東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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この場に、形が変わったとしても集まりあえたことに、祝いのさかづきを。『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート

3/21開催、『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート:中編

そう、彼はWOMBよりデカい“ハコ”で回したんだ ~DJごんべん~

DJごんべん
https://twitter.com/gon_ben

 フェスや大型の企画ライブにはおなじみの転換DJタイムが訪れる。バンドが交代するとき、機材類も交換する必要があるため長い待ち時間が生まれてしまう。そんなときに会場のBGMを担当するのが、転換DJだ。

 本来なら幕間、休憩時間となるはずだが、そんなことお構いなしと言わんばかりにブチ上がるセットで挑むやんちゃ者も居る。

 

 宇佐見蓮子のコスプレをしたDJごんべんは、そんなやんちゃ者の一人らしい。

 さっそく自己紹介とばかりに「星を廻せ月より速く」から「君の隣-The journey to kitalpha-」と秘封曲からスタート。「湖上の乙女子」、「デザイア・ドライバーズ」へとスピンし徐々にギアをあげていく。「Scream out!―Ska Punk Flavor―」で一旦最高速へ。序盤のピークタイムを作る。

 

 それにしてもこのDJ、ノリノリである。まるでフロアで踊るように手を振り、体を揺らしてミックスしていく。実は、このタイプのDJは東方シーンでは珍しくない。演者も観客も関係なく一緒に楽しむ。そんな同人魂、東方魂が感じられる光景だ。

 

 後半戦は「キクニサカヅキ」とパンクで繋ぐ。お次は「Spell」、アンセムばかりではないDJの懐の深さを伺い知れる。「Blazing Soul」でフロアを次の曲に備えてコントロール。満を持してドロップするのは「ハウリング」!

 東方スペルバブルに収録されたことで話題となったこの曲は”Liz Triangle”のものだ。ご存知の通り、Liz Triangleは2017年に活動を終了している。

 

 でも、DJはそんな曲に魔法をかけることができる。その証拠に、フロアには「おかえり」の声が。

 

 「七年目の約束」を美しくMIXするとラストナンバー「遥か遠い空の声」でフロア中を踊らせた。

 

 出番前、DJ陣は不安だった。ライブの合間でのDJタイムをみんな受け入れてくれるだろうか。一気に人が減ったら、誰も聞いてくれなかったらどうしよう。そんな不安をリハーサル中話していた。

 もちろん、出番が始まればそんなことは言ってられない。全力でプレイするだけだ。

 

 そんな不安をフロアのみんなが払拭してくれた。DJタイムのスタート時に1100人であった視聴者数は、DJタイム中に1200人を突破。人が減るどころか100人も増えていた!

 

 DJごんべんのプレイを1200人が聴いている。それは、あの渋谷WOMBのメインフロアでプレイしているのと変わらない!!

 何?渋谷WOMBがどんな場所かわからない?
 渋谷WOMBは、都内、いや国内有数の大きさを誇るクラブ(いわゆる“ハコ”)だ。同人のカテゴリーで、渋谷WOMBをホームとしてるやつらは指折り数えるほどしかいない。その一つが「HARDCORE TANO*C」、そのメンバーはREDALiCE、t+pazolite、RoughSketch/uno………彼らはそれぞれ「ALiCE’S EMOTiON」「C.H.S」「IOSYS」といった、東方アレンジファンにも馴染み深いサークルを主宰、或いは所属している。

 何をいいたいのか解ってもらえただろう。そう、DJごんべんはREDALiCEとt+pazoliteとRoughSketchと、同じステージに立ったんだ。

 

 WOMBと同じ人数の前でプレイして、自分のプレイで100人増やして、いったいどんだけ最高な気分なんだ。またクラブイベントで会ったときには一杯おごらせてくれよな。飲みながら今日の話をもっと聞かせてほしい。

セットリスト

星を廻せ月より速く/TUMENECO
君の隣-The journey to kitalpha-/イノライ
湖上の乙女子/Lampcat
デザイア・ドライバーズ/モノクロ殺人現場写真
Scream out!―Ska Punk Flavor―/IOSYS
キクニサカヅキ/GET IN THE RING
Spell/9th
Blazing Soul/君の美術館
ハウリング/Liz Triangle
七年目の約束/東方事変
遥か遠い空の声/豚乙女

 

これが、はにぽけの叫びだ! ~はにーぽけっと~

Key.やす
https://twitter.com/yassie_A_One

Vo.あき
https://twitter.com/akico82

Ba.たく
https://twitter.com/fjlm72

Dr.りょーちん
https://twitter.com/autumn3983

 今日のはにーぽけっと(はにぽけ)はいつもと様子が違う。
 ステージが始まると、阿求の姿のVo.あきが紙芝居を読み始める。今日のテーマは「阿求が綴った幻想郷紙芝居」らしい。絵はVo.あきのお手製で、やわらかいタッチが可愛らしい。もともとワンマンライブにオープニングムービーを用意したり、楽しい仕掛けを用意することが好きなサークルではあった。けれども、紙芝居は初めて見る。

