「幻想郷フォーラム」の発足が及ぼした影響と、東方評論・情報サークルの萌芽――「幻想郷フォーラム」関係者座談会(前編)
「幻想郷フォーラム」関係者座談会(前編)
同人誌には「評論・情報」と呼ばれるジャンルがある。
批評、デザイン、学問、料理レシピ、エッセイ……そこには一般の人が想像する、漫画やイラストの本ではない同人誌が集まっている。“コミケ巧者”たちが「コミケの本当に面白い場所はここにある」とこぞって話す世界だ。
東方にも評論・情報ジャンルは存在する。「東方考察」と言い換えたほうが、馴染み深い人も多いだろうか。「考察系YouTuber」なんて言葉も席巻する現在だが、東方以外の他ジャンルにおいて、考察系――評論・情報の同人誌がひとつのイベントにおいて多数頒布されることは、ほとんどない。あっても1,2冊程度だろうか。
そんな評論・情報だけで、しかも東方だけに絞ったオンリーイベントとして開催されているものがある。今週末、6月25日にポートメッセなごやにて開催される「幻想郷フォーラム(正式には『Re:幻想郷フォーラム2023』)」だ。
【Re:幻想郷フォーラム開催まであと7日!】
いよいよ来週末にRe:幻想郷フォーラムが開催されます。参加サークルはこちらになります。
気になる発表がありますでしょうか?ぜひお時間ありましたらお越しください!#幻想郷フォーラム pic.twitter.com/OhFuAPnkI9
— 幻想郷フォーラム (@gensou_forum) June 18, 2023
ポスターセッション・オーラルセッションという、他の同人イベントにはない独自の形態での参加が可能な『東方Project情報・評論系オンリー同人イベント』だ。こんなイベントが実現できるほどに、東方の情報・評論――あえてここでは考察と言い換えたい。東方の考察は拡大を続けている。
なぜ、東方では考察が流行るのだろうか。
ZUN氏が私たちに垣間見せてくれる不思議な世界――幻想郷と、そこに或る幻想少女たちについて、多くの人がもっと「知りたい」あるいは「考えたい」と思っているのは間違いない。でも本当にそれだけで、オンリーイベントが開けるまでに、発展するものなのだろうか。
この座談会では、4年ぶりの開催となる「幻想郷フォーラム」の関係者たち5名にお集まりいただき、「幻想郷フォーラム」が生まれるまでの流れについて、そこから派生して生まれた「川崎読書会のプレゼンタイム」「東方発表会」「東方カンファレンス」、そして東方考察が歩んできた道筋について、主にイベント開催の観点から話を伺った。
そしてたどり着く「なぜ東方では考察が流行ったのか」について。そして「東方を考察する」とは一体なんなのか、それぞれに仮説を出すことにした。
前後編合わせて3万字を超える長編インタビューとなっているが、ぜひお付き合いいただきたい。
文・聞き手/西河紅葉
東方を考える、東方で考える――「幻想郷フォーラム」とは
――本日はよろしくお願いいたします。みなさま自己紹介からよろしいでしょうか。
久樹:
久樹輝幸と申します。幻想郷フォーラムを最初に立ち上げた、元代表です。幻想郷フォーラムと一緒に開催している「東方名華祭」の共同代表もやらせていただいております。
個人では「久幸繙文」というサークルをやっておりまして、阿求SS執筆のほかに、『東方コミュニティ白書』といった評論本も出しています。最近出せてないんですけども……。あと、好きなキャラは稗田阿求です。よろしくお願いします。
Die:
Dieと申します。昔に『東方考察合同誌(Journal of Touhou Discussion)』というものの企画主催をやっておりました。今はちょっと別ジャンルに移っているんですが、東方の考察ジャンルで長いこと活動していました。今日はそういう立場から、何かしら思い出話なり歴史なりをお話できればと思います。
辻堂:
辻堂と申します。「神奈川東方読書会(通称:川崎読書会)」という東方同人誌の読書会を主催しておりました。よろしくお願いいたします。
あおこめ:
あおこめと申します。「東方発表会」というプレゼン発表企画を運営しております。6月開催となります「Re:幻想郷フォーラム」の新代表を、朱澄はや天さんと共同でやることとなりました。
東方の活動自体はその前から、ほぼ裏方なんですけど、同人誌の校正などの形で諸々動いていました。そうしたら、何故かいつの間にかいろいろな主催をやっているという立場の人間です。よろしくお願いいたします。
はや天:
「Re:幻想郷フォーラム」の共同代表、朱澄はや天と申します。「東方カンファレンス」というオンラインのプレゼンテーション発表会を主催しています。「東方Project人気投票」実行委員会のひとりでもあります。
