東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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インタビュー
2022/10/06

お絵かきの最初の一歩を踏んでほしい。東方の「色パレット」は初めてに最適。ー「幻想郷のおえかき道場」代表 粗茶氏、 「例大祭キッズイラストコンクール」担当 青島氏 インタビュー

「幻想郷のおえかき道場」代表 粗茶氏、 「例大祭キッズイラストコンクール」担当 青島氏 インタビュー

 今の東方Projectには若いファンたちが多い。この数年、東方ジャンルで活動をしている人にとってはもはや常識になっている話だ。東方の即売会で、親子連れ、小中学生を見かけても驚くことはかなり減った。高校生から「この曲(東方アレンジ)、小学生のころ聴いてた!東方って懐かしいよね〜」という言葉を聞いたときは、度肝を抜かれ、そのワードに些かダメージを受けた。高校生にとって懐かしいと言うことは、若いファンが増えている状態が、もう5,6年以上は続いているということになる。

「東方に若いファンが増えた」のは周知の事実だ。では、若い“作り手”は増えているのだろうか?

 例大祭の来場者数は、2012年から2019年までは50000人前後を常にキープしている(※広告出展資料より。2020年以降はコロナ禍の影響で規模縮小)。だが、サークル参加者は2013年をピークとして減り続けている。ジャンル移動や年齢層の変遷もあり、参加サークル数の減少は作り手の減少を表すものと一概には言えない。ただ、サークル数が減っても来場者数が変わらないという状況は、他の即売会を見ても類例はあまりない。若いファンは、東方で「つくる」楽しみに気づいているのだろうか。

 そんな、東方でつくる楽しさを若いファンに向けて伝えている場所がある。「幻想郷のおえかき道場」「例大祭キッズイラストコンクール」だ。

「幻想郷のおえかき道場」は、即売会に来た子どもたちを対象に、現役のイラストレーターがコピックでのぬり絵を教えてくれるブースだ。自分で描いたぬり絵を持ち帰れることもあり、例年たくさんの親子連れが詰めかけている。

「例大祭キッズイラストコンクール」は、小中学生のみを対象とした、東方のイラストコンクール。2022年で4回目の開催となり、昨年の第3回では300作品もの応募が届いた、大人気企画だ。

 そんなふたつの企画を立ち上げた人々に、それぞれの思いを聞いてみたくなった。なぜこの企画を立ち上げたのか。東方の若いファンがつくる側に回っていない気がする、このおじさんの憂いは実際のところどうなのか。

▲写真左が粗茶氏、写真右が青島氏。

「幻想郷のおえかき道場」代表で、多くの東方関連のイラスト技法書を刊行されており、近年では『東方ダンマクカグラ』『東方幻想麻雀』などにも関わったイラストレーター、粗茶氏。博麗神社例大祭で企画担当の責任者を務め、「例大祭キッズイラストコンクール」の発案と立ち上げを行った、博麗神社社務所の青島氏。このふたりにお話を伺った。

文・インタビュー/西河紅葉

 

まず、お絵かきに興味を持ってもらいたいー「幻想郷のおえかき道場」

――本日はよろしくお願いいたします。今、例大祭には多くの小中学生が参加しています。そのなかでも特に集まっているのが、「幻想郷のおえかき道場」と「例大祭キッズイラストコンクール」です。このふたつをそれぞれ運営している、おふたりに話を伺いたいと思います。まずは自己紹介をお願いできますか。

粗茶:
 幻想郷のおえかき道場(以下、おえかき道場)で代表と講師をしております。粗茶と申します。

青島:
 博麗神社社務所で企画担当の責任者をやっています、青島と言います。「例大祭キッズイラストコンクール(以下、キッズイラコン)」の立ち上げを行いました。よろしくお願いします。

――まず最初にそれぞれの企画がどんなものなのかを教えてください。「おえかき道場」はどんなことをしているブースなのでしょうか。特に、年齢の高い参加者にとっては「存在は知っているけど、何をしているかは知らない」という場所のひとつだと思っています。ぜひ教えていただけますか。

粗茶:
 こちらではコピックを使った塗り絵の体験を、来ていただいたお子さんに向けて実施しています。コピックに興味がある方、ひいてはお絵かきに興味がある方に、最初の一歩として触れてもらうことを目的としています。

