を持つフォーマットは、音楽の感想文や紹介文を書くのにとても便利です。
感想を送るのに、ハードルの高さを意識する必要はけっしてありません。また、必ずしも自分ひとりだけで「この人が作った作品全体を隅から隅まで褒めてあげなきゃ!」という義務感を負う必要もありません。
もちろん、ひとりのリスナーが精一杯たくさん評価するのも良いことですし、もらったほうもうれしいです。しかし、感想は質でもなく量でもなく数だとするならば、たくさんの人がいろんな曲のいろんな要素を褒めていけるような環境のほうが良いですよね。そのほうが、結果的により多くの部分をくまなく評価できて、サークル・リスナー双方にとっても好ましく、ファン同士の交流も捗って相互に喜ばしく感じるでしょう。
アルバムの中の一曲や、ある曲のサビの部分、○分○○秒~から○分○○秒~までの間などなど、些細なことでかまいません。気軽に言葉にできるところから、自分が好きだと思っている音楽について、今までよりちょっと具体的に言葉にしてもらえたら、うれしいです。
さて、もう少し本格的な感想を書いてみたい方は、上記の「音楽の感想や紹介に便利な三要素」を覚えておいてください。最後となる後編では、上記の三要素をもとに、どのように感想を肉付けしていくか、詳細な感想を書くにあたって音をどのように拾っていくか、そして「東方アレンジならではの感想」についてお伝えしていきます。
好きな曲の好きなところを、気軽に言葉にしてみよう――東方アレンジの感想の書き方・伝え方 おわり