「配置」を知れば、即売会がもっと楽しくなる。『東方紅楼夢』20周年記念 配置座談会
『東方紅楼夢』20周年記念 配置座談会
同好の士が集まる同人誌即売会。年間を通して各地で開催されている即売会が開かれるまでには、さまざまな準備が必要となる。そんな事前準備のひとつに、「配置」という作業があることをご存知だろうか。
イベントに欠かせないものでありながら、スポットライトの当たる機会が少なかった配置作業、ひいてはスタッフ業務をより広く知ってほしい。それを叶えるため、『東方紅楼夢』総統括・片岡氏、『東方名華祭』共同代表・久樹氏、『博麗神社例大祭』館内統括・うえぴょん氏にお集まりいただいた。
今年で20周年を迎える同人誌即売会『東方紅楼夢』開催を記念して、即売会の最前線に立ち続けている3名にスタッフ業務の裏側について伺った。
聞き手/紡
写真/るぅく
即売会に欠かせない「配置」とは?
――本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは自己紹介からお願いします。
片岡:
東方紅楼夢で総統括をやっている片岡です。サークル配置の責任者も兼任しています。
久樹:
『東方名華祭』の共同代表、『科学世紀のカフェテラス』『求代目の紅茶会』代表の久樹輝幸です。自身の運営するイベントでは配置作業もやっています。
うえぴょん:
『博麗神社例大祭』で館内担当の統括とサークル対応の責任者をしているうえぴょんです。配置責任者も担当しています。
――早速ですが、即売会作業における「配置」とは具体的に何をする作業なのでしょうか。
片岡:
基本的には、サークルさんからいただいた申し込みデータを元に、本や音楽、グッズといったジャンルに分けた上で、図面に並べていく作業となります。
――この流れはどのイベントでも共通していますか。
片岡:
規模の小さい即売会ならExcel上で完結させたりもできるんですけど、500スペースを超えるような規模になったら、データの精査に時間がかかるようになりますね。配置の作業自体は2日くらい?
うえぴょん:
全体の作業って意味だと、うちは3〜4週間はかかっています。
片岡:
紅楼夢もほぼ同じで、データの精査に2週間かな? そこから「短冊」という配置に必要な紙の出力に1週間くらいかけて、実際の配置は土日で終わらせてます。
うえぴょん:
最後の配置作業はうちも同じですね。土日の2日間で終わらせてる。
久樹:
ちょっと補足しますね。
そもそも配置って、イベントによって考え方が千差万別なんです。今回集まった人間は東方ジャンルの中で比較的規模の大きい即売会にかかわる人で、座談会もそういう前提に立ってやっています。極端な話をいえば何も考えず申込み順に並べてもいいっちゃいいんですが、何故配置作業をするのか。
ひとつは参加者が自分の好きな作品を探そうと思ったときに、同じ傾向の作品をだすサークルで固まっているほうが探しやすいからです。サークル同士の交流もはかどりそうですしね。
もうひとつは一部のサークルに人が集中してしまうと防災上の問題が発生するので、混雑対応がしやすいように配置するのが大きな理由です。
作業の話に戻りますと、そうした配置を行うために、このサークルは何を頒布するのか、どういう配置をしてほしいのか、といった話を精査しないと実作業に移れないので、事前準備が配置作業全体でかなりのウェイトを占めることになります。他に表記ゆれを直すとか、合体申請の処理など諸々の作業をやると1週間、2週間はかかって、そうした準備が全部そろって「じゃあ配置をやりましょう」となるわけですね。
イベントはよく「当日が3割、事前事務が7割」なんて言うんですけど、配置も「配置の当日」が3割で事前が7割という印象があります。
うえぴょん:
うちらはボランティアでやってるってところもあって、実際に作業やってるのは基本土日だけなんですよね。さっきは4週間とか言ってたけど、実際にはそのうちの土日だから8日間だけ。平日の夜だと集まったりもできないし、配置って基本的に全員が集まらないとできない作業が多いから、少なくともうちは土日だけで進めてる感じです。
――当日の配置作業に関わる人数は何人くらいですか。
片岡:
紅楼夢は多くて10人いるくらいかな。
うえぴょん:
うちは全員を集める配置集会って日が1日あって、その日に20人くらい。その後の確認作業とかは数人でやります。10年くらい前の話だけど、サークル申込数が4千スペースあった頃には配置集会に50人は集まりましたね。
久樹:
名華祭に関しては、コロナ禍以後は(感染対策という事情もあり)私ひとりでやるようになりました。
――専門用語らしきものが出てきたので触れておきましょう。先ほどの話に出てきた「短冊」とはなんですか?