▲2022年春の例大祭にて、東方ステーションでおえかき道場を取材した様子。

――ぬり絵の線画は、粗茶さんが描かれているのでしょうか。

粗茶:
 そうですね。基本的に私が線画を描いて、コピック4本でそのキャラクターのぬり絵が完成するように構成しています。

――この形に至るまでにも経緯があったと伺っています。まずは、この企画のスタートについて教えていただけますか。

粗茶:
 はじまったのは2019年の5月です。今年の春季例大祭(第十九回博麗神社例大祭)で、「おえかき道場」は10回目になりました。

青島:
 2019年は、第十六回博麗神社例大祭ですね。

粗茶:
 1000円コピックチャオ4本とぬりえの説明の紙を1枚、実際に塗る紙を2枚というセットを購入いただき、そのまま買ったものをお持ち帰りいただくという形式をとっています。この形になったのは3回目からですね。 その前まではどうしていたかというと、コピックのメーカー(株式会社G-Too)さんからお借りした画材を無償で貸し出しして、できたぬり絵をお持ち帰りいただく形にしていました。ですがコロナ禍となり画材の共有・レンタルが難しくなってしまって……。そこから、最小限の本数で最大限のキャラ絵として成立できるぬり絵体験をしてもらおう、という形に変えていきました。

▲「幻想郷のおえかき道場」Twitterアカウントより。写真左側にあるのが、現地で購入できる1000円セット。
▲写真左が4本のコピックチャオでぬり絵ペーパーの指定通りに彩色したもの。右側はさらに自分で用意した色を追加して彩色している。一、二色増えるだけで印象が変わる。

粗茶:
 結果として、体験した子たちがおうちにコピックを持って帰れるので、より企画としての目的を果たせる状態になりました。「1000円セット」は本当に人気で、今年の春の例大祭でもお昼をすぎる前には全セットが売り切れてしまいましたね。

――使ったコピックを持ち帰れたら、お家でもまたやってみたくなりますね。そこからどんどんお絵かきしたい気持ちが高まっていきそうです。

粗茶:
 4色はそのキャラを構成する最低限の色数です。なので、自分らしくとか、そういうことを考えて塗ろうと思ったら、どうしても色数が足りないんです。ほかのキャラを塗ろうとしたらさらに足りないので、コピックを親御さんにおねだりしたくなるんじゃないかな……と。当日の体験では、このセットにこの色を一本足すとほかにもこんなキャラが描けますよ、というアドバイスもしています。

――若い子たちのお絵かき欲求を高めて最初の一歩を踏み出せる、良い企画になっているんですね。「キッズイラコン」は、この「おえかき道場」とリンクしてはじまった企画なのでしょうか?

青島:
 実は、そういうわけではないんです。

 

若い子に「サークル参加したい」と思ってほしいー「例大祭キッズイラストコンクール」

――例大祭キッズイラストコンクールはどのような企画か教えていただけますか。また、どのような経緯で始まったのですか?

青島:
「例大祭キッズイラストコンクール」は、小学生と中学生だけが応募できる東方のイラストコンクールです。第3回では300作品を超える規模になりました。さらに、例大祭当日には全作品の展示と、応募作品すべてを収録した図録(イラスト本)を応募者全員にプレゼントしています。展示や図録の印刷も含め、大陽出版さんに全面的にご協力いただいています。

▲「例大祭キッズイラストコンクール」昨年、秋季例大祭会場での全作品展示の様子。写真は公式サイトより

青島:
 立ち上げた経緯ですが、当時の僕には、例大祭に対して危機感がありました。それはサークル参加者、サークル数が年々少しずつ減っていることです。例大祭の企画担当として、ひとりの責任者として、これは将来的に解決しなきゃいけない大きな問題だろうなと考えていました。

 当時、例大祭にはすでに多くのお子さまや親子連れの方々が参加していました。それを見て、将来的にその若い子たちが「自分からサークル参加したい」と思ってほしい、その動機につながる企画を立ち上げたい……というところから始まったのが「キッズイラコン」です。発案当初は、コンクールではなくサークル参加体験のような、いわゆるキッザニアみたいな形で考えていたんです。そこから検討を重ねて「夏休みの宿題」「自由研究」を目指す方針になり、最終的には今の「イラストコンクール」の形になりました。

 小さい子の発表の場を作ること。そして、東京の例大祭会場までなかなか来れないような場所に住む子供たちも気軽に参加できる、そんな発表の場にしたいという気持ちもありました。

――今の例大祭は、サークル参加数は減っていますが、(コロナ禍以前ですと)来場者数は減少していない状態でしたよね。来場者の人数は変わらないものの、実際に来る人の年齢層はこの数年で大きく変わりました。

