東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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「你好(ニーハオ)」と「谢谢(シェシェ)」しか中国語を話せなくても何とかなる!?海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者による、台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート!①(出発準備〜台湾上陸編)

海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者による、台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート

 こんにちは。東方我楽多叢誌でライター兼編集をしています、土露団子どろだんごと申します。僕はふだん、東方の同人小説サークルの活動もしておりまして、昨年もたくさんの同人イベントに参加してきました。

 ところで、同人イベントは日本だけではなく、海外でも盛んに開かれていることは皆さんご存知でしょうか? 今から1ヶ月ほど前に上條紗智さんが書かれた記事「五花八門の東アジア游記 上海THOと東方ファン・ネットワーク」で初めて知ったという方も少なくないかと思います。

 今から僕が書く記事は、そんな海外の同人イベントに対して、まだ一度も参加したことがないどころか、その土地の言語すらほとんど分からない状態にも関わらず、弾丸参加してきたレポート記事になります。

 参加してきた主なイベントは以下の5つです。

○台湾(8月18日)
・『Fancy Frontier 開拓動漫祭41』(即売会イベント)

○上海(8月19日~20日)
・『魅知幻想博覧会2023星虹澄空』(即売会イベント)※一部サークル出展者として参加
・『幻奏盛宴コンサート 2023上海場』(コンサートイベント)
・『東深見演壇 2023上海場』(フォーラムイベント)
・『第十一回上海THONLY東方露明境』(ライブイベント)

 果たして海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者が、見知らぬ土地のイベントにいきなり参加することになっても大丈夫なのか?

 仮に参加することができたとしても、「你好ニーハオ」と「谢谢シェシェ」くらいしか中国語を話すことができない貧弱な語学力でも、イベントを楽しむことはできるのか?

 そして何より、コロナ禍によって日本と分断されてしまっていた海外の東方ファンたちの活動状況は今、どのような様相になっているのか?

 この記事を読んだ1人でも多くの方が、同じ”東方が好き”と思っている海の向こう側の仲間たちの”今”を知ることで、国こそ違えど共にこれからの東方のファン活動を創り上げていく一助になれれば幸いです。

 それでは、中国語はおろか英語もロクに話せない筆者による、2023年の夏に行った台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート、スタートです。

 

ほおずきみたいに甘い誘い

 今から遡ること5年前。2019年当時、東方ファンの間では度々こんな噂が囁かれていました。

中国の東方が今、とんでもなくアツいらしい」と――。

 その真偽を確かめるべく、東方我楽多叢誌編集部では実際に中国へ赴き、現地取材を敢行。のちに「本当に「中国の東方はアツい」のか? 8月開催「上海THO」1万字現地レポート」と題した記事が掲載され、中国の東方ファンたちが日本と同じ、もしかしたらそれ以上に熱狂している様が、赤裸々に語られました。

 ですが、その翌年の2020年には新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行。海外への渡航は困難を極め、その後の海外東方ファンたちの実態を掴めないまま3年が経過した、昨年2023年の7月初旬。海外との交流がようやく戻りつつあった時分に、編集部から突然こんな一言が飛び出しました。

来月の夏コミ後に上海で東方のイベントあるらしいんだけれど、土露さん行く?

 話によると、上海THO2019の取材に同行した通訳さんが、今年復活した上海THO2023に再び参加するらしく、その関係で1人くらいであれば日本から滑り込みで参加できるとのこと。

 こんなチャンスはないと思って首を縦に振ろうとしましたが、ふと思い直しみると、中国はまだ一度も訪れたことのない、自分にとっては未知の国。当然、中国語は一切分からないですし、そもそも上海の場所がどこかすらよく分かっていない。「中国」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、竹林の中にパンダがいて、笹をむしゃむしゃ食べている、そんなイメージ。

▲筆者が想像するなんとなくの脳内イメージ(引用元:Freepik

 しばらく回答に渋っていると、僕の不安な気持ちを察してか、以前上海の東方イベントに参加したことのある上條さんとohkaさんの両名をサポート役として編集部から紹介してくれるという。今にしてみれば不気味なくらいに手厚い援護を編集部から受け、さらには「土露さんも一度は海外の東方イベントに参加してみたほうがいいよ」というトドメにも近い誘い文句。

 そういった甘い言葉の誘い先には、得てしてセンブリ茶のようなとてつもない苦渋が待ち構えていることが大半なのですが、学習能力が低いので結局は首を縦に振り、急ぎ渡航の準備を始めることになりました。

 

