音ゲーの譜面ってどうやって作ってるの?『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』譜面制作チーム:3DOD氏、s-don氏、TAG氏インタビュー
『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』譜面制作チーム:3DOD氏、s-don氏、TAG氏インタビュー
いよいよ発売が目前となった『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』。このタイトルは、2022年10月28日に惜しまれながらもサービスを終了した東方Project初公認スマートフォンゲーム『東方ダンマクカグラ』をリビルドした音楽ゲームだ。
そんな『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』とはいったいどんなゲームなのだろうか。リリースを記念して、東方我楽多叢誌ではその裏側に迫るインタビューを3日間連続でお届けする。
第二弾は、音楽ゲームに欠かせない「譜面」制作チームへのインタビューだ。協力してくださったのは、前作にも参加している3DOD氏とs-don氏、そしてTAG氏だ。
TAG氏といえば、そのキャリアを『GuitarFreaks』『DrumMania』のコンポーザーとしてスタートし『Dance Dance Revoltuion』のサウンドディレクターを努め、KONAMIを退社後も『CHUNITHM』など数々の音ゲーに楽曲提供を続ける、音ゲー界のレジェンドのひとりだ。『ダンカグ』には『天狗ノ華/TAG feat. ビートまりお』という曲を楽曲提供していたが、なんとTAG氏は譜面制作チームにも参加していたのだ。しかも『ファンタジア・ロスト』からではない。スマートフォン版から、らしい。
そんな前作に引き続き譜面制作を担当した3名に「そもそも、音楽ゲームの譜面ってどうやって作っているの?」というシンプルな疑問をぶつけてみた。近年タイトルが増え続ける音楽ゲーム、しかしその裏方である「譜面制作者」が何をしているのか、何を考えて制作をしているのか、その苦労に光を当てた文献は実は多くない。
『ファンタジア・ロスト』の譜面はすべて、スマホ版『ダンカグ』の譜面から新しく作り直されている。「タッチパネル音ゲー」の譜面をすべて「物理ボタン音ゲー」の譜面に作り変えるというほとんど前例のない作業に、譜面制作チームはどのように立ち向かったのか。どのパートも大変貴重な内容になっている。音楽ゲームが大好きな人に、ぜひ読んでほしい。
インタビュー:にしかわ
文・編集:西河 紅葉
知られざる秘密
――本日はお集まりいただきありがとうございます。前作『東方ダンマクカグラ』に引き続き『ファンタジア・ロスト』でも譜面制作をご担当された皆さまに、本作の音楽ゲームとしての魅力についてお伺いできればと思います。まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。
3DOD:
3DODと申します。『ダンカグ』の譜面制作では、すべての譜面の制作管理をしていました。どの方にどの譜面を作っていただくか、納期管理とか品質管理とか……主に“工場長”的な役割をしています。
――「譜面の品質管理」というワードもユーザーさんは聞き慣れないかもしれないので、あとでお伺いさせて下さい。
s-don:
s-donです。前作『ダンカグ』では譜面の制作と、途中から譜面ディレクターとして監修も行っていました。『ファンタジア・ロスト』では、譜面の制作と監修ディレクターとして参加しています。
――s-donさんはサービス終了時の放送や、『ダンカグ』サウンドトラックが秋季例大祭で頒布されたときにスペースに立たれたりしていて、ファンのみなさんにとっておなじみかもしれませんね。そしてお次の方は……ここで情報が完全初出しになりますね。よろしくお願いいたします。
TAG:
作曲家のTAGです。『ファンタジア・ロスト』で、譜面監修ディレクターと譜面の制作を担当しています。実は、スマホ版『東方ダンマクカグラ』でも譜面の制作を担当していました。
――数々の音ゲーにも楽曲提供されているTAGさんが、実は『ダンカグ』に譜面制作で参加していました。ファンの方は驚かれたのではないでしょうか。『天狗ノ華』での楽曲参加は告知されていましたが、スマホ版から譜面を制作されていたんですね!
