東方じゃなかったら、最初の一歩は踏み出せなかった――執事眼鏡eyemirror・常田氏インタビュー
執事眼鏡eyemirror・常田氏インタビュー
「執事眼鏡eyemirror」という眼鏡店をご存知だろうか。東方ファンには「東方MEGANE」のお店、とお伝えしたほうが、わかりやすいかもしれない。
「東方MEGANE」は、東方Projectのキャラクターをモチーフとしたコラボメガネだ。キャラクターのイラストがプリントされたアイテムとは違い、そのキャラの意匠、カラーリング、キャラクター本人がかけていても違和感がないようなデザイン……といった、通常のコラボアイテムとは一線を画す“解像度の高さ”が特徴のアイテムとなっている。それもそのはず、この眼鏡はもともと、作家・鍋島テツヒロ氏が「東方キャラをイメージした眼鏡」を同人誌としてまとめたものだからだ。
そんな同人作家の空想を実際に具現化し、そして商品化まで果たしているのが、東京・池袋に本店を構える眼鏡店「執事眼鏡eyemirror」である。実現の困難なデザインすらも現実に生み出し、さらには日常にかけていても違和感のない、いわゆる“オタクグッズに見えない”ようなあしらいがされている。そんな質の高さが評判を呼び、その人気の高さから、これまでに作られた東方MEGANEの数は40本近くに及ぶ。今年5月に行われた「第二十回博麗神社例大祭」では、十周年記念となるモデルがリリースされた。
東方以外にもさまざまな作品とのコラボを続け、“おしゃれなオタクアイテム”といえば間違いなくそのひとつにあがる「執事眼鏡eyemirror」。そのお店は、文字通り「東方じゃなかったら、最初の一歩は踏み出せなかった」という。東方MEGANEが生まれたきっかけ、そして”日常で身につけられるオタクアイテム”へのこだわりについて、執事眼鏡eyemirrorの企画制作を行う、株式会社DUO RING代表取締役社長の常田氏に、お話を伺った。
文・インタビュー/西河紅葉
写真/るぅく
取材協力/粗茶
東方じゃなかったら、最初の一歩は踏み出せなかった
――本日はインタビューよろしくお願いいたします。執事眼鏡さんといえば、やはりアニメやゲームとのコラボレーション眼鏡ですよね。最近ではVTuberさんとのコラボも積極的に行われています。なかでも著名なのが、東方Projectとのコラボ眼鏡『東方MEGANE』です。このコラボをはじめられたきっかけについて教えていただけますか。
常田:
執事眼鏡が最初にリリースしたコラボレーション眼鏡が『東方MEGANE』でした。当時、私が新しく眼鏡ショップを開業しようかと考えていた時に、友人から鍋島テツヒロ先生が描いた「東方MEGANE」という同人誌を見せてもらいました。これを本当に実現してみたい、と思ったのが出発点です。
常田:
実を言うと『東方MEGANE』は、執事眼鏡の開業とほぼ同時に始まったプロジェクトでした。まだ私が大手眼鏡チェーン店に勤めていたころに、鍋島先生の同人誌を拝見して「これを実現してみたい!」と思い、鍋島先生にすぐお声掛けをしました。
ただ、最初のプロジェクトなので、コラボレーションメガネを作るノウハウもまだちゃんと持っていなかったころでした。ノウハウもない、開業のための自己資金もほとんど足りないという状態で、決心をしてさまざまな眼鏡の製造業者さんに声をかけました。鍋島先生のデザインイラストを持っていって「この眼鏡、作れませんか」と。
――相当な熱意ですね。とはいえ、開業したてのお店が持ち込んだ、しかも同人ゲームとのコラボレーションアイテム企画……なかなか通らなさそうです。
常田:
最初はどの工場にも断られましたね。信用がありませんでした。まだ眼鏡屋を開業していない、29歳の若造が眼鏡を作りたいですと工場に行ったところ……ほんとにお金があるのかと。
しかも、初めて持ってきている仕事が、相手からすると知らないゲームのコラボなわけですよね。私たち同人のオタクにとっては、東方Projectは一大コンテンツ。でも眼鏡工場の方からすれば「よくわからないゲームとのコラボなんて、売れるの?」となるわけです。
――2010年代前半の東方ですからね。当時、ニコニコ動画での知名度は有ったものの、その外に出れば知らない人の方が多い時代でした。
常田:
ドラゴンボールやエヴァンゲリオンのような、有名かつ多数のコラボアイテムがあるアニメならまだしも、東方Projectという聞いたことのないゲームなわけです。だからイラストを持っていったところで、その説明が全く伝わらない。当然断られ続けて、何件断られたかわからないほど声をかけ続けた先に、一社だけお話を聞いてくださって。ありがたかったです。
とはいえ「全額前払い」という条件付きでした。通常なら、製品を発注して、その納品を受けてから支払いをするのですが、当時の自分には信用がないので、全額前払いでしか受けられないと。
開業も、一般的に必要とされる開業資金の半分も用意できなかったんです。池袋の店舗の設備投資に半分以上を費やして、残りをすべてMEGANEに投資しました。開店初日、お財布は0円だったんです(笑)
――正真正銘のオールインですね、恐ろしすぎる。これが売れなかったら死ぬかもしれない、位の覚悟で作られていたんですね……。
常田:
開店して三ヶ月後に、限定200本の生産販売の広告をリリースしました。霊夢モデルと魔理沙モデルの計400本ですね。それがネットショップで予約を開始して、15分で全て売り切れました。サーバーがダウンしてしまいましたね。
――本当に良かった! これって、ブランド眼鏡では一般的なことなのでしょうか?