青島:
 来場者数は増えている。でもサークル数が減っている。この状況は、即売会として良い状態ではありません。もっと、作品を発表する人が増えて欲しいんです。

 とはいえ、サークル参加の減少に強くアプローチできる即売会なんて、ほとんどないんです。できることとしても、宣伝をがんばってイベントの知名度を上げるといった広報向けの路線くらいしかありません。若い人がとても多い「例大祭」という特殊な即売会で、自分のいる企画担当で何か貢献できることはないか、そう考えたのが最初です。

――以前、例大祭スタッフの皆さんに伺ったインタビューでも、企画をたくさん立てて行っているのは、例大祭の特色だと仰っていました。広報に大きく体重をかけなくても参加者がずっと増え続けている即売会自体、ほかに類例が無さそうです。

例大祭は何故「即売会“以外”」をやるの? 常に新しくなる東方ファン層と、それを後押しする「ハレの場所」
博麗神社例大祭社務所インタビュー

――青島さんが参加サークルが減ってきていると感じたのは、いつごろからですか?

青島:
 2013年のピーク(第10回博麗神社例大祭は過去最大規模の5013スペース)で、そこからちょっとずつ減っているなとは感じていました。

 

「この教室で私が一番絵がうまい」を、経験できない

――おふたりにお聞きしたいのですが、「東方って若い子多いかも」と最初に気づいたときのこと、覚えていますか?

粗茶:
 気づきだした瞬間ですか……。

――即売会はおおむねサークル間の交流が主体で、 参加者さんとサークルさんがつながる瞬間は、スペースで作品をやり取りするときがほとんどです。ですが粗茶さんの動きを見ていると、そことは違う場所で「東方キャラをお絵かきする若い子たちが増えている」と気づいた瞬間があったんじゃないかなと思いまして。

粗茶:
 むしろ、逆かもしれません。若い子は増えているのに「あまりお絵かきをしていない」と思ったことが、私が「おえかき道場」を始めようと考えた一番の軸ですね。

▲粗茶氏のTwitterアカウント。

粗茶:
 私は、Twitterでフォローしてくれた方をできるだけフォローバックするようにしています。おかげさまで、私のイラストや東方が好きな学生さんが多くフォローしてくれています。そういう若い子たちを見ていてわかったことなのですが、若い子たちが描いたイラストって、タイムラインにそれほど流れてこないんです。

 その理由を自分なりに突き詰めた結果、おそらく若い子たちは“見ることに徹している”のではないか、と思いまして。どうやら、完全に消費側に回っているようなんですね。イラストはリツイートするもの、自分で描くものじゃない。もうそれだけで満足している感じなんです。

 ただこれは、世の中がそうなってしまったから、というのもあるんです。たとえば、フランドール・スカーレットが好きで「フランちゃんのイラストが見たい!」と思ったら、自分が描かなくてもTwitterやYouTube、pixivにとってもかわいいフランドールのイラストが山ほど流れてくるんですよね。そんな情報の波に飲まれて、自分でお絵かきをしてみようと思う子が、はたしてどれだけいるのだろうと。「あぁ、これでは創作者は生まれないな」と思いました。

――確かに昔に比べて、インターネットで自分の好きなキャラのイラストに出会うのは簡単になりましたね。探そうとしなくても目に入るくらいに。

粗茶:
 いい作品がたくさん見られるのはいいことです。でも、Twitterの功罪として「自分と同じくらいのうまさ」と思えるイラストを見る機会は、減ってしまった気がしています。

 Twitterというツールそのものが、自分の好きな人をフォローして、自分の好きな絵をリツイートして楽しむものです。自分が好きな絵師さんは自分より絵がうまい。そんな人が「すごい」と思う絵が、リツイートされて流れてきます。リツイートされたイラストは当然の様にうまく、自分の好みにも合うことが多い。そうなると、自分のタイムラインは素晴らしい絵だけで埋まってしまうんですよね。そんなところに自分で描いたイラストを投げ込むのは、とてもハードルが高いです。

――SNSによる「一億総全国大会化」の影響は大きいですね。そういう状況で、自分でイラストを描こうと思うには、ハードルが高い。

粗茶:
「この教室で私が一番絵がうまい」を、経験できないんですね。私たちの世代は「井の中の蛙」の経験を一度はしています。そこからいろんな表舞台を見て憧れて、そこを目指すために上手くなって、実際に挑戦してみて……と、段階を踏むことができました。今の子たちは、スタート地点でいきなり世界のトップランカーを見せられてしまうわけです。デビュー戦で世界チャンピオンに挑むようなもので、そりゃ勝てるわけないって諦めてしまうんですよね。その状況は、かわいそうだなと。