ほかに、読書会を開いていたり、個人では同人サークル「熊猫苺」を主催していたり、色んな事をしています。イベント運営しつつ、本も出しつつと、といった人間です。好きなキャラは岡崎夢美です。よろしくお願いします。
――ありがとうございます。いきなりで恐縮ですが「幻想郷フォーラム」がどんなイベントなのか、知らない人向けに説明をお願いしてもいいでしょうか。
久樹:
幻想郷フォーラムは、東方ジャンルに絞った情報・評論オンリーイベントです。そもそも「情報・評論」という同人の分野がありまして。このジャンルは、旅行記とか、元ネタ考察とか、料理のレシピといった広い分野を内包しています。
その中で「東方ジャンルだけでの情報・評論オンリーイベントをやろう」ということをテーマにしたのが、幻想郷フォーラムです。キャッチフレーズは「東方を考える、東方で考える」です。
東方という作品・キャラ、あるいはそこに広がる二次創作としての世界を考えていく方向と、逆に、外にあるさまざまなものや事象を、東方の文脈や世界において考える方向という、ふたつのベクトルを持っています。幻想郷フォーラムでは、そのどちらも巻き込んでいくスタイルです。
サークルスペースで本を出す「デスク参加」という基本スタイルもありますが、すこし特殊な参加方法として、自分の研究内容をポスターとして掲示しながら、学会のような形式で発表する「ポスターセッション」と、PowerPointなどを用いてプレゼンテーション形式で口頭発表する「オーラルセッション」があります。ほかの同人誌即売会ではあまりない、学会発表のようなものをコンセプトにしているイベントです。
――ありがとうございます。本日は幻想郷フォーラムについて語りつつ、そもそもなぜ「情報・評論」が東方で流行ったのか、その理由についてもこのメンバーで論じられればと思います。よろしくお願いいたします。
全員:
よろしくお願いいたします。
考察勢は語りたい――幻想郷フォーラムが開催に至るまで
――最初に、久樹さんはなぜ幻想郷フォーラムを開催しようと思ったのでしょうか?
あおこめ:
伝聞の伝聞で伺ったんですけども、このイベントは久樹さんとDieさんとの野望だったという話は本当なんですか?
久樹:
そうですね。はい。
Die:
それは正しいです。
久樹:
最初のきっかけまでさかのぼると、2012年3月17日に開催された「第0回東方考察に関する合宿研究会」に辿りつきます。東方に関して考察をやっている人たち、9人くらいが集まって一晩中語り明かすという合宿があったんです。なんだかすごいですよね。残念ながら、私は参加できなかったんですけれども。
あおこめ:
実は私も参加しています。大層なモノに見えるんですけど、ぶっちゃけた話、普通のオフ会でした。このころの東方考察勢は、なんか寂しい思いをすることが多かったんです。何やってるのか分からないって思われていることがすごく多かったんですよ。
――2012年ごろの話ですね。
あおこめ:
2012年は東方界隈の分母がすごく大きい時で(同年のオンリーイベント「博麗神社例大祭」のサークル数が4940スペース)、その中でも情報・評論サークルの数は二桁前後ぐらい。かなり多いはずなんですけども、ほかのイラストや小説ジャンルなどの方々と比べて肩身の狭さを感じていました。
そんな時に、それぞれが持っているネタを深く語りたいから「集まって思いっきり話そうぜ」という会を、Die先生が企画なさいまして。
Die:
この合宿の次の日は確か、東京で天狗オンリーイベントの開催がありまして。東京に行くついでに何かしたいと、だいたい一年くらい前から考えていました。せっかくだから、東方評論の人たちで集まって、研究合宿っていうものをお試しでやってみようかと。だから第0回ってついてるんですね。結局そのあとは続かなかったんですが。
「なんか話したい、一日中話したい人は来てね」って声をかけて、和室を2部屋、寝る用と話す用の部屋で取って。そんな企画でした。本当にきっかけ自体は「なんか集まって話したい」ですね。
――突発的な集まりだったんですね。
Die:
その当時は横のつながりもそんなになくて、「なんか一晩中話したら楽しいよね」という単純な理由で開きました。実際、そこそこ人も集まったし、一日話せて楽しかったんです。
……なんですが、その合宿の時には、あんまり踏み込んだ内容までは話せなかったんですよね。みんなでわいわい騒いで楽しめたんですけど、もともと考えていた「研究内容を話す」って所までは、深くいけなかったんですよ。
せっかくだからちゃんとした研究合宿のような――たとえば最終日にセッション発表をやるような、そういうものをやりたいなと思いました。そんな時に確か、久樹さんが声をかけてきたんでしたっけ。
久樹:
そうですね。私はその合宿にすごく行きたかったんですけど、参加することができなくて。参加した人が「こんな、こういう語りをしたかったんだ」って、満足そうにしていたんです。それを見て、みんな語りに飢えている印象を感じました。「もしかしたら、情報・評論でイベントっていけるかもしれないな」って、そのとき最初に思ったんですよね。