TAG:
はい。スエヒロ名義で制作しておりました。
3DOD:
『天狗ノ華』の譜面も、スエヒロさん制作ですよね。
――スエヒロさん=TAGさんだったんですね! 『天狗ノ華』はある種のひとり合作名義だったと。
TAG:
スエヒロという名義は一度だけ『SOUND VOLTEX』のエフェクター(譜面制作者)で使ったことがあって。でもそれがTAGであることは明かしてなかったんですけど。
3DOD:
察しのいい人はスエヒロさんがTAGさんだって気づいていたみたいですね。何件かSNSで見かけましたよ。
――わかる方にはわかるのですね。そして今回のインタビューにも『ファンタジア・ロスト』のディレクター、AQUASTYLEのたかむらさんにも同席いただいております。
たかむら:
よろしくおねがいいたします。
――今回のインタビューは、もちろん『ファンタジア・ロスト』のお話もお伺いするのですが、そもそも「音楽ゲームの譜面ってどのように作っているの?」という疑問についても伺えればと思います。
『ダンカグ』の譜面って、どうやって作ってるの?
――まずそもそも、音楽ゲームの譜面ってどのように作っているのか、というところを伺わないといけないと思っています。最初に、s-donさんとTAGさんは譜面ディレクターとしてどのような仕事をされたのでしょうか?
s-don:
『ダンカグ』の譜面はおよそ20人近くの譜面制作者の手で作られています。それぞれが作った譜面を監修してより良くなるようなフィードバックを送ったり、手直しを入れたりします。『ファンタジア・ロスト』の初期実装曲とDLC1をあわせた楽曲総数は90曲以上あり、さすがにひとりでは見きれないので、ぼくとTAGさんのふたりでチェックしました。
3DOD:
おふたりにチェックいただいた譜面を私のほうでさらに監修、その上でアンノウンX開発チームの“譜面審議会”が最終チェックを入れて、最終バージョンが決定します。s-don&TAG→3DOD→譜面審議会、の3工程で確認していますね。
――かなり綿密な制作フローですね。そこまでしなければいけない理由があるのですか。
3DOD:
音楽ゲームの譜面制作には、いわゆる「宗派」的なものが存在するんです。なので答えがひとつに定まらないんですね。そういう“宗教戦争”的なものを調停する役が一定必要で、スマホ版での制作フローの見直しなどを経て、この形になりました。
――もっと初歩的なことから伺ってもいいですか。みなさんは、音楽ゲームの譜面をどうやって作っていますか? 最初にやること、考えたりすることを知りたいです。
s-don:
そうですね、もちろん曲を聴くところから始まるんですが……。
ぼくの場合、最初に考えるのは「そのタイトルがどういうプレイスタイルなのか」というところですね。スマホ版『ダンカグ』なら、タッチパネルで7レーンでキー音が別れていない【※】などの基本情報から、全体の方向性として「ボーカルをメインに叩かせる」か「リズムトラックをメインに叩かせる」か……そういう、そのタイトルが目指す方向性みたいなものを決めたり、制作チームと話し合ったりして、その上でどういう音取りをするか、自分の中で楽曲を噛み砕きながら作っていきますね。
ゲームがリリースされたあとなら、ユーザーさんの反応などを見ながら、その方針を調整していったりもします。こっちの方向性がみんな好きなんだねとか、手探りですが。
【※】音楽ゲームには、バック再生される音楽がリードトラックの音を省いたもので、流れてきたノーツを叩くことで楽曲自体の音(キー音)が鳴って音楽が完成するいわゆる「楽曲演奏タイプ」と、再生される楽曲に合わせてノーツを叩くと専用のエフェクト音が鳴る「リズムゲーム(パフォーマンス)タイプ」が存在する。前者は『beatmania』『ポップンミュージック』、後者は『CHUNITHM』『jubeat』など。スマホ版『ダンカグ』後者に当たる。
スマートフォンでプレイする音ゲーでは端末の性能が千差万別なため、楽曲とノーツ音再生の完全同期を取るのが難しいなどの理由があり、ほとんどのタイプが後者である。
「楽曲演奏タイプ」beatmaniaⅡDX
「リズムゲーム(パフォーマンス)タイプ」CHUNITHM
TAG:
ぼくはまず楽曲の背景情報を調べます。どういうアーティストさんが作ってるのか、誰が歌っているのか、著名な楽曲であれば、巷でどういう評価を受けているのか、とか。ライブでよく歌われる人気曲であればお決まりの掛け声があったりして、そこに合わせてノーツを叩かせたりとか。その曲の持つ力、勢いを引き出すような譜面を作るようにしています。
3DOD:
私の場合はノーツの密度設計が最初ですね。楽曲を聴いた上で、譜面全体としてどこに難易度のピークを置くかを考えます。これをしないと譜面全体の難易度がガタガタになり、いわゆる「局所難」と呼ばれるものになって、ユーザーさんからは嫌われる譜面になりがちなんです。なので、この楽曲における難しさのヤマをどこに作るかを決めて、そこに合わせてほかの場所のノーツ密度を考える感じです。
――s-donさんはゲームの方向性を重視したゲームディレクター的な考え方、TAGさんは楽曲をどのように盛り上げるかというアーティスト的な考え方、3DODさんはプレイヤーが遊んでどう感じるかという音ゲーマー的な考え方。人によってここまで大きく作り方が違うのですね。
s-don:
全然違いますね。ディレクターをしているととても感じます。作る人によって重視しているところが違うな、というのが譜面に個性として現れます。そういう個性を活かしつつ、でもゲーム全体の方向性をずれないように整えて、最終的にはユーザーさんが一番楽しめる譜面として仕上げる、というのが「譜面の品質管理」という仕事ですね。
――ゲームの特性を理解した上で、制作者の個性も出しつつ、ユーザーが楽しめるように。少し伺っただけでも、大変興味深い内容です。
本当に、譜面制作の話が公の場で語られることって少ないと思うんです。近年本当にたくさんの音楽ゲームがリリースされるようになったのに、ほかのゲームジャンルに比べて制作者が語っている情報がすごく少ない。譜面制作者インタビューも、Yamajetさんのものくらいしか正直見かけたことがなくて。
s-don:
そうなんですよ。そもそも「このゲームの譜面を作っています」って公の場で言えることも少ないんです。なのでこういう場を設けてくださったことに本当に感謝しています。
それぞれの音楽ゲームとの馴れ初め
――譜面制作へのアプローチを伺っていると、みなさんのバックボーンが気になってきました。最初に触れた音ゲーって、なんでしたか?
s-don:
なんだったかな……。たぶん、ジャスコ(現:イオンショッピングセンター)にあった『太鼓の達人』かもしれないです。それで『夏祭り/Whiteberry』を遊んだのが最初かな、中学1年生くらいのころだと思います。
s-don:
そのあとすぐに自分のPCを買ってもらって、インターネットの海に潜り始めて、自分で譜面が作れるタイプの音ゲーに出会う感じですね。
音ゲーで遊んだことがきっかけで、自分でも作曲を始めました。ネットの音ゲーコミュニティには自分で音楽を作っている方がたくさんおられたので、この人たちに教わりながらぼくも音楽を作れるかな、って。いまは音楽ゲームにも曲を収録させていただいて、譜面も作らせてもらって……こんなことになるならもっとちゃんとしたハンドルネームにすればよかった(笑)
3DOD:
私の最初の音ゲー、といわれると『パラッパラッパー』になっちゃいますね。本当に最初は。
s-don:
ぼくも遊んでました! そっちのほうが最初かも。
3DOD:
そのあとは初代『beatmania』ですね。5鍵盤の。ゲームセンター通いは小学校のころからやっていて、大学受験浪人中の年にそれが出まして。大学に受かってからはどっぷりハマって、もう『beatmania』しかやらなくなりました。そこからずっと、アーケード音ゲー一筋でやっていましたね。
TAG:
ぼくも『パラッパラッパー』が最初ですね。アーケードだと『Dance Dance Revolution』が最初です。先に『Dancemania』というコンピレーションCDをよく聴いていて、その楽曲で遊べるゲームがゲーセンで出るぞ!という告知を当時のファミ通で見かけたんです。それで遊んでみたらめちゃくちゃ面白くて。プレイステーション版が出たらすぐ買って、家でもひたすら遊んでいました。
そこからKONAMIに入社して、楽曲を作る一環で「譜面も作ってみない?」って誘われて始めたのが、譜面制作のきっかけですね。
東方の歌うようなメロディは、音ゲーに向いている
――さまざまな音楽ゲーム楽曲を作られたTAGさんにお聞きしたいんですが、東方Projectの楽曲って、音ゲー曲は作りやすいですか?
