東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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『“人間”としての十六夜咲夜を描きたい』おすすめの同人誌と、咲夜さんに思うことと。―東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」

東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」

今こそ、今一度、東方のキャラクターについて熱く語りたい!!  

毎回、「自分の好きな≒推しキャラクター」が共通する、3名の“オタク”にオンラインで集まっていただき、お酒などを交えつつ熱くトークする「東方キャラクター座談会」

ゆたろう氏、高畠 宗太氏、はせがわけいたの3名をお迎えして、
今回熱く語るのは「十六夜咲夜いざよい さくや」。

「キャラを突き詰めていったらいつの間にか沼に落ちてた」
東方と、十六夜咲夜との、三者三様な出会い方。―東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」

前編では、それぞれの東方と十六夜咲夜との出会い、どうして十六夜咲夜を好きになってしまったのかを伺いました。

続く後編では、ここ最近の抜けてる(?)咲夜さんの話、それぞれのオススメ咲夜同人誌の話、「3人目の人間としての『十六夜咲夜』」についての話など、ディープなところを熱く語って頂いています。

 

なお、本企画の収録は2021年2月。まだ東方虹龍洞は発表されてなかったので、この対談をしたときは誰も咲夜さんが久々の自機参戦をするとは思っていませんでした。

文/卯月秋千
聞き手/西河紅葉・紡

ゆたろう @yuhta_8823

漫画とかイラストとか映像とかいろいろやってます。
個人サークル『下策者宣言』
『EDEN.schemata();』キャラクターデザイン・アニメーション担当。

高畠宗太 @Sakm0cmar1

サークル『カラスのおうち』
好きなキャラを好きなように描くだけのサラリーマン

はせがわけいた @kt_hasegawa  @gawawa_san(リンク先R-18注意)

東方が好きな限界ヲタク。現在ゲーム制作にシフト。こないだ咲夜さんのえっちなゲーム作りました。

 

「抜けてるところがあるからこそ、完璧」

――後半は、咲夜さんそのものについて掘り下げていきたいと思っています。たくさん切り口はあると思うんですけど、ひとつお題を出させていただこうかと。
 ずばり、「咲夜さんは格好いいキャラですか? 可愛いキャラですか?」

宗太:
 めちゃくちゃ難しいお題ですね……。

 私は、すごい格好いい、で入りました。でもだんだん「この子アホなんじゃないかな」って思ってきて……。

全員:
 (笑)

――確かに、見る人や触れるタイミングによって、色々印象が変わるキャラですよね。最初はビシッと決まった瀟洒で格好良いキャラクターだと思ってたら、なんとなく「あれ、この子抜けてるんじゃないの?」みたいな気持ちになってきた、ということでしょうか?

宗太:
 そうですね、見た目的に格好良いのも好きなんですけど、どこか抜けてるなぁ~?と愛おしく思うことが。

はせがわ:
 確かに分かる(笑)。

ゆたろう:
 僕も最初は確かに見た目の格好良さ、アクションの格好良さでしたね。あとは、自分がもともと持ってた手癖にマッチする部分として、格好良い部分をフィーチャーしていったほうが、ちょっと嫌な言い方ですけど「やりやすい」っていう風には思ってました。

 けど、どっかで流れが変わったってのが感覚としてあって。クールでカッコいいだけじゃなくて、ちょっとぼやっとしてたり、変なことする感じだったりとか。やっぱり鈴奈庵ですかね、バチコン!ですかね。

鈴奈庵二巻七話で咲夜さんがかましたウインクの描写。可愛い。

――バチコンショック、わかります。

ゆたろう:
 格好良いとか可愛いとかで割り切って語らなくていいところが好きかな、っていうのはありますね。どっちとも割り切れない、割り切れなさが一番いいっていう。

はせがわ:
 私もやっぱり皆さんと同じで、カッコ良いし、可愛い、ですよね。間違いないのは、抜けてるところがあってこその咲夜さんで、それが魅力的ということだと思います。それこそ逆説的に言えば、抜けてるところがあるからこそ、完璧みたいな。完璧すぎるのは完璧じゃないというか。

――ZUNさんがすごく好きそうな概念な気がしています。

はせがわ:
 「完全で瀟洒な従者」とか、誰が付けてるんですかね。自称だったらすごいですよね。

ゆたろう:
 結構自己肯定感高いですよね(笑)。

はみだしコラム:変遷した十六夜咲夜

「人間としての十六夜咲夜を描きたい」

――みなさんそれぞれ、咲夜さんを描く上で気をつけていることってありますか?

