東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

詳しく読む

「ヘカーティア様に『どこにもこんな面白い女いなかった』って思われたい」もし私が東方キャラに認識してもらえるなら――という、“夢”のはなし

【中編】ファイルーズあい「東方Project」一万字超えインタビュー

 インタビュー前編で、東方Projectへのあふれる愛を語ったファイルーズあいさん。自分たちと“同じ”であることを、東方ファンのみなさまなら分かっていただけたのではないでしょうか。ここまで喋れるなんて“ガチ“も“ガチ“……? いえいえ、ファイルーズさんの“ガチ”っぷりはこんなものでは収まりません。

 中編となる今回こそが本番です。「コスプレ」とは違う「東方キャラの“概念コーデ”」の話から始まり、「ひとりだけ外の世界に連れて行ってルームシェアしたいキャラ」の話、そして……東方ファンが沸いた“あの”ツイートの真意まで、深く、深く、深く、掘り下げます。

聞き手・文:西河紅葉
聞き手:斉藤大地/紡
写真:えぬに

 

東方キャラの“概念コーデ”――幻想郷の女の子になれたら、楽しい

ファイルーズ:
 あの、東方の洋服の話をしていいですか?

 私、東方の女の子たちの服装が特に大好きなんです。東方の子たちって、スカート丈が独特じゃないですか? 膝が隠れるぐらいの丈だったり、膝よりちょっと上だったりして、ミニスカすぎないんです。それが逆に、キャラクターの“概念コーデ”として取り入れやすいと思っているんです。

――コスプレではなく、キャラクターの衣装っぽくみえる普通の服を集めて探してきて、日常コーディネートとして着る、という意味合いの“概念コーデ“ですね。そういう視点がなかったので、大変新鮮です。

ファイルーズ:
 脚を全部出すのに抵抗がある女の子は結構多いんですよ。でも、膝ぐらいの丈だったら真似してみたくなります。服の模様も個性的だから、似たようなものがないかなと、お店に行って探したりしますし。

 私がちょうど19歳ぐらいの時に、上白沢慧音がすごく好きな時期があって。慧音ぐらいの長さのワンピースを買って、ちょっとフリフリッとした靴下を履いて、自分も幻想郷の女の子になってるような気分で、学校に行ってました。それがすごくモチベーションに繋がったので、そういうところから愛を表現することができるのも東方の魅力です。

 今日の服も、ちょっと中華っぽいネオン看板で、どことなく地霊殿っぽいと言うか。この柄もちょっと火焔猫燐おりんりんっぽい気がして。ちなみに靴下はチルノの青にしました。

――とても素敵です。東方のコスプレは少し異色で、解釈がかなり自由なんですよね。他ジャンルですと元のデザインと忠実でない場合に反発があったりしますが、東方だとそれがなかったりして。大きくアレンジされたものでも、そのクリエイティビティの高さが逆に評価されます。
 日常のファッションを用いて東方キャラになるのも、同じようにクリエイティビティの高い行為、もはや二次創作の一つですよね。東方キャラの気分で日常を送れたらうれしいという視点は、たいへん興味深いです。

ファイルーズ:
 そういう、ファッションに概念を取り入れやすいのも、東方のキャラクター一人一人の個性が強いからできることです。だからこそ、東方が大好きだなって改めて思いました。

――服のデザイン、ファッションとして好きなキャラクターはいますか?

ファイルーズ:
 難しい! 好きなのが多すぎて……でもやっぱり、永夜抄のですね。

『東方永夜抄 ~ Imperishable Night.』の八雲紫 (上海アリス幻樂団公式サイトより引用)

【※】八雲紫は、初登場した「東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.」ではドレス姿で、次に登場した「東方永夜抄 ~ Imperishable Night.」では道士服で登場した。

――いわゆる道士服紫、ですね。たくさんのフリルがついた。

ファイルーズ:
 あれがやっぱり一番好きです。でも、鍵山雛も好きなんだよなぁ。襟が大きくて可愛い。鍵山雛のおかげでフリルが描けるようになりました。

 あと、ナイトキャップをかぶって寝てるんですけど、形がもうレミリアの帽子と同じなので、すごいテンション上がります。レミリアフランを描くときは、ナイトキャップをかぶって写真を撮って描けば、間違いないです。ライフハックです。