常田:
一般的なブランド眼鏡の場合、例えば一種500本生産したとして、それを全国2~300ある店舗で1,2本ずつ売って、ほぼほぼ一年程度で売り切るようなペースで販売します。なので、一店舗でこの数がすぐに無くなったのは、かなり特殊なケースですね。
――東方のブランド力であったり、鍋島先生の同人誌を見た人の「コレが欲しかったんだ!」という声がそのまま数字に直結したのかもしれないですね。東方MEGANEが大人気で即完売しなかったら、執事眼鏡さんは続いてないかもしれない。
常田:
東方Projectには、すごく感謝しております。先程のとおり、大人たちがだれも相手にしてくれないなか、東方のみなさんはちゃんとお話を聞いてくれたんですよ。まだ何にもお店としての実績がない状態で「キャラクターのイメージ眼鏡」という、当時まだは未開拓だったジャンルにも関わらず、許諾を下さったんです。
――その状況でしたら、ほかのIPならまず許諾が下りないですね……。
常田:
まず下りない案件ですね。全く信用がない状態で「いいですよ」と言ってくれたのが、本当にありがたかったです。
――東方MEGANEが最初にリリースされた2014年ごろ、そういった東方グッズはポピュラーではありませんでした。そこから現代になって、東方はサンリオとコラボしたり、しまむらに博麗霊夢のアパレルや寝具が置かれるようになったりと、メジャーな場でのコラボレーションも盛んに行われるようになっています。執事眼鏡さんはその先駆けとなったのかもしれませんね。
常田:
まだほとんど前例がなかったときでしたが、お話を聞いてくださった東方の皆さまには本当に感謝しています。
若い人が手に取りやすく、デザイン性のある眼鏡を――執事眼鏡のコンセプト
――結果的に東方MEGANEは大成功したわけですが、常田さんはなぜこういった「アニメやゲームとのコラボレーションメガネ」を作ろうと思ったのでしょうか。「執事眼鏡」というショップの立ち上げの理由についても伺いたいです。
常田:
先程、大手のメガネチェーンに勤めていたと話しましたが、別にバイヤーをしていたわけではないんです。店長も、副店長の経験もない、ただの平社員でした。
執事眼鏡を立ち上げようとした2012年当時は、ZoffさんやJINSさんのような「低価格帯眼鏡ショップ(スリープライスショップ)」が台頭し始めた時期だったんです。どの眼鏡店も「若者には、レンズ込みで1万円のような低価格路線しか売れないんじゃないか」と考えていたころでした。
でも、店員として実際に若いお客様と向き合っていると「そうではないな」と思ったんです。低価格しか若者は買わないんじゃなく、若者に向けたラインナップが低価格しか無いから、それしか買わないんだと。
若い方でも少しお金を出せば手が届く中価格帯、2~3万円帯がメインの眼鏡店があれば、お客さんは来るんじゃないかと思ったんです。
――当時は、若い世代に向けてそういった価格帯やコンセプトを持った眼鏡ショップはなかったわけですね。
常田:
そうですね。若者は安くないと買わないから、目を向けなくてもいいだろうと思っている高級店は多かったかと思います。
そこに「執事眼鏡」ではアプローチしました。価格帯やデザインはもちろんのこと、高級店ですが若者に目を向けて寄り添っていることのアピールとして「執事服を来て、紅茶を出す」なんてことをしています。
――執事眼鏡さんの実店舗にはじめてお伺いしましたが、店員さんは本当に執事の格好をなさっているのですね。
常田:
はい。本当に資格を有した執事が接客をする、というわけではないのですが、店員の服装や店内の雰囲気は名前のとおりに合わせています。
こういった形ですと「キワモノ」に見られがちですが、視力測定に関しても最新の専門機器を入れて、国内の眼鏡資格持った者が在籍をしており、正確な測定を行っています。お越しになったお客様には「初めてここまで測定をしてもらいました」や、「ここまで調整してもらったの初めて」と仰っていただいき、本格的な眼鏡屋さんとして認知されています。
――私も、実際に伺うまでは「眼鏡のフレームを購入できる店」なのかなと思っていたんですが、実際に視力測定・眼鏡の調整・加工まですべてこちらでやられていると伺って、驚きました。
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竹でメガネを作る――大変だった蓬莱山輝夜モデル
――東方の眼鏡コラボシリーズを作られる時に、一番気を付けていることはありますか?