TAG:
めちゃめちゃ作りやすいですね。
――TAGさんは『beatmania ⅡDX』でも「ハルトマンの妖怪少女」アレンジの『無意識のフィロソフィア』をリリースされています。実際、東方アレンジのどういった部分が音ゲーに向いているのでしょうか。
TAG:
東方の原曲って、ボーカルがないインスト曲なのに、ボーカルみたいなメロディなんですよね。歌うようなメロディラインなので、歌モノのような感覚で作れるのが、東方音ゲーアレンジの魅力なのかなと思います。曲の構成も「AメローBメローサビ」みたいな感じなので、ポップス的なアプローチで作れます。
――TAGさん自身が東方を知ったのは、どのタイミングだったんでしょうか。
TAG:
いつだったかな? インターネットに触れたのが高校を卒業したあとだったので、結構遅いかもしれません。ニコニコ動画で流行っているのを見たのが最初だと思います。ビートまりおさんもそこで知りました。その時から、機会があれば東方アレンジをやりたいと思っていました。
――実際に東方アレンジを制作してみて、どうでしたか?
TAG:
『天狗ノ華』のときは、原曲の「星降る天魔の山」を聴いて、やはり東方のポップス的な楽曲展開がものすごく作りやすいと感じました。ビートまりおさんの歌が乗るイメージもすぐにできましたね。ひとつだけ苦労したことで言うと、メロディアス過ぎてどのパートもサビになり得る強さがあったんですよ。なのでどのメロディをサビにするかすごく悩みましたね。
――スマホ版の『ボーダーオブライフ』はTAG(スエヒロ)さん制作の譜面ですよね。東方原曲に音ゲーの譜面をつけるという仕事は、なかなかない経験かなと思うのですが。
TAG:
『ボーダーオブライフ』はリズムが難しくて、それをどのように落とし込むかにすごく苦労しました。原曲はシューティングゲームのための曲、しかもかなり特殊なシーンで流れるので、起承転結の形が音ゲー曲とは少し違い、どのように楽しく遊ばせるか頭を悩ませました。
制作者の顔が見える『ダンカグ』の譜面
――せっかくなので、ちょっとだけスマホ版『ダンマクカグラ』の譜面の話もさせてもらってもいいでしょうか。
3DOD:
リリース当初はいろいろ、ありましたね……。
たかむら:
ありましたね……。
s-don:
リリース直後にしたエゴサ、きつかったですね……!
――時代背景として、スマートフォン音ゲーの過渡期にリリースされたタイトルだというのがあると思うんです。
3DOD:
『ダンカグ』のリリース前に『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(プロセカ)』が出て、スマートフォン音ゲーにおける音取りのあり方に新しい視点ができて、完全にゲームチェンジしちゃったのは感じていましたね。
――当時としては「それ、スマホでやっていいんだ」的な譜面が実装されていましたよね。有名な所だと『初音ミクの消失(MASTER)』とか。
3DOD:
基本的に親指でやるものというスマホ音ゲーで、明らかに「いやそれはスマホぶっ飛んでいくでしょ」みたいな譜面を出した『プロセカ』は画期的ではありましたね。
s-don:
『ダンカグ』初期の譜面にはユーザーの皆さんからもいろんな意見を言っていただいて、すべてではないですが拝見していました。厳しいご意見もたくさんあり、心に来る瞬間もありました(笑) それでも目を背けず受け止めながら、取り入れられる改善案は積極的に取り入れていきましたね。
たかむら:
そういうこともあって『ファンタジア・ロスト』では譜面の監修体制がいまの3チェック制になった感じもあります。
――もうこのタイミングでしかないんでお聞きするんですが、譜面制作者の「徳永」さんはどういう人なんですか。
3DOD:
徳ちゃんね、世間で大人気ですね。
TAG:
そうなんですか? なんかすごいピックアップされますよね。
――非常に個性的な譜面を作られるので、ユーザーからは「徳さん」と呼ばれて愛されていました。
3DOD:
彼は音楽ゲームプレイヤーとしての信念を持って譜面を作ってるタイプですね。高いハードルをプレイヤーに超えてほしい、という精神で制作している人間です。ドSというか。
s-don:
「俺はこれが面白いと思うから」ってはっきりいいますからね(笑) ぼくはわりと早めに心が折れちゃったほうだけど、徳永さんは本当に最後まで折れなかった。
たかむら:
制作目線だと、まらしぃさんの『ネイティブフェイス(ダンカグ special ver.)』の音取りをやってくれたのは本当にすごいと思いましたよ。あの曲、完全なるフリーテンポ(テンポが一定ではない)曲だから。音取りが尋常じゃないくらい大変なはず。
s-don:
徳永さんは絶対にダンカグに必要な存在だと思ってるんですよ、間違いなく。みんな同じ感性の同じ人が作った譜面ばっかりだと、結局つまんなくなってしまうとぼくは思ってて。ちょっとトゲのある譜面とか、こういうアプローチもあるんだって感じさせる譜面もあったほうが、ゲーム全体のバランスが良くなるんです。
――スマホ版『ダンカグ』の譜面は、制作者の顔が見える譜面でしたよね。
s-don:
個性がめちゃくちゃ発揮されていました。当時の譜面なら、制作者の名前をすべて伏せた状態でも「これは○○さんの譜面です」って当てられる自信がありますよ。
3DOD:
よく言われるんですが、私の譜面ってそんなに縦連が多かったですか?
