東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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風神録のルーツを巡る諏訪の旅(後編)――東葉旅人の聖地巡礼手引き

東葉旅人の聖地巡礼手引き

 初めまして、もしくはお久しぶりです。聖地巡礼を主な活動にしている東葉旅人です。

 今回は諏訪の後編記事として、下社を中心にした東方元ネタを紹介していきます。毎年1~2月は御神渡りの可能性があるため、東方ファンの間で諏訪への注目が高まる時期です。2022年は発生するか分かりませんが、過去の御神渡りの様子もこの記事に載せていますので、下調べ代わりに読んでいただけると幸いです。

 

諏訪湖と御神渡り

 諏訪七不思議の中でも第一に挙げられている「御神渡り」。この現象はその名からも分かるように、八坂神奈子のスペルカードである神符「神が歩かれた御神渡り」の元ネタだと思われます。下社の女神である八坂刀売命に会いに行くため、上社の男神である建御名方命が氷上を歩いた道筋だと言われています。

 前回の記事でも紹介した「立石公園」から一望すると、『東方風神録』EX道中でスペルカードを使われた時のような様子が良く分かります。御神渡りが何時に見られるかは文字通り神のみぞ知るといったところですが、気象条件から予測を立てることは可能です。最低気温が氷点下10度前後の日が続くと諏訪湖が全面結氷し、その後に温度の上昇と下降が繰り返されると、御神渡りの出現が期待できます。

 この御神渡りは諏訪湖から直線距離で約1.2kmの八剱神社によって、御渡り拝観という神事が行われることで正式に認定されます。かつては御神渡りが起きない年である明けの海は珍しいほどでしたが、近年では中々お目にかかれない光景となっています。風神録が頒布されてから現在までに、2008年・2012年・2013年・2018年の4回しか発生していない貴重な機会なので、御神渡りとして認定された際には訪問をおすすめします。

 御神渡りは常に同じ場所に発生するとは限らないですが、良く見られる場所は過去の記録からある程度絞れます。その中でも一番のおすすめは、下諏訪駅から徒歩で行ける距離にある「赤砂崎公園」です。2018年は一之御神渡りとして正式に認定された道筋が良く見え、多くの見物人で賑わいました。御神渡りは短いと数日で消えてしまいますが、この年は3週間以上残ったので発生当初に比べて成長した姿も見ることができました。画像2枚目は2月4日で、画像3枚目は2月9日に撮影したものです。

 赤砂崎公園よりは徒歩で行きづらい場所ですが、2018年には「湊湖畔公園」でも一之御神渡りが良く見えました。最寄りの岡谷駅前でレンタサイクルもあるので、路面に雪がない時などは利用すると便利です。後に紹介する洩矢神社も一緒に訪問しやすくなります。

 御神渡りの際は全面結氷していますが、氷上に立ち入りするのは危険です。湖畔に間欠泉センターがあるように、場所によっては天然ガスや温泉の影響で氷が薄くなっているので、水没する可能性があります。ロープで立ち入りが規制されますので、神事の関係者以外は氷上を歩かない方が良いと思われます。

 間欠泉自体は他の場所にもありますが、守矢神社関係の元ネタが数多い地域に存在していることを考えると、「諏訪湖間欠泉センター」は洩矢諏訪子が東方非想天則で使用している「獄熱の間欠泉」の元ネタかもしれません。かつては50mという日本一の高さを誇る噴出でしたが、残念ながら現在は人為的な形となっています。ただ、そのおかげで決まった時間ごとに噴出が見られるので、予定を合わせやすくてありがたい仕様になっています。

 間欠泉センターの売店では温泉卵が販売され、体験コーナーで20分ほどかけて茹でることも可能となっています。地霊殿の魔理沙・アリスED会話内容のような雰囲気を味わえておすすめです。

住所・アクセス

赤砂崎公園
長野県諏訪郡下諏訪町東赤砂10944 左岸公園 太陽の輪付近

最寄り駅:
下諏訪駅(JR中央本線)
出入口より約1.8km 徒歩23分程度

 