その後、合宿で語った内容などを含めて『Journal of Touhou Discussion』という考察合同誌が第九回博麗神社例大祭(2012年5月27日)で発行されました。第2回も翌年の夏コミ(2013年)で発表されています。
だから、情報・評論イベント、いける! と。まあただ「単独イベントとしてやるのはしんどいな……」とも思ってまして。
――手応えは感じたものの、本当に人が集まるかは未知数だったわけですね。
久樹:
一方、2012年ごろの東方名華祭は、まだ90スペースくらいのイベントで、当時私はスタッフとして一部署の責任者をしていました。そんな名華祭に大きな転機があり、「サンライフ名古屋」という当時使っていた小規模の会場が閉館してしまいます。そこで、より大きな「ポートメッセなごや」で開催する話になって、2013年4月7日の第7回から会場を移動することになりました。
久樹:
面積が何倍になったんだ、ってくらい広くなったんで大変でしたが、2013年の開催を乗り切りました。どうにかこの会場でも回せることがわかったタイミングで……ふと「広い場所があるんだったら、その一角に評論オンリーを混ぜてもいいんじゃないか?」って、思いつきまして。
そこで、Dieさんに声掛けしました。「評論オンリーをやりたいんですけど、ちょっと悪巧みに乗りませんか?」と。2013年の夏ぐらいだったかな、確か。
Die:
私も学会形式のイベントをやってみたかったので「やりましょうやりましょう」と全力で乗っかりました。
久樹:
あれよあれよと話が進んで、2014年の3月30日に「第1回幻想郷フォーラム」が開催されました。発表当時、周りからは「情報・評論オンリーって、それほんとにイベントになるの?」っていう懸念の声が上がっていましたね。
「まぁなんとかなるでしょ~」と初回を開いてみたら、思っていた以上に盛り上がりまして。当時まだオーラルセッションはなく、ポスターセッションとサークル参加だけだったんですが、ポスターの人たちがもう一日中喋りまくっていましたね。
Die:
あの時はみんな、喉が死んでましたね。
久樹:
基本的にはみなさんおひとりで参加していたので、交代要員も何もいません。そこに人はどんどん来るわけですから。学会のポスターセッションって、3~4時間なんて長時間、普通はやることないと思うんですけど。
Die:
ないですね。
久樹:
あの時は確か、11時に開場して15時に閉会するまで、ひたすらもう喋り倒すっていう感じでしたね。ただ、喋ってる人たちはみんな、楽しそうでした。
あおこめ:
私も、幻想郷フォーラムは2014年と2017年にポスターセッションで参加しているんですが、本当に喋りっぱになるイベントなんですよね。
久樹:
過酷なイベントだって言われてましたね(笑)
あおこめ:
みんな言ってました(笑)
――ポスターに人が集まってきたら、もうその度に説明するわけですもんね。それは喉が死ぬ。
あおこめ:
でも、猛烈に楽しいですよ。一日中東方について熱く語れるわけですからね。ものすごい楽しいですけども、終わったあとの疲れはすごい。なのにテンションが上に振り切ってるから、自分から人を呼び込んじゃったりして。
久樹:
思っていた通り、考察や評論をやってる人たちは語りに飢えていた。そのタイミングでちょうど、名華祭が大きくなるタイミングがあった。そこに上手く乗っかったことで「幻想郷フォーラム」が誕生した感じですね。
――当時の東方評論・情報界隈に起きていた状況が幾重にも重なって「幻想郷フォーラム」を産んだわけですね。
「東方評論・情報サークル」の萌芽――名前がつくことの意義
――すこし巻き戻りますが、当時の評論・情報ジャンルにいた人の中で「みんな何かしら語りたいんだろうな」という願望はやはり高かったのでしょうか。
あおこめ:
そうですね。場の需要はあっただろうな、と。当時はジャンル的に頭でっかちな事をしているって思われていて、なかなか前に行けなかったので。合宿研究会の時も結局、踏み込んだ話がそれぞれできずに「あれ話したかったんだよ~」とだけ伝えて、がっつり握手! で終わっちゃったんですよ。
Die:
話題を披露するまではした記憶があります。でも、本題まで話して一日で話しきれる量ではなかったっていうのと、みんなある程度酒も入っていたし、突っ込んだ話ってできなかったんですよね。
あおこめ:
会って話せて本当に良かった……っていう所で満足しちゃった感じですね。その時にDieさんが「こういう形でもっと話してぇ」「オンリーやりてぇ」ってぽろっとこぼしてたのは、すごく記憶に残ってるんです。
――そんな盛り上がった会で「寝る部屋」使った人っていたんですか?