――クラスでみんなよりちょっと絵が描ける子も、今なら「YouTubeの〇〇さんのほうがうまいじゃん」なんて友だちに言われてしまうかもしれない。

粗茶:
 それがあるから当然絵を描かないし創作をしない、ということはサークル参加もしない。そうしたらサークル参加者は減っていく。“創るひと”と“消費に回るひと”という選択を、昔よりもかなり早い段階で選んでしまう子が多いと感じています。

「イラストを描いてみんなに見せること」の何が目的かといったら、結局「描いた、楽しい、見てほしい」が第一じゃないですか。そこが満たせないと、イラストを描こうと思う可能性は少ないわけです。その「描いた、楽しい、見てほしい」の一歩目、「描いた」に手を伸ばそうとしても、そもそも若い子の手元には画材がない。「鉛筆があれば描ける」という意見は、すでにイラストが描ける人の意見です。今まで描いてなかった子が始める理由には、ならないですよね。学校の授業で使う水彩絵の具なんかはありますが、少なくとも私が子供のころは、それを使うことに最初はなんとなく後ろめたさがありました。

 そんなさまざまな状況を見ていて、まず「描こう」と思えるようになる場所、画材を手にとって実際にお絵かきをしてみる場所として、「おえかき道場」を立ち上げました。

▲「幻想郷のおえかき道場」では、会場で参加者が描いたぬり絵を写真撮影して、後日Twitterにてそれぞれ紹介している。おえかき道場そのものが「描いた、楽しい、見てほしい」の場になっている。

――おえかき道場で実際に若い方とお話しして、今のお話をより実感することもあるのでしょうか。

粗茶:
 そうですね。これは(2022年3月の)新潟例大祭での話ですが、「コピックは初めて触ります、お絵かきも初めてです」という小3くらいの男の子が来てくれて。帰りに「僕、お絵かきのプロになります!」と言って、帰っていったんですね。「そう、そういうのだよ!」って、うれしくなってしまいました。

 この企画では、そういう子をたくさん生み出したいんです。おえかき道場がなければ、その男の子は、お絵描きでプロになろうだなんて思いもしなかったはずです。あの子の言葉で、おえかき道場のあり方、意義を改めて見出せました。

――どの道のプロだって、最初は完全に「やったことがない」ところからはじまります。最初の一歩を踏み出すのは本当に難しいことで、その「踏み切り板」として東方が役立っているのは、聞いていてうれしくなる話です。

粗茶:
 自転車だっていきなり補助輪なしで乗れる子ってそういなくて。塗り絵はいわばお絵かきの補助輪であるという風に考えています。なので、絵が完成したときに必ず「描いた本人が納得いく形」になることを心がけています。そうなるように、線画の時点で誰が塗ってもある程度のクオリティを出せる線画を作成する、ということを心がけて描いています。

▲粗茶さんが描くぬり絵の原画には、さまざまな色指定、試行錯誤のあとが残っている。

 

粗茶さんの「最初の一歩」

――この流れになると、やはり粗茶さんが最初に絵を描きはじめた、同人活動をはじめたきっかけの話をお伺いしたいと思ってしまいます。

粗茶:
 闇が深いぞ、そこは(笑)

――最初に絵を描いたのが何歳のころだったか、覚えていますか?

粗茶:
 物心つく前から「お絵かき」はしていたみたいです。家族親戚からは「ひいじいちゃんの血を引いてるね」と、よく言われていました。私の曽祖父は、水墨画を描く仕事についていたんですね。現代で言うところのイラストレーターのような仕事を、大正~昭和初期のころにやっていたらしくて。そこから進んで、私が同人を始めたのは……というかオタクが始まったのは、もういつからでしたかね……。

――同人がはじまる瞬間というか、「あ、このキャラの何かを私は作らねばならない」と気づく瞬間ってあるじゃないですか。

粗茶:
 ありますねぇ(笑) その瞬間でいうと、中学1年生のころの『幽☆遊☆白書【※】』……ですか?

