東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

     東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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いつか、ZUNさんの眼鏡を作れたら――執事眼鏡eyemirror・常田氏インタビュー

執事眼鏡eyemirror・常田氏インタビュー

「オタク」だからこそ、オタクすぎない商品をつくる

――執事眼鏡さんのコラボモデルには、いわゆるありがちな「作品のイラストやロゴがフレームやケースに刻印されている」タイプのものがないですよね。これは意図して行っているのですか?

常田:
 基本的な考え方として「ビジネスでも使えるもの」にすることを第一としています。できるだけ普段遣いできるもの、それでいてわかる人がみたらわかる、それが一番いいと思っています。誰が見ても「東方キャラグッズだね」というものより、「あれ、あの人が使ってるの、もしかして東方? 霊夢っぽい?」ってわかるような。わかってくれる人は当然、仲間じゃないですか。それくらいのさり気なさがいいと思っています。

――本当にそうだと思います。知り合いが宇佐見菫子モデルをかけていたんですが、言われなければほとんどわからないレベルでした。ここ最近、東方でもようやくそのタイプのアパレルやグッズが出始めましたが、執事眼鏡は10年以上前からそのスタンスなのがすごいと感じています。

常田:
 逆に、オタクすぎてしまっても良くない時もあるなと思います。これは実例ではなくてたとえの話ですが、ガンダムの眼鏡を作ろうとして、忠実に忠実に再現しようとして、フレームの色をそのまま明るい白・赤・青にしてしまったら、大変じゃないですか。

――日常ではちょっと、かけづらそうですね(笑)

常田:
 オタク的なこだわりが強すぎてしまってというか、間違った方向にやりすぎてしまうと、商業ラインに乗せるのが難しくなってしまいます。
 
――いわゆる「ネタ商品」としてのプロモーションになりそうですね。

常田:
 意識的にそうであるならいいですが、作り手のめり込みすぎてしまって結果そうなってしまっているものも、世の中には多々ある気がしています。眼鏡は安いものでも1万円から2万円もする商品です。高級品でも、やはり「普段遣いできる高級品」のほうが、ユーザーとして嬉しいと思っています。2万円の「ネタ商品」は、売り手も買い手も双方勇気がいるので(笑)

――「普段遣いできる高級品」というアプローチは女性向けのグッズのほうが多いような気がしています。執事眼鏡さんは比較的男性向けIPとのコラボ商品が多いように見受けられますが、この方針で上手くいくという確信が最初からあったのでしょうか。

常田:
(この業態に)踏み切れたのは、眼鏡の着用率は男性の方が多い、という肌感覚ですね。

――それはメガネショップで働いていたときの経験から?

常田:
 いえ、コミケに行ったときですね。

――確かに! それはそうですね、オタク男性の眼鏡率は圧倒的に高い。私もかけています。

常田:
 執事眼鏡が上手くいくと思った最初の理由は、コミケ来場者の眼鏡率の高さでした。そして、その人たちはみんな普通のメガネを掛けていて、コラボ眼鏡はかけていないんですよ。

――さまざまなアニメ・ゲーム・サブカルIPとのコラボ商品を身につけてコミケに来ているけど、眼鏡はその当時まだ誰も目をつけていなかった。

常田:
 この市場がまるまる顧客層になると思ったら、これは大きい! と思ったんです。

――ちなみにですが、常田さんは「オタク」としてはどんな道を通ってこられたんでしょうか。

常田:
 コミケには大変お世話になっていて、よく足を運んでいました。サークルとして同人誌を出したり、コスプレをしたりしていましたね。東方Projectはもちろん大好きで、ルーツとなるジャンルはKey作品ですね。『Kanon』から入って……正確には『ONE』からなんですけど。

――テキスト文化世代ですね!

常田:
 実は、同人の時の経験がショップの開業に役立ったんですよ。同人誌を作る経験があったので、Photoshopが普通に触れたんですよ。自分で名刺を作ったり、ホームページのデザインを作ったり、開業に必要な広告は一通り自分だけで作ることができました。普通の眼鏡ショップ店員だと、そんなスキルは身につかないので(笑)

――執事眼鏡さんの見た目の統一感というか、そういったブランディングは常田さん本人が作られていたんですね。

常田:
 そうですね。当然のこととして、同人誌を作って頒布するに至っての原価計算なんかも役立っているし、なにより「自分で作ったものを、どう相手に届けるか」、どうやったら売れるかというのは、サークル時代に培った技術が役立っているな、と思っています。

――今の時代は、15~20年前のコミケのオタクたちが職を持って、ちょうど今さまざまな企業で「自分でコントロールできる仕事」ができるようになった頃だと感じています。
 そうやって生まれたアイテムを、そんな流れなんて全く知らない若い子たちが買っていく、みたいなつながりが今起きています。東方のような、長く長く続いている作品ジャンルならではのことで、稀有であり美しいことだと思います。執事眼鏡さんも、まさにそんな潮流を作っているお店ですよね。

 

存在しない眼鏡を現実につくりだす――それは、自分が一番かけたいから

――東方眼鏡のデザインは、すべて鍋島さんが行われているのですか?