あおこめ:
いなかったどころか、私は翌日にTOEICを受ける予定だったので途中で帰るつもりだったんですけども、楽しいから帰るのをやめて泊ってしまいました。もちろん結果は玉砕で(笑)。でも、その時はもうこれ以上のチャンスはない、と思っちゃって。
――そのくらい、当時の東方情報・評論ジャンルの方々が語れる場の少なさは切実だったということですよね。
久樹:
ある意味、この合宿がちょうど「評論・情報サークル」というラベルが発生した、最初のタイミングとも言えるのかもしれないですね。
Die:
あの時、そもそもサークルの島――情報・評論系が集まっているブロック自体は例大祭にあったとはいえ、いわゆる「情報・評論島」の形で明確に意識するまでではなかった感じだったかも……。
久樹:
私は、イベントやオフ会が立ち上がることで最も影響のあることは「名前がつくこと」だと思っています。「こういうテーマでオフ会をやります」「こういうテーマでイベントをやります」「こういうテーマで合同誌をやります」ってテーマとして名前がつくことで、周りにそういうジャンルがあることが知られて、発見されると思うんですよね。
まさに「情報・評論オンリーイベント」もそうです。情報・評論自体、コミケではずいぶん古いジャンルですけども、イベントが立ったことで「東方の中にも情報・評論があるんだ!」っていう発見がおきたわけですね。その前から存在していたけども、周囲に見えていなかった「東方情報・評論」が可視化されていったのが、このぐらいのタイミングだったのかなと思います。
――私も、幻想郷フォーラム開催告知が出た当時のことを思い出すと「評論オンリーって本当にできるの?」と思った記憶がありますし、実際にそういう話題がTwitter上であがっていた記憶もあります。
それが「めちゃくちゃ面白かったよ」という口コミで、一気に払拭されて。そこから脈々と続く東方考察の中心地になったイベントだ、という印象を持っています。新しいイベントを立ち上げて開催することは、東方においてかなり重要なことがわかりますね。
久樹:
東方同人における最大の特徴は、ジャンル内ジャンルが非常に細かく成立することじゃないですか。
――サブジャンルが多い東方というIPだからこそ、イベントという旗を立てることの意味性がとても強くなるわけですね。同好の士、同人を広く集めるなら、やはり同人イベントであると。
みんな、スーツ着てる――幻想郷フォーラムの思い出
――初回の幻想郷フォーラムには、どのくらいの人が集まったんでしょうか。
久樹:
出展のデスク参加は12ですね。
Die:
ポスター参加が10、スペースが9ですね。
辻堂:
当時から多い……。
あおこめ:
すごく集まっててうらやましいな、と思いながら見てました。
Die:
そういえば初回では、デスク参加してた人が「楽しそう、いいな」っていって、ポスター参加に移っていったんですよね。
――そんなふらっと行って大丈夫だったんですね(笑)
Die:
ほんとに学会発表的だったんです。みんなスーツ着てましたから。
あおこめ:
スーツ勢、多かったですね。
久樹:
サークル参加のスーツ率高かったです!
――別に、「参加者はみんなスーツで来てください」と伝えていたわけではないんですよね?