湊湖畔公園
長野県岡谷市湊5-1-7 ファミリーマート岡谷湊湖畔店付近

最寄り駅:
岡谷駅(JR中央本線)
出入口1より約3.9km 徒歩49分程度

 

八剱神社
長野県諏訪市小和田13-18

最寄り駅:
上諏訪駅(JR中央本線)
霧ヶ峰口(東口)より約870m 徒歩11分程度

 

諏訪湖間欠泉センター
長野県諏訪市湖岸通り2-208-90

最寄り駅:
上諏訪駅(JR中央本線)
諏訪湖口(西口)より約1.2km 徒歩15分程度

 

諏訪大社下社と御射山社

 諏訪大社四社では、上社が建御名方命を主祭神とし、下社では八坂刀売命を主祭神としています。八坂刀売命は2月から7月はこの「下社春宮」に鎮座しており、8月からは下社秋宮に遷座して、翌2月1日に春宮に戻ってきます。

 現在の基準で考えると半端な時期に変わると思うかもしれませんが、旧暦においては正月にあたり、明治六年に太陽暦が採用されたことで2月に神事が行われるようになりました。この春宮にはスペルカードの元ネタがふたつ存在します。

 ひとつは境内の中心にある神楽殿の左側に建てられている筒粥殿で、1月15日に行われる「筒粥神事」が該当します。この神事が神奈子のスペルカードである筒粥「神の粥」の元ネタだと思われます。前日の夜からわら筒を米と小豆の粥に入れて一晩中煮込み、早朝に作物の豊凶や世の中を占います。

 もうひとつは神楽殿の右手前にある「結びの杉」で、この大木が神奈子のスペルカードである神符「杉で結ぶ古き縁」の元ネタだと思われます。幹の先が二股になっているが根元ではひとつになっていることから縁結びの杉と呼ばれ、分かれている縁も元ではしっかりつながっていることを表しているとされています。

 初詣の際は上社本宮に次いで参拝者が多い「下社秋宮」。参拝者数の多寡が神社の重要さを決めるわけではないですが、観光地としては本宮と秋宮が中心で、飲食やお土産の店も充実しています。

 秋宮には東方の聖地巡礼においても目玉となる要素が存在します。それが境内の中央にある神楽殿で、神奈子がスペルカードを使用しているときに背景として映し出されています。異変で弾幕ごっこが行われた紅葉の時期には御祭神が秋宮に鎮座しているので、その辺りも考えてこの場所が背景になっているのかもしれません。

 公式漫画で描かれている守矢神社の社殿にも、この神楽殿の外観が反映されています。『東方儚月抄』漫画版の底巻で紫が言及していた「もう一つ太い注連縄をもった神社」の部分も、守矢神社が秋宮をモデルにしていると思わせる一要素です。

 ちなみに秋宮神楽殿(画像上)の注連縄は、儚月抄で実際に描かれている神社の元ネタであろう出雲大社神楽殿(画像下)と同様の形状です。これは出雲の注連縄を作っている所から技術指導を受けて、諏訪大社氏子有志が奉納をしたのが始まりだとされています。

 前回の記事でも神奈子のスペルカードである贄符「御射山御狩神事」に関係する神社を紹介しましたが、下社側にも存在しています。こちらの「御射山社」は、鳥居の先から山の中に入っていく形になります。

 入口から10分ほど歩いた場所にある神殿付近では御神水が湧き出ていて、途中にある神池に注がれています。上社側では近くにある稗田川に、下社側はこの池にどじょうを放流して祈願をするのが、現在の御射山祭です。

 下社側の御射山社は春宮・秋宮から、すれ違いが困難な狭い車道を通って北東方向に山を登る形になり、徒歩ではつらい立地です。ガードレールが設置されていない場所もあるので、自動車で行く場合は転落を避けるためにも、慎重な運転を強くおすすめします。

 現在は下諏訪町にある御射山社ですが、江戸時代の初期から中頃までは八島ヶ原湿原の南に存在していました。元の場所には今でも旧御射山神社(霧ヶ峰本御射山神社)として残っています。この八島ヶ原湿原は茅野駅や上諏訪駅からバスが出ているので、現在の御射山社より訪れやすいとも言えます。