常田:
 はい。基本は鍋島先生に一任させていただいております。鍋島先生のデザインを見て、本業の眼鏡デザイナーさんが感心されていました。「よくこういうデザインが出てきますね」と。鍋島先生ご自身に眼鏡デザインの基礎知識がないからこそ、面白いものができるのかなと。

 そんな誰も見たことのないデザインを、どうやって実物の眼鏡に落とし込むのか。これが私の仕事かなとは思ってます。お客さんが実際にかけてみて、問題がないものにしていくかという。

――一般的な眼鏡の場合、製造業者がデザインをし、それを各卸売店で受注して販売しているわけですよね。執事眼鏡さんでも一部メーカー製品も取り扱われていますが、メインは自店舗で製造するオリジナル眼鏡です。小規模な店舗を持つ眼鏡屋さんで、こういった自社ブランドを持っておられるのは、やはり珍しいのでしょうか。

常田:
 この業態はまずないですね。かなり珍しいケースだと思います。逆に言うと、私が眼鏡店経営の経験がなかったからこそ、この形で最初から経営できたのかもしれませんね。

――業界的にはありえないとしても、自分の好きなものであれば、同じように好きになってくれる人がいるじゃないかという。オタク的というか、“同人”的ですね。

常田:
 もともとなにか作り出すことが好きでしたから。ほかに存在しないんだったら、自分のところで作ればいいんじゃないのか、この発想ですね。

――いま、コロナ禍による失われた3年間で、同人的なモノづくりが途絶えてしまいそうになっている、そんなタイミングだと感じています。そういった同人的なモノづくりを、あえて企業体の形で行っているという事実は、さまざまな人に届けたいです。
「同人の考え方を持ってプロの仕事をする」という考え方もあることを、より多くの若い子たちに伝わればいいなと思います。作家、クリエイターとして成功する道以外にも、自分の作りたい表現を世に出す方法はあるし、それを受け入れる方法もあるということなので。

常田:
 同人誌は、自分が読みたいと思ったものを作るわけですよね。それと同じ気持ちになった人たちが、コミケで手に取っていく。眼鏡も同じ発想で、自分がこういう眼鏡をかけたいから、ほかの人もかけたいんじゃないかと思って作っています。当然それは世の中に存在しないものなので、じゃあ自分で作るしかないと。

――鍋島テツヒロ先生の本を読んで、こんな眼鏡があったらいいな、かけられたらいいなと思って始められた「東方眼鏡」ですもんね。

常田:
 そこがもう原点ですね。理想の形をどうやって現実世界に落とし込むか。まず、視力矯正器具として成り立つものになるかどうか。そしてその上で、きちんと商業ラインに乗せられるものにしなきゃいけない。これが私の仕事だと思っております。

――本当にたくさんのコラボモデルを出されていますが、これらは執事眼鏡さんからお声掛けをしているのでしょうか?

常田:
 そうですね。最初は大手さんにもほとんど相手にされませんでしたが、諦めずに何度も何度もお声掛けをして、無視されてもメールを出し続けたり、直接イベント会場などにお伺いして、担当者さんとご挨拶をして……こんな感じのことを繰り返しています。

――何度断られても、それでもノックして……モノづくりは人と人とのやり取りだなということを痛感させられますね。

 

御神木を使った、執事眼鏡10周年記念モデル

――春の例大祭で発表された、10周年記念モデルについて教えてください。

常田:
 東方眼鏡が10周年を迎えまして、記念のモデルを制作しました。フレームに、伊勢神宮などで使われている森に生えていた、実際の御神木を使っています。

――本物の御神木なんですね!