Die:
まったくそんなことはなかったです。単純に私とか、あとは学会経験者が「これはスーツで行くしかないやろ」ってキメてっただけですね。それぞれがそう思った結果、スーツばっかりになったっていう。
――もともと学会みたいなお祭りがやりたいって話なら、スーツ着たいですよね、せっかくなら。
久樹:
さし棒を持ってきた人たちもいましたしね。
あおこめ:
「マイ指示棒が集まる」は有名すぎる話ですね。同人誌でも、商業本を忠実にパロディするものがいっぱいあるじゃないですか。あれと同じで、みんな学会のパロディをしたいイベントでしたから。
――大人になってからやる本気のパロディ、楽しいんですよね。
プレゼンタイムがある謎の読書会、川崎読書会
――辻堂さんが、この流れの中でどの辺りから絡んでいるのかをちょっとお聞きしたいんですが、いかがですか。
辻堂:
私の「川崎読書会」でプレゼンタイムを初めて設けたのが第3回。第3回が2015年の5月ですね。
――幻想郷フォーラムでいうと、2回目の年ですね。
辻堂:
幻想郷フォーラムって、そんな早かったんだ。
あおこめ:
2回目の幻想郷フォーラムで自分が初めてポスターセッションで参加して、そこで出した共通テストの東方版を第二回川崎読書会の余興で出しました。その次の回からプレゼンタイムができたという時系列になるかと。
――川崎読書会でプレゼンタイムができた流れと、幻想郷フォーラムの開催とは関わりがあるんですか?
辻堂:
わずかにございます。一番最初のきっかけは、秋葉原にあった今は無き「村役場」という居酒屋ですね。ここの座敷席に、スクリーンを掛けるところがありまして。そこでお隣の席が、突然プロジェクターとパソコン持ちだしてプレゼン発表し始めたんですよ。
――え?
あおこめ:
なんだか定期的にやっていたみたいです。自分も一回遭遇したことがありますよ。
辻堂:
雑多なテーマを作って発表会みたいなことをやっていて。(ネタ的には)デイリーポータルZみたいなかんじですかね。それを隣で聞いていて、これは面白そうだと、そのままそれを移植したような感じです。この感じで、仲間内でもやってみたんですね。それが私のはじめてのプレゼンだと思います。
ひとんちのPCにあきたらず、全然知らない人のプロジェクターをのっとって村役場でダイレクトマーケティングを始めるひよこ。 pic.twitter.com/xVFI3uVKn1
— 辻堂基信⚓ (@m_tsujidou) December 27, 2014
辻堂:
これが一応下敷きとしてあって、その後の幻想郷フォーラムで銅折葉さんという方のポスターセッションを見たんですね。この方のポスター発表の形式が、まんまプレゼンのスライドを1枚ずつ紙にプリントして貼っていて、それを1枚ずつ解説していくというパターンだったんです。「これはプレゼンだなー」というのが、さらに頭にインプットされまして。
そこから、第3回の川崎読書会で、午後に入ってだらけてしまう時間帯を解消するために、なんか一発イベント入れようかということで始まりました。
東方読書会、企画がはじまりました!東風谷早苗さん何歳??!? pic.twitter.com/Weur5wWEyY
— でね🐥6/25幻想郷フォーラムポスター1・2 (@denebo1a1eonis) May 30, 2015
第三回川崎読書会まとめ ― Toggater
開催当時の様子をまとめているToggater。発表が始まるのは2ページ目から。
あおこめ:
第2回川崎読書会の時、私が考察と一緒にセンター試験のパロディを作ったので、その場で抜き打ちテストをやったんですね。そのあと、第3回から今のプレゼンの形になってます。
――なるほど、やっぱりフォーラムが周りの直近のイベントにも影響を与えているわけですね。
久樹:
私は逆に、幻想郷フォーラムでオーラルセッションできると思ったのは「川崎読書会のプレゼン大会がすごい盛り上がった」っていうのを聞いたからなんですよ。
第2回の開催のあと、Die先生から「オーラルセッションもやりたいですね」って話はしていたんです。ただ、どんな感じになるか、私があまり上手くイメージできてなかったんです。
その時に川崎読書会が大盛り上がりしてて「あ、これならできるじゃん!」って。そこからオーラルセッションの開催が決まったんで、ちょうど上手く影響しあったって感じですね。
辻堂:
あとからその話を聞いて、逆輸入されていたことにちょっとびっくりしました。私はもともと小説を読む専門だったので、情報考察ってあんまり詳しくなかったんです。今日お話を聞いて、そういう盛り上がりの下地があったのを初めて知ったので、当時はすごいタイミングで突っ込んでしまったんだな、というのを改めて感じました。