 幻想郷で謎の病気が大流行、チルノのフラペチーノがそのせいで全く売れない。というところから物語は始まる。

 落ち込んでいる紫苑に女苑が「もっとお金をばらまけばいいのよ!」アドバイス。そこにきた正邪が、女苑に「今こそいっぱいお金をつかいなさい!」とそそのかす。

 続く紙芝居は清蘭のお話。悪い地上の民を探しているけど、なかなか見つからないらしい。そんなところに現れるのは、いつものアマノジャク。「浄化して欲しいものがある」と清蘭にお願いする。

 

 はにーぽけっとの曲は、いつだって明るい。ライブはどんな時も陽だまりのような暖かさで、月並みな言葉だが、僕はいつも笑顔をもらっていた。しかし、今日のはにぽけは、少し違う。ブラックジョークたっぷりの紙芝居、意味をもたせた曲順、こんなシニカルな一面があったのかと、僕は面食らってしまった。

 

 紙芝居と同時に「今宵は地を這うハルジオン」からライブも始まる。どうやら紙芝居と共にライブが進んでいくらしい。

 「今宵は空舞うヒメジョオン」が連続でアクトされる。この2曲は同じ「今宵は飄逸なエゴイスト(Live ver) ~ Egoistic Flowers.」原曲としている。でも、曲調は真反対と言っても良い。しっとりとしたメロディとブルーな歌詞のハルジオンに対して、明るくてステップが似合うヒメジョオン。依神姉妹の対比を歌ったこの2曲は、それだけでレビュー記事をかけてしまうくらい美しいけども、今はこれくらいにしておこう。

 清蘭のシーンでは、みんなの荒んだ心を浄化するための「水色テレパシー」。餅をつくリズムで疫病をぺったんぺったんついていく。Key.やしーも叫びながら杵を振るう。

 

 紙芝居はどんどん続いてゆく。月の民によって浄化された幻想郷。チルノのフラペチーノも盛況の様子だ。その喜びを「おてんばフラペチーノ」で爆発させる。はにぽけの最強の演奏に、フロアは「@@@@@」とコメントして、いや、彼らは“タオルを回して”「チルノ!チルノ!」とコールする。

 

 正邪の逆転の発想によって平和になった幻想郷。霊夢と魔理沙の痴話喧嘩も愛らしい。めでたし、めでたしと「キミの空に堕ちる」でエンディング。

 

 今日も、はにぽけは全力で音楽を奏でていて、みんなを幸せにしようとしている。僕はさっき、今日のはにぽけは少し違う、と書いたが、ある意味で間違いだったかもしれない。その根っこの部分は何も変わっていない。ただ、この陰鬱とした世界の雰囲気が変わることを願って、精一杯叫んでいる。それだけだったのだ。

 紙芝居が終わって、ここから2曲は、いつものはにぽけ。フロアのみんなで、跳ねて、腕振って、楽しい音楽の時間だ。

 「Ready go round」は、燕石博物誌に収録の4曲を原曲とした秘封ソング。はにぽけらしいポップロックは心を、体を弾ませる。フロアのみんなも手を上げ、​「レッディーゴーラン!」と声を出し大はしゃぎ(部屋で騒ぎすぎて怒られたやつがいるらしい。ハレの日だから多少はご愛嬌だ。)

 

「はにーぽけっと、次で最後の曲になります!」 

\\えー// 

「せーの」 

\\いまきたばっかりー!//

 という、いつもの掛け合いで弾みをつけて、最後の曲「高速メリーゴーランド」へ。はにーぽけっとを代表するこの曲はみんなだいすき。ライブでもみんなおおさわぎ。

 

 Ba.たく、Dr.りょーちん、Vo.あき、Key.やすが、それぞれ本当に楽しそうに演奏していく。その楽しさは僕らにも伝わって、いつの間にか、ネガティブな考えは頭から消えて、幸せでいっぱいになる。

 

 月並みだし、ちょっとクサい言葉だけどこれが、はにーぽけっとの音楽の力なんだ。心からそう思った。

セットリスト

 1.今宵は地を這うハルジオン
 2.今宵は空舞うヒメジョオン
 3.水色テレパシー
 4.おてんばフラペチーノ
 5.キミの空に堕ちる
 6.Ready go round
 7.高速メリーゴーランド

 

即殺セットで弔いと祝いを ~石鹸屋~

Dr.hellnian
https://twitter.com/hell_from_hell

Vo.秀三
https://twitter.com/shuzonotsakuya

Gt.小林ヒロト(Humans oul)
https://twitter.com/manmaru1610

Ba.内山 博登(Humans oul)
https://twitter.com/humans_oul

 誰も居ない舞台に出囃子が流れ始める。「LIVE PHANTOM」。おなじみの曲に合わせて一人づつ、また一人づつヤツらが現れる。その片手にはコロナビール。ステージの上で交わす乾杯。