【※】『幽☆遊☆白書』。冨樫義博が作者の少年漫画。「週刊少年ジャンプ」に1990年から4年間連載された。コミックス累計発行部数は5000万部を突破している。画像はAmazonより。

――はい。良いです。一番良いところですね。これがあるだけでおじさんたちは安心してこのインタビューを読めます。

一同:
 (笑)

粗茶:
 私が子供のころは、まだまだ“オタク”文化にかなり忌避感が強い時代でしたから、今みたいにカジュアルに知れる機会もなかったんです。絵は描いていたので、どうやら小学校のころから「あいつ同人誌描いてるぜ」って後ろ指を刺されてたらしいんですが。でもそのときの私は「同人どうじん」の「ど」の字も知らなかった。

――本人はわかっていないけど、すでに描いているイラストがもう同人誌的なものになっていたんですね。

粗茶:
 中学生になって友だちから初めて同人誌を借りたのが、同人文化との出会いでした。同人誌のどの字もわかっていないから、借りるときに「コピー本だけど貸すよ」と言われた、その「コピー本」がそもそもわかってないんですよ。コピー本ってなんだろう?と思って、母に聞いたんですよね。

――いきなりお母さんに聞いたんですか!

粗茶:
「同人誌って何? コピー本ってどんな本?」って聞いたら、母は頭を抱えて……「同人誌とは、おそらく同じキャラクターを使っている本であろう」と。コピー本のことは「キャラクターをコピーしてるんじゃない?」と(笑)

――お母さんなりに考えて答えを出してくれたんですね(笑)

粗茶:
 後々、その答えが間違っていることを知るんですが(笑) 自分で調べてハマって、同人文化とはなんなのかがわかっていきました。

 即売会にも初めて参加して、そこで好きな作家さんに描いてもらったスケッチブックの絵は今でも実家に残しています。かたぎり あつこさんという方ですね。その方の描く(『幽☆遊☆白書』の)雪菜が大好きだったんですよ。のちに、御本人さまから友人を通して「(粗茶さんの絵、)私の絵に少し似てますね」とコメントをいただいたという経緯がありまして。そのときはよし、死ぬか!と思いました。

――それは死にますね……(笑)

粗茶:
 このペースで話し始めるとめちゃくちゃ長くなりますよ、大丈夫ですか。

――大丈夫です(笑) 今、その粗茶さんに憧れて絵を描いている若い子がたくさんいるわけですから。みんな聞きたい話だと思います。そこから、東方を初めて知ったときの話を伺ってもいいですか。

粗茶:
 東方に初めて触れたのは、私の弟がいきなり自分の部屋に来て「コピックを貸してくれ」と言い出したことからでした。そのコピックで弟が妖夢を描いたんです。その絵の横に「半人半霊の庭師」と書いていて――「半人半霊って何?」と。

▲粗茶さんの弟、鈴木りつさんは現在漫画家として活動されている。

――引っかかりますね、そのワード。

粗茶:
 人と幽霊はあくまで水と氷のような状態変化であって、それがハーフ&ハーフになってる……? 半人半霊ってなんだ、死にかけなの?……みたいなところが引っかかっちゃって。東方に対して最初に思ったのは「そんなことを考える人がいるのか」「常識をぶち破っている作品だ」ということでしたね。

 その後、弟のサークルの手伝いで、2008年の東方紅楼夢に参加しました。弟のサークルでは当時、2008年最新の地霊殿まで含んだ全キャラ缶バッジをつくっていて、デザインの文字入れを私が担当したんです。その年の東方紅楼夢には、会場(京都市勧業館みやこめっせ)の周りを列が何周もできるほどたくさんの人が詰めかけていました。それを見てふと、「なんで私は机の内側にいないんだろう」って思ったんですよね。

 

東方キャラの「アイコン化」された配色パレット

――「なぜ、自分も東方でなにかを作っていないんだろう」と感じたんですね。粗茶さん自身は、そのときすでに別のジャンルで同人活動自体は行っていたんですか?

粗茶:
 そうですね。途中から社会人になって、同人を休んでいた時期も長かったんですが。「なんで内側にいないのか」と気づいてすぐに、東方でのサークル参加を始めました。実際にやってみたらやっぱり面白くて、もっともっと東方キャラのことを知らなきゃ、知りたい、と思うようになりました。全キャラ把握するために、どんなキャラなのか、どんなデザインなのかを把握するために描き出した落描きが、今の全キャラクリアファイルにつながっているんです。

▲「東方Project全キャラ早見表2021ver」。粗茶さんが定期的にリリースしているクリアファイル。ZUNさんも使っていて、打ち合わせでキャラの名前が出てこなくなったときに重宝しているそう。

粗茶:
 あれは最初、自分用の色パレットとして書いたんですよ。霊夢を描くときは、服がこの赤と白、髪がこの色……という感じです。あのSDキャラからスポイトで色を持ってくれば良いので。