ゆたろう:
 さっき話ありましたけど、格好良さだけで終わらせないで、ちょっと何かへんてこな要素を入れるようにしたいですね。

 あと、なんだかんだ言って「人間感」です。スタンスは妖怪側にあるんでしょうけど、完全に妖の者ではないっていう。人間としての立ち位置っていうのは最後まで出すようにしたいなと。私はあんまりレミリアと一緒にいる咲夜さんを描かないんです。一緒にいると、行動がある程度決まっちゃうんですよね。

――メイドとしての動きをし始めるから、十六夜咲夜自身の動きではなくなってしまうという。

ゆたろう:
 一番気にしてるところって、多分そこですね。咲夜さんって、紅魔郷、妖々夢って流れで見た時に、人間として3人目の自機になったキャラじゃないですか。

――霊夢、魔理沙ときて、3人目ですね。ゆたろうさんは、メイドとしての十六夜咲夜を否定するわけではなけれど、3人目の人間である十六夜咲夜を描きたいと。

ゆたろう:
 そうですね、多分。人間としての十六夜咲夜を描きたいんだと思います。そういうときの咲夜さんは、わりと他人に対して、精神的には優位に立ちがちなのかなあという思いはありますね。あとは、誰に対しても深入りしないっていう。それは下手するとレミリアに対してすらそうかもしれないっていうのは、なんとなく思っています。

 ただもちろん、おぜうの下とかで色々やってるのも別に嫌いではなくて。そうなると大概なんかふざけてるような感じなんですけど(笑)。

――大変面白い話がお聞きできました。 宗太さんはいかがでしょうか。咲夜さんを描くときに気を付けてることはありますか?

宗太:
 どうなんですかね……台詞回しは気をつけてます。「本心絶対悟らせないわ」みたいな。絶対に小難しい言い回しして、「何言ってんだこいつ」みたいな流れになるようにしてる……かな? ほかはやっぱり、咲夜というよりレミ咲の掛け合いですね。平行線の言葉のキャッチボールみたいに、お互い我を通して話が進まなくて何も解決しないで、だいたいレミリアが諦めるみたいな(笑)。

ゆたろう:
 別の作家さんとも話をしたんですけど、十六夜咲夜はレミリアに対して死ぬまで忠誠を誓っているか、それとも何かあったときに離れるか、どっちだ、っていう。

 私は、今よりも面白いことがあれば、結構スッと離れて後腐れない感じの別れ方を意外とするのではないか、と思っているんです。

はせがわ:
 自分としても、レミリアが咲夜を気に入り、咲夜もレミリアに忠誠を誓いつつも、精神的に互いに依存はしていないっていうほうが好きかな。咲夜が死を迎えるときにレミリアが泣く、みたいなことは、私は描けないかなと。もちろんほかの作家さんがそういうので良い作品を描いたらきちんと読みますし、すごいなと思うけど、自分では描けない……(笑)。

――宗太さんは例えば、レミリアがもし先に亡くなってしまった場合、咲夜はどうすると思います?

宗太:
 どうするんですかね……?

全員:
 (笑)

宗太:
 どうしても、絶対に咲夜が先に死ぬって考えちゃって。咲夜がレミリアを置いていく姿がすごい好きなので。

はせがわ:
 あ~、いいですね。レミリアと咲夜の関係って言えば、「Genocide Kitten」っていうサークルの「はっとりぃ」さんっていう方が、『Remily the Strange』っていう本で「もしレミリアが隙を見せたらいつでも寝首をかきにくる咲夜」みたいなのを描いてて、それが良かったですね。

『Remily the Strange』/はっとりい(Genocide Kitten)。画像は作者様サイトより引用。

はせがわ:
 どういう話かって言うと、吸血鬼が映る魔法の鏡にレミリアの姿を映すとレミリアの偽物が出てきちゃうんですよ。で、それに咲夜が甲斐甲斐しく世話なんかしてると、本物のレミリアが妬いちゃって。それでレミリアが「お前はどっちの私が好きなんだい?」って言ったところで、咲夜が「もちろん殺し切れない方のレミリア様ですわ」って。

――咲夜さんとレミリアの関係性が、もちろん従者と主人なんだけど、どこか対等な所があるというか。

はせがわ:
 ヴァンパイアハンターとヴァンパイアっていう。で、レミリア自身もそれを楽しんでるっていう。そういう関係もいいですよね。

 

おすすめの十六夜咲夜の二次創作本

――今、おすすめの同人誌の話が出たので、咲夜さんが出ている二次創作作品で皆さんの記憶に残っているものを教えていただけますか? 

ゆたろう:
 こんなこともあろうかと、さっきTwitterで、自分がつぶやいていた「マイベスト咲夜」を復習してたんですけど……。

全員:
 (笑)

ゆたろう:
 『ユメノヅカ・スタイル!!』っていう東方と宝塚のクロスオーバーというか……、“もし幻想郷世界で宝塚がやっていたら”みたいなシリーズをずっと出してる、サークル「アトリエYUMEnoZUKA」の「嘉月なを」さんという方がいらっしゃって。宝塚ジャンルの雰囲気を再現したものですごい出来がいいんです。

シリーズページ 【東方×宝塚】ユメノヅカ・スタイル!!

――恐れながら初めて拝見しました、興味深いですね。

ゆたろう:
 やってることとしては、原作的なものとは全然かけ離れてるんですよ。東方キャラが全員同じ劇団にいて、みたいな話なんですけど。心情の動きだったりとか、所属してる劇団員の紹介記事みたいな体で文章のページとかあるんですけど、そこの十六夜咲夜評みたいなのが「これすげえ原作の本人だわ」みたいな。全然違うことやってるのに、解釈がいいんです。

――少し違う世界線に移動したときに、そのキャラクターの純粋で濃い部分が出てくるのかもしれない、っていうのはありますよね。宗太さんはいかがですか?

