東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「你好(ニーハオ)」と「谢谢(シェシェ)」しか中国語を話せなくても何とかなる!?海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者による、台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート!④(東深見フォーラム〜東方露明境ライブ編)

海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者による、台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート④

 海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者が、台北と上海の各同人イベントに弾丸参加してきた体験レポート。本日は最終回となる第4回目をお届けします。

○台北(8月18日)
・『Fancy Frontier 開拓動漫祭41』(即売会イベント)

○上海(8月19日~20日)
・『魅知幻想博覧会2023星虹澄空』(即売会イベント)※一部サークル出展者として参加
・『幻奏盛宴コンサート 2023上海場』(コンサートイベント)
・『東深見演壇 2023上海場』(フォーラムイベント)←今ココ!
・『第十一回上海THONLY東方露明境』(ライブイベント)

 前回の記事に続き、今回は『東深見演壇(東深見フォーラム)』からのレポートになります。

 それではご覧ください。

 

上海から見える世界

 ホテルからタクシーを飛ばすこと30分。

 車から降りると、昨日に続いてまたしても巨大かつ豪奢な会場が目に飛び込んできます。

フォーラム会場となった上海苏河1号の外観。あまりに施設自体が巨大すぎて全景を写すのは無理でした。
会場内までの通路。なんだか高級そうな空気感が漂ってます。

 会場を目にして、「えっ、本当にここの場所で合ってるの?」と半信半疑でしたが、中に入ってフォーラム会場のドアを開くと、会場内にはみっちりと熱烈な東方ファンたちで溢れかえっていました

 その光景を見て、「あぁ、ここでやっぱり合っていたんだ」という安堵感とともに、「えっ、とは言ってもまだ午前9時だよ? 正気??」という別の恐怖感のようなものが込み上げてきて、感情が一瞬でぐちゃぐちゃになりました。

時刻はまだ午前9時だというのに、ほぼ全ての席がすでに埋まっている、にわかに信じがたい光景。
会場の後ろの方には邪魔にならないよう、いたるところに大きなトランクケースがネックピローと一緒に置かれていました。曰く、ここ上海の地に来るまで丸一日以上かけて長距離バスや列車移動で来る人も少なくないとのこと。

 周りを見渡すと、昨晩のコンサートでも見かけた人がちらほら着席しており、僕と同じように東方イベントをハシゴしている人の存在も複数確認できました。予想はしていましたが、日本に限らず上海の地でもイベント参加の猛者がいるようです。

 さて、椅子に座ってフォーラムの様子をじっと観察していると、しばらくして日本とは大きく異なる点に気づきました。まず1つが質疑応答についてです。

 日本の場合、登壇者が一通り話し終えたところで「皆さん質問ありますか?」といった、質疑応答の時間が設けられていることが多いかと思いますが、ここ上海でのフォーラムでは異なります。

 質疑応答は登壇者が説明中であっても、聴講者の挙手によってその場で即行われます。 

 ですので、登壇者と聴講者とのやり取りが非常に多く、互いに対話しながら議論を進めていくような流れでした。

聴講者の熱量も非常に高く、次々と手が挙がるので、スライドが先に進まないこともしばしば発生します。

 次に大きく異なる点は、スライドが変わるたびにその場にいる聴講者の多くがスマホを用いて撮影し、bilibiliをはじめとする各コミュニティにシェアする形で投稿したり、人によってはその場で実況をしていたことです。

 聞くところによると、遠路はるばるこの場所に来ている人が多いことに加え、中国当局による情報規制を掻い潜る形でここで得た東方の情報を素早くキャッチして仲間に共有したいという、並々ならぬ情熱を持った人が多いのも要因の一つのようです。