――幻想郷フォーラムが生んだものもあるし、生まれたものが幻想郷フォーラムに作用することもあって……コミュニティの活性化を促す、ポータルとしてとても美しい形をしていたんですね。
コラム:矢を配る
これ、発表だけでイベントになるぞ?――東方発表会の成り立ち
――あおこめさんの「東方発表会」は、どのような経緯で立ち上がったんでしょうか。
あおこめ:
みなさんがフォーラムの立ち上げで走り回っていた時、私は新卒で働き始めたばかりでその手のイベントにほとんど参加できなかったんです。しかも残念ながら、土日に休みがなかなか取れないようなお仕事に就いてしまって。
だから初回の幻想郷フォーラムには参加できなかったんです。その発端になった合宿研究会にはいたのに。そういうフラストレーションが数年間溜まっていたところで、辻堂さんが2015年に川崎読書会を立ち上げられた。そのころには私も転職していて、そういう環境からもわりと開放されていました。なのでその年以降はフォーラムにも出ていたし、読書会にもよく参加していたんです。
そんな時にあったのが、川崎読書会のプレゼン発表なんですよ。本来休憩時間の余興だったものが、本当にものすごい盛り上がりになっていて。発表枠が一瞬、なんなら5分で枠が全部埋まる瞬間を私はこの目で見ていました。「うそでしょ?」って。
辻堂:
あ~、あったなあ。
あおこめ:
それに加えて、久樹さんから、川崎読書会の盛り上がりを見習って、幻想郷フォーラムでもオーラルセッションが始めたという話も聞いてたので、そういういろいろな流れを見て「これって(プレゼン発表だけの)単独のイベントもできるんじゃね?」って、思っちゃったんですよ。
――大きな需要を感じたわけですね。
あおこめ:
そうですね。それに、川崎読書会では盛り上がりすぎちゃって、純粋に読書会として本を読みに来てる人から「ちょっとうるさいな……」っていう反応が出ているのも見てたので。
久樹:
マジですか?
辻堂:
ありました、ありました。
あおこめ:
それなら、プレゼン発表だけで一日中やればいいじゃん、私やるよ、っていう感じで。
――そういう経緯で「東方発表会」は立ち上がったんですね。それが続きに続いて、今年で第12回と。
あおこめ:
おかげさまで。もう第12回になりました。
――我楽多叢誌でも定期的に東方発表会のスライドを掲載させていただいております、ありがとうございます。近年はコロナ禍で開催も大変そうでしたが、とはいえ当初から一日7~10ある発表枠が毎回埋まるイベントでしたもんね。
何故、あの館は爆破され、爆発し続ける事になったのか? 「紅魔館爆発の元凶を探る」
東方発表会より、発表で使用されたスライドを掲載
東方にまつわる様々な観点の発表をしたい / 見たい / 聴いてみたい! 7月23・24日開催「第1回東方発表会オンライン」・スライド発表「東方発表会について」
7月23・24日開催、第1回東方発表会オンライン & スライド発表「東方発表会について」
あおこめ:
たまに発表参加者が少なくて、主催がその穴を埋めて大変になる回もありますが……。幸いなことに、一時期は落選も発生するぐらい、これまで多くの方に参加申し込みをいただいています。あと、初めて参加するという方が第1回の開催からずっと途切れていないというのが、本当にありがたいなと思っております。
東方カンファレンスができるまで。そしてみんな神輿を担ぎたい
――はや天さんの「東方カンファレンス」の成り立ちについても聞かせていただいてもいいでしょうか。時代が少し飛んで若くなることもあり、今までの流れとは少し異なるところがあるかもしれないと思っています。
はや天:
流れとしてはつながってはいます。東方カンファレンスをやろうとしたきっかけは、あおこめさんの東方発表会であったりとか、辻堂さんの川崎読書会のプレゼンであったりとか、幻想郷フォーラムであったりとか――そういった発表イベント、全部ひっくるめて「なんで関西でやんねぇんだ」と一番に思ってたことですね。自分は関西に住んでるので。
川崎読書会の方には1回だけ参加して、発表もさせていただき、発表はすごく楽しいなって思いました。イベントがある度にTwitterのタイムラインが盛りあがったりしていて、面白いなと。じゃあ僕もやりたいなと思って、ここにおられる方々とは当時に何も面識もなく、つながりもない状態の中から始めたのが、東方カンファレンスですね。
――「なんで関西でやってくれないんだ!」という衝動から生まれているんですね。……今日伺ったイベントが立ち上がるきっかけの話、ほとんどが勢いから始まってます。
久樹:
今までの話全部、「やりてぇー、なんでねぇんだ、よっしゃーやるか、できた!」みたいな感じですもんね。
一同:
(笑)
Die:
同人の基本ではありますよね。
久樹:
同人3コマ漫画って感じですよね。
――「なんでないんだ・やるぞ・できた!」で完成という。
はや天:
もちろん当時、立ち上げる前に「こういう企画やろうと思ってるんだけどどう?」ってツイッター上で問いかけたりもしてて。実際の反応を見て、反響もあったんでやったというかんじでした。ただ、その時も考えていたのは、最初に上がった合宿の話とほんとに似たような形式で……。
――確か、大学東方サークルの合同合宿の計画というものがあったんですよね。
はや天:
昼に発表会をやって、夜にみんなでわいわい話して、そして次の日にまた発表会――みたいな感じの宿泊発表会をやりたいと思って、計画をしていたんですよ。それが今の流行病でいろいろ変わってしまったんですが。最初の発端は合宿をしようと思っていました。
以前に話した京都での東方発表会(1泊2日)について簡単にまとめてみた
お手伝いほしい… pic.twitter.com/gKe6QruNsD
— 朱澄はや天🍓6/25幻想郷フォーラム (@Prof_Hayaten) September 9, 2019
――合宿まで行かなくとも、クローズドな場でみんなでとにかく喋るっていうのをやってみた上で、やっぱり物足りないって感じる流れがあるわけですよね。冷静に考えると、即売会の立ち上がりだってこんな感じです。オフ会で機運が高まって……みたいな話がほとんどじゃないですか。
久樹:
同人誌即売会が生まれる瞬間って、大体イベント後の打ち上げですからね。
――そうです!(笑)
久樹:
イベント後の打ち上げで「よっしゃ、こんなのやるぞー!」って酒の勢いで言いだしたやつがいたら、そいつをみんなで全力で担いで、こう……。
あおこめ:
自分の主催の始まりもそれでしたからね。完全に川崎読書会のアフターの時の勢いでした。
久樹:
だって、イベント直後が一番熱がありますからね。
一同:
(口々に)そうそうそう。
久樹:
熱があるし、しかもその場にはイベント関係者が集まってるし、そこで「やるぞ」っていったら、そのまま流れが決まっちゃいますからね。「次の神輿はこいつだ! わっしょいわっしょい」って。
――みんな、神輿担ぎたいですからね。
久樹:
イベントは、担ぎたくなる神輿が次々に出てくることが大事ですね。神輿がいないと永久にイベントはできませんから。
あおこめ:
「どんないいイベントだろうが神輿がないとできない」ってのは、確か2019年に久樹さんがフォーラムをいったん閉めるときに仰ってましたよね。実際そうなんですよ。誰かが旗を振って、会場を押さえないとイベントはできない。
――同人は、作品もさることながら、その作品を出すイベントもまた人とのつながりで生まれるわけですよね。それが脈々とつながっていくので。
幻想郷フォーラムが与えていた影響が思っていたよりも遥かに大きく、ほとんどすべてつながっていたことに驚きを感じています。
ポスターセッションは、自分の思考をまとめるのに適していた
――過去の開催で、記憶に残っているエピソードがあればぜひ教えてほしいです。
久樹:
そもそも幻想郷フォーラムって、準備がめちゃくちゃ大変なイベントなんです。初めてのオーラルセッションの時に、持ってきたプロジェクターのレンズが壊れていて映らないという事態が起きまして。一番ヤバかったですね。
どうしよう! これはヨドバシまで買いに行くか……なんて焦っていたら、何故かスタッフが予備のプロジェクターを持ってきていて……。「なんであるのかよう分からへんけど、ありがとう!」ってありがたく借りました。
辻堂:
そんなことが……(笑)
あおこめ:
主催がそんな感じでてんやわんやしていましたし、私は私で何故か、Die先生のお手伝いで入ったはずがいつの間にか主催のお手伝いまでしていたことがありました。
Die:
私は、過去に開催された幻想郷フォーラムすべてに、ポスターセッションと参加可能なセッションには全部参加したのかな……。それ故に、誰の発表もほとんど聞けなかったんですよ。ずーっと出ずっぱりになるので。印象に残るうんぬん以前に、誰のも聞けなくて悔しい! っていう気持ちは強かったですね。
あおこめ:
Dieさんには「たまには一般参加でもいいんじゃないですか」っていつも言ってたんですけれど、結局そうなってしまうのをよく見てました。
Die:
本当の学会に参加したことがある人ならわかると思うんですが、発表用のポスターを作るのって、思考をまとめるのにとても便利なんですよ。本にする、文章にする前の段階の思考を整理するのに、大変有効で。だから私は基本的に、幻想郷フォーラムで発表することで思考をまとめて、その内容を自分の個人誌に追加していく、という創作の形態を取っていました。なので発表参加をやめられなかったんですよね。思考をまとめて、自分では足りない視点を振り返る時に力を発揮するのがポスター発表だったので。