宗太:
 私もいっぱい好きな本はあるんですけど、一番好きなのはサークル「PERSONAL COLOUR」さんの『人間、十六夜咲夜。』ですね。桜庭友紀さんの本がすごく好きです。 

 『人間、十六夜咲夜。』収録総集編「3の色」ー BookWalker電子書籍

『人間、十六夜咲夜。』収録総集編「3の色」 ー BOOTH

宗太:
 基本的に、咲夜さんが人間であるという設定がすごい好きなので。この本、キャラクターの掘り下げがすごいんです。それに、魔理沙が突き詰めていく、っていうのがすごく良いんですよね。魔理沙が咲夜のことを気にして調べてるのがすごい好きで。

――魔理沙も魔と人間の間にいるわけで、咲夜を突き詰めるなら、その近くにいるキャラクターの一人として魔理沙がいる、というのは納得できる感じですね。

宗太:
 そうなんですよね……もう大好き。着眼点がすごいですよね。

――ありがとうございます。はせがわさんは、先ほどの本以外にも、印象的だった咲夜さんの作品とかありますか?

はせがわ:
 実は私も調べてきたというか、あります。サークル「KEMONOMICHI」のチヒロ(現:ZAZEN BEAT/黒澤千尋)さん『Absolute ZERO』

――これは、今日出てくるかな、と思ってました(笑)。

はせがわ:
 あれは僕の中でちょっと特別な本ですね。どう言えばいいのかな、僕が絶対に描けない咲夜さんだからでしょうか。絵力でやられたんです。チヒロさんの描く話で時々使われるモチーフなんですけど、ダンジョンに潜っていくんですよ。どんどんどんどん深いところに潜って、通気孔みたいなすごい狭いところをくぐり抜けると、見開きでバッと世界が広がるっていう。

 『Elemental8』は一世を風靡しましたけど、チヒロさんが最初『Elemental8』描いたときって確か、ものすごい衝撃が東方二次創作界隈に走ったはずなんですよ。そんなチヒロさんの作品の中で、咲夜さんにフォーカスを当てたものとしてこれがやっぱり好きですね。

――色んな方面から作品が出てきて面白いです。咲夜さんを扱った二次創作の多様性を感じられて、とても参考になりました。ありがとうございます。

 

はみだしコラム:まだまだ続くオススメ咲夜同人誌

「やっぱ原作に出てきていただきたい!!」

――このまま話し続けたい所ですが、そろそろ時間も少なくなってきました。こういう締めはありきたりで恐縮ですが、最後に「十六夜咲夜って、改めてどんなキャラクターだと思いますか?」

ゆたろう:
 自分的にはやっぱり、咲夜さんが東方世界を描く上での視点になってるので、もっと原作に出てきてほしいな~っていう。より強く幻覚を共有できるようになるには、やっぱ原作に出てきていただきたい!!っていう(笑)。

インタビューの数十日後に原作に登場する咲夜さん

――プリミティブな感情が出てますね(笑)。ありがとうございます。宗太さんはどうですか?

宗太:
 どうですかね……?(笑)

全員:
 (笑)

宗太:
 これからも、人間としての咲夜さんを推していきたいかなって思う半面、「咲夜は絶対こういうキャラ!」っていうのを見かけると「そんなことない!かもよ!?」って思うので、色んな可能性のある咲夜さんを愛でて行きたいです。これからも、咲もこマリを推していきたいと思います!

――推しに対するオタクの感情、ありがとうございます。では最後にはせがわさん。

はせがわ
 ゆたろうさんや宗太さんが色々言ってくださったんですけど、やっぱり自分も、人間・十六夜咲夜が好きです。あと、東方キャラの主人公、人間組の中でも、咲夜さんがお姉さん、大人のポジションじゃないですか。だからエッチなのもやりやすいというか。

全員:
 (笑)

はせがわ
 あと、すごくサバサバしてるっていうのが自分の中で咲夜さんの魅力としてあって。過去やちょっとしたことは気にしない気にしない、みたいな。そういう感じで、サバサバした、さっくりした咲夜さんを描いていきたいですかね。

――主人公組のなかでお姉さんかもしれない、というのは良いですね。それ以外にも、やっぱり咲夜さんでしか成り立たない、幻想郷の人間サイドの話が沢山あることを、今日改めて思いました。

ゆたろう:
 そう、そうです! もっとみんな人間組で話を描くべきですね!!

――そんな感じで宴もたけなわですが、今回はこの辺りで〆たいと思います。咲夜さんの人間としての色んな側面について思いを馳せることができ、とても楽しかったです。

 今日は皆さんお集まりいただいてありがとうございました。また、次回のキャラクター座談会でお会いしましょう!

ゆたろう宗太はせがわ
 ありがとうございました!

 

『“人間”としての十六夜咲夜を描きたい』おすすめの同人誌と、咲夜さんに思うことと。―東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」 おわり

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