 これは弔いと祝いのさかづきだ。一つはこの場に集まることが果たせなかった者たちに対して。もう一つは、それでもこの場に、形が変わったとしても、集まりあえたことに。決して丸くはなりきれなかったこの場に捧げる杯の口には、満月レモンではなく半月ライムが刺さる。

 

 「っっしゃあいくぞーーー!!」の叫びから始まるのは「無生命サーフェス」。「ボーカルの返しをもっとくださーーーい!!!」と秀三が叫ぶ。そうだ、もっと、もっと、轟音に。ライブハウスに暴力的な音の嵐が吹き荒れる。配信を見ている人には伝わっているか? もし、伝わっていないなら、悪ぃな。次のときに、ライブハウスに来てナマで味わってくれ。

 

 続けて始まる「化かせ八百八狸囃子」、ここは宴だ祭りだと言わんばかりの選曲に、フロアも「おどれや歌え」と文字で沸かす。

 Gt.小林ヒロトのギターソロ、そして「あと俺!」と秀三も入ってきてのツインギターシンクロに、滾らないヤツは居ない。負けてたまるか、ここにいる1200人の狸囃子で喧嘩を挑む。

 

 フロアと石鹸屋の勝負が続く中「リバース・デス」。この曲にはライブでおなじみのフロアとの掛け合いがある。

「をーギロオデイの陰 をーギロオデイよ見」

 このサビのパートをフロアに任せるのだ。だけど、それはリアルでのライブの話。これは配信ライブ。目の前にはサビを歌うはずのやつらは当然、居ない。今日だけは秀三が全部歌い切るのだろうか。

 

 おい?うそだろ?まじかよ。

 秀三は歌わない。

 当然その間ボーカルは無音になる……いや、違う!!フロアの大合唱が、秀三には、石鹸屋には、そしてみんなにも聴こえたはずだ。

 そんなすげえ大合唱を聞かせたのだから、勝負はフロアの勝ち?

 そいつは早合点だ。「地獄の端にて君を待つ」ではメンバー全員が僕たちを殺しに来る。

 サビ後のDr.hellnianのタムロール、それに呼応するBa.内山のベースライン(社長殺しーずの殺し合いだ)、あからさまに“エロい”としか言いようがないGt.小林のソロパート、そして秀三の伸びやかな歌い上げ。全部が致命傷となる一撃だ。

 

 パンチドランカーになってるところに重たい一撃が来やがった。「デカルトの向こう側へ」だ。

 CDより明らかに走っている(速くなっている)おかげで、普段はemo寄りの曲が、今日は汗臭いロックだ。

 この曲はその人気に比してライブで演奏されることが珍しかった(筆者は1度しかライブでお目にかかっていない)。つまり、この曲が演奏されている時点で”異変”ってことだ。 

 そんな異変を嗅ぎつけたか、収録されているCDのジャケットを描いたたぶん氏や2次創作MVを作成したゆたろう氏などこの曲の魔力に惹かれたヤツらが続々とフロアに集まってくる。そうやってできた”うねり”はまさしくカオスだ。

 

 「(フロアにお客が居なくて、対バン相手しか居ないこの状況が)我々にとってはひどく懐かしいものに感じますね」、そう言える彼らの東方サークルとしてのキャリアは、言わずもがなこのライブで最も古株だ。でも彼らは縁側でお茶を飲んでのんびりするような”大人”じゃない。ずっと全力だからこそ、その速度が、その熱量がフロアに伝染する。

 

 「ってゐ!!」でその伝播は最高潮に。バンドと、実際のフロアと、コメント欄というフロアは完全に一体化した。かごめかごめの大合唱は、まるでFlowering Night2007だ。

 

 最後は「さっきゅんライト」。殺意が高すぎるだろ。秀三が「即殺セット」と呼ぶ今日のセットリストは無観客になる前から組んでいたという。その言葉の通り今日の石鹸屋は、毎秒僕たちを殺しに来る。

 

 前から思っていたが、現体制の石鹸屋は、石鹸屋の長い歴史の中で最も「治安が悪い」音を創っている。東方で一番古い生音のサークルが、今でも最高に悪くてカッコいい音を出し続けている。そのことに、僕は、みんなは、嬉しくなっちまう。その嬉しさはフロアにも波及する。

 ここは10年前のニコニコ動画か?十六夜咲夜だって時を戻すことはできないはずだ。あまりにも叫び声が多すぎて、石鹸屋の出番が終わっても数分間「瀟洒」は流れ続けた。

 

 もう一度言う。これは弔いと祝いのさかづきだ。一つはこの場に集まることが果たせなかった者たちに対して。もう一つは、それでもこの場に、形が変わったとしても、集まりあえたことに。

セットリスト

1.無生命サーフェス
2.化かせ八百八狸囃子
3.リバース・デス
4.地獄の端にて君を待つ
5.デカルトの向こう側へ
6.ってゐ!
7.さっきゅんライト

 

文:えふび~
撮影:羽柴実里
SupportWriting:にしかわ

 

(つづく)

この場に、形が変わったとしても集まりあえたことに、祝いのさかづきを。『東方NEO POP STANDARD』ライブレポート おわり