久樹:
「短冊」はね、コミケが発祥ってことでいいのかな? 申込書とは別に細い紙がありまして、あれが短冊と呼ばれるものの発祥かなと思ってるんですけど。
――形が細長いから短冊、ということですね。
久樹:
あれを使って配置作業を行うので、配置に必要な情報が出力されている紙を他のイベントでも便宜上「短冊」と呼んでいる流れだと思ってます。
うえぴょん:
申込情報を全部出力すると個人情報の嵐になっちゃうんで、配置するときには配置に必要な情報だけ出力します。コミケの場合は、昔は配置に必要な情報だけを短冊に書いてもらって、その紙だけを使って配置してたんですね。その名残りで、うちらも配置用のシートのことを短冊と呼んでるんですよ。
グラデーションになるような配置を
――配置作業に使う図面がありますよね。あれはどのタイミングで作るんですか。
うえぴょん:
募集が終わってスペース数が判明してから作りますね。
久樹:
申込数からサークルスペース用の机の数が決まった後に、サークル以外の企画や企業スペースなどの場所を決める「オブジェクト会議」をやります。この段階で配置作業に必要な図面を作成しています。
うえぴょん:
一言に「図面」と言っても、配置作業には色んな図面が出てくるんだよね。
片岡:
そうそう。
うえぴょん:
順番的にはオブジェクト会議で使う「オブジェクト図面」がまずあって、その後に「配置図面」が出てきて……例大祭は「設営図面」を先に作って、それに合わせる形で配置図面を作るけど、ここはイベントによって違いますね。配置図面を作った後には「ジャンル図面」っていう図面が出てきます。
片岡:
紅楼夢でもジャンル図面は作ります。ジャンルについて補足すると、「大ジャンル」は本・音楽・グッズのような大きい区分、「中ジャンル」は紅魔郷や妖々夢といった原作の作品区分、キャラクターで区分するのが「小ジャンル」です。
久樹:
一方で、『科学世紀のカフェテラス』や『求代目の紅茶会』のような特定キャラクターのオンリーだと「全部秘封!」「全部阿求!」なので(笑)
作品媒体以降はシリアス・ギャグなど作品の傾向で割り振るようにしています。
――同人誌だと中ジャンルや小ジャンルの分け方はイメージしやすいですけど、たとえば音楽やグッズはどうしてるんですか。
久樹:
そうそう! 音楽やグッズは特に大変なんですよ(笑)
うえぴょん:
音楽については「音楽ジャンル」が本当に重要になります。キャラクターや東方の知識よりも音楽知識が一番求められますね。その知識を持っている人間じゃないとそもそも配置作業ができないのが音楽ジャンルの大変なところですね。後継者を育てるのがすごく難しい(笑)
また、これは配置すべてに言えることですが、なるべく近いような音楽ジャンル同士が隣になるようにグラデーションを意識した配置を心がけていますね。
――グラデーションという話だと、グッズも大変そうですね。
うえぴょん:
グッズは並べ方の基準がいろいろあって、例大祭は文具、携帯グッズなどの用途別で分けるようにしていますね。それ以外にも布ものや金属など素材で分けるところもあって、担当者の考え方次第になってきます。正解はないですね。
片岡:
グッズは他のジャンルと比べて一般参加者が物を見る時間が自然と増えるので、それだけ通路にダマが増えてしまうんですよね。なので、グッズの島にはなるべく事故スペースを多めに入れて緩和するようにしています。
実は大事な備考欄
――サークル申し込みについて、サークル側への要望などはありますか?
