東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2024/10/04

即売会の「ちょっとめんどう」をよりスマートに。同人活動を行うすべての人にやさしいサービスを目指して――同人イベントスマートカタログ「hamp」開発・結綺ユキ氏インタビュー

同人イベントスマートカタログ「hamp」開発・結綺ユキ氏インタビュー

 2024年、今年になってさまざまな東方イベントに参加するようになった、という人も多いのではないだろうか。即売会・ライブイベント・東方オフ会……東方は数多あるサブカルジャンルの中でも、特にリアルイベントの開催数が多いジャンルだ。即売会の開催数たるや、今年だけ100に迫る勢いであり、都内だけでなく各地方でも開催されている。

 イベントがあるということは、それだけサークルが参加し、そして作品が頒布されるということで……作品をチェックする作業、いわゆる「サークルチェック」の手間もかかるわけだ。

 そんな「ちょっとめんどう」を解決するのが、同人イベントスマートカタログサービス「hamp」だ。hampは即売会の主催者向けにサークル申し込み/スマートカタログサービスを提供しており、利用している即売会ではPCやスマホ上から見れるサークルリスト、サークルカット一覧を見ることができる。来る10月6日開催の「東方紅楼夢」もhampを利用しており、東方紅楼夢の参加サークルすべてをhamp上で見ることができる。利用はもちろん無料である。

 このスマートなサービスを開発しているのが、以前東方我楽多叢誌でもインタビューを行った結綺ユキ氏だ。氏は東方サークルとしての活動の後、幻想郷のイメージを映し出す写真展「全日本幻想入り展」を主催・展開していた。結綺ユキ氏が次に取り組む「hamp」とは一体どんなサービスなのか。同人活動を行うすべての人にやさしいサービス、その詳細に迫った。

インタビュー・文/西河紅葉

即売会の開催、参加をもっとかんたんに

結綺ユキ:
 結綺ユキと申します。過去に「全日本幻想入り展」でもインタビューを受けさせていただきました。最近では「hamp」というサービスの開発に取り組んでいます。よろしくお願いいたします。

【全2回】全日本幻想入り展・結綺ユキインタビュー

全日本幻想入り展・結綺ユキインタビュー

――まずは「hamp」がどのようなサービスなのか、教えてもらえますでしょうか。

結綺ユキ:
 すべての同人誌即売会をスマートにするサービスです。同人誌即売会には、主催者の方はもちろん、一般参加者、出展するサークル参加者など、様々な方が関わります。それぞれが「不便だな」と感じている問題を解決していく、というところを目指しています。

――具体的にはどのようなことができるのですか?

結綺ユキ:
 一番のメイン機能としては「即売会におけるサークルチェック」の機能でしょうか。hampはもともと、即売会の電子カタログを作る、というところが発端になっています。これまで物理本でチェックをしていたものが、スマートフォン上で完結するようになる、というのがポイントですね。

結綺ユキ:
 もう一つの利点は、即売会の運営さんがこのサービスを利用すると、サークルの申し込みから電子カタログの生成までがストレートに行われるということです。今まで煩雑だったサークルカットのカタログ配置、カタログの組版など、即売会の運営において大きな部分を占める事務作業を自動化しているので、そのあたりを一気に解決しているところが強みだと考えています。
 自分調べではありますが、Web上でのサークル申し込みの時点でApple Pay/Google Payに対応しているのは、業界初ではないかと思います。キャッシュレス対応によって、参加費の振込がリアルタイムに確認できるのも、主催者さんにとっては本当にありがたい機能なのではないかなと。

 

――ユーザーの利便性だけでなく、主催側のタスクを大きく減らすことにも貢献しているんですね。

 

即売会の主催者をもっと増やしたい

――このサービスを新しく立ち上げようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。

結綺ユキ:
 最初のきっかけは「全日本幻想入り展」で作った、全日本幻想入り展アプリです。これは過去に出展されていた写真やキャプション、参加者の情報が見れるものでした。作ったところ、参加者から「自分の過去の作品のポートフォリオとして使えるのがありがたい」という感想を頂いて、このシステムを同人誌即売会に活用できないか、クリエイターが自分の同人誌をより多くの人に広められるシステムを作れないか、と思ったのが最初のきっかけです。
 そこから発展して即売会向けの電子カタログアプリを目指していったときにわかったことがあり、大規模なイベントには大型のWebカタログが存在するものの、中小規模の即売会にはそういったサービスがあまり利用されていないということでした。それもあって、中小規模即売会向けのサービスの開発にシフトしていった、というところがあります。

――本来なら開催サイクルを短めに頻度高く開催する小規模イベントのほうが、Webカタログや参加費のWeb決済サービスとは相性がいいはずですよね。

結綺ユキ:
 何より思っていたことは、即売会の主催者がかなり減ってきている、ということでした。僕自身も一度運営を経験していますが、やることが多くて本当に大変なんですよね……(笑)ですので、主催における難しいタスク――例えば、Webサイトの作成、サークル申し込みフォームの作成、カタログの組版のような、一定の専門技術が必要なところをより簡単に、ある種気にせずぶん投げられるサービスが必要だと考えたんです。