未知の国々 ぎちぎちの旅

 行くと決まったらまずはパスポートの準備。これを取得しないことには何も始まりません。

 翌日、新宿の都庁に向かいましたが、海外渡航の制限が大幅に緩和されたことで、申請窓口から奥の通路に向かってとんでもない長蛇の列が形成されていました。最後尾に設けられた立て札には「約3時間待ち」の文字。

 御殿場のさわやかよりはいくらかマシな待ち時間かもしれませんが、空調がない地下通路で3時間立ちっぱなしは中々にハード。幸い、閉庁時間ギリギリで申請自体は間に合い、その日は終了。1週間後、再び都庁に訪れてパスポートを無事ゲット。

▲2020年からパスポートデザインが冊新されており、中を開くと葛飾北斎の浮世絵「冨嶽三十六景」が描かれていました(外務省パスポート採用全24作品

 次はビザ。これも上海に行くには必須のもの。ですが、早くもここに来て致命的な問題が発生します。

 ちょうどこの時期はそれまで制限されていた人流が一気に開放されたこともあって、ビザセンターがパンクしてしまい、出発までに残された期間内ではビザの取得が間に合わないことが発覚したのです。

 出鼻をくじかれたどころか、いきなり詰んでしまって途方にくれていると、上條さんからの助け舟が。

 それはビザを所持していない状態であっても、ビザが不要な国をどこか1カ国経由する形で上海に入って144時間以内に出国する形であれば、ビザなしで渡航が可能になるというものでした【※】

【※】本レポート記事の本筋ではないため詳細は割愛しますが、ある一般渡航者が交通手段を用いて中国に到着し、入国審査手続きを行ってから、帰りの交通機関が中国を離れる予定時間が144時間内であれば、許可された滞在区域内のみビザ免除で滞在が可能になる制度が存在します。詳しくはこちら⇒日本貿易振興機構

 そこで今度はビザなし渡航ができる場所を探していると、たまたま別の知り合いから、上海THOの前日にあたる18日から台湾の台北で『Fancy Frontier(通称:台湾FF)』という、台湾最大規模の同人即売会イベントが開催されることを知らされます。気になって詳しく調べてみると、どうやら1日目にあたる18日にも、東方ジャンルから参加しているサークルが複数存在することが判明。

 しかも幸運(?)なことに台湾はビザなし渡航が可能なうえ、かつ元々予定していた日本→上海へ直行する便よりも、日本→台湾→上海と乗り継ぐ便の方が現地でホテル1泊する分を加味しても値段的にも安くあがることも判明。

 かくして台湾FFの1日目のみ一般参加して、その足で上海に向かって翌日以降の4イベントを全通するという、日本→台湾→上海→日本の旅程ぎちぎち4泊6日弾丸ツアーが爆誕したのでした。

▲今回の渡航ルート(Google マップより)

 

明日ハレの日、ケの昨日

 その後も予約したはずの飛行機が何故か直前にキャンセルされていたので窓口に電話してチケットを取り直したり、逆にホテルの予約は2部屋分が重複して予約されていたので片方をキャンセルしたりと、出発前日までバタバタしつつも何とか予定していた8月17日の朝に日本を出国。コロナ禍以降、海外には一度も渡航していなかったことに加えて、今回訪れる台湾や上海はどちらも初めてで、飛行機に乗っている時は正直不安な気持ちでいっぱいでした。

 ですが、いざ台湾の松山空港に着くとそこら中の案内標識が日本語で書かれていたり、トラベルセンターには日本語で書かれた案内パンフレットがたくさん置かれていたりと、僕が想像していたよりもずっと快適で驚きました。

 また、この時の台北は東京よりも気温自体は暑かったのですが、湿度がそれほど高くないお陰で東京ほどの蒸し暑さを感じることもなく、気候的にも比較的快適でした。

「日本から海外旅行をするなら台湾が一番旅行しやすい」とはよく耳にする話でしたが、これは本当だと強く感じました。もしまだ海外に行ったことがなかったり、ツアーではなく初めて個人旅行をするとなったら、台湾は真っ先に候補に挙げて良いかと思います。

▲余談ですが、空港にある地下鉄の自動券売機で1日乗車券を買おうとした際、近くにいた駅員のおじちゃんが日本語で懇切丁寧に案内してくれてガイドブックまで渡してくれました。ありがとう、おじちゃん。