――もともとは実用目的で作られたのですね。そこから、おえかき道場のぬり絵を4色のコピックで完成させるようになった話にもつながってきます。

粗茶:
 描き始めたら、東方キャラはデザインがとても優れている作品だ、ということに気が付きました。数年前に「赤はこのキャラ、青はこのキャラ」みたいな、一色一キャラの単純な分け方ができなくなった時期があったじゃないですか。赤は60%、黄色30%、白が10%……みたいな、色バランスでそのキャラを表すようになった。単色じゃなくて、色パレットがそのキャラのアイコンになった時代があって。ソーシャルゲームなどで一作品のキャラ数が増えた結果ですね。

 その点東方は、最低限のお約束さえ守っていれば誰が描いてもそのキャラに見える。これって当たり前に見えて、当たり前ではないんですよね。霊夢はその最たる例で、見た目や衣装がアレンジされるのがもはや前提になりつつあります。赤いリボン、茶色~黒の髪、分割された袖(と腋出し)、もみあげカバー(?)。これだけ揃っていれば「霊夢です!」と名乗っても、誰も文句を言わない。

▲今年話題になった「西川貴教霊夢」。この姿ですら博麗霊夢に見えるデザインの妙。

――特徴的なパーツがシンプルなので、アレンジもしやすいわけですね。それこそ色だけでもあっていればなんとなく霊夢に見える。赤いリボン、黒髪の“紅白巫女”と。

粗茶:
 そういう「アイコン化」された服飾、色パレットというのが、古い同人をやってた人間からすると、とても馴染みやすかったんです。昔のゲームはキャラクターがドット絵で描かれているから、それをイラスト化したときの服飾アレンジも、わりと自由なところがありました。
 技術が進んでだんだん画面解像度が上がって、キャライラストをそのまま表示できるようになると「このキャラクターはここにこのアイテムが付いてないとこのキャラじゃない!」みたいなことが気になる人が増えてしまったんです。言葉を選ばずに言えば“めんどくさい人”がいっぱい現れたわけですよ。「○○なのに髪に△△がついてない」とか「フリルの量が違う」とか。

――“○○警察”的な話ですね。

粗茶:
 東方には、イラストに関してそういった指摘をする人が少ないジャンルなんだ、というのが大きな衝撃でした。どんなアレンジをしても「それもまた東方だね」というか、いくつかの要素さえ押さえれば、全員が「霊夢」だと認識してもらえる――なんて素晴らしいジャンルなんだ、ここに骨を埋めよう、と決めましたね。

――「幻想郷はすべてを受け入れる」という概念は、長く同人をやってきた人ほど喜ばしいものだったんですね。

コラム:忘れられないFlowering Night2009

 

 前編はふたつの企画の成り立ちを中心に、粗茶氏がお絵かきに目覚め、東方でサークル活動を始めるきっかけ、東方キャラが最初のお絵かきに向いている理由などを伺った。後編は「キッズイラコン」の盛り上がりや、「おえかき道場」にやってくる“親御さん”たちの声、この企画の今後と目標について伺います。

告知

幻想郷のおえかき道場

おえかき道場、東方紅楼夢に初出展! 今年は秋のイベントに2回参加します。

「レミリア・スカーレット」「フランドール・スカーレット」「東風谷早苗」が新作ぬり絵として登場します!

◆開催情報

10月9日(日)第18回東方紅楼夢

会場:インテックス大阪 6号館
スペース:6号館Dスペース「東方お絵かき教室」

10月23日(日)第九回博麗神社秋季例大祭

会場:東京ビッグサイト 西ホール
スペース:西ホール アトリウム

例大祭キッズイラストコンクール

大好評につき4回目! 小学生、中学生だけが参加できる、東方Projectのイラストコンクールです。(応募は締め切りました。)

今回の応募総数は約420作品! すべての応募作品を秋季例大祭会場に展示いたします。また今年から、全作品を例大祭ホームページにも掲載いたします。

会場では、応募作品が収録された「例大祭キッズイラストコンクール図録」をグッズとして販売いたします。

◆開催情報

10月23日(日)第九回博麗神社秋季例大祭

会場:東京ビッグサイト 西ホール
展示場所:西ホール アトリウム

お絵かきの最初の一歩を踏んでほしい。東方の「色パレット」は初めてに最適。ー「幻想郷のおえかき道場」代表 粗茶氏、 「例大祭キッズイラストコンクール」担当 青島氏 インタビュー おわり