――先に「推し東方ファッション」を聞いてしまいましたが、ファイルーズさんの「推し東方キャラ」は誰なんでしょうか。

ファイルーズ:
 各作品ごとに好きなキャラはいるのですが、全てのキャラクターの中で一位を決めるというのは……本当に難しいです。全員可愛いし、それぞれ魅力があるし、おなじみの霊夢や魔理沙だって、出ている作品によってそれぞれ違う魅力を持っているし……本当に一位って決められない。

――その回答、その悩みこそが、まさに東方ファンそのものだなと感じています。

ファイルーズ:
 心を鬼にして……心を鬼にして、「一人だけ外の世界に連れて行ってルームシェアしても良いですよ」って言われたら…………クラウンピースを連れていきます。

――クラウンピース!

ファイルーズ:
 本当に心を鬼にしてですよ。本当は私が幻想郷入りしたいぐらいなんですけど。

――クラウンピースが好きになったのは、やはり暁Recordsさんの曲からですか?

ファイルーズ:
 そうです。『WARNING×WARNING×WARNING』のPVを見て、こんなに可愛い子がいるんだって思って。曲調もすごく不穏だし、どんどん好きになってしまって。これは個人的な意見ですけど、東方ってガッツリと横文字って出てこないイメージが合ったんです。その中に表れて「イッツ、ルナティックターイム!」って言っちゃう、東方のイメージすらも全部ぶっ壊して暴れまくる、フリーダムな地獄の妖精にとても心惹かれました。

 

「純狐は私が守護らねばならぬ」「ヘカ様に『どこにもこんな面白い女いなかった』って思われたい」

――クラウンピースの話で言うと、前にファイルーズさんがツイートされていたこの内容が気になっていて……。

ファイルーズ:
 恥ずかしい……。

――インターネットの話を現実に持ち込んでしまい、すみません。でも、このツイートを見た東方ファンはすごく気になっているので、どうしても伺いたくて。
「最推しがクラピちゃん」で、その次に「正妻は純狐」と続いていて。最推しが横にいる中での“正妻”というのは、どういうポジションを指していますか?

ファイルーズ:
 今、大変な責め苦を与えられている気持ちです……(笑)

――こんなひどいインタビューは他にないなと分かっているのですが、これを聞かずに今日は帰れないと思っています。さわりだけでも構わないので、ご教授いただけないでしょうか。

ファイルーズ:
 これは、純狐の生い立ちが悲しすぎるので、そんな男は捨てて私と結婚しなさい、私が妻にしますという、宣言です。

――私があなたを幸せにしますと。

ファイルーズ:
 クラウンピースを知って、登場する『紺珠伝』のキャラクターを一人づつ見ていったときに、純狐に出会って。いいなと。こんな人がいるんだと。守護まもらねばならぬと。だから私が妻にするんです。

――純狐に対しては、庇護欲に近い感情なんですね。

ファイルーズ:
 庇護欲なんですけど、それは純狐が――――これ、なんか夢語りになってしまいそうなんですが……。

――ぜひ。夢語り、ぜひとも伺いたいです。

ファイルーズ:
 ええとですね――――純狐は普段、ずっと私のことを守ってくれてるんですよ。そそっかしいな、みたいな感じで、とても甘やかしてくれるので、ママみたいな感じなんです。ですけど、深夜に私がふと目を覚ました時に、隣で寝ているはずの純狐がいないんです。「純狐、どこだろう?」って。そうしたら、窓から光があたる椅子に腰掛けて、悲しそうな目で月を見ている純狐がそこにいて。それを見て「俺が守護まもらなきゃ……」と。こんな顔、二度とさせないからな――――みたいな。すみません。恥ずかしい。

――素晴らしい。本当にありがとうございます。それしか言葉がありません。

ファイルーズ:
 普段強い人の見せる一瞬の隙と言うか、悲しそうな顔とかに弱いので。

――その立ち位置で言うと、ヘカーティア様とはどのような関係になるのでしょうか。巷ではクラウンピースも含めて「ヘカ純ピース」という関係性で語られることが多い三人ですが。