片岡:
そうですね……備考欄に「自分たちはどういう作品を出すのか」をなるべく書いてほしいかな、というのはありますね。空欄の方も結構いらっしゃいますし。
たとえば備考欄に「漫画を描きます」とあっても、それはギャグ漫画なんですか?それとも恋愛漫画なんですか?となってしまうので。音楽サークルに関しても、ロックやジャズといった音楽のジャンルを書いてほしいのが本音です。ぜひ備考欄を活用してください!
「備考欄にいろいろ書いたら配置担当者が困るんじゃないか」ってたまに聞くんですけど、そんなことはないです。むしろ私たちは備考欄ひとつひとつに目を通して読んでます。なので、そこは遠慮せずに書いてください。
うえぴょん:
何も書いてないより書いてある方が助かりますからね。
久樹:
基本的に申し込み時の新刊予定やサークルの活動情報が配置のキーとなりますので、自分がどういうところに配置してほしいかイメージしながら書いていただくと、非常にありがたいなと思います。
その上で、ジャンルコードとサークルカット、それに頒布物情報や備考欄は矛盾しないように書いてもらえると助かります。ジャンルコードは本なのに、頒布物情報を見ると音楽と書かれているようなケースですね。どうしよう……となる(苦笑)
もしジャンルが複数にまたがる場合は、備考欄にメインで配置してほしいジャンルを書いていただければできるだけ対応しますので。
片岡:
これも大事なことですが、合体サークルさんはジャンルコードを合わせていただきたいです(笑)
うえぴょん:
申込内容の矛盾にもいろいろあるけど、一番困るもののひとつが合体サークルのジャンルコードが違っていてどっちに合わせればいいのか分からない、なんですよね。
片岡:
たとえば本とグッズでジャンルが違う場合は、どちらのジャンルに寄せてほしいのかを書いてほしいです。
久樹:
成年向けに関する注意点として、もし成年向けのサークルさんとそうでないサークルさんが合体で申し込んだ場合はほぼ確実に成年向けジャンルに寄せちゃうので、そのあたりもご理解の上で申し込んでください。
それと、合体申請をされるときは必ず両方のサークルで合体申請を出してください。我々は「片思い」と呼んでますけど、トラブルを防ぐため片方だけが合体申請を出している場合は無視する運用にせざるをえないので……。
万が一申し込んだあとで気付いたら、至急ご連絡ください。
うえぴょん:
ジャンルコードについて補足すると、普段のジャンルコード「G」と「H」で活動しているサークルが合体で申し込むとするなら、たとえば「H」側のサークルが合わせるなら、もう込み時のジャンルコードは「G」にして、備考欄に「合体のため『G』コードで申し込んでいます。頒布物は〇〇ジャンルです」といったように記載いただくと助かります。
上海列の導線
――例大祭の列でも特に目を引くのが上海アリス幻樂団の列、いわゆる「上海列」ですが、配置の時点で列をどこに流すか決めてるんですか。
うえぴょん:
今回(第二十一回博麗神社例大祭)に関しては、混まない回だろうと思っていたのですが……
――まさかの新作が発表されたと。
うえぴょん:
今回は大丈夫だろうと思ってトラックヤード(ホールの屋外エリア)には出さない前提で導線の計画を組んでいたんですけど、新作が発表された瞬間に「これは駄目だ!」となって、関連する部署を巻き込んで通路の調整をさせてもらいました。今回はチルノパス(早い時間に入場が可能となるチケット)の待機エリアにトラックヤードを使うことが事前に決まっていて、開会直後の外側はそもそも使用できなかったんです。
SNSでも「なんでシャッターを開けないんだ」という声がありましたが、そういった事情があったんです。
久樹:
入場管理の観点からも、トラックヤードを混雑サークルの待機列に使うのは簡単じゃないんですよね。大きいイベントになるほど、どこまでを「館内(会場内)」と見なすかも重要になってきます。
配置にミスはあっても、正解はない
――配置で気になる点として、たとえば霊夢×魔理沙のようなカップリングの作品を出す場合の配置はどうなるのでしょうか。
うえぴょん:
グラデーションをかけるようにします。霊夢×魔理沙だったら霊夢単体と魔理沙単体の間に挟みこむような配置ですね。