常田:
基本的には東方Projectのキャラクター、世界観を大事にできるか、なにより、鍋島さんのイラストのイメージをどれだけ大事にできるかというところです。イラストとして素敵なデザインの眼鏡でも、実際にかけられる眼鏡にする上でどうしても技術的に難しかったりします。
現実的に形になったとしても、眼鏡として使えない……視力矯正器具として使えないものになってしまってはいけません。そこをどうすり合わせしていくか、すごく悩みますね。
――過去の東方MEGANEで、実現が難しくて苦労したものはありましたか?
常田:
たくさんあります(笑)一番に思い出されるものだと、蓬莱山輝夜モデルですね。これは、フレームに本物の竹を使っています。自然素材なので、竹を削って作る過程で生まれる破損や不良がとても多いんですよ。大まかに言ったら、100本入荷したら80本しか売り物にならない。じゃあこの20本工場に返品できるかというと……できないんですよね。
――破損したものは、もう買い取るしかない……?
常田:
買い取るしかないです(笑) 自然素材なのでどうしてもガタつきや歪みが出たり、製作の過程でどうしても黒い繊維、異物が入ってしまうんですね。それもまた味だよ、と言ってくれる人もいるとは思うんですが、とはいえ「ゴミがあるので取ってもらえませんか」とクレームが来ても「それは取れないです」としか返せないものを、製品としてお出しするのは難しいです。
そういうものが頻出する中で、余程だめな物に関しては返品できたとしても、全数返品はもう工場が受け付けてくれません。工場側からしたら「そうなるのは分かっていて作ったんじゃないのか」と。
――商品として流通させるためのロットを守るのが、あまりに大変ですね。
常田:
この眼鏡は(通常の眼鏡工場ではなく)竹の専門の工場にお願いをしたんですが、フレームの形状がアンダーリムという、レンズの下だけで支える特殊な形状なんです。全部枠ありだったらまだいいんですが、縁が下だけにしかないので、強度的にどうしても弱い部分があるんですよ。お客さんにお送りする前の検品の過程で破損してしまったり……。
鍋島さんのデザインを忠実に再現しようとして、強度的なものがちょっと弱くなってしまって、それにより工場側が作りづらくなってしまって……要因が複合して、製造がとんでもなく大変なモデルになりました。
――執事眼鏡のこだわりが現れたモデルですね。工場の方は大変だったと思いますが……(笑)
常田:
その甲斐もあって、本当にお客さんに人気が出たモデルでしたね。でも、かなりすったもんだがあったので、作った工場からは「二度と作れないです」と言われてしまって。もう再生産出来ないです(笑)
――買われた方は、間違いなく心に残る眼鏡になっているでしょうね。
(次回に続く)
執事眼鏡eyemirror 店舗情報
執事眼鏡eyemirror Webサイト
【本店】 執事眼鏡eyemirror
住所 東京都豊島区東池袋1-31-13
アクセス 池袋駅東口より徒歩7分
営業時間 11:30~19:30
定休日 毎週水曜
(イベント出展時は臨時休業の場合もございます)【大阪店】 執事眼鏡eyemirror -OSAKA-
住所 大阪府大阪市浪速区日本橋西1-5-11
アクセス 南海『難波駅』徒歩 約7分 堺筋線『恵美須町駅』 徒歩 約7分
※店舗入り口はオタロード側です。営業時間 11:30~19:30
定休日 毎週水曜・木曜
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東方じゃなかったら、最初の一歩は踏み出せなかった――執事眼鏡eyemirror・常田氏インタビュー おわり