――自分の思考していることを、一枚の表にまとめてわかりやすく伝えるのは、脳みその整理に非常に良さそうですね。
Die:
今は別ジャンルに移っていますが、考察自体はずっと続けていますからね。
――ここにおられる方はわりと発表側、運営側が多いのでなかなか発表をゆっくり聞いていた時間がなかったのかもしれないですね。
あおこめ:
そうですね。私はポスターセッションで2回参加していて、そのうち初回は東方創想話についてまとめたんですよ。その脇で、さらに自作の東方センター試験問題を配るという……。
私は東方創想話の作品に名無しの感想書きをしていた時代がそれなりにあったんですが、東方創想話に関してまとめたデータや書いていた感想だったりを、本の形で作品にするレベルまでにずっと至っていなかったんです。なのでサークル参加はずっと経験がなかったんですが、「ポスター発表ならできるぞ」と思って、参加したんですね。自分の集大成、パネル1枚だったらまとめられるぞと。
それをやりきれたっていうのが、自分のなかでは思い出に残っていますね。とはいえ(ポスター発表と試験問題配布の)同時頒布はものすごく忙しかったので、あれはやめようと思いました。
――あおこめさんのように、サークルとして一冊の本を仕上げるのは難しいが、東方について考察している内容はあるし、どこかに届けたいと考えている人は一定以上います。幻想郷フォーラムは形の違う創作の形態を提供することで、情報・評論ジャンルにいる人たちに新しい場を与えたわけですね。評論をするなら、いつか学会のような場所で発表してみたい、という「晴れの舞台」の概念もあるのかなと。
Die:
今ので思い出したんですけど、幻想郷フォーラムではずっと考察合同の特別版を発行していたんですよ。本を作るまで至らない人にはポスター発表を、ポスターでまとめるのが苦手な人にはプレゼンを、そもそも現地に行くことはできないけどなにか発表したい……そういう人に向けて、考察合同誌への参加も呼びかけていました。
【Re:幻想郷フォーラム開催まであと4日!】
東方名華祭内にある「Re:幻想郷フォーラム開催委員会本部」にて以前に出しました「東方考察合同」を再販いたします!
ぜひ本部にお立ち寄りください!#幻想郷フォーラム#東方名華祭 pic.twitter.com/xkQnXe1XPu— 幻想郷フォーラム (@gensou_forum) June 21, 2023
▲Re:幻想郷フォーラムでは、過去の「東方考察合同 幻想郷フォーラム特別版」が再販される。
Die:
いろんな発表ニーズを満たせるようなイベントとして機能していたんだ、ということを見ていて思っていましたね。しばらく幻想郷フォーラムをお休みしていた時期には、私のもとに「考察合同は出さないんですか?」ときかれることも多かったので。
文章、ポスター、オーラル、合同誌。これらの多様な発表形態があったことは、幻想郷フォーラムにおいてとても大きいことだったと思います。
あおこめ:
考察合同の幻想郷フォーラム特別版で印象に残っている記事がひとつあって。しゃかもとさんという方が出していた「おたくがおたくを研究すること」というテーマの寄稿で、文系のおたくと研究者について語っている内容なんです。
学問として二次元ジャンル、サブカルについて学科を立てて研究している人と、コミケの情報・評論ジャンルとして本を出している人ってどこがどう違うの? というようなことがまとまっている文章でした。
私はドがつく理系だったので、文系の研究者による本気の文章をそれまで読んだ機会があまりなかったんです。切り口からして「おー、すげー!」みたいな。しかもそれが自分の趣味の内容に関することだったので、ものすごく印象に残っています。
――興味深い内容です。こういった文章も合同誌がなければ、ひいては幻想郷フォーラムの立ち上げがなければ、世に出てくることはなかったかもしれないわけですね。
コラム:中国でも東方情報評論は活発
前編では、幻想郷フォーラムのはじまりから多様な「東方の発表会系イベント」が立ち上がっていくまで。そんな、イベントの開催が同人ジャンルに影響を与えていく過程について知ることができた。
後編では「なぜ東方では考察が流行るのか」という疑問について、一時的に起きた東方考察の「リセット」と、そこから東方評論・情報ジャンルが再興するまで、そして「東方最初の考察本は何なのか」――東方について「考えること自体を楽しむ」という概念について、迫っていく。
「幻想郷フォーラム」の発足が及ぼした影響と、東方評論・情報サークルの萌芽――「幻想郷フォーラム」関係者座談会(前編) おわり