TAG:
多かったです(笑)
『Re:Unknown X』がはてしないものになったワケ
――譜面制作者の話になったので、これも聴いちゃいましょう。スマホ版の『Re:Unknown X』の譜面って誰が作ったんでしょうか。MNO2さんって、誰なんです?
3DOD:
これは本人から公開許可も得てきました。MNO2の正体はCitys Springさんです。……なんですが、ベースとなる譜面は彼が作って、それを譜面チームほぼ全員で監修しているので、実質全員合作のようなものですね。
最初に出てきた譜面は、あそこまでのものではなかったんですよ。それを私が見て「まらしぃさんからいただいた曲を聴きなさい。ここは16分音符ではなく、24分音符でしょう? さあ、ノーツを増やすのです」って囁きました。
――悪魔の囁き!
TAG:
チームのチャットで「この配置、大丈夫かな?」っていうのが回ってきて「まあ最後だし、いいんじゃない?」って返した記憶があります。
s-don:
囁きが入ったあとの譜面を見たんですが、ぼくは一言「(どうなっても)知らんよ」と言いました。
一同:
(笑)
3DOD:
LUNATICの難易度が「X」表記にふさわしいものになったのは、基本的に私のせいです。
――MNO2とは、ダンカグ譜面チームALL STARSにひとつまみの悪魔の囁きが加えられたものであると。全員共犯でした。
たかむら:
最後のどでかい花火としてふさわしかったと思います、ほんと。あの時は開発陣全員が「『Re:Unknown X』は果てしないものにしましょう」って、全員同じ方向を向いていましたからね。
s-don:
サービス終了であんなにでっかい花火を打ち上げるゲーム、ないですよ。意味がわからないです。
――その結果、ミタマカードサポートなしでのフルコン達成報告まで4日間、ALL BRILLIANTに至っては10日間かかった(しかも達成者は2人だけ)という、スマホ音ゲーでも類を見ない難易度になったわけですね。
そして最後に、
・Re:unkown Xのプレイデータ
を公開!