――開催当日までにかかる諸般の事務作業が簡略化できるというのは、本当に素晴らしいですね。ここが楽になれば、会場の押さえやスタッフの募集など、ほかにも悩みたい部分によりリソースを割くことが出来ます。

結綺ユキ:
 こういった部分はどうしても専門的な知見が必要だったりして、これでは若い即売会主催者が増えていかない、と思っていました。そんな悩みを、hampで解決したいと思っています。

――hampは東方以外の即売会でも利用できるのでしょうか。

結綺ユキ:
 はい、もちろんです。さまざまな即売会の主催を行うときに、サービスを利用できます。導入のための料金は現在お取りしておりません。
 利用されたい主催者の方はぜひ、hamp webの[hampについて]>[即売会主催者の方へ]>[hamp導入のご相談はこちら]へと、ご一報いただければ幸いです。現状はβ版ということもあり、このような形での利用申請となっておりますが、将来的にはよりオープンな形で利用申請ができることを目指しています。

――hampには即売会の項目以外にも「その他イベント」というのもありますよね。

hamp開発チーム:
 こちらは開発チームより回答いたしますね。まだβ版の機能ですが、音楽ライブやオフ会をより開きやすくする、コミュニティ向けの機能として開発中です。
 現状はイベント概要の掲載のみとなっていますが、将来的には「参加チケットの購入決済機能」「参加者向けのユーザーページ」「参加ユーザーの一覧リスト」といった機能が追加される予定です。多種多様なイベント形態を持つ東方コミュニティにフィットした形になることを目指しています。

――こちらはオフ会の主催さんの利便性や、イベントによく行く一般参加者さん同士の交流を目指した機能といった感じですね。

hamp開発チーム:
 ユーザーページができると、即売会の主催さんから連絡ができるようになるので、過去にイベントに来た参加者向けに次回開催のお知らせを送れたり、あとはサークルのページに「サークルメンバー」の機能が追加できて、いつもの参加メンバーに権限を与えれば、サークルチケットを自動配信ができたりするようになります。今後も即売会への参加がより便利になるようにしていきます。

 

使ってほしいイチオシ機能「リアクティブ配置図」

――hampのさまざまな機能についてお伺いしましたが、現状で特に押していきたい機能はどこでしょうか?

結綺ユキ:
 一番の強みはリアクティブ配置図です。いわゆる自分だけの宝の地図、色付き配置図が簡単に作れて、スマホで持ち運べるという機能ですね。10月3日に更新が入りまして、表示がより高速化されました。

下のリンクから実際に「第20回東方紅楼夢」のサークル配置図がさわれます!

https://hamp.ai/event/koromu2024

――配置図上でスペースをクリックすると簡易情報が、簡易情報をクリックすれば詳細情報や当日の頒布物情報が見れると。ここから「サークルチェック」ボタンを押せば……マップに色がつくわけですね。これは便利です!

結綺ユキ:
 こちらは各イベントごとにオーダーメイドで制作しているので、どのような会場でも、どのような配置図にも対応しています。主催さんより会場の配置図データをご提供いただきましたら、それをこちら側でリアクティブ配置図化してhamp上で実装します。

――どんな規模でも対応してもらえるというのは心強いですね。

hamp開発チーム:
 Web上での見え方がどのユーザーも大体おなじになるようにする、というのは結構難しいことなのですが、そこもエンジニアリングで実現しています。がんばってます(笑)

結綺ユキ:
 オーダーメイド、と聞くとかなり大変なことがたくさん行われている、とお思いかもしれませんが、今後利用者がより増えることも見越して、実装自体はかなり簡素化して持続可能なシステムにしています。

――この「サークルをフォロー」ってなんですか?

結綺ユキ:
「サークルをフォロー」をチェックすれば、そのサークルさんが別のイベントに参加された際、hampでそのイベントマップを開いてもらえたらマップに青く色がつきます。サークルチェックの最初にやる「今回は誰が出てるかな~?」がやりやすくなるわけですね。
 もうひとつ、一度「サークルチェック」を外すと、チェックリストの「やっぱりやめた」という欄に追加されます。再度サークルチェックをしていて「やっぱりここ気になるかも!」「予算的にここまだ回れる!」なんてことがあったときには、このリストを活用してください。
 これはサークル参加者向けですが、サークルページに新作頒布物の登録をすると、サークルカット一覧に「新作」バッヂがつきます。サークル側からも一般参加者にアピールができるので、これもぜひ使って欲しい機能です。

――これは便利ですね! もともと即売会でサークルチェックをたくさんされていた方ならではの機能という感じがします。

hamp開発チーム:
 それ以外にも、即売会の会場でhampを開いても、サークルカット一覧の読み込みやレスポンスが遅かったりしないようなシステム設計をしています。通信速度が遅かったりする会場もあるかと思うので、そのための対応です。
 また、Webページそのものをアプリ化する技術(pwa)にも対応しているので、一般参加者の皆様にはぜひお使いいただきたいです!