「東方に関するありとあらゆる情報を得たい」、そんな強い意気込みで参加者たちがこのフォーラムに臨んでいる姿を垣間見ることができた瞬間でもありました。

 さて、このフォーラムで聴講するにあたって避けて通れない問題が「言語の壁」です。

 当然、これらのプレゼンは全て中国語で行われており、中国語がまったく分からない僕は何を言っているのかさっぱり分かりません

 ですが、スライドに関して言えば、下の写真のように翻訳アプリのカメラ機能を使えばその場ですぐに翻訳することができるので、「たぶんこんなことを言っているんだろうな」といったざっくりとした方向性を理解することはできます。

※この時のスライドでは東方Projectにおけるシューティング性がどのようにアップデートされてきたか、といった説明をされていました

 一方で、質疑応答が始まってしまうと、ついていくのがとても大変です。

 翻訳アプリによる音声和訳も完璧ではないため、大筋程度でしたらその場で理解することはできるのですが、より詳細な部分に関しては通訳が必要となります。

(結果として、今回一緒に同行していただいた通訳さんに質問責めするような形になってしまいました)

渡航前に様々な翻訳アプリをインストールして試してみましたが、やはりリアルタイム翻訳だけでは難しいです

 僕は通訳者が横にいたのでこのフォーラムを楽しむことができましたが、これまでの即売会やコンサートと異なり言語の壁が立ちはだかる以上、どうしても他のイベントと比べてこのイベントが最も難易度が高いように感じました。

 ですが、異国の地でどういった東方に関する議題が話されているのか気になる方は、聴講してみる価値は十分あると思います。

 これは僕の所感にはなってしまいますが、このフォーラムに来ていた参加者が上海の東方ファンの中でもひときわ”濃い”オタクたちで構成されていた印象を受けました。

 よりディープな体験を求めている方には、必見のイベントだと思います。

 

令和五年の上海ライブ

 昼食を軽くとり、東方露明境のライブ会場へ大急ぎで移動します。

 今回会場となる『バンダイナムコ上海文化センター(万代南梦宫上海文化中心)』は2017年3月に建てられた比較的新しい施設で、ライブ会場が行われるB1F~1Fの大ホールでは1,500人ほどが収容できます。

 これは日本の東方ライブでたびたび登場する大型ライブホール『CLUB CITTA’川崎』の収容人数(1,300人)とほぼ同数にあたります。

 会場に着くと、炎天下のもと会場をぐるりと囲うようにして参加者たちによる長蛇の列が形成されていました。

いったいどこまで続くのかと思ったら、施設を半周してそのまま突き当りの道路まで伸びていました。

 僕たち取材班も汗だくになりながら彼らとともに会場内に入ると、まだ開演前だというのに観客たちのボルテージは最高潮に達していて、そこら中でコールと思しき大歓声を上げては、ペンライトを全力で振り回すオタクたちの姿がそこにありました。

※繰り返しになりますが、まだ開演前の状態です

 なんというかあれです、ライブというよりもサッカーのサポーターの応援に近い空気感と言えば伝わりますでしょうか?

「前日の晩に行われたコンサート後の大熱唱会って、もしかしてこれのリハーサルだったりする?」と勘違いしても何らおかしくないような、国内のライブ会場では絶対に見ることがない異様な光景が広がっていました。

 そんな中でついにライブが開幕した訳ですが……、言葉では言い表せない凄まじい観客たちの熱量に、初めはただただ圧倒されっぱなしでした。「声援」というレベルを通り越して、もはや「鼓舞」という言葉の方が近いかもしれません。観客たちによる声量があまりにも大きすぎて、会場内が普通に揺れます。僕は写真の通り2階席(階数で言えば地上階)にいたのですが、地鳴りのように揺れます。

 そして信じられないことに、そんな状態が午後3時に開演してから午後9時に終演するまでの6時間ほぼぶっ通しで行われ、かつ揺れ続けます(途中、1回だけ小休止を挟みますが、本当に小休止です。一般的な休憩時間よりもぜんぜん短いです)。

 ありったけの東方にかける情熱をその場に詰め込めるだけ詰め込んだ、観客たちの感情という感情をとにかく爆発させたような、とんでもない熱量が会場内を終始支配していました。