――今のたとえだと霊夢と魔理沙はもともと配置が隣合っていたから成立したと思うんですけど、これが霊夢×レミリアのように作品が飛んでいる場合はどうなるんですか。
久樹:
基本的には申し込んだジャンルコードに従って配置しています。かつての東方イベントでは、キャラクターの親和性によるカップリング配置をしていた時期がありました。代表的なところではチルノ、ルーミア、リグル、ミスティアのグループなんてありましたね。最近は作品ごとに順番に並べるようになっています。
うえぴょん:
このへんは配置担当者の意識というか好みが強くなっちゃうので、その配置に納得しない人も多くなるんですよね。
久樹:
イベントとしてカップリングを固めちゃうと、そのカップリングを強く押し出してるように取られかねないので、公平さをとると作品順がいいってなりますよね。
うえぴょん:
例大祭だと作品コードで「このキャラとこのキャラのカップリングはここに配置しますよ」と打ち出しています。本来であれば2面ボスの橙を「八雲一家」として藍の並びに置くような感じですね。
基本は作品ごとで、その作品内の登場順ですが、その基本は一部例外として壊すこともある。決まりを意識しすぎるとせっかくのカップリングが離れちゃったりするので、そこはサークル側がなるべく幸せになるようにしています。その中で綺麗に並んでくれるように、常に我々も「本当にこの順番でいいのかな」と考えながら配置をしています。
片岡:
正解に近いなと思うことはあっても、正解だと思ったことはないですね。
久樹:
配置にミスはあっても、正解はありませんからね。
配置への一歩
――皆さんそれぞれの、配置を始めるようになったきっかけをお聞かせください。
片岡:
紅楼夢の配置を始める前は、関西の『Comic Communication』【※】というオールジャンルの即売会にいまして、そこで配置の基礎的な部分は学んでいたんですね。ただ、あくまでオールジャンルでの配置だったので、東方そのものには詳しくなかったんですね。
※Comic Communication
関西で開催されていたオールジャンル即売会。通称「コミコミ」。2013年に第18回の開催をもって閉会した。
その後、東方紅楼夢(第五回)から配置を手伝うようになったときに、コミックマーケットで東方ジャンルの配置を担当されていたSさんという方から配置のイロハを教えていただきました。
うえぴょん:
実は私も、片岡さんの話に出てくるSさんに配置を教えてもらったんです。ただし、教えてもらったのは東方Projectの配置ではなくオールジャンル即売会『Comic Revolution』【※】の配置でした。
※Comic Revolution
関東で開催されていたオールジャンル即売会。通称「レヴォ」。2005年に第37回の開催をもって閉会した。
東方Projectの配置に関わるようになったのは『第九回博麗神社例大祭』からですね。そのときは東方の配置がまったく分からなかったので、教えてくれって泣きついたのが当時から親交のあった片岡さんなんですよ。
――片岡さんはSさんから東方ジャンルの配置を教わって、うえぴょんさんは片岡さんから教わる流れがあったんですね。
片岡:
その縁もあって、例大祭の配置は今も手伝っています。
――久樹さんはいかがでしょうか。久樹さんで配置といえば、やはり色付き配置図【※】のイメージがあります。
※色付き配置図
久樹氏が制作していた東方ジャンルを含む即売会のサークル配置図。キャラクターなどのジャンルを色で区分けした図面が特徴。色付き配置図は2008年から2016年にかけて制作された。現在もウェブサイト「久幸繙文」にて閲覧可能。
久樹:
当時は色付き配置図を作っていたこともあり、配置はキャラクターごとに並べるイメージがあったんですよね。
その後、第1回の『科学世紀のカフェテラス』『求代目の紅茶会』を開催するにあたって副代表を拝命しました。そこで初めて、イベントの配置作業を経験したんです。
配置のノウハウなどもなく、完全に我流でした。私はキャラクターから東方ジャンルに入ったので、配置についてもキャラクターの分類を意識することが多いです。片岡さんやうえぴょんさんと配置の考え方が違うのは、ルーツが即売会スタッフではないことに由来するのかなと思います。
