東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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【独占】「彼女たちは強い。そしてかわいい」――ファイルーズあいと東方Projectとの出会いと、語り足りないほどの「東方曲」への愛

【前編】ファイルーズあい「東方Project」一万字超えインタビュー

 2019年のデビュー以来、数多くのアニメ作品に出演され、目覚ましい活躍を遂げられている声優のファイルーズあいさん。実は、Twitterで東方について熱く語っている……と、いうのをみなさんご存知でしたか? 

 スマートフォン向けリズムゲーム『東方ダンマクカグラ』では、チルノのCVも担当されているファイルーズあいさん。これまで様々な「東方Project大好き」著名人の方々にお話を伺ってきた本誌、これは見逃すわけにはいきません!

 ……ということで東方我楽多叢誌編集部は、ファイルーズあいさんに独占取材。東方にいつごろ出会ったのか、東方キャラ“概念コーデ”のお話、『ダンカグ』のチルノを演じるに当たっての気持ち……などなど、東方への「好き」をとことんお伺いしました。そこから見えてきたのは、東方キャラクターたちの持つ「強さ」について総計一万文字をゆうに超えるほどの文量で、東方についてここまで深く語っていただいたのは、本誌が初です。

 前編となる今回は、東方との出会いについて、東方キャラクターを愛するその理由と、愛が止まらない「東方楽曲」について熱く語っていただきました。

聞き手・文:西河紅葉
聞き手:斉藤大地/紡
写真:えぬに

 

「彼女たちは強い。そしてかわいい」――東方Projectと出会った中学生時代

――ファイルーズさんが「東方Project」と出会ったのはいつの頃でしたか。

ファイルーズ:
 「東方」の存在を知ったのは、中学1年生の時です。エジプトから日本に帰ってきて、学校で「いま日本で流行っているモノはなに?」と尋ねたら、ニコニコ動画っていうのをみんな観ている、と教えてくれて。

 それで私もニコニコ動画を、まずはランキングページから観始めたんです。その中に「東方」の文字があったのは覚えているんですけど、最初はクリックしませんでした。でもたまたま開いた音MADで……あ、あの、音MADとかって、話しても大丈夫ですか……?

――うちは東方の二次創作メディアなので、大丈夫ですよ(笑)

ファイルーズ:
 とあるキャラクターの音MADを開いたら『U.N.オーエンは彼女なのか?が使われていたんです。あのメロディが耳から離れなくなって、「なんの曲なんだろう?」と調べたら、どうやら「東方Project」という作品で使われている曲であることが分かって。

 そこからすごく興味が湧いて、東方Projectのタグで検索してみて、最初に出てきた曲が……ちょっと待ってくださいね。その曲、今もずっとスマートフォンに入れてて……(スマホ内を探す)

 これです、SYNC.ART’Sさんの『Sweets Time』!!
 何年経ってもずっと好きで、ずっと聴いているんです。当時は「東方アレンジ」という文化も知らなかったから、これは「ゲーム中に流れるテーマソング」だと思っていました。東方って、イラストの絵柄もたくさんあるから、いったいどれが公式なのかわからなかったんです。

 調べるうちに、ZUNさんという方が、ゲームも、音楽も、キャラクターイラストも、ストーリーも、全部おひとりで担当されて作り出している作品ということを知りました。

「東方」を愛するファンたちが、それぞれのアレンジを加えながら作品を作っていること、その自由度が本当に高いこと、どこまでも想像の余地を残してくれている。そんな世界観に、ものすごく惹かれました。

――東方を好きになった当時のファイルーズさんが、他にニコニコ動画で観ていたものって覚えていますか?

ファイルーズ:
 「手書きMAD」が好きで、気に入った作品や作者さんをずっと巡回してました。あとはボカロですよね。「私はハチさんの動画、再生数が二桁のときからマイリス入れてたからね!」みたいな。今は米津玄師さんとして大ブレイクしていますけど、その前から私は「この人は絶対来るって思ってたから!」っていう。

――まさにその世代ですよね。学生当時、東方のグッズなどは買われていましたか?