結綺ユキ:
 hampをご利用いただいた方、一般参加者や主催者のみなさまには極力ヒアリングを行うようにしています。より現場での利用に即したものにしていきたいですね。SNSでの使い勝手や感想の投稿もすべて目を通させて頂いております。

 

同人誌即売会を日本の文化にしていきたい

――hampというWebサービスが今後目指していく目標について教えていただけますか。

結綺ユキ:
 これは大きな目標ではありますが、いまインターネットを始めた人が最初にGoogleを開くように、これから同人活動を始めようとする人が、最初にhampを開くようになってほしいんです。
 これから即売会を開きたいと思っている人にはhampを使ってより楽に即売会を開催してほしいですし、サークル側のみなさまには、hamp上で自分の作品ページ、ホームページを作って作品を広められるような機能を実装しようと考えています。一般参加者のみなさまも、今後どのような即売会が開催されるかをまず調べる場所として、hampを利用してほしいんです。同人にまつわる活動を始めたいと思ったら、まずはhampを開く世界になってほしい。そういうサービスを目指しています。

――同人活動すべてに関わるポータルサイトを目指しているんですね。

結綺ユキ:
 クリエイターさん向けでいうと、作品を本にしたり手に取れる形にするためには、印刷会社さんとのやり取りや製本に関する知識がある程度は必要になります。そういった部分のサポートとして、印刷会社さんとの連携なども行っていきます。イベント主催さん向けに、即売会を開催するための情報――たとえば、各地の会場情報とかを共有できるようになったらいいなと思っています。

――主催さんが持っている情報って、どうしても「秘伝のタレ」になりがちで、あまり簡単に共有ができるものではなかったりしますものね。

結綺ユキ:
 このサービスの開発にあたって、東方名華祭の共同代表・久樹輝幸さんのアドバイスをたくさんいただいてます。久樹さんも同じような考えを持っていて、若い人たちにより多く即売会の主催になってもらえるように、知識の継承が行える場になったらいいよね、と話しています。

「配置」を知れば、即売会がもっと楽しくなる。『東方紅楼夢』20周年記念 配置座談会

『東方紅楼夢』20周年記念 配置座談会

――現状として、コロナ禍の影響はかなり改善しつつありますが、それでもまだ全盛期に比べると同人即売会の開催数は多いとは言えない状況にあります。そんな中で、ほぼほぼ持ち出しに近い個人開発で、ここまで同人誌即売会をサポートするようなサービスを作られる、その理由は何なのでしょうか?

結綺ユキ:
 これはもう、ぼくが同人誌即売会を日本の文化として残していきたいからですね。
 世界のサブカルチャー・オタクエンタメの潮流が日本中心から中国・韓国などアジア全体に様変わりしつつある中で、個人的にさらに日本を盛り上げていきたいという思いがあります。日本のオタク文化の中心にあったのは、やはりコミックマーケット・同人誌即売会だと思っていて、もう一度ここを中心に盛り上げていくことで、日本のオタクエンタメをさらにさらに活性化していきたい、そう思っています。

――結綺さん自身が思う、同人誌即売会のいいところってなんですか?

結綺ユキ:
 そうですね……自由であること、自由に表現をしていい場所、ってことですかね。自分がなにか表現するということに制限がかけられない場所ですし、なにより自分が「作品を出したい、表現をしたい!」と思ったときに、そういう場所があるというのはかけがえがないと思います。
 いまはネット上で簡単に発信ができる世の中ではありますが、やはり即売会の醍醐味は作品を手に取った人の反応が直接見られることですね。手に取ってくれるファンの方の顔が見える場所って、クリエイターにとってすごく貴重ですよね。
 リアルなコミュニケーションの中でしか生まれないドラマがあると思っていて、そこから新しい作品や新しいサークルが生まれていきます。そういう瞬間を世界に増やしたいのかもしれないです。

――ネットに傾倒しつつある世の中ですが、コロナ禍の揺り戻しで逆にリアルイベントに注目が集まっている風潮も感じます。「東方」はその中でも変わらず、ずっとたくさんの即売会が開かれ続けている貴重なジャンルであり、そのコミュニティからこういったサービスが生まれるというのは、素晴らしいことだなと感じております。本日はインタビューいただきありがとうございました。

 

hampは即売会・音楽ライブ・オフ会など、同人をシンプルにするシステムです。

https://hamp.ai/

10月5日・6日開催予定のイベントについて掲載中です!

10月5日

10月6日

 

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