コロナを経て、オンライン化へ
――コロナによって即売会も変化を迫られました。特にコロナが流行した2020年は開催自粛となったイベントも数多くありましたよね。
片岡:
2020年当時は配置をやっていてもイベントが開催できるかどうか分からなかった時代だったので、普段よりも苦しかったですね。
2021年に開催された『第17回東方紅楼夢』では、本来使う予定だった6号館が緊急病棟として使用されるニュースが飛び込んできて、使用ホールが急遽変更する事態になりました。
館が変わると机の配置も全部変わりますし、加えてソーシャルディスタンスに沿った調整も必要になるので、今までのノウハウが通用しない作業でしたね。そのときはうえぴょんさんに相談して関東のスタッフを集めてもらって、どうにか乗り切りました。
うえぴょん:
例大祭では事務所への立ち入り禁止令が出ました。とはいえ完全にオンライン作業だけではできないので、「1日だけ開けてくれ!」とお願いして最小人数で作業してましたね。同時に、外周抜きや図面引きといった作業はすべてオンラインに移行しました。
そのときのシステム変更が結果として、「この方が楽じゃん」と今でも使っているものに繋がってたりもします。
久樹:
名華祭はコロナ禍を機に配置集会を開かなくなったんですけど、配置を地元でやらないとノウハウを伝える機会が失われてしまいます。
配置集会と同じく、発送集会も行われなくなりました。発送集会はサークル向けの書類や通行証を封筒に詰める作業なんですけど、今ではサークル案内もオンラインになりましたからね。みんなが一か所に集まって行うような作業はほとんどなくなりました。
うえぴょん:
発送は例大祭や紅楼夢もメールのみに移行してます。発送費を削減できるだけでも、相当なコストカットになるんですよ。例大祭の場合、3,000通、4,000通と送っていた時代は発送費もかなりの金額だったので、コスト削減の恩恵は大きいですね。
久樹:
メリットは大きいんですが、顔を合わせてワイワイ準備作業をやる機会がなくなってしまうのはちょっと寂しいですね。
イベントにまつわるエピソード
――配置作業に長く携わっているといろいろな出来事があったかと思います。たとえば、失敗談などのエピソードはありますか。
うえぴょん:
今なら笑い話にできるものでよければ(笑)
土日の2日間で配置作業をしていて、2日目の朝までに終わらせないといけない作業があったんですけど、朝になっても数字が合わない。最後の最後で原因がわかったんですけど、もう直す時間もなかったので、仕方なく事故スペースを12個並べてなんとかしたことがあります。はた目には何もない空間が12スペース分できてしまったので、配置としては明らかな失敗でしたね。
片岡:
紅楼夢だと短冊の数がどうしても足りないと思ったら、島村さん(東方紅楼夢 代表)の自宅のプリンターに50枚分の短冊が置き去りになっていた「短冊置き去り事件」を真っ先に思い出します(笑)
――事務作業はヒューマンエラーがどうしても起きますよね。イベント当日はどうでしたか。失敗談とは少し違いますが、東方でも列が爆発するようなことはあったのでしょうか。
久樹:
昔は合同誌の企画やニコニコ動画で注目を集めたサークルが突然爆発することが多かったですね。今はTwitterやYouTubeなど、SNS発で人気が伸びて爆発に繋がることが多い印象です。時代によって爆発する要因が変わるので、配置担当者がそこに疎いと見落としてしまいやすい。
うえぴょん:
小中学生に流行ってるようなものを知らなくて、あとから人気に驚くことが増えてきました。
――少し踏み込んだ質問になります。紅楼夢、秋季例大祭、京都合同イベントはそれぞれ秋に開催されるイベントですが、開催日程が近くなることが多いですよね。もっと日程を離してほしいという声もありますが、やはり難しいのでしょうか。
久樹:
うーん……それが出来れば苦労は……(苦笑)
うえぴょん:
各イベントは会場から日程を提示されるわけですが、選択肢がほとんどないことも多く、その中で一番ベストな日程を選んでいます。大抵の場合、開催日の1年前から日程調整はしていますね。