ファイルーズ:
 東方のイベントにはあまり行ったことがなかったので、グッズは買っていなかったです。原作ゲームは中野ブロードウェイで買いました。『紅魔郷』と『妖々夢』と『非想天則』を買ったんですが、ゲームが下手すぎて全然クリアできなくって……。どうしてもうまくなりたくて、PlayStation2のコントローラーをパソコンに繋げられるコネクタも買ったりしたんですけど、やっぱり下手で。もう、観て楽しむ方にしようと決めました。

――東方の同人誌などはご覧になっていましたか?

ファイルーズ:
 中野にはあったと思うんですが、正直、東方キャラのエッチなのは、あんまり得意じゃなくって……。だって、彼女たちは強いじゃないですか。ほのぼのした感じの本だったら、読みたかったんですけど。

――彼女たちは強い、そのとおりですね。中野ブロードウェイにはよく足を運ばれていたんですか?

ファイルーズ:
 たまにですね。中高生でバイトもしていなかったから、お金もなかったので。東方の楽しみ方は、インターネットで色んな人のイラストを見たりとか、自分でもイラストを書いてみたりとか、でしたね。

――今まさに、多くの東方好きな中高生たちが、その言葉に共感していると思います。「お金ぜんぜんない」「私と同じことしてる」って。

ファイルーズ:
 東方は、自分で作品を投稿するのも簡単にできますし、作品投稿が東方そのものを盛り上げられることがいいですよね。そこから友達が増えたりしたら、すごく楽しいんじゃないかなと思います。

 本当は原作ゲームを遊べたほうがいいですけど、もし遊べなくても、同じ作品を愛する人同士が語り合ったりとか、音楽で一体化できたりするのも、東方の魅力ですよね。

――「東方」が、オタク文化に傾倒していったファイルーズさんの琴線に触れたんですね。中学生当時のマインドセットに合っていた。

ファイルーズ:
 そうですね。それこそ『Sweets Time』のような、ちょっとディストピアっぽい歌詞【※】に惹かれていて――当時の私は、そういう曲を聴きながら夜道を歩くのが好きでした。厨二ですね(笑) 台所で、咲夜みたいなナイフの持ち方をやってみたりとか……やりたくなりません?

林檎と蜂蜜
紅茶のジャムは アプリコット
銀色のティースプーン
壁に放り投げた

早く遊ぼうよ
人形は何にも喋らない
ひとつしか知らない
歌を唄ってみるの

――『Sweets Time』正式歌詞の一部

【※】『Sweets Time』の歌詞には暗喩表現が多く含まれている……と考えたファンたちの間で、上記の歌詞を本来意味する言葉に置き換えた「裏歌詞」というものが非公式に作り出されている。

――やりたくなります。カッコいいですから。

ファイルーズ:
 なりますよね! そういう、日常にあるちょっとした仕草に「東方」を感じたりして、幻想郷にいる彼女たちの真似をしていました。

 東方の女の子たちって、その辺の外界の人間なんかもう目じゃないくらいに、ひとりひとりが相当な強さじゃないですか。どんなに華奢で幼く見えていても、実は500年以上生きてたりとかして。女の子なのに、どの子も守られる側の存在としては描かれていないし、想像できないくらいの強さを持っていることに、すごく惹かれました。それを見て、私も「強くなりたいな」って。

 あと、服装がとにかく個性的で。いわゆる「ZUN帽」って呼ばれている、ナイトキャップみたいな形の帽子とかも、ZUNさんにしか描けないものだよねって思っていました。ZUN帽を被っていたら絶対東方のキャラだってわかるブランド力というか、キャラクターデザインに説得力を感じたんです。

 「とても強い、でもかわいい」という二つが両立している感じが、東方の唯一無二なポイントですよね。

――お話を伺っていて、「強さ」というものに対する哲学をお持ちなのかなと感じました。ファイルーズさんにとって「強さ」とはどういうものなのでしょうか?

ファイルーズ:
 人に頼られることも強さの一つですが、誰かに頼る強さも、自分の弱みをさらけ出すことも強さだと感じています。単に力が強いということだけじゃない。パフォーマンスで強く見せることはいくらでもできます。だからこそ、自分の芯を、意思を強く持ち続けることこそが、強さだと思っています。心の強さが本当の強さというか。あまり、うまく言葉にできないですけれど。

 

とまらない! ファイルーズさんの「東方アレンジ」愛

――冒頭で、大好きな東方アレンジ曲として『Sweets Time』の話が出ましたが、他にも好きな東方アレンジ曲はありますか?