なんと判定強化スキルなしでのALL BRILLIANT達成者が2名いらっしゃいました!https://t.co/qOs621BaPV#ありがとうダンカグ#ダンカグ pic.twitter.com/AuqydzlEZu— 東方ダンマクカグラ◆Steam版 2024年2月8日発売決定! (@danmakuJP) October 28, 2022
s-don:
ぼくたちはこれまでの長い音ゲーの歴史を見てきたので、ALL BRILLIANTが出ないとは思っていなかったんですよ。どれだけ難しいボス曲でも倒されてきたから。10日間出ないとは思ってなかったですけど。
3DOD:
だって、まらしぃさんはこれを片手で引いてるわけですからね。人間にできないはずないんです。
s-don:
でもそのまらしぃさんはフルコンできなくて、配信でぷんすかしてましたよ。
一同:
(笑)
3DOD:
『ファンタジア・ロスト』版の『Re:Unknown X』もご期待下さい。パワーアップした新しい体験が待っています。
ライブパフォーマンスか、演奏か――タッチパネルと物理ボタンの大きな違い
――『ファンタジア・ロスト』の譜面は、前作の譜面からすべての楽曲を作り直しているんですよね。
たかむら:
はい。レーン数を7から6に変えて難易度も4つにしていますし、何よりタッチパネルで楽しい譜面をそのままキーボード入力、コントローラー入力のゲームに持っていっても、面白くないんです。なので実装するすべての楽曲の譜面は、作り直しています。
s-don:
すべての楽曲ではないですが、もとの譜面のニュアンスをできるだけ活かしたような形にしているつもりです。ぼく自身の考え方として『ファンタジア・ロスト』はもとの『ダンカグ』あってのものだということを重要視していて。このゲームが発売に至るのは、さまざまなユーザーの応援があったからだし、だからクラウドファンディングにあれほどの支援が集まったんだと思います。そのファンたちの『ダンカグ』でのプレイ体験みたいなものを、できるだけ失わせたくない、という思いがぼくの中で強かったんですね。
とある楽曲の制作の時、制作方針を「完全に別物にする」か「元譜面を最大限活かす」かで、ものすごい長い議論になったこともあります。
――スマホ版から『ファンタジア・ロスト』でどのように譜面が変わったのか、前作を遊んでいるユーザーはその変化も楽しめますね。
s-don:
緑ノーツやスライドロングノーツはそのまま入れられないので、どういうふうに翻案するかすごく悩みましたね……。そもそもレーンの数がひとつ減るだけで、同じ配置にしても全然同じ体感にならないんですよ。でもできるだけその色は残したい。各制作者も苦労しながら対応してくれたので、その思いに感謝しながら監修していました。
TAG:
スライド操作って、それだけで間が埋められるんです。ボタンのロングノーツだと、ただ押しているだけではユーザーにとって退屈な時間になってしまう。スライドロングのときには気にしなかった「間の埋め方」を試行錯誤した記憶があります。
――大きな苦労があったのですね。そもそも、タッチパネルの音ゲーとキー入力の音ゲーの一番大きな違いってなんでしょうか?
TAG:
いくつかありますが、ひとつはボタンの「打鍵感」ですね。タッチパネルは押した感覚が返ってこないデバイスなので、遊んだ気持ちよさの伝え方が物理ボタンと違います。もうひとつは「横移動(スライド操作)ができる」ことです。ボタンではこれができません。
――ボタンの打鍵感があるとリズムが取りやすくて、スライド操作があるとメロディーに合わせて画面をなぞるような楽しさがありそうですよね。
TAG:
なので、操作デバイスが違う時点で、楽曲のどの音を取って叩かせるか――「音取り」の仕方が変わってしまうんです。気持ちよさのポイントが違うので。
s-don:
キー音が別れている音ゲー(楽曲演奏タイプ)だと、ボーカルパートをキー音にするとブツブツと途切れてしまうので、できないことがほとんどです。だからリズムトラックやシンセリードを取ったりする。逆にタッチで音が鳴る(リズムゲームタイプ)ゲームでボーカルを取らないと、音楽に合わせている感覚が薄くて違和感が強くなってしまいます。
音楽を演奏するのか、音楽に合わせてライブパフォーマンスをするのか。例えるならそういう違いですね。
3DOD:
『ファンタジア・ロスト』は物理ボタン入力ですが、キー音が別れているタイプではありません。ボタンを押すとシャンシャンと音が鳴るタイプですね。この方式の良いところは、リズムを取ってもボーカルを取っても、どっちを取っても違和感がないってことなんです。
ボーカルがないリズム主体の楽曲でしっかり音楽を演奏した感覚を持たせる譜面もつくれますし、ボーカル主体の楽曲ではライブで腕を振り上げるようなパフォーマンスの楽しさを引き出す譜面も作れる。ハイブリッド型になっていると思います。
――両方のいいとこ取りなのは素敵ですね。
3DOD:
『ファンタジア・ロスト』では、たかむらさんから「ボーカルや原曲のメロディを意識して音取りをしてほしい」とオーダーを受けていて、もともとの楽曲や原曲を知っている人がより楽しめるような譜面制作を目指しています。それが叶えられるシステムになっているので、楽しみにしていて下さい。
どのキーボードで遊んでる? 譜面チームのキーボード
――みなさんはどのキーボードで『ファンタジア・ロスト』をテストプレイしていますか?