 三方を丘陵に囲まれた小さな盆地の「旧御射山神社」は、発掘調査によりコロシアムのような祭祀場だと確認されています。上社側と同様に、狩猟の神事はもちろん武道競技も盛大に行われ、現代でいうスポーツ観戦の側面もあったのかもしれません。

 狩猟の神としての側面も持つため、諏訪大社では昔から鹿食免という御札を授与していました。この鹿食免を持っていると、殺生や肉食が禁じられている時代であっても、鹿などの肉を食べることが許されたと言われています。バス停があり玄関口である八島ビジターセンターの隣には鹿肉料理を出す食事処もあり、御射山御狩神事の名残を感じさせてくれます。

住所・アクセス

諏訪大社 下社春宮
長野県諏訪郡下諏訪町大門193

最寄り駅:
下諏訪駅(JR中央本線)
出口より約1.3km 徒歩17分程度
下社秋宮までは約1.1km徒歩14分程度

 

諏訪大社 下社秋宮
長野県諏訪郡下諏訪町5828

最寄り駅:
下諏訪駅(JR中央本線)
出口より約700m 徒歩9分程度

 

下社御射山社
長野県諏訪郡下諏訪町木の下

下社秋宮から約4.6km
下社春宮から約5.8km
どちら側からも狭い林道を使用することになる

 

旧御射山神社
長野県諏訪市四賀

八島ビジターセンターから徒歩30~40分程度
上諏訪駅や茅野駅から八島ビジターセンターまでバスが運行(冬期は運休)

 

御柱祭関係

 前回の記事でも紹介しましたが、神奈子のスペルカードである神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」の元ネタだと思われる「御柱祭」。2022年の諏訪大社下社側では、山出しが4月8日(金)~10日(日)、里曳きが5月14日(土)~16日(月)という日程です。

 この文章を作っている2021年12月末の時点では下社側のみが有料観覧席を設置し、「本人及び家族等が緊急事態宣言地域及びまん延防止等重点措置地域に居住していないこと又は、出発日から遡り14日以内に当該地域への移動及び海外滞在履歴がないこと」などの条件があります。観覧席を除いて、諏訪圏域以外の住民は見物を控えるように言われていることも考えると、現地での参加は非常に厳しい情勢となっています。

 とはいえ、期間中に参加できなくても御柱祭の雰囲気を感じさせてくれる場所はいくつか存在します。諏訪後編の当記事では、下社側にある通年で楽しめる御柱祭ネタを紹介します。

 電動自転車以上の乗り物でなければ辛い道のりになりますが、下社側にも4月に行われる山出しにおける見せ場のひとつである「木落し坂」があります。上社側の坂が長さ約36mに最大斜度27度であるのに対し、この場所の坂は長さ約100mに傾斜度45m近くあり、上に設置されている疑似御柱付近から眺めると断崖絶壁なのが実感できます。

 ここから落ちてくる大木(御柱)を避けながら物々交換をする市場があったとしたら、参加できるのは弾幕ごっこに慣れた存在ぐらいだと思わせる程度には急な勾配です。

 御柱祭の木落しは天下の奇祭と呼ばれるにふさわしい迫力がありますが、実際に体験できるのはごくごく限られた氏子のみです。ですが「おんばしら館 よいさ」という施設では、御柱祭最大の難所を気軽に疑似体験できる木落し体験装置があります。入館料とは別に200円を払う必要はありますが、安全に楽しめるのでおすすめです。

 境内で御柱を建てる際の仕組みを動かしながら学べるミニチュア模型もあり、御柱祭をテーマにした様々な展示がされているので、訪れて損はない場所だといえます。下社春宮から徒歩数分の距離にあるので、併せて行きやすい施設です。

 また、もし諏訪に宿泊したのならば是非おすすめしたいのが、ご当地ケーブルテレビのLCVです。どの時期であっても定期的に、過去の御柱祭映像を流す番組が放送されています。部屋でくつろいでいる時に、BGM代わりにテレビを付けていれば目にすることができるかもしれません。

住所・アクセス

木落し坂(下社側)
長野県諏訪郡下諏訪町町屋敷2111

下社春宮から約2.8km 
下諏訪駅近くの友之町駐車場で電動自転車のレンタルあり

 

