東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2021/08/12

原作プレイを突き詰めていく魅力―ユートロピーインタビュー

インタビュー【ユートロピー】

 ゲームには、さまざまな遊び方が存在する。

 ストーリーや世界観を楽しむ。ひたすらに高得点を狙う。好きなキャラを鍛える。

 ジャンルにもよるが、その遊び方は千差万別だ。そうした中で、”早くクリアする”ことに重点を置いた遊び方をご存じだろうか。

 ”RTA”

 Real Time Attack(リアルタイムアタック)の頭文字から名付けられた「遊び方」は、いつしか広く知られるものとなった。RTAではありとあらゆるゲームがプレイされており、東方Project(以下:東方)もその例外ではない。

 このインタビューでは、東方のRTAで活動されているユートロピー氏にお話をうかがい、原作プレイを突き詰めていくことの魅力について、掘り下げていきたい。

聞き手・文/紡

 

個性のある美しくも難しい弾幕を避けられたときは、本当に嬉しかった

――このインタビューでは、ユートロピーさんから東方とRTA、そして両者の結びつきについてお話をお聞きしていきます。まず、ユートロピーさんはどういったきっかけで東方を知りましたか。

ユートロピー:
 まだガラケーの時代に、友人たちが携帯でゲームをして盛り上がっていて、それが東方の二次創作ゲームでした。タイトルは忘れてしまったのですが……それを見て興味を持ったのがきっかけです。

 二次創作ではありましたが、ほぼ原作と同様の縦スクロールシューティング(以下:シューティング、及びシューティングゲームはSTGと表記)で、スペルカードシステムも備わっていました。

 これに当時ドはまりして、結果的に友人たちよりも上手くなってしまうほど、やりこんだんですね(笑)。その友人から「このゲームは二次創作で、元となった原作ゲームが存在する」と聞き、そこで初めて「東方Project」シリーズを認識しました。友人から教えてもらわなければ、きっと知らないままだったと思います。

――携帯、それもガラケー時代の二次創作ゲームとは、予想外の入り口ですね。そこから東方に入って、シューター歴は何年ほどになりますか。また、東方以前からSTGはプレイされていましたか。

ユートロピー:
 それより前にSTGとして触っていたのは、ゲームボーイの『ネメシスⅡ』(※1)ですね。ほかにも作品の一部にSTG要素が含まれるゲーム(星のカービィ作品、マリオランドなど)も触っていました。ただ、明確にジャンルがSTGのゲームは、上にあげたもの以外はほとんどやったことがありません。ゲーセンが身近になかったので、筐体のSTGを遊ぶ機会もありませんでした。

 なので、STGにどっぷり浸かり始めたのは東方からと言っていいですし、現在に至るまで東方以外のSTGを遊んだことはほぼなかったです。

 東方の原作歴は2008年からなので、今年で13年目になります。紅魔郷以降の原作はすべてプレイしました。

※1)ネメシスⅡ
1991年にコナミから発売された横STG

――ジャンルとしてのSTGは東方からなんですね。そこからシューターとしてやり込んでいくようになった、動機となるものはありましたか。

ユートロピー:
 言葉で説明するのが難しいのですが、初めて原作をプレイしたときに三つの感動がありました。

・「弾幕で表現する」ことの衝撃
・物語性やキャラクター性のある音楽
・弾幕を避けてスペルカードを取得することの快感

メロディーがどの曲も好みだったので何度でも遊びたくなりました。加えて、個性のある美しくも難しい弾幕を避けられたときは、本当に嬉しかったです。その快感を味わうために練習を重ねるようになりました。

 新作が出るたびに「次はどんな弾幕が、BGMが来るんだろう」とわくわくして、好きになって、ということを繰り返していたら、いつの間にか10年以上経っていましたね。

 だから、東方を楽しんでいる感覚はありますが、「シューター」としての自覚はあんまりないです(笑)。

 

「できるようになること」を楽しんでほしいです

――原作ではどの作品が一番好きですか。

ユートロピー:
 好きな作品はちょっと優劣がつけがたいですね……。全部好きです。弾幕が美しくなっているので視覚的には最近の作品のほうが好きかな、とは思います。

 BGM的には全部最高です。大体どの作品もExtraの曲が好きです。

 『東方紺珠伝 ~ Legacy of Lunatic Kingdom.』(以下:東方紺珠伝)は一番プレイしていて、システム的にも一番好きです。グレイズによって残機やボムを取得できるようになるというのが分かりやすく、面白く感じました。