ファイルーズ:
 あります! ありすぎて、あげきれない……!(スマホ内を検索しながら)
 最近知った曲だと、魂音泉さんの『ゆけむり魂温泉Ⅱ』です。

ファイルーズ:
 『東方ダンマクカグラ(以下、ダンカグ)』で初めて聴いた
んですけど、めっちゃめちゃ楽しい曲ですよね! この間、友だちとカラオケに行ったときに「この曲東方なんだけど、『た・ま・おん・せん!』のとこだけ、一緒にコールしてくれない?」って頼んだんですけど、みんなノリノリで「た・ま・おん・せん!」って言ってくれました(笑)

 東方のアレンジ曲から、そのキャラクターをより好きになってしまうことが多いですね。(アレンジ元原曲のキャラクターである)星熊勇儀のことはもともとカッコいいと思っていましたけど、『ゆけむり魂温泉Ⅱ』を聴いてから、原曲の『旧地獄街道を行く』もさらに魅力的に聴こえてきて、相乗効果でどんどん好きになっていきますよね。

 原曲ですけど『砕月』もすごいと思っていて。(伊吹)萃香って、ずっと酔っ払っておちゃらけてて、明るくて元気な感じの子じゃないですか。でもその子の曲は、和風のきらびやかさがありながら、その内に秘める妖怪としての苦悩であるとか、過ぎ去ってしまった年月――「歳月」を感じさせるようなところがあったりして、本当に素晴らしい曲になっているんだって思ったりして。

――大変わかります。ぜひ、もう二曲くらい教えてください。

ファイルーズ:
 い、いいんですか? 止まらないですよ?
 他だと暁Recordsさんの『HELLO HELL』ですね。もう、めっちゃかっこいいです。あの曲でヘカーティア・ラピスラズリが大好きになりました。
 同じ暁RecordsさんならWARNING×WARNING×WARNING』もほんとに好きで……あの曲でクラウンピースが大好きになりましたし。

 暁Recordsさんの曲って、原曲の良さを残しながら、そのサークルでしか作れない曲! という感覚をとても与えてくれて。Stack.さんの力強いのにキュートなボーカルも本当に良いです。歌声がもう、東方とロックが融合したかのような、心臓に直接殴りかかってくるような声の力を感じます。

 個性の塊みたいなサークルさんだ、っていうところが暁Recordsさんの好きなところです。PVまで含めて楽曲、という感じが、とてもアートだなと思いました。

――かわいくて強い。まさに東方キャラを体現しているわけですね。

ファイルーズ:
 そうなんです!

――もう一つ、二つ、いただいてもいいですか……? 楽曲を作っている方たちも喜びますし、何より、同じ曲を聴いている今の中高生たちが「私も!」とうれしくなりますので。

ファイルーズ:
 本当ですか? うれしいな……。

 とても悩むんですけど……Liz Tryangleさんの『White Lotus…』ですね。感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind』という原曲は、最初から結構畳み掛けていきつつ、途中で水面に蓮の花が一気にぱあっと花開いていくような爽快感があります。その曲の静の部分をぎゅっと集めて、聖白蓮の複雑な感情を丁寧に、うまく表現している、素晴らしい楽曲だと思っています。

 もう一曲だと……壊されたお守り』(サークルはSOUND HOLIC、編曲は隣人(ZYTOKINE))。これもちょうどこの間、カラオケで歌いました。何年聴いても、もうずっと聴いていたくなるような曲です。

 曲としてはすごく美しいんですけれども、どこかに、鍵山雛の持つ「厄をため込む程度の能力」から溢れ出る歪さみたいなものが表れていて、聴いてるとすこし不安になるような不穏さがあるんです。一筋縄ではいかないような曲というか、雛というキャラクターを理解すればするほど、曲への理解度がさらに増していく、素敵な曲だなって思いました。雛のその危うさみたいなところが、私も大好きなので。