片岡:
イベント同士で連絡網もあって、そこで相談した結果として会場側に日程を調整してもらったことも何度かあります。
展示会場の特徴として、平日に開かれる催事の設営日に土日を使うことが多く、その関係で空いている日程を確保しづらいのも要因のひとつですね。
うえぴょん:
数日間に渡って会場を借りる企業に比べると、私たちのように1日しか会場を借りないイベント団体はどうしても発言力が弱く、その中で会場が出してくれた日程を選ばざるを得ないのが実情です。
配置は事前作業で一番楽しい
――イベントスタッフ共通の悩みだと思いますが、後継者問題についてお聞かせください。
片岡:
配置作業への勧誘として、イベントを手伝ってくれるスタッフに「配置やってみない?」と声かけするようにしています。まずは事前作業を手伝ってもらって、またやってみたいと思ってもらうことがスタートラインです。怖がらずに来てほしいですね(笑)
うえぴょん:
例大祭ではなるべく人数を集めて配置集会をやっていて、それは若い世代が事務作業に関わるための門戸を開く入口としての役割もあるんです。
最近では、配置担当者の半分以上はコロナ流行後に入ってきたスタッフですね。配置には新しい知識も必要ということで、積極的に若い子たちに入ってきてもらえるようにやっています。
久樹:
名華祭は今まさに「配置をもう一回みんなでやろう」と調整しているところです。配置は事前作業で一番エキサイティングで楽しいということを知ってほしいですね。
うえぴょん:
実際に自分が置いた配置がカタログに並ぶのは楽しいんですよね。
久樹:
さっきもちょっと触れましたが、オンライン化に伴って集まる回数が少なくなると、事務作業をスタッフが知る機会が減ってしまうんですよ。「イベントは事前作業が7割」って言われる通り、そこに触れてもらわないとイベント開催のノウハウの継承が途絶えてしまう。オンラインだと全体のコストが減って楽ではあるんですけど、そのままでは先細りしてしまいます。
ノウハウの継承という観点では、名古屋と関西のスタッフで互いのイベントに参加するなど交流を持つようにして、イベントの経験数を増やしてもいます。
うえぴょん:
例大祭も春にしか開催していなかった頃にスタッフ技術の継承が問題となり、秋季例大祭の開催を決めるにあたっての判断基準のひとつとなりました。
最近では『博麗神社遊芸祭』など小規模のイベントを若い世代に任せることで、スタッフ育成に力を入れています。イベントの機会は多ければ多いほど、人を育てる場になります。ただ、やればやるほど私たちは大変になりますね(笑)
自分に合ったイベントの考え方を見つけてほしい
――お話を聞いて、後継者育成が非常に重要であることが理解できます。
うえぴょん:
特に若いスタッフには、例大祭だけではなく他のイベントにも行ってごらんと勧めています。そこでイベントごとの考え方を学んでほしい。その違いを学んだ上で、自分に合ったイベントの考え方を見つけてほしいです。
そうやって育てていかないと、作業者は育つかもしれないけど統括クラスの判断力をもった人間は育たないんですよね。スタッフに興味を持った人は、ぜひいろんなことを学んでいってください。
片岡:
スタッフをやってみたい!という場合は、各イベントの公式サイトでスタッフ募集をしているのでお問い合わせください。
うえぴょん:
基本的には当日のスタッフから始めてもらうことになるので、当日スタッフの際に事前作業もやってみたいと伝えてくれれば次回の作業に案内できるかと思います。
事務作業で学んだ事務知識が後の社会生活で役立つこともありますよ。
――最後に、片岡さん、代表の島村さんから20周年を迎える紅楼夢の魅力をお伝えください。
片岡:
東方紅楼夢は今年で20周年を迎えます。サークル配置もがんばっていますので、皆さんよろしくお願いします。
島村:
今年で20回目の開催ということで、長くやらせてもらっています。楽しんでいただければと思います。
今回は5年前に台風直撃によりできなかったアフターイベントを予定しています。よろしくお願いします。
『東方紅楼夢』連動企画
「配置」を知れば、即売会がもっと楽しくなる。『東方紅楼夢』20周年記念 配置座談会 おわり