「キャラを突き詰めていったらいつの間にか沼に落ちてた」東方と、十六夜咲夜との、三者三様な出会い方。―東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」
東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」
今こそ、今一度、東方のキャラクターについて熱く語りたい!!
「東方オタクは、集まっても東方の話を(ほぼ)しない」、そんな冗談をときどき見る。でもそれは「相手が好きな東方と自分の好きな東方が同じか分からない」から。
じゃあ、ひとりのキャラクターを見続けてきた相手なら? そんな場が用意されたならワクワクしませんか。それが、東方我楽多叢誌の「東方キャラクター座談会」。
毎回、「自分の好きな≒推しキャラクター」が共通する、3名の“オタク”にオンラインで集まっていただき、お酒などを交えつつ熱くトークする……そんな内容だ。
今回参戦した“オタク”たちを紹介しよう。
ひとりは、『【東方手書き】さっきゅんライトでアニメ作ってみた』などの個人アニメ作品制作を精力的に行い、先日発表されたオリジナルアニメーションADV『EDEN.schemata』の制作に携わるなどボーダレスな活躍を見せている、サークル「下策者宣言」のゆたろう氏。
ひとりは、2017年『十六夜咲夜の肖像画』から立て続けに十六夜咲夜の同人誌をリリースし、繊細美麗なタッチで東方キャラを描き出している、サークル『カラスのおうち』の高畠 宗太氏。
ひとりは、2003年という東方二次創作黎明期から深く東方に浸かり、『早瀬渡』『エンゲージ』『はたらく のうかりん』など、独自のハイブロウな二次創作を作り続けてきた、サークル『ビタミンごはん』のはせがわけいた氏。
三人に共通する推しキャラクターは、十六夜咲夜。新作“東方虹龍洞”に満を持して8年ぶりに自機参戦した、今をときめく完全で瀟洒なメイドだ!
なお、本企画の収録は2021年2月。まだ東方虹龍洞は発表されてなかったので、この対談をしたときは誰も咲夜さんが久々の自機参戦をするとは思っていませんでした。
文/卯月秋千
聞き手/西河紅葉・紡
ゆたろう @yuhta_8823
漫画とかイラストとか映像とかいろいろやってます。
個人サークル『下策者宣言』
『EDEN.schemata();』キャラクターデザイン・アニメーション担当。高畠宗太 @Sakm0cmar1
サークル『カラスのおうち』
好きなキャラを好きなように描くだけのサラリーマンはせがわけいた @kt_hasegawa @gawawa_san(リンク先R-18注意)
東方が好きな限界ヲタク。現在ゲーム制作にシフト。こないだ咲夜さんのえっちなゲーム作りました。
それぞれの「はじめての東方」
――今日はお集まりいただいてありがとうございます。それではまず、自己紹介をお願いします。
ゆたろう:
ゆたろうと申します。2008年ぐらいから東方ジャンルで活動していて、ニコニコ動画で映像作品や漫画あげたりしてます。よろしくお願いします。
宗太:
高畠宗太です。東方は2014年ぐらいから入りました。普段は二次創作絵や漫画を描いています。よろしくお願いします。
はせがわ:
私は、東方始めたのは……すいません……2002年の……
全員:
(笑)
はせがわ:
紅魔郷が発売されたころから、いわゆる画像掲示板で絵を描いてました。それでいろいろご縁ができて、その後はいろんなジャンルで描いたりしながら、ずっと東方にお世話になってます。
――皆さんお集まりいただきありがとうございます。本日は咲夜さんについて、ぜひ飲み会の形で好きに喋っていただければと思っております。よければ最初は乾杯から。乾杯~!
全員:
乾杯~!!
――というわけで、まずは皆さんと「東方」との出会いについてお聞きしたいです。
はせがわ:
大学の先輩がアンテナの広い方で、その方が「お土産」って紅魔郷買ってきてくれたんです。もともとシューティングは好きだったのですぐプレイしたんですが、やっぱり初めはBGMにハマったんですよね。音楽がすごい耳に残って。
宗太:
僕は、もともと東方を全然知らなくて。当時はクトゥルフ神話TRPGにハマってて、ニコニコ動画でプレイ動画を見ることが多かったんです。そのとき、ゆっくりボイスや東方の二次創作立ち絵が使われてることが多かったんですね。そこで藤原妹紅に一目惚れして、pixivで調べ始めて……そのまま沼りました(笑)。そんな風に、入りは妹紅からなんですけど、気付いたら十六夜咲夜にいましたね。
ゆたろう:
私は10年前くらい前……まだニコニコがYouTubeと連携していたころですね。そのころ、一番最初に見た動画で「レッツゴー陰陽師」があって、そこから「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」につながって。
はみだしコラム:ゆっくりはすごい
「こういうゲーム音楽ってあるんだ」
――皆さんは、原作に触れたタイミングって覚えてますか?