映像でお届けできないのがもどかしい限りですが、会場は観客たちの凄まじい熱量に包まれていました。

 一方で、そんな観客たちのアツい声援を受けて、演者たちも黙ってはいません。

 ここで行われた各サークルのライブパフォーマンスの様子については、後日掲載予定のohkaさんの記事を読んでいただきたいのですが、どのサークルもみな凄まじいパフォーマンスを披露してくれました。

 これだけの大声援に対して、その期待にしっかりと応えきるサークルの人たちは、本当にすごいなと思いました。のべ6時間に及ぶ長丁場のライブでしたが、気づけば一瞬で時が過ぎ去っていました。

最後に全サークルが舞台上に集結して行われた歌唱の様子。

 ライブ終了後、連日の疲れもあって体の方はヘトヘトでしたが、心の方はすごく元気になって高揚感が収まらず、ホテルのベッドに倒れ込んでもなかなか寝付くことができませんでした。

 本当に素晴らしいライブを体験できて大満足の一日でした。

 

宴の後の月曜日

 弾丸ツアー最終日となったその翌日は、午前10時にホテルをチェックアウト後、上海の中央市街を散策しました。

 上條さんが東アジア游記の記事でも取り上げていた『霧雨珈琲店』にも、念願叶って訪れることができました。

疲れた体にしみる一杯でした。

 上海の街は租界地ごとに様々な表情を見せてくれるので、街歩きをするだけでも刺激的で、全く飽きません。

 かつて「魔都」とも形容されたことも納得の、西洋と東洋との文化が入り混じった、不思議なオリエンタル空間を随所に見ることができます。

上海随一の繁華街『南京東路』。昔ながらの建物と近代様式の建物とが入り混じっている様がこの写真からも見て取れます。

 実際に上海の街を歩いてみて、改めてZUNさんがかつてインタビューレポートで語っていた「和洋折衷」という言葉が、この都市にはぴったりだなと思いました。

 僕は今まで20カ国以上の国々を訪れてきましたが、これほどまでに東洋の世界と西洋の世界とが交錯する都市に出会ったことがありませんでしたし、この独特の空気感を感じ取ることができただけでも、東方における幻想世界にほんのすこしだけ近づけたように(おそらくそれこそが”幻想”そのものな訳ですが)感じました。

 機会があれば、またぜひ訪れたい街の一つになりました。

帰りの上海浦東国際空港発の夜行便。朝焼けがとても綺麗でした。

 

レトロスペクティブ弾丸ツアー

 いかがでしたでしょうか。

 全4回にわたる記事から、すこしでも現地の様子はもちろん、そこにある強烈な”熱気”のようなものを感じ取れたのでしたら、筆者冥利に尽きます。

 ここまで長きにわたってお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 さて、「『你好(ニーハオ)』と『谢谢(シェシェ)』しか中国語を話せなくても何とかなるのか?」という表題の問いですが、結論を言ってしまえば全然何とかなります

 国は違えど、「東方が好き」という根っこの部分が同じということもあり、こちらが身振り手振りしながら翻訳アプリを使って一生懸命に伝えようとすれば、相手の方も協力してくれて概ね意思の疎通ができますし、時には日本語を話せる方が現れてその場で通訳してくれることもあります。

 特にイベント会場内は皆優しい方ばかりで、嫌な思いや怖い思いをすることは一度もありませんでした。

 初めはとても緊張しましたし、一人で売り子をした時はあまりにも不安過ぎて両手がずっと震えっぱなしでしたが、勇気を出して拙いながらも会話を繰り返すことで次第に慣れ、その場を楽しむことができました。

 異国の地で同じ東方好きの人と出会える、作品を手にすることができる、そして作品を手にとってもらい、そこで連絡先を互いに交換して友達ができる。

 こうした作品や人との出会いは、自分が想像もしなかった世界の一端に触れることができる、何物にも代えがたい貴重な経験だと思います。

 そういった意味においても、今回東方の海外イベントに参加することができたのは本当に良かったと思いますし、興味がある方はぜひ一度体験してほしいなと強く思いました。

仲良くなったみんなと一緒に記念撮影(※プライバシーの関係で顔にボカシを入れてます)