 何より、かすりアイテムを大量に取得できた時の爽快感がたまらないですね。あのカリカリ音が好きです。このグレイズシステムによってやりこみが深まっていくので、RTAを始めてからもっと好きになりました。

――原作全体への印象といったところも、お聞きできればと思います。

ユートロピー:
 私が何より驚いたのは、「弾幕によって表現する」ということです。

 ゲームを構成する様々な要素によって創り上げられる幻想の世界、幻想郷を最前線で追いかけられるのが原作の大きな魅力です。新作が出るたびに「今度はどんな弾幕を見せてくれるのだろう」「どんな幻想郷の顔を見せてくれるのだろう」と気持ちを高まらせてくれます。

 そんな気持ちにさせてくれるからこそ私は東方原作を追いかけ続けていますし、これからも幻想郷を追い求めて原作をやりこんでいきたいと思っています。

――ユートロピーさんにとって、原作プレイを突き詰めていくことには、どのような魅力がありますか。

ユートロピー:
「東方のキャラクターをより深く知れるようになる」というところです。

 上手くプレイしようとすると、ボスの弾幕の特徴をしっかりつかむ必要が出てきます。すると、なんとなくボスがどんな性格や背景を持っているかが、弾幕から分かるようになってくるんですね。自機の後ろから弾を撃ってくるボスは一癖あるキャラクターだな、という感じで。つまり弾幕というのは、会話以上にキャラを語っているということです。

「弾幕は口ほどにものを言う」です。弾幕からキャラを知って東方についての理解がより深まり、結果、幻想郷をより深く思い描けるようになるというのが、大きな魅力ですね。

――弾幕を知ることで、より東方を理解できるようになるのですね。これから原作に触れる人へ向けて、アドバイスなどありましたらぜひ。

ユートロピー:
「できるようになること」を楽しんでほしいです。

 東方で初めて弾幕STGに触れるという場合には、最初のうちはなかなか思うようにプレイできないと思います。「Easyをノーコンティニューする」ことが最初の目標として挙げられますが、初心者にとってはそれでもハードルが高いです。もっと小さなことからできるようになりましょう。すなわちスペルカードを避けられるようになることです。

 最近の作品だと、スペルプラクティスモードが搭載されていることが多いです。試しにプレイしてみて避けられなかったスペルカードを練習してみましょう。初めて取得できるとかなり嬉しいと思います。「スペルカードを避けられるのは面白い」と思えたら最高です。

 そうしたら、次はストーリーモードの中で避けられるか挑戦します。こちらで避けられれば、練習の結果が身についていることを実感できて嬉しいはずです。

 こんな感じで「できるようになって嬉しい」ということを積み重ねていくと、いつのまにか「もうすぐノーコンティニューができるかもしれない」というところまで上達しているかも。そうして達成できたノーコンティニューはそれまでの嬉しいを全部足し合わせたくらい嬉しいはずです。

 弾幕STGはどうしても最初とっつきにくいところがありますが「できるようになって嬉しい」サイクルを作ってしまえばずっと遊べるゲームジャンルです。

 特に東方はスペルカードシステムによって「楽しい」を作りやすい作品だと思うので、達成感という快感を味わってみたい方はぜひ遊んでみてください。

 

とにかくルールが自由であること

――ユートロピーさんは精力的にRTAを走って(※1)いますよね。ここでRTAとは何なのか、ご説明をお願いしてもいいでしょうか。

ユートロピー:
 RTAとは「Real Time Attack」の頭文字をとった略語です。

 簡単に説明すると「ゲームをどれだけ速くクリアできるか」を突き詰めていくやりこみ方法のひとつです。日本だけでなく世界中で人気の遊び方になっています。ちなみに海外では「Speedrun」と呼ばれています。

 ひとつのゲームにもさまざまなルールがあり、中にはゲームの仕様から外れたバグを使用しても良いので(※2)、とにかく速くクリアすることを目的としたルールもあります。そのようなルールだと、本来何時間とかかるゲームがわずか数分で終わってしまうようなこともあるんです。