 さて、台湾FFに一般参加するには、事前にカタログの購入が必要です。ホテルのチェックインを済まし、地下鉄を乗り継いでカタログを販売しているショップに向かいます。

 今回僕が向かった先は、台北の西門エリアに店を構えるアニメイト台北店。西門エリアは別名「台湾の原宿」と呼ばれる、サブカル色の強い地区です。原宿の竹下通りと渋谷のセンター街と池袋のサンシャイン通りを混ぜ合わせたような雰囲気のメインストリートを歩いていると、設置された街頭スピーカーからは『ダンまち』をはじめとする日本のアニメ楽曲がひっきりなしに流れていました。

 アニメイトに入店すると、レジ正面の平台に台湾FFのカタログがポツンと置かれていました。スタッフさんに「このカタログをください」とグーグル翻訳を使って繁体字の中国語に変換したスマホの画面を見せたところ、「はーい、分かりましたー!」ととんでもなく流暢な日本語が返ってきました。

 思わず日本の方かと思って尋ねると、日本のアニメが好きすぎてたくさん見ているうちに自然と日本語を覚えたらしく、他の店員さんもそんな人が多いらしいとのこと。

 言語の壁に阻まれ、カタログ購入ができないことも最悪のケースとして危惧していましたが、少なくともその心配は全くもって不要でした。

▲『Fancy Frontier』の参加に必要なカタログ。1冊あたり200台湾ドル(日本円にしておおよそ1000円弱)。イベントの参加チケットのほか、日本のイベントカタログと同じく、中を開くとイベント参加するにあたっての注意事項や、各サークルのサークルカットが載っています。ちなみに2日間参加する場合は300台湾ドル、3日間参加する場合は400台湾ドルで購入できる電子版限定のカタログも存在します。

 思っていたよりもスムーズにカタログを手に入れることができたので、少し足を伸ばして今度は三創生活園區に向かいました。

 ここは日本でいうと秋葉原のような電気街エリアに位置する大型ショッピングモールで、モール内にはたくさんのショップや展示施設のほか、VR体験ができるゲーム施設なども豊富に揃っており、その中には東方Projectのアイテムを多数取り扱っているアキバホビーの台北三創店もあります。

 店に入ると、東方のアレンジ楽曲CDやアクリルキーホルダーをはじめとするグッズがたくさん並んでいました。その多くが日本サークルによる作品でしたので、ここでは台湾の東方ファンたちが日本の作品を入手する場としての、ある種輸入ショップのような機能を果たしているように感じました。

 先ほどのアニメイト同様、短時間の滞在でしたが、絶えずお客さんが店を出入りしており、非常に賑わっている印象を受けました。改めて台湾のオタクたちによる熱量の凄まじさを垣間見た一幕でした。

 ホテルに戻ったところで遅れて現地入りした上條さんとも無事に合流でき、明日に備えてその日は早めに就寝しました。

▲今回お世話になったホテルサンルート台北。1階のレストランには大戸屋があり、フロントには日本語対応できるスタッフが常駐していたため、何かと心強かったです。

 

ゴングの鐘 ~ Infight Nightmare

 翌朝。上條さんと近くの早餐店で軽く朝食を済ませ、会場へGO。

 駅に降り立つと、これで間違える方が逆に難しいくらいの巨大案内板がお出迎え。とても分かりやすく、ありがたい。

「一般入場方向」と書かれている方向に向かってしばらく歩き続けると、ようやく最後尾札を持ったスタッフの姿が。

 誘導された列の最後尾に並んでしばらく上條さんと開場時間まで待っていると、ヘルメットを被ったおじちゃんが軽快にラッパを鳴らしながら人の横をバイクですり抜けていく。見ると、どうやら並んで待っている人たちにアイスクリームを売り回っている様子。すごい商魂。

 時間にして1時間くらいでしょうか。開場と同時に待機列が一気に進み始め、いよいよ会場入口が目前へと迫ります。

 会場の入口に立っているスタッフにチケットを渡すと、手の甲に入場証となる判子をポコンと押されます。いざ、初めての海外同人イベント会場の中へ――。


 

第1回はここまでになります。
次回は台湾FFの様子と、上海上陸までをレポートします。

 

※今回記事に取り上げた旅程

8月17日
午前8時 日本出発
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午前10時半 台湾松山空港着
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午後12時半 台北・西門エリア(アニメイト)
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昼食
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午後3時半 台北・光華商場エリア(アキバホビー)
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午後6時 ホテルへ
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8月17日
午前10時半 FF会場へ

「你好(ニーハオ)」と「谢谢(シェシェ)」しか中国語を話せなくても何とかなる!?海外の同人イベント参加経験ゼロの筆者による、台湾&上海の同人イベント弾丸参加レポート!①(出発準備〜台湾上陸編) おわり