はせがわ:
僕は、紅魔郷プレイ=咲夜さんとの出会いでした。紅魔郷で一番好きな曲が「ルナ・ダイアル」だったんで、ヘビーローテーションして聴いてました。スペルカード名も格好良かったので印象にとても残りました。
――最初に好きな曲とキャラクターが結びつくのは、東方においてあるあるですね。
ゆたろう:
自分が原作やったのは、妹が誰かから借りてきた紅魔郷を触らせてもらったのが最初でした。「これニコニコで流行ってるやつじゃん」みたいな。
紅魔郷1面の道中で「こういうゲーム音楽ってあるんだ」って。ちょっと新しい、今まで触れた文化じゃないやつだぞ、みたいな印象は覚えてますね。
はせがわ:
1面道中、良いですよね。のっけから掴んでくるんですよね。
ゆたろう:
静かに入ってくるんですよ、怪しい感じで。あからさまに格好いいとかバトルって感じでもなくて、かといってダンジョン曲みたいな感じでもなくて、ちょっと不思議な。
――確かに、東方のBGMって最初は「あまり聞いたことの無いタイプのゲーム音楽だ」という衝撃があるかと思います。
宗太:
僕は、まず藤原妹紅が好きになって、「あ、妹紅のゲームやらなきゃ」って永夜抄を最初に買ったんですよ。で、最初は永夜抄をずっとやってました。
――藤原妹紅というキャラを突き詰めなければならないと。
宗太:
描くためには知らなくては、って思って。なんか自分の中でそう思ってしまうんで。でも1回しか会えたことないんですよね、Easyプレイヤーなんで(笑)。
はみだしコラム:紺珠伝咲夜と天空璋咲夜は、実在する!!(しない)
「突き詰めてったらいつの間にか沼に落ちてた」
――次は、原作に触れたあと、十六夜咲夜というキャラクターにフィーチャーしたきっかけを聞きたいなと。
はせがわ:
そうですね、曲のインパクトもあったんですけど、あとはやっぱりメイドさんだったっていうのが大きいですね。昔、ごにょごにょ……なゲームで、メイドさんっていう属性が推されていた時期があって。そのころからメイドさん好きだったので、咲夜さんを見て「格好いいメイドさんが出てきた!!」みたいな。
――なるほど、当時のメイドさんブームの流れに乗っていた、ということもあったと。
ゆたろう:
自分はきっかけの話になるといつも言うんですけど、第一印象で見たとき「こいつだけは無いな」って思ってたんですよ(笑)。何かで東方萃夢想の画像を見るタイミングがあったんですが。「東方ってこういうキャラクター出てくんだ」みたいに思って見てたときに「メイドは無いな……」みたいな。
全員:
(笑)
ゆたろう:
でも、東方にハマったのって、原作の絵が一番大きかったかもしれないですね。当時で言うところの萌え系みたいなのとは、全然違うルールで描かれてるじゃないですか。絵柄とか、モチーフまんま乗せみたいなのを、うまくキャラにしちゃうみたいな。だからすごい入りやすかったってのもあったと思います。
はせがわ:
キャラデザに関して、ZUNさんはやっぱり天才的ですよね。
ゆたろう:
で、紅魔郷をプレイしたときに、咲夜が時止めるじゃないですか。時止めて、ナイフ。「あ、ジョジョっぽい人なんだ!これ」って。「ゲームでこういう風に再現するんだ」って思って、それで一気に好きになりました。
――咲夜さんには、そういうとっつきやすさもあったのかもしれませんね。宗太さんは、いつの間にか咲夜さんを好きになっていたという話だったと思うんですけど、そのタイミングって覚えていますか?