 

アレンジを聴いて、原曲を知って、どんどん東方キャラが好きになる

――好きな東方アレンジについてたっぷり伺いましたが、この流れで「好きな東方原曲」についてきいてもいいですか?
 以前のツイートでは
星条旗のピエロ』『感情の摩天楼』『妖魔夜行』『砕月』『セラミックスの杖刀人』がTOP5とおっしゃっていました。そのうち3曲はアレンジのところでも語っていただきましたが、『妖魔夜行』はまだお話が出ていないので、ぜひ理由を知りたいです。

ファイルーズ:
 初めてプレイした原作が『紅魔郷』で、最初の敵がルーミアじゃないですか。そのときに流れていた『妖魔夜行』が、今でも忘れられなくて。言葉にするのが難しいんですけど、東方を知らなくても東方の曲だってわかるようなキャッチーさが、この曲にはあるんですよね。

 そういえば、カラオケでいろんな東方アレンジをかけると、知らない子から「これって東方の曲?」ときかれたことが何度もあるんですよ。東方の曲のもつキャッチーさだと思うんですけど、『妖魔夜行』はそういうZUNさんの色が強く表れている曲だと、個人的に思っています。

――『セラミックスの杖刀人』もぜひ教えてください。こちらは最近の曲ですよね、出会いは覚えていますか?

ファイルーズ:
 アレンジが先なのですが、ダンカグで聴いた暁Recordさんの『HANIPAGANDA』が出会いです。リアルタイムで追えていなかったり、途中離れていたブランク期間もあるので、私の東方知識には偏りがあるんです。『鬼形獣』をあまり知らない状態で、ダンカグに「暁Recordsさんの新曲入ってる!」と思ってプレイしたのが『HANIPAGANDA』でした。聴いてみたら「なんだこれは」と、すっごい衝撃を受けて。

 急いで原曲の『セラミックスの杖刀人』も聴いてみたら、杖刀偶磨弓の埴輪兵長たる堂々とした風格がありつつ、磨弓の命令で敵めがけて突撃していく埴輪たちの画が頭に浮かんで、軍歌のような勇ましさがあるなとおもって。一気に大好きになりました。

 ダンカグのおかげで、今まで知らなかった素晴らしい東方の曲にたくさん出会えたので、本当に感謝しています。

――先程「アレンジ曲を聴いて、原曲を知って、さらにキャラクターが好きになる」というお話を伺いましたが、ファイルーズさんはどんな流れで東方のキャラクターを好きになっていくんでしょうか。

ファイルーズ:
 最初はネットで調べるところからです。昔はイザヨイネット【※】さんで設定をずっと見ていて……。色んな事情で今はスキマネットさんがバックアップされてますけど。

【※】イザヨイネット:かつて存在した、有志制作の東方Project設定をまとめたサイト。現在はデータのバックアップサイトとして「幻想情報局 -スキマネット-」が存在している。

――そのワードがファイルーズさんから出た、というだけで静かにうなずきはじめるオタクの画が浮かびます。

ファイルーズ:
 あとは、pixiv大百科とか、ネットにあったいろんな方のキャラ考察を読んだりしていました。他にも、好きなイラストレーターさんが東方キャラを描かれてて「この方が書くとさらにこのキャラが魅力的に見える」って気付かされたりして、そこからまた様々なキャラを好きになったりしています。

 色んな作品を見て、多様なキャラクターの解釈を知ったあとに、原点に帰って原作でのキャラクター感を自分の中に定着させたいと思って、設定や原作のイラストをまた見に行ったりします。そういうときに、ネット上の様々な方がまとめているセリフや設定資料が本当に助かっていて。「この子ってこういう子だよね」と、キャラクターを大事に思うことができるので、重宝しています。

 

 本日はここまで。次回は、東方キャラクターの”概念コーデ”話、さらには「ヘカーティア様に『面白い女』と思われたい」という話題まで……? よりディープなファイルーズさんの東方愛について、じっくりお話を伺います。

【独占】「彼女たちは強い。そしてかわいい」――ファイルーズあいと東方Projectとの出会いと、語り足りないほどの「東方曲」への愛 おわり

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