ファイルーズ:
 ヘカ純ピース。ヘカ純ピース、あるじゃないですか。
 でもヘカ様にはやっぱり私のことを「面白いおもしれー女」だと思って欲しい。ヘカ様は、色んな世界を見てきているわけですよね。そんな彼女に「どこにもこんな面白い女いなかった」って、思われたいじゃないですか。都合のいい妄想をしてます。

――ありがとうございます。ここまで語っていただけることは本当にないことですので、感謝の気持ちでいっぱいです。
 東方のカップリングは、仲良しや主従関係だけじゃなく、主に敵対関係だったり反目しあっているものも多いです。その中で、ヘカーティア・純狐・クラウンピースの三人は「シスターフッド」という関係性に近いものを観測できる、珍しいカップリングだと感じています。

ファイルーズ:
 関係性オタクなのかもしれないですね。ヘカーティア様も、実はめちゃくちゃ強いのに、それをひけらかすわけでもなく飄々としてる感じが、自分で自分の世界をきちんと持っていて、本当に好きです。純狐も純狐で自立しているじゃないですか。全員自立していて、お互い依存してないんですけれども、なぜか惹かれあって集まりあう三人、みたいな関係性が好きなのかもしれないです。家族のような。

――東方が好きと公言されている著名人の方は本当に増えたのですが、そういった方が『紺珠伝』キャラを好きだと仰っているのは珍しいことなので、深掘りさせていただきました。理由が聞けて大変うれしいです。

 

「逆に聞きますけど、紫をママだと思ったことない人います?」「青い空、白い雲、咲き誇る……ひまわり。そして、風見幽香。」

――先程のツイートで「紫はママ」とあるのですが、いつごろ本籍を八雲家に移されたのでしょうか?

ファイルーズ:
 逆に聞きますけど、をママだと思ったことない人います?

――はい。それを言われると苦しいです。それはその通りです。

ファイルーズ:
 いつも見守ってくれているんです、隙間から。幻想郷全体もだし、私のことも。私は「面白いおもしれー女」なので、幻想郷では。間違いなくそう思ってます。思い込んでますね。
 圧倒的なカリスマ性。それに平服したいという反面、甘えたいと思わせるような包容力と母性を感じるんですよ。どこから見ているのかわからないという不気味さも、逆に言えばいつも見てくれている安心感に変わるわけですね。それを統括して、“ママ”です。

――大変分かりやすい解説で助かります。最後は、幽香ですね。ゆうかりんランドの永住権をいつごろ取得されたのかについて、教えていただけますか。

ファイルーズ:
 永住権を取得した経緯ですね。幽香はめちゃめちゃ強いです。でも能力が「花を操る程度の能力」で、聞いた感じはそんなに強くなさそうなんですよね。でも、圧倒的な自信に満ちあふれていて、自分の世界をしっかり持っていて、花を傷つける者には容赦ない。そういう、自分が好きなものへの一途さ、一直線な感情を、あのクールな顔の下に隠してるんですよ。そこに惹かれないわけがない。――――私はある日、幽香のお花畑に迷い込むんです。彼女は基本的に、花を荒らすことを許さないですよね。私が一輪の花を見つけて「この花、綺麗」(みたいな感じのことを)つぶやいて、それを幽香が見ていて。「あなた、お花が好きなの? 悪い人じゃないのね」みたいな感じで「面白いおもしれー女」だと認めてくれるわけです。全部都合良く解釈してます。
 お花と幽香だけの空間に一緒にいたい。他には何もいらない。ただ、一緒にお花を愛でて、他愛もない話をして、その空気を楽しみたい。青い空、白い雲、咲き誇る……ひまわり。そして、風見幽香

――情景がありありと浮かびました。ゆうかりんランドとはなんなのか、分かったような気がします。

 

 「幻想郷での『面白い女』」になりたいファイルーズさんの気持ち、わかる方もいるのではないでしょうか。いわゆる“東方夢女子”の世界観を、ここまでディープに話していただいたのは本誌としても大変うれしい限りでした。

 膨大な熱量でお届けしたファイルーズあいさんインタビューも、次が最終回。後編では『東方ダンマクカグラ』で演じられている「チルノ」について、ずっと見てきた東方キャラクターを自分が演じるということの思いを語っていただいています。

「ヘカーティア様に『どこにもこんな面白い女いなかった』って思われたい」もし私が東方キャラに認識してもらえるなら――という、“夢”のはなし おわり