宗太:
それが、覚えてないんですよね……。描きたい話がひとつあって、その後「キャラを突き詰めていったらいつの間にか沼に落ちてた」みたいな(笑)。
はせがわ:
同人作家のハマりってそんなんですよね。理由はないんです。描きたいから描いてみて。そんで、描いてるうちに好きになっちゃう、みたいな。
宗太:
そうなんですよね。咲夜さん好きの友達に「突然出てきた」って言われました。「突然知らない人が咲夜をいっぱい描き始めた」って(笑)。
全員:
(爆笑)
「こういうことやってもいいんだ!」って思って
――皆さん、咲夜さんを初めて描いたときのこと、覚えてらっしゃいます?
宗太:
あ、それは覚えてます。咲夜さんの能力についての解釈をすごい描きたかったんです。レミリアに出会うまでの話を描きたくて堪らなくて。ただそれは、舞台を脳内でロンドンとかにしたせいで形にできなくて。それで「あ、これ出ないわ」って思って急遽新しいお話を作って頒布して。それからは、次こそは次こそはって咲夜で申し込んでるうちに、毎回違う本が出来上がってくるみたいな(笑)。
――そのときに考えたお話はまだ出ていない……! いいですね、ファンとしてはいろんな本が読めて一番嬉しいやつです。
ゆたろうさんが咲夜さんで二次創作をされたのは、「さっきゅんライト」のPV動画が最初ですか?
ゆたろう:
そうです。「さっきゅんライト」が最初です。当時、東方アレンジでミュージックビデオを、楽曲を作ったサークルがやるのではなく、個人で自主制作したMVを上げるという文化があって。その中で、ゼッケン屋さんの曲で「ハイコートポロロッカ」とか「ってゐ!」とかの動画を見て、「こういうことやってもいいんだ!」って思って。自分もアニメ作れるようになったからやってみよう、折角だから好きなアーティストの好きなキャラで、と。
――PV風動画はいっぱいありましたね。あの当時のニコニコは「自分の好きなものをそれぞれに作る」という雰囲気がありました。
ゆたろう:
ニコニコから創作を始めた人の話を伺う機会が最近多いんです。どの方も「ほかに頑張ってる人が一杯いたから、俺もやっていいのかな」って軽い気持ちで始めた、というキッカケが大きいみたいで。その上で「負けたくない」「あんな面白いこと、俺だってやってみたい」みたいな気持ちが隣り合って、いろんな創作者が生まれたんだって思います。
――今、新しく創作しようとする人たちは、どんなプラットフォームを使うのか気になるところですね。
はせがわさんが、咲夜さんで同人誌を描いたときのエピソードはどうでしょう?
はせがわ:
私が咲夜さん最初に描いたのって18禁なんですけど、この話しても大丈夫でしょうか?
――大丈夫です!
はせがわ:
初めに描いたのは、咲夜と魔理沙の百合だったと思うんです(『ごはんを食べていい日』)。宗太さんも仰ってましたが、大きな理由はないというか、描きたかったから(笑)。うちは原作重視のシリアス寄りのストーリーが売りのサークルだと自分ではずっと思ってたんですけど……。
――『早瀬渡』は名作でしたね。
※『早瀬渡』:2005年発行。霊夢の「人を護るために妖怪を退治する巫女」としての側面について、原作を彷彿とさせる雰囲気で描いた作品。飄々とした掛け合いと、その背後にある幻想郷の世界観を想像させる余韻が印象深い。
はせがわ:
ありがとうございます(笑)。
でも長く続けてると周りにサークルさんも増えてきて、そうなってくると「自分が無理に描かなくてもいいかな」とか、「新しいテーマのつもりでも実は既刊の焼き直し」みたいな感じになってしまったんです。そういう自家中毒的な状況で、少しでも自分のオリジナリティを出せるのはなんだろう、ギャグかエロしか無いって考えるようになって。原作要素っていうか、キャラクター性を感じさせながら、何か人のやってないことやりたいな、って考えた結果が、咲夜さんと魔理沙の百合になったという。
――同人誌ってやっぱり、自分が見たいキャラクターで、こんな話を見てみたいから描く、っていうのはありますよね。皆さん、濃厚なお話ありがとうございます。
はみだしコラム:黎明期の咲夜カップリング
本日はここまで。後半戦は、十六夜咲夜というキャラクターや、咲夜さんに関する同人作品について、もっと掘り下げます。お楽しみに!
「キャラを突き詰めていったらいつの間にか沼に落ちてた」東方と、十六夜咲夜との、三者三様な出会い方。―東方キャラクター座談会「十六夜咲夜」 おわり