s-don:
ぼくはロジクールのG610ってキーボードを使っています。音がカシャカシャなって、一番音ゲーやっていて気持ちいいです。
TAG:
ぼくはMac上でWindowsを動かしているので、Macのキーボードですね。それでも全然遊べますよ。指への負担が少ないのも良いです。
3DOD:
もう販売は終了しているのですが、BUFFALOのG500というキーボードを使っています。メンブレン式なので指も疲れないし、5000円くらいで安かったので。あと、丸洗いできるのも魅力です。
たかむら:
PC音ゲー用のキーボードを買う時は、必ず「Nキーロールオーバー」という機能に対応しているものを選んで下さい。この機能がないと、複数キーの同時押しをキレイに認識してくれません。
ツクモネットショップさんの方で『ファンタジア・ロスト』をプレイするのにオススメのキーボードをまとめたページを公開していただきました。こちら大変よいまとめになっているので、ダンカグのためにキーボードを買おうと思っている人は、ぜひ参考にして下さい!
【祝🎉 2/8Steam版発売】
『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』やっぱり…東方…といえば…キーボード!な方へ
「当タイトルにオススメのキーボード」
をまとめてみました🙌https://t.co/VY7yAyfJoQ#ツクモ #東方ダンマク祭 #ダンカグ #ファンタジアロスト pic.twitter.com/pmGT3IZZst— ツクモネットショップ (@Tsukumo_netshop) February 3, 2024
東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト おすすめキーボード特集
s-don:
ゲームパッドでも遊べますし、ぼく自身もゲームパッドでのクリアチェックとレビューを行っています。それでも個人的には、キーボードでやってほしいかなと思いますね。大きめの電気屋さんに行けば、いろんなキーボードが触れる形で展示してあります。実際に触って押し心地を確かめてみて、自分好みなキーボードを探してみるのも面白いですよ。
たかむら:
ローンチ時点ではノーツの変更システムが入っていないんですが、リリース後早い段階で実装予定です。
譜面の「宗派」――なぜ音ゲーマーは譜面で宗教戦争を繰り返すのか
――ここまで来ると、この話を訊かなければいけない気がしてきました。冒頭に話された、譜面制作者の「宗派」というものは、どこから生まれるものなんでしょうか? 音楽ゲーマーは、なぜ譜面を見て宗教戦争をしてしまうのでしょうか?
3DOD:
難しいですね……。端的に言うと、人それぞれ音楽に対して持っているバックボーンが違うから楽しみ方がそもそも違う、ということに尽きると思います。ひとつの楽曲に対して「この曲はリズムが楽しい」「メロディラインが楽しい」「ボーカルが楽しい」って、感じ取り方が十人十色なんです。どれを取るかでユーザーの反応がまったく変わるのは当然だと思っているんですよ。
s-don:
「どう考えてもこの曲はメロディ取るべきじゃない?」って曲も、ゲームの方向性とスタイルによってはリズムトラックを取るのが正解、になることもあるんです。そのあたりもそれぞれが感じる「正解の譜面」が違って、話が複雑になる原因ですね。
――それぞれが遊んできた音楽ゲームによっても変わりそうな部分ですよね。
s-don:
作ってるゲームは同じでも、辿ってきた道は違うので。これが宗派です。
3DOD:
実例をあげるなら「2回目のAメロを、1回目のAメロとまったく同じ譜面で作るかどうか」ですね。
一同:
あ~。わかる。
3DOD:
ぼくはその場合、演奏タイプのゲームなら同じであるべき、パフォーマンス(リズムゲーム)タイプのゲームなら変わってもいい、というタイプです。
s-don:
パフォーマンスタイプのゲームなら、同じことを2回やっても退屈じゃんって感じるユーザーが多いので、配置を変えて飽きが来ないようにします。。でも叩かせるパートは大きく変えない方がいい。Aメロでボーカルの裏でストリングスが鳴ってて、1回目はボーカル、2回目はストリングス、みたいな取り方に違和感を感じる人は、近年の音ゲーを触っている人ほど多いんじゃないかな。
――こういった譜面制作の細かな気遣いポイント、ほとんど言語化されていない世界ですよね。
s-don:
そもそも譜面制作者がこんなに注目されるゲーム自体、かなり少ないと思います。最近ようやくさまざまなタイトルでも少しずつ表に出るようになったかなと。とはいえ、名前が出れば称賛も受けるし、同じくらい批判も受けるじゃないですか。
TAG:
「この曲の譜面を担当しました!」と発表できるのは良い面もありますし、矢面に立つ可能性もあります。ただ別の視点で、遊ぶ側からすれば「この人が作る譜面なら、こういう傾向になるだろうな」と探りが入れられたりするのも楽しみのひとつで、メリットだと思っています。
s-don:
音楽ゲームユーザーとして、面白くないと感じたものに面白くないと言うのは当然の権利だと思っています。そして、それが言えるのがSNSやインターネットの良いところだとも思います。改善点も見つけられますし、譜面製作陣にとってもありがたいことです。
ただ、初期のころにいろいろ言われたのは、当時相当堪えて。チーム内でも気にしてる人はやっぱりいて、譜面を製作するということに対してネガティブな人が生まれてしまうのが、怖かったんですよ。それもあって『ダンカグ』で譜面ディレクターを引き受けることにしたとき「ぼくの名前を出してもいいです。むしろ出してもらえますか」ってお願いしたんです。そのディレクションに対して責任を負うのがぼくであれば、少なからず各譜面制作者に飛ぶ矢の一部をぼくに集められるから。
TAG:
素晴らしい。神様がいる。
s-don:
ディレクターとして名前を出すことで、譜面制作者としての立場が良い方向に変わったらいいなとも思ってるんですよ。心にグサッと来る意見も時折あるけど、それでもあなたたち譜面制作者がいるから、世の中にある音ゲーは成り立っているんだ、本当に感謝していますって、世の中のすべての音ゲー譜面制作者に伝えたいですね。
――実情の分からなさやEDIT機能のある音ゲーも多いが故に、音ゲーの譜面制作って「これくらい俺でも作れる」と思われがちなパートだと思うんですね。だけど、実際はこのくらいさまざまなことを考えて向き合っている、というのがこの記事で伝えられるといいなと思います。
最後に『ファンタジア・ロスト』を遊ぶユーザーさんに向けて、メッセージを頂けますか。
3DOD:
どの曲も、何度でも何度でもやり込めるように、譜面をかなり作り込みました。発売を楽しみに待っていて下さい。
TAG:
ぼくのこれまでの音楽ゲーム制作者スピリッツをすべて注ぎ込んだ作品になっています。ぜひ遊んで下さい。あと『天狗ノ華』もたくさんプレイして下さい! お願いいたします。
s-don:
『ファンタジア・ロスト』は楽しいゲームです。私s-donが保証します。その上で、気になったところがあったら、ぜひご意見をアンノウンXに送って下さい。SNSでもいいですし、Steamのフォーラムでもいいと思います。がんばって全部見に行くようにします。
みなさんが『ファンタジア・ロスト』をたくさん遊んでくれたら、次のDLCがもっともっと出てくるかもしれません。その際は、みなさんのご意見を反映したもっともっといい譜面を作りたいと思っています。前作『ダンカグ』がそうだったように『ファンタジア・ロスト』もユーザーのみなさまと作っていきたい、と強く思っています。
『ファンタジア・ロスト』をぜひ楽しんで下さい! あと、新しいDLCが出る時はぼくが作った曲も入れてくれないかな~~チラチラ!(笑)
――この先の展望も感じられるインタビューでしたね! 本日はインタビュー、ありがとうございました。
『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』2月8日発売!
Steamページはこちら
https://store.steampowered.com/app/2190220/_/?l=japanese公式サイト
https://danmaku.jp/phantasia-lost/無料DLC第1弾として、Toby Fox & ZUNによるコラボ楽曲『U.N. Owen Was Hero?』を2月8日に配信!
『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』
ジャンル:リズムアクションゲーム
プラットフォーム:Steam / Nintendo Switch
レーティング:CERO 審査予定
対応言語:日本語 / 英語 / 中国語(簡体字 / 繁体字)価格:
Steam 通常版:3,960円(税込)/デラックス版:9,980円(税込)
Nintendo Switch 未定発売日:
Steam 2024年2月8日
Nintendo Switch 未定発売前日!2月7日23時30分より「発売開始のボタンを押す放送」をON AIR!!
2月8日0:00(JST)に発売開始予定の『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』。その発売の瞬間に開始のボタンを押すだけの番組です。
音ゲーの譜面ってどうやって作ってるの?『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』譜面制作チーム:3DOD氏、s-don氏、TAG氏インタビュー おわり