※1)走る
RTAで遊ぶことは「走る」と表現され、プレイヤーは「走者」と呼ばれる。

※2)グリッチ
RTAでは、ゲーム内のバグなどを用いてクリアすることを認めるレギュレーションもある。そうしたレギュレーションは「Glitch」と分類される。バグなどを使用しない場合は「No Glitch」となる。

――一口にRTAと言っても多様なルールがあるんですね。ユートロピーさんがRTAを始めるに至った経緯とはなんでしょうか。

ユートロピー:
 もともとは動画でRTAを視聴する側でしたが、配信者が記録に挑戦する様子を見て「自分もやってみたい」という気持ちが湧いてきました。

 どのゲームで走ろうかと考えたときに「自分にとって愛着があり、上手くなりたいゲームをやりたい」として、東方原作のRTAを選んだんです。しかし、実はSTGとRTAの相性はあまりよくありません。

 STGは基本的にステージが自動進行するので、プレイヤーがどのような操作をしても同じタイムになってしまうからです。唯一変わるところといえばボスの撃破時間ですし、東方の場合は最適解は「ボムを撃つこと」になります。適当にボムを撃つだけで最速タイムを出せるわけではないのですが「自分がやりたいRTAはそういったものではない」と思ったんです。

 私がRTAに求めていたのは、単純に楽しい遊び方というだけではなく、避ける技術を高める糧となるものでもあったので、実力が上がるイメージができないものに手を出す気にはなれなかったんです。

 それでも、やりがいのある東方のRTAはできないものだろうか、と頭を悩ませていた時にたどり着いたのが『秘封ナイトメアダイアリー ~ Violet Detector.』(以下:秘封ナイトメアダイアリー)と『東方紺珠伝』のRTAでした。

 『秘封ナイトメアダイアリー』は通常のSTGステージ構成と異なり、ステージ・スペルカード選択型なので「どのステージを選択するか」や「個々のスペルカードをどれだけ速く突破できるか」といった、タイムを詰められる要素が豊富に存在していました。しかも、ボムという要素もありません。

『東方紺珠伝』は「完全無欠モード」の存在を思い出したときに「これだ!」と叫びました。このモードはステージでもボスでも被弾してしまうと一定の場所まで戻されてしまうため、全体を通してとにかくミスをしないことが求められる上に、ボムの使用可能回数もかなり少なく、より自分の実力を高めなければ速いタイムを出すことができないという、まさに私が求めていたRTAの形でした。なにより両方の作品とも大好きでしたし、もっと上手くなりたいと思っていました。

『秘封ナイトメアダイアリー』と『東方紺珠伝』それぞれのRTAでやりがいが感じられたので、そのまま練習と配信を始めたというのが、私がRTAを始めた経緯です。

――RTAのどういった点を面白いと感じますか。

ユートロピー:
 “とにかくルールが自由であること”です。

 RTAそのものは「課題をとにかく早くクリアする」というやりこみ方の枠組みであって、それ以外に何もルールはありません。良くネットではネタで「タイマーを付ければRTAになる」と言われますが、本当のことです。

 重要なのは「どの区間のタイムをどんなルールで測るのか」ということだと思っています。すでにルールができあがっている、偉大な先駆者たちの記録に挑戦するということも楽しいのですが、「自分がどんなプレイをやりたいのか、それができるルールは何か」を考えられること、好きなようにルールと目標を設定できるのも、RTAの魅力だと思っています。

 自分で決めたルールに挑戦することで、好きなゲームについてもっと詳しくなって、もっと上手くなれる、というのは最高だと思います。

 

もっと、いろんな遊び方を知りたいし考えたい

――その後、ユートロピーさんご自身で『スペルプラクティスビンゴRTA』を開催されてますよね。

ユートロピー:
 そもそも、東方原作でRTAをどうにかしてできないかと苦心したのは、「もっと、東方の遊び方の幅を広げたかったから」でした。

 私は東方原作が大好きです。ですが、それまで東方原作の上手さの基準がどうしても、被弾数とかどれだけスペルカードを取得できたか、といった尺度しかないと思っていて、飽きがきて練習が続かなかったんです。そこから、RTAという自分にとって面白い遊び方を見つけたことで「もっと東方の遊び方はまだまだたくさんある」と考えるようになったんです。