 一方で、今回行ったような弾丸旅程をこの記事を読んでいただいている方たちにオススメできるかと言われると、正直ちょっとオススメはしにくいです

 僕はこれまでにシベリア鉄道でウラジオストクからモスクワまでユーラシア大陸を横断したり、日本人未踏の地と思しき北極圏の僻地で野宿したりと、さんざん無茶苦茶な旅をしてきたタイプの人間ですが、そんな僕の基準から見ても、今回の旅行は中々にハードな部類に属します。

「3日間で台北と上海の東方関係5イベントを全通」という今回の旅程は理論上もさることながら、実際こなすことができたので事実上においても可能だったわけですが、ひっきりなしの移動と長時間のイベント参加を余儀なくされるため(しかもイベント参加中はほぼ休めない)、想像していた以上に体力を消耗します。

 体力に自信のある方や海外旅行に慣れている方を除き、初めて海外の同人イベントに参加しようと思っている方は、欲張らずにまずは台北か上海のどちらか一方のエリアに絞って参加されることをオススメします

僕は帰国してまもなく思いっきり倒れてしまいました

 また、渡航するにあたってとりわけ注意すべき点は、何と言っても上海における電子マネー周りです。

 第三回の記事でも触れましたが、今の中国は電子決済が主流となっており、現金決済はほとんど行われておりません。

 したがって会場内のお買い物もそうですし、会場外での一般的な買い物でもAlipayかWechatのどちらかの支払手段を持っていないと非常に不便です。

 また公共交通機関で移動しようにも、券売機も電子決済が前提になっていて切符が買えなかったり、市内を走っているタクシーを捕まえようにも、アプリ経由でないとタクシーは基本止まってもらえなかったりと(そしてそのタクシーアプリは邦人だと登録不可)、難儀な部分が非常に多いです。

 ですので、もしこの記事を読んで初めて海外の東方イベントに参加しようと思った方がいらっしゃったら、まず先に台湾へ行かれることを僕はオススメします。そこで海外イベントの経験を積んだ2回目以降に上海へ赴くといった流れが良いかと思います。

 台湾FFにおける、最悪現金さえあれば何とかなる&ある程度なら日本語が通じるという環境は、中国語が話せない方ならなおさら心強いはずです。

 

終わりに

 さてさて、この弾丸取材を行ってから半年ほど経過した今年の2月、ZUNさんは上海へ行き、博麗神社社務所は台湾FFへサークル出店するなど、海外への往来がこれまで以上に盛んになり始めました。

 また、つい先日には『博麗神社例大祭 in 台湾』や『博麗神社歌謡祭 in 台湾』の復活が緊急発表されるなど、海外での”東方熱”がますます強まっている印象を受けます。

 今年は一体どんな一年になるのか、今年の東方シーンにも期待が高まります。

 今後も東方好きのいち同人作家として、そして東方我楽多叢誌のライター兼編集者として、これからも引き続き東方の動向を追っていきたいと思っています。

 それでは、またお会いしましょう。

 皆さん、良い東方ライフを!

 

※今回記事に取り上げた旅程

8月20日

午前9時 東深見演壇(東深見フォーラム)会場着

午後1時 東深見演壇(東深見フォーラム)会場発

昼食&バンダイナムコ上海文化センターへ移動

午後3時 東方露明境ライブ開演

午後9時 東方露明境ライブ終演

午後10時半 ホテル着

 

8月21日

午前10時 ホテル発

市内観光

午後10時半 上海浦東国際空港発

午後10時半 ホテル着

翌22日 午前5時 東京羽田空港着

 

「你好(ニーハオ)」と「谢谢(シェシェ)」しか中国語を話せなくても何とかなる!?海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者による、台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート!④(東深見フォーラム〜東方露明境ライブ編) おわり

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