おんばしら館 よいさ
長野県諏訪郡下諏訪町168-1

下社春宮から約140m 徒歩2分程度
開館時間  9:00~17:00 入館は16:30まで
休館日   年中無休(臨時休館あり)
入館料   300円

 

洩矢神

 その名や伝承から、洩矢諏訪子の元ネタであると思われる洩矢神。そんな洩矢神を祀っている神社が、岡谷市にある「洩矢神社」です。元々は現在ある場所よりも川の近くに存在していて、対岸にある藤島神社との間で双方の藤が絡み合っていたと伝わっています。

 延文元年(1356年)の諏訪大明神画詞では、諏訪には先住の国津神・洩矢神がいましたが、そこに建御名方命(諏訪明神)が侵入しようとし争いになったとあります。二柱は天竜川を挟んで対峙し、鉄の輪を持った洩矢神は藤の枝を持った建御名方命に敗北した後、補佐の神長官となり諏訪の開発に力をつくしたとのことです。この鉄の輪が、諏訪子のスペルカードである神具「洩矢の鉄の輪」の元ネタだと思われます。

 洩矢神には一男一女がいて、男は守宅神という名で、その子孫は茅野市宮川高部に住み神長官を代々世襲していました。こちらの伝承も、早苗が諏訪子の遠い子孫だという設定の元ネタだと思われます。

 この神社の特徴として見逃せないのが、東方の聖地巡礼で訪れた人たちが奉納した絵馬です。諏訪大社4社にもありますが、洩矢神社に飾られている絵馬は東方のイラストが描かれている比率がとても高いと言える状況です。ある意味では、一番東方の聖地であるという印象を受けるかもしれません。

 洩矢神社から南西方向に徒歩5分程度、高速道路沿いの地上には洩矢大神御舊趾碑が置かれている場所があります。この碑は洩矢大神の住居があったということを示していますが、現在の場所は高速道路の建設に伴って移転した後のようです。移転前の位置については不確かですが、この付近からそう遠くはないかと思われます。

 洩矢神社と同様に当初の位置からは移転しているようですが、川の向かいには藤島神社があります。かつて洩矢神と建御名方命(諏訪明神)が天竜川を挟んで戦った際に、諏訪明神が持っていた藤の枝を地面に投げつけると根が付き、藤の木が茂り森になった場所だと伝わっています。天竜川を挟んで二柱が祀られているこの一帯は、まさに諏訪子のスペルカード「諏訪大戦 ~ 土着神話 vs 中央神話」の舞台だと言えます。

 洩矢神社と藤島神社の最寄りである岡谷駅前には「ララ岡谷」という建物があります。残念ながら2021年度中に解体されることが決まっていますが、ここでは過去に風神録オンリーの同人イベントが何度も開催されていました。東方の元ネタという意味では違いますが、ある意味では聖地と言える場所でもありますので、この場に画像を置いておきます。

 2022年以降では上諏訪駅前にある「駅前交流テラスすわっチャオ」という施設で、東方も含めた同人イベントが開催される予定があります。今後はそちらでの発展が期待できるのではないでしょうか。

住所・アクセス

洩矢神社
長野県岡谷市川岸東1-12

最寄り駅:
岡谷駅(JR中央本線)
出入口1より約1.2km 徒歩15分程度

 

藤島神社
長野県岡谷市川岸上1-1

最寄り駅:
岡谷駅(JR中央本線)
出入口2より約1.2km 徒歩15分程度

 

後書き

 本記事をご覧いただきありがとうございました!
 御神渡りの時期は、諏訪湖周辺の名物であるうなぎが美味しい季節でもあります。岡谷市では1~2月にうなぎ祭りが開催(現在はコロナ禍のため未定)されるぐらいなので、時間と予算に余裕があればおすすめです。

 次回の記事では新潟県の聖地を紹介していきます。3月に『博麗神社例大祭in新潟』が開催されますので、その前後の計画の参考にしていただければと思います。よろしくお願いします。

風神録のルーツを巡る諏訪の旅(後編)――東葉旅人の聖地巡礼手引き おわり

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