常田:
 正確には、神宮で使う予定だったものの台風などで倒れてしまった杉、というものになります。フレームの一部にそういった自然素材を使っています。モチーフとしては、はっきりと明言しているわけではないんですが、キャラクターではなく「博麗神社」を採用しています。

――その謂われや、「自然素材の大変さ」を先にお伺いしているので、この価格帯もかなりリーズナブルなのではと思ってしまいます。

常田:
 そうですね。基本的には、いつも使っている眼鏡よりも少し背伸びして変える価格帯に抑えています。いま、眼鏡の高級店だと、フレームが5万円、レンズが2万円、計7万円くらいになりますよね。当店だと、込みで3万円くらいの価格帯に収まるようにしています。

――東方以外のモデルも含めて、本当に手の届きやすい価格帯だと思います。

▲5月7日に行われた第二十回博麗神社例大祭の会場では、現地で視力の測定も行うことが出来た。その場でほしい眼鏡を選び、その場で視力を測り、後日レンズが入ったものが届く形となっている。視力測定ができる即売会なんて、おそらく例大祭以外にないんじゃないだろうか。

 

いつか、ZUNさんの眼鏡を作りたい――執事眼鏡の今後

――執事眼鏡さんの眼鏡が気になっている、かけたいと思っている人向けに、どのように購入するのが良いでしょうか。

常田:
 やはり、店舗に直接足を運んでいただくのが一番ですね。一口に目が悪いといっても、どのような理由で見えにくくなっているのかがわからないので、お店でそれを確かめさせていただくのが確実です。遠方にお住まいで店舗まで行けない方は、はじめに眼科で視力測定をして、処方箋をいただくというのも良いかと思います。ただ、一番はやはり店舗ですね。
 色や形が気に入っても、実際に掛けてみたときの印象はかなり違ったりするんです。かけながら、自分が好きで、かつ似合うものを探すのが良いと思います。

――服や靴と同じで、フィッティングしてみないとわからないことはたくさんありますしね。

常田:
 ただ、少し合わないように思えても、みなさん好きなキャラクターのものをかける方が一番多いですね。だんだんと、眼鏡が顔に馴染んでいく、ということもあるので。

――顔に馴染んでいく。眼鏡のいいところですね。執事眼鏡さんの今後の展開についてお伺いしてもよろしいでしょうか。東方MEGANEで今後考えていることや、その他コラボレーションの話などもお伺いできれば。

常田:
 コラボレーションは今後も続けていきますが、今推しているものとしては、自社オリジナルの眼鏡シリーズですね。猫をイメージしたもの、おとぎ話をモチーフにしたもの、アンダーリムにこだわったものなど、それぞれコンセプトがあるシリーズを展開しています。

猫好きのために作られたブランド「nekoMegane」。フレームの至る所に猫の意匠が用いられている。売上の一部は、行き場のない猫を減らす活動をするNPO団体への寄付が行われている。
おとぎ話をモチーフにしたブランド「OTOGI」。第一章は「不思議の国のアリス」がモチーフとなっており、「Queen」モデルには薔薇とハートの女王をイメージしたデザインが、七宝素材であしらわれている。
レンズの下側のリムのみで作られたフレーム形状「アンダーリム」にフィーチャーしたブランド「under score」。男性のみならず、女性でも付けられるジェンダーフリーなデザインとなっている。

――どれもこだわりを感じられて、掛けてみたくなります。執事眼鏡さんの店舗には、コラボ眼鏡以外にも通常のメーカー品も置かれているわけですが、その上でこういったオリジナルの眼鏡を作っている、その理由はあるのでしょうか?

常田:
 いま、若者向けの眼鏡店って本当になくなってしまっているんです。市場がどんどんお求めやすい価格、いわゆる「スリープライスショップ」の店舗だけになってしまっていて、デザイン性のある眼鏡を気軽に買える場所が減ってしまったんですね。じゃあデザイン性の眼鏡を買いに行こうと高級店に行くと、フランス製でとても高級な、4万円とか6万円とかの価格帯になってしまうので。市場が極端になっているんです。

――若者が少し手を伸ばして買える金額帯のデザイン性のある眼鏡を買うのが難しいんですね。オリジナルブランドは、いま失われつつある市場へのアプローチなわけですね。

常田:
 デザイン性やコンセプトを持った眼鏡を、1~2万円の価格帯で提供する、若者向けの眼鏡を自社オリジナルブランドとして今後も展開予定です。
 この「otogi」シリーズはおすすめで、アリスモチーフのモデルは、女性の方にも掛けやすいデザインになっていると思います。日本製ですが、実は有名な工場で作っていて、同じ工場製で他ブランドですと4万円近くするものもあります。デザインも、大手メーカーの依頼を受けてらっしゃるデザイナーさんのお仕事なので、単純に質も高いです。それがお求めやすい価格になっているので、おすすめできますよ。

――コラボアイテム以外のものにも大変興味が湧きました。執事眼鏡さんのコンセプトは、設立当初からほとんどブレていないように思えます。

常田:
「より一般的な信用のおける眼鏡店」としてやっていきたい、という感じですね。店舗に来ていただくお客さんから度々言っていただくのが「今までの眼鏡店で、一番良かったよ」というお言葉です。そういった声を、これからもより増やしていきたいと考えています。

――足を運んだことがない方は、ぜひ店舗まで来てもらいたいですね。東方眼鏡の今後の展開は、なにか決まっていることはありますか?