 もっと、いろんな遊び方を知りたいし考えたい、そして皆にも知ってほしい。そんな気持ちから、イベントを開催することを決意しました。

『スペルプラクティスビンゴRTA』の発端は、他にもビンゴRTAオンリーのオンラインイベントがあって、それを見ていたときに思いついたところからでした。ビンゴカードを見ていて、ふと「マスにスペルカード入れられないかな?」と思ったんです。そこから、スペルプラクティスモードを採用しました。

 ルール的に、初心者でも参加できるイベントになりそうで、東方の魅力も伝えられそうだと思ったんです。あとは、他の楽しいイベントの数々を見て自分でも企画・運営してみたかったから、ですね。

――『スペルプラクティスビンゴRTA』は、ユーザーにRTAを慣れ親しんでほしいとする意気込みの伝わる、良い企画でした。それではここで、ユートロピーさんが参加されるイベント『RTA in Japan』についてもお聞かせください。

ユートロピー:
『RTA in Japan』は、1年のうち夏と冬に開催される日本で最大のRTAイベントです。様々なゲームのRTA走者が一挙に集い5日間、120時間ほぼ途切れなくずっとRTA配信でつないでいくという内容です。

RTA in Japan

 通常プレイではありえない動きが見れるのがRTAの醍醐味ですので、自分が遊んだことのあるゲームでも、ないゲームでも、ある種のスポーツ観戦として楽しめるんじゃないかと思います。

 このイベントは私がRTAを始めるきっかけの一つでもありました。生配信で追っていた走者の方がRTA in Japanに参加されていて、私も見に行ったんです。とにかく色んなゲームのRTAが見られるので「RTAって自由なんだ!」ということを知れたのはこのイベントのおかげです。

 そして何より、どの走者も「好きなゲームを遊んでいる」ということを前面に出していて、「自分もそうなりたい」という気持ちが出たのも、RTAを始めるきっかけになりました。

 私がRTA in Japanに関わったのは2020年末に行われた回です。本格的にRTAを始めたその年に、応募するというなかなかチャレンジングなことをしましたが、なんと時間が余ってしまった場合の補欠として採用して頂けたのです。採用発表のページを見た時は驚きで実際に椅子から飛びあがりました(笑)。

 さらに、それとは別に本採用されていた「秘封ナイトメアダイアリー」の走者であるmaronさんから解説の依頼を頂いたんです。この依頼のメッセージを見た時にも驚きで叫びましたね(笑)。

 結果的に補欠の時間はなかったのですが、「秘封ナイトメアダイアリー」で解説という大役を承り、何とかやり遂げることができました。いろいろと至らない点もありましたが、終わってみれば、本当に楽しい思い出になりました。解説の依頼をくださったmaronさんには、今でも感謝しています。

 実は、現在開催中の『RTA in Japan Summer 2021』に、私の応募した『東方紺珠伝』の「Pointdevice(Lunatic)」(完全無欠モードLunatic)が当選しました。

 現在気合を入れて練習しているところですので、この努力が実を結ぶことを祈っています。終わったあとでも、『RTA in Japan』のTwitchチャンネルに動画が残ると思いますので、見逃した方はぜひご視聴ください。恥ずかしくないところが映っているといいのですが……。

――いよいよ本番間近ですね。それでは最後に、『RTA in Japan Summer 2021』への意気込みをお聞かせください。

ユートロピー:
 難易度は地獄ですが、今回のイベントに向けて磨き上げたパターンと練習を糧に全力で避けきります。

 悔いのない走りができるように頑張ります!

――ありがとうございました。

 

RTA in Japan Summer 2021

公式サイト:https://rtain.jp
開催期間:8月11日-15日
放送チャンネル:https://www.twitch.tv/rtainjapan

ユートロピー氏参加情報
日時:8月14日 13:22~
ゲーム:東方紺珠伝 ~ Legacy of Lunatic Kingdom.
カテゴリー:Pointdevice(Lunatic)
走者:ユートロピー

https://www.speedrun.com/user/eutropii
https://www.twitch.tv/eutropii
https://twitter.com/eutropii

原作プレイを突き詰めていく魅力―ユートロピーインタビュー おわり