常田:
 今後のモデルに関しては検討中です。発表をお待ちいただけたらと思います。ひとつ、夢の話をさせていただくと、ZUNさんの眼鏡を作れたらと思っていますね(笑)

――いいですね!

常田:
 ZUNさん監修のデザインモデルは、叶うことならぜひやってみたいですね。ビールモチーフとかになるんでしょうか……。

――国内もですが、海外需要が大変なことになりそうですね。ZUNモデル。

常田:
 どんなに突飛なデザインが来ても、なんとしてでも実現したいですね。これはもう、ど派手なものでもみなさん面白いと感じてくれると思うんです。

――いつもの日常をZUNモデルとともに……東方眼鏡の終着点ですね(笑) 最後に、いつも東方眼鏡をかけている東方ファンの皆さんに、メッセージなどはございますか。

常田:
 いつも執事眼鏡をご愛顧くださり、誠にありがとうございます。東方眼鏡をたくさんご購入いただいている方、大変多いとおもうのですが、ぜひレンズを入れに来てほしいと思います。お家で眠っているものがあれば、ぜひ度付きにしてみてはいかがでしょうか。

――今回のお話を聴いていて、眼鏡として本当に質の良いものなので、コレクターズアイテムにとどめておくのはもったいないと感じました。

常田:
 執事眼鏡の店舗が遠くても、ホームページにあります協力店舗様までフレームを持ち込んでいただければ、レンズを入れて調整させていただくことがございます。東京や大阪などの都心部に住んでいないひとでも大丈夫です。

――東方眼鏡とぜひ日常を過ごしてほしいですね。本日はインタビュー、誠にありがとうございました。

 

 オタク向けアイテムでありながら、普段遣いができるアイテムを。「わかる人にわかる」というさり気なさは、実は東方ファンが好む姿勢のひとつではないだろうか。そんなコンセプトを10年以上前から提唱していたブランドのスタートが、東方とのコラボだったということはもはや必然だったのかもしれない。執事眼鏡eyemirrorが作る、博麗神主・ZUNさんモデルの眼鏡をぜひ見てみたいと思った。

 実は、インタビューのあとに、筆者はそのまま眼鏡の制作をお願いしてみた。実店舗には視力測定装置もあり、眼科で処方箋を出してもらう必要なく、新しい眼鏡を購入することができた。購入した一本は、今でも日常的にかける愛用の一本となった。接客もていねい、まさに「執事」のようなご対応をしていただける特別な体験ができたので、ぜひみなさんも実店舗に足を運んでみてほしい。あなたの日常とともに過ごす、「わかる人にはわかる」一本を持ってみてはいかがだろうか。

 

執事眼鏡eyemirror 店舗情報

執事眼鏡eyemirror Webサイト

http://www.eyemirror.jp/

【本店】 執事眼鏡eyemirror

住所 東京都豊島区東池袋1-31-13

アクセス 池袋駅東口より徒歩7分

営業時間 11:30~19:30

定休日 毎週水曜
(イベント出展時は臨時休業の場合もございます)

【大阪店】 執事眼鏡eyemirror -OSAKA-

住所 大阪府大阪市浪速区日本橋西1-5-11

アクセス 南海『難波駅』徒歩 約7分 堺筋線『恵美須町駅』 徒歩 約7分
※店舗入り口はオタロード側です。

営業時間 11:30~19:30

定休日 毎週水曜・木曜

 

例大祭開催期間中に、東方MEGANE限定販売!

第十回博麗神社秋季例大祭の開催期間中のみ、執事眼鏡eyemirror オンラインショップにて限定販売!

イベント限定販売商品を多数ラインナップしております。お見逃しなく!

執事眼鏡eyemirror オンラインショップ
https://ec.eyemirror.jp/

いつか、ZUNさんの眼鏡を作れたら――執事眼鏡eyemirror・常田氏インタビュー おわり